エクスデス先生スレに投稿するやつ   作:eriza7170

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アルカディア大暴走レース

# エクスデス先生「アルカディア大暴走レースだと?」

 

## 001 アルカディア大暴走レース、発足!

 

「アルカディア大レースだと?」

 

エクスデス先生は、目の前に立つ人物の発言を反芻した。

 

アルカディア。

 

それは今や、アルカディア社が開発したフルダイブMMOの先駆けとして、キヴォトスに一大産業を築き上げた作品である。

 

その名に大レースとつくからには、単なる競走ではあるまい。

 

目の前の人物が何を企んでいるのか、エクスデス先生は警戒しながら続きを促した。

 

「ちょっと前に開催されていたチョコボレースに私、感銘を受けまして。今まで契約獣とのレースとして開発してきたのですが、これを見てください」

 

ヴァーチャ社長が取り出した資料を、エクスデス先生は受け取った。

 

そこに映し出されていたのは、家畜にVRゴーグルを装着させ、外の景色を見せることでストレスを軽減させようという実験の記録だった。

 

なるほど、仮想空間を利用した動物のストレス軽減か。

 

発想としては悪くない。

 

しかし、なぜこれがレースにつながるのか。

 

エクスデス先生が首を傾げるより早く、ヴァーチャ社長は次の資料を提示した。

 

「そこで、もう一つ。イチカさんと、搭乗している赤チョコボさんについてです。これもまた、ちょっと前にレースで大変なことをしでかしたご様子で……」

 

「ファファファ! それは聞いておる。抜かした奴、煽った奴、全員にコメットをお見舞いしたとな」

 

エクスデス先生は愉快そうに笑った。

 

レースで追い抜かれたから魔法を放つ。

 

煽られたから隕石を降らせる。

 

普通ならば問題行動以外の何物でもないが、アルカディアの中ならば話は別だ。

 

安全性さえ確保できるなら、むしろ面白い見世物になるだろう。

 

「そこで思いつきましたのがコレ! アルカディア大暴走レースです!」

 

ヴァーチャ社長は両手を広げ、まるで世紀の大発明を披露するかのように宣言した。

 

「アルカディア大暴走レース?」

 

「攻撃魔法、補助、グループ参加、役割分担、ソロ参加、なんでもありの大暴走レースです! 現実でやろうとしたら、どこでやるんだ、被害総額はどうすると怒られましたので、ならばアルカディアならばできるのでは、と!」

 

「ファファファ! 面白い! 許可しよう!」

 

あまりにも即断即決であった。

 

ヴァーチャ社長は内心でガッツポーズを決めた。

 

この人ならば、そう言ってくれると信じていたのだ。

 

「無論、フルダイブゲームだからと言ってケガはないようにせよ。あくまでイメージとしての痛み限定だ」

 

「もちろんですとも!」

 

こうして、キヴォトスの平和な日常に、新たな火種が投下されたのであった。

 

## 002 巻き込まれるイチカ

 

「え、私とヴァルカンスターがアルカディアでレース?」

 

後日、シャーレに呼び出されたイチカは、机の上に置かれた資料を前に固まっていた。

 

隣では、赤チョコボのヴァルカンスターが、我関せずとばかりにのんびり羽繕いをしている。

 

「あぁ、ヴァーチャと私が計画している、チョコボも遊べるゲームとしてのテストプレイヤーだな」

 

「……え、アルカディアで?」

 

「何度も言うが、そのアルカディアでだ」

 

「……チョコボってアルカディア遊べるんっすか?」

 

「そのように調整する予定だ。これがテストプレイヤーの参加者リストだな」

 

エクスデス先生が差し出した紙束を、イチカは恐る恐る受け取った。

 

分厚い。

 

テストプレイヤーの名簿にしては、妙に分厚い。

 

嫌な予感を覚えながらページをめくると、そこには見覚えのある名前が次々と並んでいた。

 

「ブロントさん、ロアヒカセンさん、チョコボレースの参加者の方……あと、これは暴走族の方々にグラシャラボラス、補習授業部の方々……え、セイア様!?」

 

思わず声が裏返った。

 

「うむ。最初は私も驚いたが、どうやら車での参加らしい。補習授業部は戦車だそうだ」

 

「車と戦車っすか……というか、この戦車って正義実現委員会の……」

 

イチカの脳裏に、職務上の面倒事が次々と浮かび上がる。

 

