固定術師   作:初心者 一作目

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第13話

 

 戦場は混沌だった。

 

 

 

 五条悟が動くたび、

 空間が歪む。

 

 

 

 呪霊が吹き飛び、

 コンクリートが砕け、

 地下鉄構内そのものが悲鳴を上げていた。

 

 

 

 強い。

 

 

 

 千年生きた俺から見ても、

 明らかに異常。

 

 

 

 六眼による超精密演算。

 

 無下限の絶対防御。

 

 

 

 術式完成度で言えば、

 現代における頂点だろう。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 俺は動かなかった。

 

 

 

 助けない。

 

 

 

 戦わない。

 

 

 

 ただ、

 少し離れた柱の陰から眺めている。

 

 

 

 それだけ。

 

 

 

 理由は単純だった。

 

 

 

「これはあいつらの時代だ」

 

 

 

 俺が介入すれば、

 全部壊れる。

 

 

 

 羂索の計画。

 

 呪術界の均衡。

 

 若い術師たちの未来。

 

 

 

 今の俺は、

 強くなりすぎている。

 

 

 

 千年研鑽した術式は、

 もはや人間社会へ収まる規模じゃない。

 

 

 

 もし本気で介入すれば。

 

 

 

 五条悟ですら、

 戦場の主役ではいられなくなる。

 

 

 

 それは違う。

 

 

 

 俺はもう、

 時代の中心へ立つ気はなかった。

 

 

 

 その時。

 

 

 

 五条悟が、

 ふとこちらを見た。

 

 

 

 一瞬。

 

 

 

 青い瞳と目が合う。

 

 

 

 六眼。

 

 

 

 その眼は、

 俺を認識した。

 

 

 

「……へぇ」

 

 

 

 五条がわずかに笑う。

 

 

 

 おそらく理解したのだろう。

 

 

 

 異常な呪力。

 

 あり得ない情報密度。

 

 

 

 そして、

 自分と同格かそれ以上の何か。

 

 

 

 だが、

 五条は何も言わなかった。

 

 

 

 代わりに、

 ほんの少しだけ口角を上げる。

 

 

 

 まるで。

 

 

 

 「アンタ、何者?」

 

 

 

 そう聞いているみたいだった。

 

 

 

 俺は肩を竦める。

 

 

 

 すると。

 

 

 

 空気が変わった。

 

 

 

 冷たい呪力。

 

 

 

 そして、

 聞き慣れた声。

 

 

 

「獄門疆」

 

 

 

 俺は小さく息を吐く。

 

 

 

「始まったか」

 

 

 

 羂索が前へ出る。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 “あの顔”を見せた。

 

 

 

 五条悟の動きが止まる。

 

 

 

 一瞬。

 

 

 

 本当に一瞬だけ。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 最強同士の戦いでは、

 その一瞬が致命的。

 

 

 

「――ッ」

 

 

 

 封印が始まる。

 

 

 

 獄門疆。

 

 

 

 時間を閉じ込める特級呪物。

 

 

 

 俺は静かに見ていた。

 

 

 

 止められる。

 

 

 

 たぶん、

 今の俺なら。

 

 

 

 時間固定で、

 獄門疆そのものを止められる。

 

 

 

 羂索ごと、

 空間固定で閉じ込めることもできる。

 

 

 

 でも。

 

 

 

 やらない。

 

 

 

 これは、

 五条悟自身の敗北だ。

 

 

 

 強さとは別の問題。

 

 

 

 情。

 

 過去。

 

 人間性。

 

 

 

 それが、

 今あいつを縛っている。

 

 

 

 だからこそ。

 

 

 

 これは誰にも肩代わりできない。

 

 

 

 五条悟が封じられていく。

 

 

 

 それでも最後まで、

 あの男は笑っていた。

 

 

 

「ま、なんとかなるでしょ」

 

 

 

 軽い口調。

 

 

 

 だがその眼は鋭い。

 

 

 

 未来を見ている。

 

 

 

 自分がいなくなった後を。

 

 

 

 若い術師たちを。

 

 

 

 虎杖。

 伏黒。

 乙骨。

 

 

 

 次世代を信じている眼だった。

 

 

 

 そして完全封印。

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 地下空間に、

 重苦しい空気が広がる。

 

 

 

 羂索が獄門疆を持ち上げる。

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 奴の視線が、

 こちらへ向いた。

 

 

 

「……見ていただけか」

 

 

 

 俺は壁にもたれながら答える。

 

 

 

「言ったろ。

 協力はしないって」

 

 

 

 羂索が笑う。

 

 

 

「だが邪魔もしない」

 

「気分じゃない」

 

 

 

 少しの沈黙。

 

 

 

 そして羂索は、

 本当に愉快そうに笑った。

 

 

 

「やはり君は、

 最後まで傍観者だな」

 

 

 

「そうかもな」

 

 

 

 俺は否定しない。

 

 

 

 千年生きて、

 結局分かった。

 

 

 

 世界は、

 誰か一人でどうにかするものじゃない。

 

 

 

 時代は流れる。

 

 

 

 強者は現れ、

 消えていく。

 

 

 

 宿儺も。

 

 五条悟も。

 

 

 

 いつかは過去になる。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 その中で、

 何を残すか。

 

 

 

 それだけが意味を持つ。

 

 

 

 羂索は背を向ける。

 

 

 

「ではまた」

 

 

 

 その姿が闇へ消える。

 

 

 

 俺は静かに天井を見上げた。

 

 

 

「……さて」

 

 

 

 現代最強は消えた。

 

 

 

 ここから先は、

 本当に地獄になる。

 

 

 

 だが同時に。

 

 

 

 少しだけ楽しみでもあった。

 

 

 

 五条悟が消えた世界で。

 

 

 

 次に誰が、

 “最強”へ手を伸ばすのか。

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