固定術師   作:初心者 一作目

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第4話

左腕が落ちた。

 

 

 

 いや。

 

 正確には、“消えていた”。

 

 

 

 切断じゃない。

 

 破壊でもない。

 

 

 

 空間ごと、

 存在ごと削除されたような喪失。

 

 

 

「……ッ、ぐ……!」

 

 

 

 遅れて激痛が来る。

 

 

 

 血が噴き出す。

 

 

 

 俺は呆然と自分の肩口を見た。

 

 

 

 傷ついた。

 

 

 

 この俺が。

 

 

 

 自分を“無傷の状態”で固定していたはずなのに。

 

 

 

「なぜ……」

 

 

 

 宿儺が嗤う。

 

 

 

 両面宿儺。

 

 呪いの王。

 

 平安最悪の怪物。

 

 

 

「単純だ」

 

 

 

 宿儺が指を立てる。

 

 

 

「貴様は“存在するもの”を固定している」

 

 

 

 ぞくり、とした。

 

 

 

「なら、“空間ごと消えた”場合はどうなる?」

 

「……!」

 

「固定先そのものが断たれれば、貴様の術は成立せん」

 

 

 

 理解した瞬間、

 背筋が凍る。

 

 

 

 俺の術式は万能じゃない。

 

 

 

 “状態”を固定する。

 

 

 

 だが、

 その対象が世界から消されたら?

 

 

 

 固定する土台そのものが消滅したら?

 

 

 

 術式は届かない。

 

 

 

「なるほど……」

 

 

 

 宿儺は本当に、

 戦いながら理解していく。

 

 

 

 敵の術式を。

 

 弱点を。

 

 構造を。

 

 

 

 化物だ。

 

 

 

「どうした」

 

 宿儺が笑う。

 

「終わりか?」

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 黒線が再び走る。

 

 

 

 世界を断つ斬撃。

 

 

 

 俺は加速。

 

 限界まで思考を引き延ばす。

 

 

 

 遅い。

 

 

 

 それでも宿儺の斬撃は速い。

 

 

 

 避けきれない。

 

 

 

 右脇腹が裂ける。

 

 

 

 空間ごと消える感覚。

 

 肉が消滅する。

 

 肺が潰れる。

 

 

 

「がぁッ!!」

 

 

 

 血を吐く。

 

 

 

 再生しない。

 

 

 

 普通の傷ではない。

 

 反転術式でも追いつかない。

 

 

 

 “存在”が削られている。

 

 

 

 死ぬ。

 

 

 

 その言葉が、

 初めて現実味を持った。

 

 

 

 今まで俺は、

 どこかで無敵だと思っていた。

 

 

 

 死なない。

 

 壊れない。

 

 老いない。

 

 

 

 だから慢心していた。

 

 

 

 だが違う。

 

 

 

 目の前にいるのは、

 そんな理屈すら切断する怪物。

 

 

 

「……っ」

 

 

 

 膝をつく。

 

 

 

 宿儺が近づいてくる。

 

 

 

「よい術だったぞ」

 

 

 

 その声音には、

 本心からの賞賛が混じっていた。

 

 

 

「数百年研鑽すれば、あるいは俺に届いたかもしれんな」

 

 

 

 悔しい。

 

 

 

 圧倒的に。

 

 

 

 もっと強くなれるはずだ。

 

 もっと術式を理解できるはずだ。

 

 

 

 まだ終わりたくない。

 

 

 

「俺は……」

 

 

 

 死にたくない。

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 ドクン。

 

 

 

 呪力が脈動した。

 

 

 

 違和感。

 

 

 

 今まで固定していたのは“状態”。

 

 

 

 なら。

 

 

 

 “状態そのものを定義”できたら?

 

 

 

 俺の脳が、

 極限状態で閃きを掴む。

 

 

 

 固定とは何だ?

 

 

 

 それは“変化を止める”こと。

 

 

 

 なら、

 変化前を保存するだけじゃない。

 

 

 

 “あるべき姿”を、

 世界へ強制できる。

 

 

 

「――戻れ」

 

 

 

 術式発動。

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 俺の左肩から、

 肉が再構築された。

 

 

 

 血管。

 

 神経。

 

 骨。

 

 筋肉。

 

 

 

 すべてが、

 “欠損前の状態”へ固定され直す。

 

 

 

 ボゴッ――!!

 

 

 

 左腕が再生した。

 

 

 

 宿儺の眼が見開かれる。

 

 

 

「……ほう?」

 

 

 

 俺自身も息を呑む。

 

 

 

 これは反転術式じゃない。

 

 

 

 もっと異質。

 

 

 

 “修復”ではない。

 

 

 

 “最初から壊れていなかった状態を押し通した”。

 

 

 

 現実への上書き。

 

 

 

「はは……」

 

 

 

 笑えてくる。

 

 

 

 術式理解が進んでいる。

 

 戦うほど、

 俺の状固呪術は完成へ近づいている。

 

 

 

 宿儺が愉快そうに笑った。

 

 

 

「素晴らしい」

 

 

 

 空気が震える。

 

 

 

「貴様、本当に面白いな」

 

 

 

 宿儺が腕を広げる。

 

 

 

「ならば見せてみろ」

 

 

 

 呪力が爆発する。

 

 

 

「どこまで“不変”へ辿り着ける?」

 

 

 

 俺は立ち上がる。

 

 

 

 欠損は消えた。

 

 痛みも消えた。

 

 

 

 だが理解した。

 

 

 

 まだ足りない。

 

 

 

 宿儺に届くには。

 

 

 

 俺はもっと、

 術式の本質へ至らなければならない。

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