固定術師   作:初心者 一作目

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固定できないもの

山が消えていた。

 

 

 

 文字通り。

 

 

 

 俺と両面宿儺の攻撃だけで、

 山脈の一角が爆散している。

 

 木々は灰になり、

 川は断たれ、

 大地は巨大なクレーターへ変貌していた。

 

 

 

 加速。

 

 

 

 それが今の俺の切り札。

 

 思考。

 神経。

 筋力。

 呪力循環。

 

 すべてを極限まで加速することで、

 宿儺の速度領域へ無理やり食らいついている。

 

 

 

 だが――。

 

 

 

「浅い」

 

 

 

 宿儺の蹴り。

 

 

 

 ドォンッ!!!

 

 

 

 視界が弾け飛ぶ。

 

 音より先に身体が吹き飛び、

 山肌へ激突した。

 

 

 

 岩盤が十数メートル崩壊する。

 

 

 

「が……っ」

 

 

 

 傷はない。

 

 固定されている。

 

 

 

 だが、

 衝撃そのものは消せない。

 

 

 

 加速で反応できても、

 宿儺の一撃は重すぎる。

 

 

 

 吹き飛ばされる。

 

 

 

 体勢が崩れる。

 

 

 

 その隙を、

 宿儺は絶対に逃さない。

 

 

 

「どうした」

 

 瓦礫の向こうから、

 宿儺が笑う。

 

「速くなっただけではないか」

 

 

 

 ……分かってる。

 

 

 

 根本的に足りない。

 

 

 

 俺の術式は、

 本来“防御”向き。

 

 それを無理やり加速へ反転しているだけだ。

 

 

 

 だから、

 宿儺みたいな純粋な暴力には押し切られる。

 

 

 

「なら」

 

 

 

 俺は血の混じる唾を吐き、

 ゆっくり立ち上がった。

 

 

 

「固定すればいい」

 

 

 

 宿儺が眉を上げる。

 

 

 

「何をだ?」

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 俺は足元へ術式を流し込んだ。

 

 

 

 呪力が地面へ沈む。

 

 空間へ染み込む。

 

 

 

 今まで俺が固定していたのは、

 肉体や物体の“状態”。

 

 

 

 なら。

 

 

 

 空間そのものは?

 

 

 

 座標は?

 

 

 

 位置は?

 

 

 

「――座標固定」

 

 

 

 ガンッ。

 

 

 

 世界が軋んだ。

 

 

 

 その瞬間、

 俺の存在が空間へ縫い付けられる。

 

 

 

 まるで世界そのものに杭を打ったような感覚。

 

 

 

「ほう」

 

 

 

 宿儺が笑う。

 

 だが次の瞬間。

 

 

 

 宿儺の拳が、

 俺の顔面へ直撃した。

 

 

 

 ゴォォォォン!!!

 

 

 

 衝撃波で山が裂ける。

 

 木々が吹き飛ぶ。

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 俺は――動かなかった。

 

 

 

 一歩も。

 

 

 

「……」

 

 

 

 宿儺の笑みが、

 わずかに消える。

 

 

 

 俺は立っていた。

 

 その場に。

 

 絶対不動で。

 

 

 

 吹き飛ばない。

 

 

 

 なぜなら、

 “この座標に存在する状態”を固定している。

 

 

 

 力を受けても、

 移動という結果が発生しない。

 

 

 

「はは……」

 

 

 

 自分でも笑えてくる。

 

 

 

 これ、

 完全にバグ技だろ。

 

 

 

「面白い」

 

 

 

 宿儺が呟く。

 

 だがその眼は、

 先ほどまでより鋭かった。

 

 

 

 認識を改めた。

 

 

 

 俺を。

 

 

 

「小僧」

 

 

 

 宿儺の呪力が膨れ上がる。

 

 

 

「貴様、“概念”に触れ始めているな」

 

 

 

 ゾクリ、と背筋が震えた。

 

 

 

 概念。

 

 

 

 それは術式の極致。

 

 単なる現象操作ではなく、

 世界法則への干渉。

 

 

 

 今の俺は、

 “位置”という概念を固定している。

 

 

 

 だから、

 物理法則より優先される。

 

 

 

 宿儺が笑った。

 

 

 

「よい」

 

 

 

 空気が沈む。

 

 

 

「ならば試すか」

 

 

 

 ぞわり。

 

 

 

 本能が叫ぶ。

 

 危険だ、と。

 

 

 

 次の瞬間。

 

 

 

 宿儺の周囲で、

 空間そのものが歪んだ。

 

 

 

 斬撃じゃない。

 

 

 

 もっと根源的な何か。

 

 

 

「解ではない」

 

 

 

 宿儺が嗤う。

 

 

 

「“世界を断つ”」

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 黒い線が走った。

 

 

 

 細い。

 

 あまりにも細い。

 

 

 

 だが、

 見えた瞬間に理解した。

 

 

 

 触れたら終わる。

 

 

 

 世界ごと切断される。

 

 

 

「――ッ!!」

 

 

 

 俺は反射的に加速。

 

 だが避けきれない。

 

 

 

 黒線が、

 俺の肩へ触れ――

 

 

 

 ズバンッ。

 

 

 

 空間ごと、

 俺の左腕が消えた。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 初めて。

 

 

 

 転生して初めて。

 

 

 

 俺は“傷ついた”。




いきなりインフレが進みます。
主人公の術式を突破するならこれくらいじゃないと出来ないので、宿儺なら出来てしまうかもという思いもこめてこうしました。
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