固定術師 作:初心者 一作目
火花
夜が沈んでいた。
山々は崩れ、
森は焼け、
大地には巨大な裂傷が幾重にも走っている。
まるで神同士が争った跡だ。
だが実際、
やっていることはそれに近かった。
俺は荒い息を吐きながら、
目の前の怪物を睨む。
両面宿儺。
戦えば戦うほど分かる。
こいつは異常だ。
術式の精度。
呪力効率。
戦闘経験。
思考速度。
全てが完成されすぎている。
しかも恐ろしいのは、
まだ本気じゃないことだ。
「どうした」
宿儺が嗤う。
「先ほどの威勢は消えたか?」
「……うるせぇよ」
俺は呪力を練る。
加速呪術。
神経を加速。
思考を加速。
筋肉を加速。
世界が鈍化する。
だが、
宿儺だけは違う。
あいつだけは、
加速した世界でも平然と動く。
化物すぎる。
――でも。
今なら分かる。
術式の流れ。
呪力の揺らぎ。
戦闘の呼吸。
宿儺との死闘が、
俺の感覚を極限まで研ぎ澄ませていた。
宿儺が動く。
消えた。
「――遅い」
声が耳元で響く。
拳。
俺は咄嗟に座標固定。
ドォォォンッ!!!
衝撃で大地が陥没する。
だが俺は動かない。
その瞬間。
宿儺の懐へ踏み込む。
加速。
さらに加速。
視界が白く染まる。
今なら届く。
そう確信した瞬間だった。
世界が静かになる。
音が消える。
呪力が、
異常なほど澄み切っていく。
肉体と呪力のタイミング。
誤差。
〇・〇〇〇〇〇一秒。
その瞬間。
俺の拳が、
宿儺の腹へ突き刺さった。
――バチィィィィン!!!
黒い稲妻が爆ぜた。
空間が軋む。
大気が裂ける。
そして。
世界そのものが、
一瞬だけ“黒”へ染まった。
「……!」
宿儺の身体が、
初めて大きく吹き飛ぶ。
山を貫き、
岩盤を粉砕しながら、
遥か彼方まで消し飛んだ。
静寂。
遅れて、
轟音が世界を揺らした。
「今のは……」
俺は自分の拳を見る。
黒い火花が、
まだ指先に残っていた。
黒閃
打撃と呪力が、
〇・〇〇〇〇〇一秒以内に衝突した時に発生する現象。
空間歪曲。
呪力威力の指数的上昇。
そして何より――
“呪力の核心”へ至る感覚。
「は……」
笑いが漏れる。
見える。
呪力の流れが。
世界の輪郭が。
術式の本質が。
今まで点だったものが、
一本の線で繋がる。
宿儺との戦い。
加速。
固定。
再構築。
全てが理解へ変わっていく。
その時。
ドゴォンッ!!
遠方の山が吹き飛んだ。
土煙の中から、
宿儺が歩いてくる。
腹に黒く焼けた痕。
だが。
笑っていた。
心底楽しそうに。
「ハハハハハッ!!」
呪いの王が、
本気で歓喜していた。
「黒閃まで至るか!!」
空気が震える。
「よい!! 実によいぞ九条斎!!」
宿儺の呪力がさらに膨張する。
空が裂ける。
大地が悲鳴を上げる。
「ならば俺も応えよう」
ゾッ――。
本能が警鐘を鳴らす。
今までとは違う。
次に来るのは、
本当に危険だ。
宿儺が片手を上げる。
「領域」
その瞬間。
世界が、
塗り替わった。