固定術師   作:初心者 一作目

7 / 15
第7話

 嫌な音だった。

 

 

 

 ミシ――

 

 

 

 という、

 世界そのものに亀裂が入るような音。

 

 

 

 俺が固定した空間が、

 軋んでいる。

 

 

 

「……ッ!」

 

 

 

 額から血が流れる。

 

 

 

 空間固定。

 

 

 

 それは単純な防御じゃない。

 

 

 

 空間座標そのものへ、

 「変化するな」と命令している。

 

 

 

 つまり今の俺は、

 宿儺の領域そのものと綱引きしていた。

 

 

 

 しかも相手は――

 

 

 

 両面宿儺。

 

 

 

 平安最強。

 

 

 

 呪術の頂点。

 

 

 

「耐えろ……!」

 

 

 

 呪力をさらに流し込む。

 

 

 

 脳が焼ける。

 

 視界が赤黒い。

 

 

 

 だが止める。

 

 

 

 ここで崩れたら死ぬ。

 

 

 

 宿儺が笑った。

 

 

 

「よい」

 

 

 

 厨子が脈動する。

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 ドゴォォォォンッ!!!!

 

 

 

 空間そのものが沈んだ。

 

 

 

「――ッ、ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 固定空間へ、

 圧縮された斬撃が叩き込まれる。

 

 

 

 世界が悲鳴を上げる。

 

 

 

 空間固定が、

 少しずつ押し込まれていく。

 

 

 

 まるで巨大な水圧。

 

 

 

 押される。

 

 砕かれる。

 

 

 

 このままじゃ負ける。

 

 

 

「まだ……!」

 

 

 

 加速呪術。

 

 

 

 思考を限界超過。

 

 

 

 脳内時間が引き延ばされる。

 

 

 

 一秒が数分に感じる。

 

 

 

 その極限の中で、

 俺は術式を解析する。

 

 

 

 固定。

 

 

 

 何を固定している?

 

 

 

 位置?

 状態?

 空間?

 

 

 

 違う。

 

 

 

 もっと根本だ。

 

 

 

 俺の術式は、

 “変化そのもの”へ干渉している。

 

 

 

 なら。

 

 

 

 固定するべきは――

 

 

 

「核……」

 

 

 

 呟きが漏れる。

 

 

 

 存在の核。

 

 

 

 物質が変化する前の、

 根源情報。

 

 

 

 魂。

 

 情報。

 

 因果。

 

 

 

 それら全てを束ねる、

 “存在定義”。

 

 

 

 そこを固定できれば。

 

 

 

 世界断裂ですら、

 干渉できない。

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 カチリ。

 

 

 

 脳の奥で、

 何かが噛み合った。

 

 

 

 宿儺の眼が細まる。

 

 

 

「……成る程」

 

 

 

 気づかれた。

 

 

 

 だがもう止まれない。

 

 

 

 俺は両手を広げる。

 

 

 

 呪力が、

 白銀色へ変わっていく。

 

 

 

 静かな色。

 

 

 

 熱ではない。

 

 

 

 “停滞”の力。

 

 

 

「状固呪術――」

 

 

 

 世界が静止した。

 

 

 

 風が止む。

 

 斬撃が止まる。

 

 血液の飛沫すら空中で停止する。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「存在固定」

 

 

 

 ガギィィィィィン――ッ!!!!

 

 

 

 領域全体へ、

 白銀の亀裂が走った。

 

 

 

 宿儺の斬撃が止まる。

 

 

 

 空間断裂が、

 俺へ届かない。

 

 

 

 いや。

 

 

 

 “届いた結果が固定されない”。

 

 

 

 俺という存在が、

 “欠損しない定義”で世界へ固定されている。

 

 

 

 因果そのものへの干渉。

 

 

 

 宿儺が笑った。

 

 

 

 初めて。

 

 

 

 本気で嬉しそうに。

 

 

 

「ハハ……!」

 

 

 

 呪いの王が、

 歓喜していた。

 

 

 

「貴様、本当に到達したか」

 

 

 

 厨子が震える。

 

 

 

 宿儺の呪力が、

 さらに膨張する。

 

 

 

 だが今の俺は、

 押し潰されない。

 

 

 

 立っている。

 

 

 

 伏魔御厨子の中心で。

 

 

 

 平然と。

 

 

 

「……届いたぞ、宿儺」

 

 

 

 俺は血塗れのまま笑った。

 

 

 

「ようやくお前と戦える」

 

 

 

 宿儺の四眼が、

 愉悦に細まる。

 

 

 

「ならば次は――」

 

 

 

 空気が震える。

 

 

 

「こちらも“本当の呪術”を見せてやろう」 

 

 

 

 その瞬間。

 

 

 

 伏魔御厨子の奥で、

 何かが“目を開けた”。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。