固定術師 作:初心者 一作目
夜風が吹いていた。
渋谷の街は、
半壊していた。
ビルは崩れ、
道路は裂け、
炎があちこちで燃えている。
地獄。
それが一番正しい表現だった。
そして。
その中心には、
“王”がいた。
両面宿儺。
受肉途中。
まだ完全復活ではない。
だがそれでも、
街一つを蹂躙するには十分すぎる存在。
俺は崩れたビルの上から、
静かにその姿を見下ろしていた。
「……やりたい放題だな」
その直前。
宿儺は伏黒恵の式神、
魔虚羅と戦っていた。
いや、
戦いというより解析だ。
適応。
あの式神は、
あらゆる事象へ順応する。
普通なら無敵。
だが宿儺は、
戦いながら理解し、
突破した。
千年前と同じ。
あいつはいつだって、
戦闘中に完成していく。
「ほんと化物だ」
俺が呟いた瞬間。
宿儺がこちらを見た。
ニヤリ。
口元が吊り上がる。
「いると思ったぞ、九条斎」
瞬間。
ドォンッ!!
大気が爆ぜる。
宿儺の姿が消え、
次の瞬間には俺の目の前。
速い。
だが今の俺には見える。
「久々だな」
俺は片手で、
宿儺の拳を受け止めた。
ゴォォォォンッ!!
衝撃で周囲の窓ガラスが吹き飛ぶ。
だが。
俺は動かない。
座標固定。
宿儺が笑う。
「完成したか?」
「まだ途中だ」
俺は宿儺を押し返す。
空間が軋む。
宿儺が宙返りしながら距離を取る。
「面白い」
四眼が愉悦に細まる。
「千年ぶりに見るか。
貴様の“不変”を」
俺はため息を吐く。
「別に戦う気はなかったんだけどな」
「嘘をつけ」
宿儺が嗤う。
「貴様、
俺を見ると血が騒ぐだろう」
……否定できない。
宿儺だけは特別だ。
千年修行しても、
結局この怪物だけは超えたくなる。
宿儺が腕を広げる。
「来い」
瞬間。
斬撃。
解。
世界を裂く黒線が、
一瞬で俺へ届く。
「固定」
ガギィン!!
斬撃停止。
千年前と違う。
今の俺は、
世界断裂すら時間固定で止められる。
だが。
宿儺は笑った。
「なら――これはどうだ?」
次の瞬間。
宿儺の呪力が変質する。
嫌な予感。
俺は即座に加速。
そして。
黒閃。
宿儺の拳が、
空間そのものを歪ませながら迫る。
「ッ!!」
俺も拳を振る。
黒閃。
バチィィィィィン!!!!
黒い稲妻が激突した。
渋谷全域が揺れる。
ビルが崩壊し、
道路が陥没する。
俺は吹き飛ばされる。
だが空中で座標固定。
ピタリと停止。
「はは……」
口元から血が流れる。
傷は再構築できる。
だが。
楽しい。
千年ぶりだ。
全力で戦える相手なんて。
宿儺も笑っていた。
心底愉快そうに。
「よい!!」
呪力が膨れ上がる。
「やはり貴様は面白い!!」
空が裂ける。
周囲の呪霊が、
圧だけで消し飛ぶ。
だが。
俺は気づく。
宿儺。
まだ完全じゃない。
指の本数。
受肉率。
出力にムラがある。
つまり今なら。
互角以上に戦える。
俺は静かに呪力を構える。
白銀の光が、
夜の渋谷を照らした。
「宿儺」
俺は笑う。
「千年前の続き、やるか」
宿儺が獰猛に笑った。
「ああ」
その瞬間。
最強同士の激突で、
渋谷の夜空が砕け散った。