戦車。

 

暴走族。

 

巨大なモンスター。

 

そして、あの赤チョコボ。

 

まともなレースになる未来が見えない。

 

「よくないっすよ……」

 

「ファファファ! まぁよいではないか」

 

「よくないっすよ!」

 

「とにかく貴様にも参加してもらうぞ。というか、これまたヴァーチャの悪い癖だが、既に関係各所には貴様の名前が宣伝されている」

 

「えぇ!? 困るっすよそれ! 大体、正義実現委員会の休みが取れるかもわからないのに!」

 

「それならばシャーレの権限でごり押しが効くから問題あるまい」

 

「そんなときに使うもんじゃない気がするっす……」

 

イチカは頭を抱えた。

 

シャーレの権限とは、もっとこう、重大な事件や緊急事態に使うものではなかっただろうか。

 

少なくとも、レースに参加するための休暇取得に使うものではないはずだ。

 

そのとき、隣にいたヴァルカンスターが、くるりと首を回してイチカを見た。

 

赤い羽毛に覆われた巨体。

 

その瞳には、普段の散歩では決して見られない、何かを期待するような輝きが宿っていた。

 

「だがな、イチカよ。貴様もストレスが溜まっているのではないか?」

 

「……まぁ、それなりには」

 

「ファファファ! それがアルカディアで、赤チョコボのヴァルカンスターと共に発散できるのだから、いいではないか!」

 

「まぁ、ヴァルカンスターには普段我慢させてますし、これで発散できたらいいのかっす……?」

 

ヴァルカンスターは、まるで話がわかっているかのように、力強く一声鳴いた。

 

その鳴き声を聞いたイチカは、ふと気づいた。

 

この子、もしかして乗り気なのでは?

 

「……まあ、ゲームの中なら、多少暴れても大丈夫っすよね?」

 

「その通りだ!」

 

「……あとで怒られたりしないっすよね?」

 

「ゲームの中の話だ!」

 

エクスデス先生は豪快に笑った。

 

イチカは納得したような、していないような顔で、参加者リストを抱え直す。

 

こうして、本人の不安をよそに、赤チョコボと少女の参戦が決定した。

 

そして、彼女たちはまだ知らない。

 

このレースには、戦闘能力と継戦能力で赤チョコボに迫るチョコボも、メテオを操る巨大な王も、クリームをぶちまける戦車も、武装した機関車も参加するということを。

 

## 003 開幕、アルカディア大暴走レース!

 

「さぁ! アルカディア大暴走レースのお時間が参りました!」

 

仮想空間に、実況の声が響き渡った。

 

眼前に広がるのは、広大なレースコース。

 

直線、急カーブ、起伏の激しい地形に、障害物だらけの危険地帯。

 

観客席は満員であり、空には無数のカメラが浮かび、参加者たちの姿を映し出している。

 

スタートラインには、チョコボ、車、戦車、そしてどう見てもレースに出るための存在ではない巨大な機関車まで並んでいた。

 

「参加者の皆様! 安全装置の確認はよろしいでしょうか! なお、コース内での魔法、攻撃、妨害行為は原則自由! ただし、システムの安全制限を超える行為は禁止となっております!」

 

その説明を聞いたモブ参加者たちは、互いに顔を見合わせた。

 

「……これ、本当にレースなんだよな?」

 

「大丈夫だろ、ゲームなんだから!」

 

その隣では、アルティマが静かに脚を鳴らしていた。

 

ロアヒカセンと共に走るそのチョコボは、ただの競走鳥ではない。

 

戦闘能力と継続力を極め、さらにロア化によって鍛え上げられた、チョコボ界屈指の強者である。

 

その少し先には、キングべひんもすが巨体を揺らしながら待機していた。

 

その巨躯が動くたび、地面が低く唸る。

 

そして、イチカはヴァルカンスターの背にまたがり、手綱を握り直した。

 

「……よし。ゲームっすからね。ゲーム。安全、安心、楽しいレース……」

 

ヴァルカンスターが、ぐるる、と喉を鳴らした。

 

「……あんまり飛ばしすぎないでくださいっすよ?」

 

返事の代わりに、赤チョコボの脚が地面を掻いた。

 

一方、補習授業部のクルセイダー戦車は、砲塔をゆっくりと回転させていた。

 

四人分の神秘が宿る戦車。

 

