固定術師   作:初心者 一作目

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反転術式

第二話 ――加速する呪い

 

 両面宿儺は笑っていた。

 

 人を嬲る時の笑みではない。

 

 退屈を忘れた怪物の顔。

 

 

 

「よい」

 

 

 

 その一言だけで、

 空気が裂けた。

 

 

 

 次の瞬間、

 俺の視界が反転する。

 

 

 

「――ッ!?」

 

 

 

 気づけば数十メートル吹き飛ばされていた。

 

 地面を転がり、

 社の柱を粉砕しながら止まる。

 

 

 

 見えなかった。

 

 殴られたのか、

 斬られたのかすら分からない。

 

 

 

 だが身体は無傷。

 

 術式による自己固定が、

 破壊を成立させていない。

 

 

 

「……化け物」

 

「貴様が言うか」

 

 

 

 宿儺が歩く。

 

 一歩ごとに呪力が大地を沈ませる。

 

 

 

「固定、か」

 

「……」

 

「悪くない。極まれば“世界”にすら楔を打てる」

 

 

 

 その言葉に、

 背筋が冷えた。

 

 

 

 こいつ、

 もう俺の術式の先を見ている。

 

 

 

「だが」

 

 

 

 宿儺の眼が細まる。

 

 

 

「遅い」

 

 

 

 ゾッ――とした。

 

 

 

 瞬間、

 俺の左右から斬撃。

 

 

 

 見えない。

 

 反応できない。

 

 

 

 防げはする。

 

 だが――

 

 

 

 ボゴンッ!!

 

 

 

 衝撃で吹き飛ぶ。

 

 無傷でも、

 衝撃までは消せない。

 

 

 

 地面に叩きつけられる。

 

 立ち上がる前に、

 再び斬撃。

 

 

 

 吹き飛ぶ。

 

 

 

 また。

 

 

 

 また。

 

 

 

 また。

 

 

 

 防御は成立している。

 

 だが、

 戦いになっていない。

 

 

 

 俺は“壊れないだけ”だ。

 

 

 

「どうした」

 

 宿儺が嗤う。

 

「固定しかできぬのか?」

 

 

 

 悔しさが込み上げる。

 

 確かに俺は死なない。

 

 だが攻撃が届かない。

 

 触れられない。

 

 速度差が致命的すぎる。

 

 

 

 このままでは、

 一生勝てない。

 

 

 

 宿儺の姿が消える。

 

 

 

「――後ろだ」

 

 

 

 遅い。

 

 

 

 ドゴォォォン!!

 

 

 

 背中に衝撃。

 

 俺は山を貫通し、

 森を破壊しながら吹き飛んだ。

 

 

 

 木々が倒れる。

 

 土煙。

 

 肺から空気が漏れる。

 

 

 

 ……なのに、

 傷はない。

 

 

 

 自分で自分を固定している限り、

 肉体は完全不壊。

 

 

 

 だが。

 

 

 

「このままじゃ……」

 

 

 

 勝てない。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 ふと、

 脳裏に違和感が走る。

 

 

 

 俺の術式。

 

 “状態を固定する”。

 

 

 

 なら逆は?

 

 

 

 固定の反転。

 

 

 

 状態を――

 

 

 

「変化、させる……?」

 

 

 

 瞬間。

 

 全身の呪力が暴走した。

 

 

 

 ドクン――。

 

 

 

 心臓が跳ねる。

 

 

 

 景色が変わった。

 

 

 

 いや。

 

 

 

 俺が速くなった。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 木の葉が止まって見える。

 

 風が遅い。

 

 落ちる砂粒すら追える。

 

 

 

 身体能力が、

 異常な速度で加速している。

 

 

 

 これが――

 

固定の逆転。

 

 状態を“停滞”させるのではなく、

 “進行”させる。

 

 

 

 筋力の運動を加速。

 

 神経伝達を加速。

 

 思考を加速。

 

 

 

 その結果。

 

 

 

 俺自身が、

 超高速存在へ変貌する。

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

 初めて、

 宿儺の声に驚きが混じった。

 

 

 

 消える。

 

 

 

 俺の姿が。

 

 

 

 いや、

 俺自身ですら速すぎて感覚が追いつかない。

 

 

 

 気づけば宿儺の眼前。

 

 

 

「――ッ!!」

 

 

 

 拳を叩き込む。

 

 

 

 ゴォンッ!!!

 

 

 

 空間が爆ぜた。

 

 

 

 宿儺の身体が初めて後退する。

 

 大地を削りながら、

 数メートル滑る。

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 宿儺は笑った。

 

 

 

 心底愉快そうに。

 

 

 

「ハハッ!!」

 

 

 

 呪いの王が、

 本気で笑っていた。

 

 

 

「よい!! 素晴らしいぞ九条斎!!」

 

 

 

 空気が震える。

 

 森が揺れる。

 

 

 

「固定の反転が加速とは!!」

 

 

 

 宿儺が舌なめずりする。

 

 

 

「面白い!! 貴様、本当に人間か!?」

 

 

 

「……さあな」

 

 

 

 俺自身、

 もう分からなかった。

 

 

 

 死なない身体。

 

 老いない魂。

 

 加速する肉体。

 

 

 

 転生しただけの一般人だったはずなのに。

 

 

 

 気づけば、

 化物と真正面から殴り合っている。

 

 

 

 宿儺が腕を広げる。

 

 

 

「来い」

 

 

 

 その一言で、

 空気が悲鳴を上げた。

 

 

 

「貴様をもっと見せろ」

 

 

 

 呪力が噴き上がる。

 

 黒い稲妻のような圧力。

 

 

 

 俺も呪力を解放した。

 

 加速。

 

 さらに加速。

 

 

 

 視界が白く染まる。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 平安の山奥で。

 

 

 

 後に伝説として語られる、

 “怪物同士の戦い”が始まった。




いきなり反転術式ですね。
これくらいしないと宿儺と戦えないので。
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