固定術師 作:初心者 一作目
世界が軋んだ。
いや、
軋んだのは“俺の認識”だ。
景色が変わっていく。
山。
森。
空。
すべてが、
血と骨の世界へ侵食される。
地面には無数の骸。
空気には腐臭。
頭上には、
巨大な“厨子”。
禍々しい仏閣のようなそれが、
世界の中心にそびえていた。
圧。
ただ存在するだけで、
空間そのものが死を強制してくる。
そして宿儺が嗤った。
「領域展開」
呪力が爆発する。
『伏魔御厨子』
両面宿儺の生得領域。
結界を閉じない異質の領域。
必中必殺。
“逃げ場のない斬撃”。
「――ッ!!」
次の瞬間。
斬。
斬。
斬。
斬。
斬。
世界中から斬撃が襲ってきた。
前後左右、
あらゆる空間から“解”が発生する。
避けられない。
必中。
領域内に存在する限り、
斬撃は必ず届く。
俺は即座に自己固定。
ギィィィィン!!!
無数の斬撃が肉体を裂こうとして止まる。
だが。
――ズバン。
「がっ……!」
肩が飛ぶ。
空間断裂。
世界ごと削る斬撃が、
固定を突破する。
さらに。
ズバンッ!!
腹部消失。
右脚断裂。
血が噴き出す。
「クソッ!!」
再構築。
固定。
再構築。
固定。
傷を戻しても、
次の瞬間にはまた消し飛ぶ。
間に合わない。
領域内では、
宿儺の斬撃速度が異常すぎる。
「どうした」
宿儺の声。
「不変ではなかったのか?」
その瞬間、
黒い線が頭上から走る。
死。
本能が理解した。
今度こそ終わる。
加速。
思考を極限まで引き延ばす。
そして、
俺は気づいた。
領域。
必中。
なぜ必中になる?
それは“領域内の座標全て”へ、
術式が行き届いているから。
なら。
逆に言えば。
座標そのものを固定したら?
領域による“術式伝達”を止められるのでは?
「……賭けるしかねぇ」
俺は両手を叩き合わせた。
呪力が暴走する。
今までで最大出力。
脳が焼ける。
血涙が流れる。
それでも術式を展開する。
「状固呪術――」
世界が震えた。
「空間固定」
ガギンッ!!!!
領域内部で、
何かが止まった。
斬撃が停止する。
空間そのものが、
凍りついたように静止している。
宿儺の眉がわずかに動く。
「……ほう」
俺は膝をつきながら笑った。
成功した。
領域内の空間座標を固定。
術式の伝播そのものを停止させている。
つまり、
“必中”を無理やり止めた。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
だが負荷がヤバい。
脳が焼き切れそうだ。
領域一帯の空間固定なんて、
明らかに今の俺の限界を超えている。
宿儺が笑う。
「素晴らしい」
心底楽しそうに。
「領域へ干渉するか」
宿儺がゆっくり歩いてくる。
「やはり貴様、面白いな」
その瞬間。
宿儺の呪力が、
さらに一段階跳ね上がった。
空間が悲鳴を上げる。
「ならば――」
嫌な予感。
いや、
本能が絶叫している。
危険。
今までとは比較にならない。
宿儺が口角を吊り上げた。
「固定した空間ごと、圧し潰してやろう」
厨子が、
軋むように脈動した。