戦車の装甲と、レーサーカーに匹敵する速度。

 

そして砲口には、なぜかロールケーキが装填されていた。

 

「えっと……これ、撃ってもいいんだよね?」

 

「ルール上は問題ないはずです!」

 

「じゃあ、頑張ろう!」

 

さらに後方では、グラシャラボラスが機関車の汽笛を轟かせていた。

 

後部車両には、どこから持ち込んだのか、さまざまな兵器が積み込まれている。

 

エーテルの腕が伸び、兵器の一つを軽々と持ち上げた。

 

「……あれ、レースに必要な装備なのか?」

 

観客の一人が呟いた。

 

「さあ……?」

 

実況の声が、ひときわ大きくなる。

 

「それでは皆様! 位置について!」

 

エンジンが唸る。

 

チョコボたちが地面を蹴る。

 

戦車の履帯が回転し、機関車が蒸気を吐き出した。

 

「よーい……スタートォォォォォッ!!」

 

号砲が鳴り響いた瞬間、キヴォトスの常識は、仮想空間の彼方へと吹き飛んだ。

 

## 004 開幕早々、コースが戦場になりました

 

スタートの号砲が鳴り響いた瞬間、先頭集団が一斉に飛び出した。

 

「うおおおおお! 勝つのは俺だぁぁぁ!」

 

「待て待て待て! なんでチョコボがあんな速度で走ってるんだよ!?」

 

「戦車が速すぎるんだが!?」

 

モブ参加者たちが悲鳴を上げる中、アルティマは軽やかに地面を蹴り、先頭集団へと躍り出た。

 

その走りには無駄がない。

 

前方の車両を避け、後方から迫る参加者との距離を測り、最短距離を選びながら加速していく。

 

「クェェェッ!」

 

アルティマの脚が唸った。

 

「ふむ、やはりアルティマは速いな。だが、まだまだこれからだ」

 

ロアヒカセンは余裕の表情で手綱を握っていた。

 

その直後、後方から巨大な影が迫ってきた。

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

キングべひんもすである。

 

巨体を揺らしながら突進してくるその姿は、もはや生き物というより移動する災害だった。

 

コースの障害物が次々と吹き飛び、逃げ遅れたモブ参加者たちが慌てて左右に散っていく。

 

「待て待て待て! あれ、コース壊してないか!?」

 

「ゲームだからセーフ! ゲームだからセーフ!」

 

「セーフでもこっちに来るなぁぁぁ!」

 

キングべひんもすは、そんな悲鳴など気にも留めず、前方を走る集団へと突き進んでいった。

 

「ファファファ! 実に豪快ではないか!」

 

観戦用モニターを眺めていたエクスデス先生は、実に満足そうだった。

 

「先生、コースの耐久値が急激に減少しています!」

 

「ゲーム内のコースなのだろう? 直せばよい!」

 

「そういう問題ではありません!」

 

シャーレの職員が頭を抱えた。

 

その頃、コース中央では、イチカとヴァルカンスターが凄まじい勢いで加速していた。

 

「ちょ、ちょっとヴァルカンスター!? 速いっす、速いっすよ!?」

 

赤チョコボは聞く耳を持たなかった。

 

否、そもそも聞く必要がないと判断しているのかもしれない。

 

前方を走っていたモブ参加者の車両が、バックミラー越しに迫り来る赤い影を見た。

 

「えっ、赤チョコボ!?」

 

「うわあああああああっ!」

 

ヴァルカンスターが跳躍した。

 

車両を飛び越え、着地と同時に地面を蹴り、さらに加速する。

 

「待って!? 今、車を飛び越えたっすよね!? チョコボってそういう乗り物じゃないっすよね!?」

 

イチカの叫びもむなしく、ヴァルカンスターは前方の集団を次々と追い抜いていく。

 

その進路上に、ひときわ大きな戦車が見えた。

 

クルセイダー戦車である。

 

「前方に参加者確認!」

 

「追い抜けそう?」

 

「やってみましょう!」

 

補習授業部の四人が操る戦車は、履帯を唸らせながら加速した。

 

戦車の速度とは思えない勢いでコーナーへ突入し、車体を傾けながら旋回する。

 

その砲塔が、後方から迫るモブ車両へと向いた。

 

「えっと……撃ってもいいんだよね?」

 

「ルール上は自由です!」

 

「じゃあ、発射!」

 

ドォンッ!!

