固定術師 作:初心者 一作目
雪は静かに降っていた。
あの日。
両面宿儺と別れてから、
俺は人里を離れた。
山へ。
海へ。
戦場へ。
平安を生き抜き、
鎌倉を見て、
戦国を越え、
文明の進化を眺めた。
千年。
普通の人間なら、
歴史書の一行にも残れない時間。
だが俺は老いなかった。
状固呪術によって、
“最盛期の自分”を固定している。
肉体は朽ちない。
魂も摩耗しない。
永遠。
それが俺に与えられた呪いだった。
最初の数百年は、
ひたすら修行だった。
術式理解。
呪力操作。
領域研究。
戦った。
名も無き呪霊。
平安の怪物。
戦国の呪詛師。
そして時には、
後世で名を残す術師たちとも。
だが。
誰も届かなかった。
千年研ぎ澄まされた状固呪術は、
もはや単なる“固定”ではなくなっていた。
時間固定。
因果固定。
概念固定。
触れた術式を停止し、
存在情報を書き換え、
果てには“死そのもの”すら固定する。
死ねない。
完全に。
俺は、
生と死の狭間へ固定されていた。
そして現代。
西暦2018年。
東京。
高層ビル群を見上げながら、
俺は小さく息を吐いた。
「変わったなぁ……」
スマホ。
電車。
インターネット。
平安とは別世界だ。
だが。
呪いだけは、
何も変わっていない。
人の負の感情。
恐怖。
憎悪。
それらが、
今も呪霊を生み続けている。
俺は現代でも、
呪術界とは関わらなかった。
高専にも入らない。
御三家にも接触しない。
理由は単純。
面倒だからだ。
権力争い。
保守派。
腐った上層部。
平安から何も変わっていない。
だから俺は、
ただ静かに生きていた。
適当に会社員をやり、
飽きたら辞め、
また別の場所へ行く。
その気になれば世界を変えられる。
でもやらない。
人間は、
人間同士で勝手に生きればいい。
俺はもう、
そこへ深入りする気はなかった。
ただ一つ。
興味があるとすれば――
「六眼と無下限、ね」
噂は聞いていた。
現代最強。
五条悟。
千年ぶりに現れた、
規格外の術師。
そして同時に。
宿儺復活の兆候。
「因縁ってやつか」
俺は苦笑する。
結局、
時代が変わっても中心にはあいつがいる。
その時だった。
駅前の大型ビジョンが切り替わる。
ニュース。
渋谷。
不可解な大規模事故。
画面の奥で、
黒い帳が映っていた。
俺の目が細まる。
「……始まったか」
空気が変わる。
千年前と同じ。
大災厄の匂い。
そして。
俺は気づく。
自分が、
少しだけ高揚していることに。
「まったく」
千年も生きたのに、
結局変わっていない。
強者を見ると、
血が騒ぐ。
俺はポケットへ手を突っ込み、
静かに歩き出した。
渋谷へ。
現代最強と、
かつての最強が交差する場所へ。
そして誰も知らない。
千年前。
呪いの王に“完成を期待された男”が、
今もこの世界にいることを。