固定術師   作:初心者 一作目

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第15話

 

 

 夜空が割れていた。

 

 

 

 比喩じゃない。

 

 

 

 俺と両面宿儺の衝突だけで、

 大気が断裂し、

 空に白い亀裂が走っている。

 

 

 

 黒閃の余波。

 

 

 

 渋谷一帯のビル群が、

 爆風だけで崩壊していた。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 俺は理解していた。

 

 

 

 今の宿儺は完全じゃない。

 

 

 

 受肉途中。

 

 指も足りない。

 

 出力も不安定。

 

 

 

 対して俺は。

 

 

 

 千年。

 

 

 

 ただひたすら、

 状固呪術だけを研鑽してきた。

 

 

 

 戦い。

 

 解析。

 

 理解。

 

 

 

 その果てに今の俺がいる。

 

 

 

 つまり。

 

 

 

 現状だけで言えば――

 

 

 

 俺の方が強い。

 

 

 

 宿儺の姿が消える。

 

 

 

 高速移動。

 

 

 

 だが見える。

 

 

 

 加速呪術によって、

 今の俺の知覚は異常領域へ達している。

 

 

 

「遅い」

 

 

 

 俺は片手を振る。

 

 

 

「固定」

 

 

 

 ガギンッ!!

 

 

 

 宿儺の動きが止まる。

 

 

 

 空中静止。

 

 

 

 時間固定。

 

 

 

 宿儺の速度ベクトルそのものを、

 “停止した状態”へ縫い止める。

 

 

 

「……ほう」

 

 

 

 宿儺が笑う。

 

 

 

 だが次の瞬間。

 

 

 

 呪力爆発。

 

 

 

 ゴォォォンッ!!

 

 

 

 強引に固定を砕いてくる。

 

 

 

 普通ならあり得ない。

 

 

 

 だが宿儺は、

 呪力出力だけで術式干渉をねじ伏せる。

 

 

 

 化物だ。

 

 

 

 それでも。

 

 

 

 今の俺には届かない。

 

 

 

 宿儺の斬撃。

 

 

 

 解。

 

 

 

 世界断裂。

 

 

 

 全てが俺へ届く前に停止する。

 

 

 

「固定」

 

 

 

 ガギィィィィン!!

 

 

 

 黒線が空中停止。

 

 

 

 宿儺の眼が細まる。

 

 

 

「千年前とは別物だな」

 

 

 

「お互い様だろ」

 

 

 

 俺は瞬間加速。

 

 

 

 宿儺の懐へ入り込む。

 

 

 

 速い。

 

 

 

 いや。

 

 

 

 速すぎる。

 

 

 

 今の俺は、

 加速呪術によって時間感覚すら超越している。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 拳。

 

 

 

 黒閃。

 

 

 

 バチィィィィィンッ!!!!

 

 

 

 宿儺の顔面へ直撃。

 

 

 

 衝撃で空間が歪む。

 

 

 

 宿儺の身体が、

 100メートルほど先まで吹き飛んだ。

 

 

 

 渋谷駅が崩壊する。

 

 

 

 地下鉄が捻じ曲がる。

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 俺はその場に立ったまま、

 静かに息を吐いた。

 

 

 

「……やっぱ未完成だなお前」

 

 

 

 千年前なら、

 今の一撃でも宿儺は笑っていた。

 

 

 

 だが今は違う。

 

 

 

 受肉による出力低下。

 

 器とのズレ。

 

 

 

 それが確実に足を引っ張っている。

 

 

 

 瓦礫の向こう。

 

 

 

 宿儺が立ち上がる。

 

 

 

 口元から血。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 笑っていた。

 

 

 

「ハハ……!」

 

 

 

 むしろ嬉しそうに。

 

 

 

「素晴らしい」

 

 

 

 その呪力が、

 さらに膨張する。

 

 

 

「ようやく届いたか、九条斎」

 

 

 

 俺は首を鳴らす。

 

 

 

「まだ超えてねぇよ」

 

 

 

 本当の宿儺はこんなもんじゃない。

 

 

 

 平安時代。

 

 

 

 完全体。

 

 

 

 あの時の圧は、

 今でも鮮明に覚えている。

 

 

 

 今の宿儺は、

 その二回りほど弱い。

 

 

 

 だから俺が押している。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 完全復活したら?

 

 

 

 たぶん。

 

 

 

 また話が変わる。

 

 

 

「……面倒だな」

 

 

 

 俺は苦笑する。

 

 

 

 千年修行して、

 ようやく勝ち越せる程度。

 

 

 

 どれだけ化物なんだ、

 あいつは。

 

 

 

 宿儺が笑う。

 

 

 

「安心しろ」

 

 

 

 四眼が愉悦に歪む。

 

 

 

「完全に戻れば、

 また殺し合える」

 

 

 

「物騒だな」

 

「今さらだろう」

 

 

 

 その通りだった。

 

 

 

 俺たちはたぶん、

 根本的に似ている。

 

 

 

 強さへ執着し、

 極致を求める。

 

 

 

 だからこそ、

 こうして何度でも戦ってしまう。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 遠方から、

 別の呪力反応。

 

 

 

 術師たち。

 

 

 

 

 

 

 

 生き残った連中が、

 こちらへ近づいている。

 

 

 

 宿儺が舌打ちした。

 

 

 

「興が削がれる」

 

 

 

 俺も同意だった。

 

 

 

 今ここで本気を出せば、

 周囲が消し飛ぶ。

 

 

 

 宿儺はまだ自由じゃない。

 

 

 

 虎杖の肉体制限もある。

 

 

 

 完全決着には向かない。

 

 

 

 宿儺が背を向ける。

 

 

 

「続きは次だ」

 

 

 

 その姿が、

 ゆっくり闇へ溶けていく。

 

 

 

 俺は追わなかった。

 

 

 

 今の勝敗に意味はない。

 

 

 

 本番は、

 完全復活した後だ。

 

 

 

 俺は夜空を見る。

 

 

 

 千年前。

 

 

 

 届かなかった背中。

 

 

 

 だが今は違う。

 

 

 

 ようやく、

 同じ場所へ立てた。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 次は超える。

 

 

 

 絶対に。

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