 

砲口から飛び出したのは、巨大なロールケーキだった。

 

それは見事にモブ車両の前方へ着弾し、クリームを周囲へとまき散らした。

 

「うわああああ! 前が見えねえ!」

 

「なんだこのクリーム!? 滑る、滑るぞぉぉぉ!」

 

コースの一角が、瞬く間に甘い地獄へと変わった。

 

「……あれ、レースの妨害としてはかなり有効なのでは?」

 

実況席の声に、観客たちから笑いと歓声が上がった。

 

その直後だった。

 

――ボォォォォォォォッ!!

 

大地を震わせる汽笛が響き渡った。

 

「な、なんだ!?」

 

モブ参加者たちが振り返る。

 

そこには、巨大な機関車がいた。

 

グラシャラボラスである。

 

「機関車だぁぁぁぁぁ!?」

 

「なんでレースに機関車がいるんだよ!?」

 

「知らん! 俺だって知りたいわ!」

 

グラシャラボラスは速度を緩めるどころか、さらに加速していた。

 

後部車両ではエーテルの腕が忙しなく動き、積載された兵器を次々と持ち上げている。

 

そして。

 

ドォン! ドォン! ドォン!

 

砲撃が始まった。

 

コース脇の岩場が吹き飛び、障害物が粉砕され、遠くの地面に火柱が上がる。

 

「おい! あの機関車、何を撃ってるんだ!?」

 

「たぶん前方にいる奴らだ!」

 

「たぶんで撃つなぁぁぁ!」

 

モブ参加者たちは必死に逃げ惑った。

 

だが、グラシャラボラスは止まらない。

 

機関車なのだから、速いのである。

 

「ファファファ! 素晴らしい! 実に素晴らしいぞ!」

 

エクスデス先生は、モニターに映る惨状を見て大笑いしていた。

 

「先生! 参加者の安全装置は正常ですが、コースの修復が追いつきません!」

 

「ならば修復班を増やせばよい!」

 

「そういう問題ではありません!」

 

## 005 赤チョコボ、ついに本気を出す

 

先頭集団では、アルティマとヴァルカンスターが激しい競り合いを繰り広げていた。

 

「ほう、やはり来たか」

 

ロアヒカセンが後方を振り返る。

 

そこには、赤い羽毛をなびかせながら迫るヴァルカンスターの姿があった。

 

その背に乗るイチカは、もはや諦めたような顔をしている。

 

「……もう、どうにでもなれっす」

 

ヴァルカンスターが鋭く鳴いた。

 

「クェェェェッ!」

 

「アルティマ、迎え撃て!」

 

ロアヒカセンの指示とともに、アルティマが脚を高く振り上げた。

 

「チョコキック!」

 

強烈な蹴りが、ヴァルカンスターの進路を塞ぐように放たれる。

 

だが、ヴァルカンスターはひるまなかった。

 

地面を蹴って跳び上がり、その一撃を紙一重で回避する。

 

「おおっ!?」

 

ロアヒカセンが目を見開いた。

 

「さすが赤チョコボ! ならば、これならどうだ!」

 

アルティマの身体が淡い光に包まれる。

 

「チョコケアル!」

 

傷ついたわけでもないのに、アルティマの体力が回復していく。

 

長期戦を想定した、継戦能力をさらに引き上げる技だ。

 

これでアルティマは、持久戦でも簡単には脱落しない。

 

一方、ヴァルカンスターの背では、イチカが何かを悟ったように呟いていた。

 

「……あ、これ、競争相手がいると燃えるタイプっすね?」

 

赤チョコボが、さらに速度を上げた。

 

「ちょ、ちょっと!? 速いっす! さっきより速いっすよ!?」

 

その身体から、魔力が立ち上る。

 

そして、空に無数の光点が現れた。

 

「……え?」

 

イチカが空を見上げた。

 

ロアヒカセンも、アルティマも、観客たちも、そろって空を見上げた。

 

「まさか……!」

 

次の瞬間。

 

「チョコメテオォォォォォッ!!」

 

空から、無数の隕石が降り注いだ。

 

「うわあああああああああっ!!」

 

モブ参加者たちの悲鳴が、アルカディア全域に響き渡った。

 

こうして大暴走レースは、開始早々、ただの競走という枠組みを完全に破壊したのであった。

 

## 006 メテオが降るならミールストームも降る

 

空から降り注ぐ隕石。

 

砕け散るコース。

 

吹き飛ばされるモブ参加者たち。

 

アルカディア大暴走レースは、開始からわずかな時間で、もはやレースというより大規模な戦闘訓練の様相を呈していた。

 

「うわあああああ! コースが! コースがなくなっていく!」

 

「落ち着け! ここはフルダイブゲームだ! 死にはしない!」

 

「でも痛覚設定はあるんだろうがぁぁぁ!」

 

「そうだったぁぁぁぁ!」

 

モブ参加者たちは必死に逃げ惑う。

 

その頭上を、最後の隕石が轟音とともに通過していった。

 

一方、先頭集団では。

 

「ファファファ! やりおるわ、赤チョコボ!」

 

観戦用モニターを見つめるエクスデス先生は、実に楽しそうだった。

 

「先生! チョコメテオの影響でコースの一部が消失しています!」

 

「ならば迂回路を使えばよい!」

 

「その迂回路にも隕石が落ちているんです!」

 

「ファファファ! ならば飛び越えればよいではないか!」

 

「参加者全員が飛べるわけではありません!」

 

シャーレの職員は、もはや何度目になるかわからない頭痛に襲われていた。

 

その頃、隕石の直撃を回避したアルティマは、悠然と首を振っていた。

 

「クェッ……」

 

ロアヒカセンは、前方を見据えながら笑う。

 

「なるほどな。赤チョコボの力、存分に見せてもらった。だが、こちらも負けるわけにはいかんな」

 

アルティマの脚が地面を蹴る。

 

その走りは、先ほどよりもさらに鋭くなっていた。

 

チョコケアルによる回復で、消耗を最小限に抑えながら加速する。

 

長期戦になればなるほど、アルティマの強みが生きてくるのだ。

 

だが。

 

「……おや?」

 

ロアヒカセンの視界に、巨大な影が映った。

 

「グオオオオオオオオッ!!」

 

キングべひんもすが、真正面から突進してきていた。

 

「おいおいおい、まさか真正面から来るのか!?」

 

ロアヒカセンが思わず叫ぶ。

 

キングべひんもすは、進路上にあった障害物を巨体で蹴散らしながら、まっすぐに迫ってくる。

 

その速度は巨体に似合わぬものであり、何より一切止まる気配がない。

 

「アルティマ、回避だ!」

 

アルティマは素早く進路を変更した。

 

直後、キングべひんもすが通過する。

 

轟音。

 

地響き。

 

舞い上がる土煙。

 

先ほどまでアルティマが走っていた場所が、見事に破壊されていた。

 

「……あれを食らったら、いくらアルティマでもただでは済まんな」

 

ロアヒカセンは苦笑する。

 

キングべひんもすの背には、ブロントさんが乗っていた。

 

「ふむ、やはりキングべひんもすの力は圧倒的だな。デカいことは強いこと、これがアルカディアの理である」

 

ブロントさんは満足げに頷いた。

 

「だが、まだまだこれからだ」

 

キングべひんもすが、大きく息を吸い込んだ。

 

その口元に、凄まじい魔力が集束する。

 

「ミールストーム!」

 

瞬間、周囲の空間が歪んだ。

 

暴風が巻き起こり、コース上の障害物も、逃げ遅れたモブ参加者も、まとめて巻き込まれていく。

 

「ぎゃあああああ! 吸い込まれるぅぅぅ!」

 

「俺たちはレースをしに来たんだぞぉぉぉ!」

 

「だったら走れ! 走るんだよぉぉぉ!」

 

阿鼻叫喚の中、キングべひんもすは悠然と前進していた。

 

「ふむ。これならば、赤チョコボにも容易には追いつかれまい」

 

ブロントさんは、満足げに頷いた。

 

だが、彼はまだ知らなかった。

 

このレースには、キングべひんもすの巨体すらも脅かしかねない、別の災害が存在していることを。

 

## 007 機関車は止まらない

 

――ボォォォォォォォッ!!

 

再び、汽笛が響き渡った。

 

「……ん?」

 

ブロントさんが振り返る。

 

土煙の向こう側から、巨大な機関車が姿を現した。

 

グラシャラボラスである。

 

その車体はコースの破壊など意に介さず、猛然と突き進んでいた。

 

後部車両ではエーテルの腕が忙しなく動き、積載された兵器を次々と持ち上げている。

 

「おい、待て。あれはどう見てもレース用の車両ではないだろう」

 

ブロントさんが呟いた。

 

しかし、グラシャラボラスは答えない。

 

そもそも、機関車に返答を求めるほうが間違っているのかもしれない。

 

その砲口が、キングべひんもすへ向けられた。

 

「……まさか」

 

ドォンッ!!

 

砲撃が放たれた。

 

キングべひんもすは巨体をひねり、直撃を回避する。

 

砲弾は背後の地面に着弾し、派手な爆発を引き起こした。

 

「ほう。なかなかやるではないか」

 

ブロントさんが感心したように言った。

 

「だが、キングべひんもすの巨体を止められると思うなよ!」

 

キングべひんもすが咆哮する。

 

グラシャラボラスも、汽笛を鳴らして応じた。

 

そして、両者は並走を始めた。

 

片やモンスターの王。

 

片や兵器を満載した巨大機関車。

 

その光景を目撃したモブ参加者たちは、レースを続けることを諦めかけていた。

 

「……帰りたい」

 

「まだ始まったばかりだぞ」

 

「もう十分だろ……」

 

その横を、クルセイダー戦車が猛スピードで駆け抜けていった。

 

「前方に障害物!」

 

「ならば突破です!」

 

「えっ、あれ障害物っていうかキングべひんもすと機関車の戦闘じゃない!?」

 

「コース上にあるものは障害物です!」

 

「そんな理屈があるかぁぁぁ!」

 

クルセイダー戦車は履帯を唸らせ、両者の間を強引に突っ切ろうとする。

 

砲塔が回転した。

 

「ロールケーキ、発射!」

 

ドォンッ!!

 

巨大なロールケーキが飛び出した。

 

それはキングべひんもすの足元をかすめ、グラシャラボラスの車体側面に命中し、盛大にクリームをまき散らした。

 

「……」

 

「……」

 

一瞬、戦場が静まり返った。

 

キングべひんもすの脚にクリームが付着している。

 

グラシャラボラスの車体にも、白いクリームがべったりと広がっていた。

 

「……何をしているのだ、あの戦車は」

 

ブロントさんが困惑する。

 

だが、補習授業部は至って真剣だった。

 

「よし! 命中です!」

 

「やったね!」

 

「……えっと、これでいいんでしょうか?」

 

「勝てばいいんです!」

 

その言葉を聞いたエクスデス先生は、腹を抱えて笑った。

 

「ファファファファファ! 素晴らしい! まさに大暴走レースよ!」

 

その隣では、シャーレの職員が無言でコースの修復状況を確認していた。

 

そして、画面の隅に表示された一文を見て、静かに目を閉じた。

 

《コース修復率:12%》

 

レースは、まだ始まったばかりであった。

 

## 008 イチカ、もう引き返せない

 

その頃、ヴァルカンスターは先頭集団へと迫っていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいっす! あの中に突っ込むんすか!?」

 

イチカの目に映るのは、キングべひんもすとグラシャラボラス、そしてその間を突っ切ろうとするクルセイダー戦車。

 

どう見ても、まともに走れる場所ではない。

 

しかし、ヴァルカンスターは違った。

 

赤チョコボは、目の前の光景を見て、むしろ興奮しているようだった。

 

「クェェェェッ!!」

 

「……あっ、これ聞いてないやつっすね」

 

ヴァルカンスターが加速する。

 

イチカは手綱を握り締めた。

 

「ええい、もうどうにでもなれっす! やるならやってやるっすよ!」

 

少女の瞳に、闘志が宿った。

 

「ヴァルカンスター! ぶっちぎるっすよ!」

 

赤チョコボが咆哮する。

 

その身体から魔力が噴き上がり、再び空に光点が現れた。

 

「……えっ?」

 

ロアヒカセンが顔を上げる。

 

ブロントさんが振り返る。

 

補習授業部が砲塔を止める。

 

グラシャラボラスのエーテルの腕が、なぜか一瞬だけ動きを止めた。

 

そして、イチカの叫びが響き渡った。

 

「チョコメテオォォォォォ!!」

 

再び、隕石の雨が降り注いだ。

 

「ファファファ! まだまだ楽しませてくれるではないか!」

 

エクスデス先生の笑い声が、シャーレの観戦室に響く。

 

一方、モブ参加者たちは、もはや順位など気にしていなかった。

 

彼女たちが望むことは、ただ一つ。

 

このレースが終わるまで、生き残ること。

 

もっとも、ここはフルダイブゲームである。

 

実際に命を落とすことはない。

 

だが、精神的な意味では、すでに何人もの参加者が脱落していた。

 

そして、先頭集団の戦いは、さらに激しさを増していくのであった。

 

## 009 先頭集団、もはやレースではない

 

チョコメテオの轟音が収まったとき、コースの景色はすっかり変わり果てていた。

 

舗装路はあちこちで陥没し、障害物は砕け散り、コース脇には隕石によって生じたクレーターがいくつも口を開けている。

 

その中を、なおも走り続ける者たちがいた。

 

「クェェェッ!」

 

アルティマが軽やかに跳躍し、クレーターを飛び越える。

 

着地と同時に脚を蹴り出し、再び加速する。

 

「さすがだな、アルティマ! この程度では止まらんか!」

 

ロアヒカセンは笑みを浮かべた。

 

前方では、巨大なキングべひんもすが土煙を巻き上げながら走っている。

 

その脇を、グラシャラボラスが汽笛を鳴らしながら追い抜こうとしていた。

 

そして、そのさらに後方。

 

「うおおおおおお! まだまだ行くっすよぉぉぉ!」

 

ヴァルカンスターに乗ったイチカが、もはや自分でも制御できているのか怪しい勢いで突っ走っていた。

 

「イチカさん、すごい勢いですね……」

 

観戦用モニターを見ていた生徒が呟く。

 

「いや、あれは本当にイチカさんが操縦してるのか?」

 

「ヴァルカンスターが走って、イチカさんが乗ってるだけじゃない?」

 

「それ、本人に聞かれたら怒られるぞ……」

 

当のイチカは、そんな会話など知る由もなかった。

 

「ヴァルカンスター! 前! 前を見るっす!」

 

赤チョコボは前を見ている。

 

そして前にいるものを追い抜くため、全力で走っている。

 

「そういう意味じゃないっすよぉぉぉ!」

 

イチカの悲鳴が、仮想空間に響き渡った。

 

そのとき、前方のキングべひんもすが急停止した。

 

「うおっ!?」

 

ブロントさんが思わず声を上げる。

 

キングべひんもすの眼前に広がっていたのは、コースを横断する巨大な岩壁だった。

 

先ほどまでの戦闘で地形が変わり、本来存在しなかった障害物ができあがっていたのである。

 

「ふむ。これは少々面倒だな」

 

ブロントさんは腕を組んだ。

 

「だが、キングべひんもすの力をもってすれば、この程度の障害など――」

 

その瞬間、背後から汽笛が鳴り響いた。

 

――ボォォォォォォォッ!!

 

「……ん?」

 

振り返った先には、グラシャラボラス。

 

しかも、止まる気配がない。

 

「おい、待て! 前に壁があるぞ!」

 

ブロントさんの忠告もむなしく、機関車は猛烈な速度で迫ってくる。

 

「まさか、突破するつもりか!?」

 

グラシャラボラスは答えない。

 

機関車だからである。

 

そして。

 

ドガァァァァァン!!

 

岩壁が粉砕された。

 

破片が飛び散り、土煙が立ち上り、キングべひんもすの巨体が衝撃で揺れる。

 

「……なるほど。そういう解決方法もあるのか」

 

ブロントさんは、妙に納得した様子で頷いた。

 

その後ろから、クルセイダー戦車が颯爽と走り抜けていく。

 

「道が開けました!」

 

「やったね!」

 

「……あれ? 私たち、何もしてないような?」

 

「いいんです! 進みましょう!」

 

補習授業部は、今日も元気だった。

 

## 010 モブ参加者、勇気ある撤退

 

一方、後方では。

 

「……もう無理だ」

 

ひとりのモブ参加者が、コース脇に座り込んでいた。

 

「俺はただ、レースに参加してみたかっただけなんだ……」

 

その目の前を、赤チョコボが隕石を降らせながら通り過ぎていった。

 

「うわあああああああああっ!!」

 

モブ参加者は慌てて立ち上がり、再び走り出した。

 

「待て! 俺もまだ走れる! まだ終わってない!」

 

しかし、その希望は長く続かなかった。

 

今度は、キングべひんもすのミールストームが発生したのである。

 

「ぎゃああああああああああっ!!」

 

吹き飛ばされるモブ参加者たち。

 

転がる車両。

 

舞い上がる土煙。

 

その様子を見ていた実況者は、マイクを握り締めながら叫んだ。

 

「おおっと! 先頭集団の攻撃によって、後続の参加者たちが次々と巻き込まれているぅぅぅ! これぞ大暴走レース! これぞアルカディアの真骨頂!」

 

「実況! それを真骨頂と言っていいんですか!?」

 

「いいんです! ルール上は問題ありません!」

 

「その理屈、さっきも聞きましたよ!」

 

実況席もまた、混乱の渦中にあった。

 

だが、モブ参加者たちの中にも、ただでは終わらない者がいた。

 

「……こうなったら、意地でも完走してやる!」

 

「そうだ! 俺たちだって参加者だ!」

 

「先頭集団が化け物だらけだからって、諦めてたまるか!」

 

彼女たちは互いに頷き合い、再びアクセルを踏み込んだ。

 

その直後。

 

クルセイダー戦車の砲撃が、目の前の路面に着弾した。

 

ドォンッ!!

 

クリームが飛び散った。

 

「……」

 

「……」

 

「撤退だぁぁぁぁぁ!!」

 

勇気あるモブ参加者たちは、速やかに進路を変更した。

 

それは決して恥ずべきことではない。

 

勝てない相手から逃げるのも、立派な戦術である。

 

もっとも、逃げた先にはグラシャラボラスが待ち構えていたのだが。

 

――ボォォォォォォォッ!!

 

「逃げ場がねぇぇぇぇぇ!!」

 

## 011 エクスデス先生、実況に乱入する

 

「ファファファ! 実に素晴らしいレースではないか!」

 

シャーレの観戦室では、エクスデス先生が上機嫌で笑っていた。

 

「先生、参加者の皆さんから問い合わせが殺到しています!」

 

「何だ?」

 

「コースの安全性についてです!」

 

「安全装置は正常なのだろう?」

 

「はい、ですが……」

 

職員がモニターを指差した。

 

そこには、クリームまみれになったコースを走るモブ参加者たちと、隕石によって吹き飛ばされた障害物の数々が映っていた。

 

「……この状態を見て、何も思わないんですか?」

 

「思うとも!」

 

エクスデス先生は大きく頷いた。

 

「次回は、もっと広いコースにすべきだな!」

 

「そういうことではありません!」

 

職員の悲鳴が響き渡る。

 

だが、エクスデス先生は気にしなかった。

 

彼は観戦用マイクを手に取ると、実況席へと通信をつないだ。

 

「こちらエクスデス先生。参加者諸君、楽しんでいるか!」

 

突然響いた声に、実況者が飛び上がった。

 

「せ、先生!? 実況回線に直接!?」

 

「ファファファ! 細かいことは気にするな!」

 

エクスデス先生は、画面の向こうにいる参加者たちへ呼びかけた。

 

「よいか、諸君! このレースに必要なのは、速さだけではない! 知恵、勇気、そして何よりも勝利への執念だ!」

 

その言葉を聞いたイチカが、思わず叫んだ。

 

「先生! これ以上、何をしろって言うんすか!?」

 

「ファファファ! それを考えるのもレースの醍醐味であろう!」

 

「無茶苦茶っすよぉぉぉ!」

 

ヴァルカンスターが力強く鳴いた。

 

そして、イチカを乗せたまま、さらに加速した。

 

「ちょっ!? 今の話を聞いて、なんでやる気になるんすかぁぁぁ!」

 

赤チョコボは止まらない。

 

アルティマも止まらない。

 

キングべひんもすも止まらない。

 

クルセイダー戦車も、グラシャラボラスも止まらない。

 

そして、エクスデス先生は笑い続けていた。

 

「ファファファ! さあ、次は何が起こるのか!」

 

そのとき、コースの先に巨大なゲートが見えてきた。

 

ゲートの上には、堂々とした文字が刻まれている。

 

《第二セクション:魔境地帯》

 

先頭集団の面々は、それを見て速度を緩めるどころか、さらに加速した。

 

そして後方のモブ参加者たちは、その文字を見た瞬間、全員が同じことを思った。

 

――まだ、これ以上ひどくなるのか。

 

その答えは、まもなく明らかになるのであった。

 

 

## 012 第二セクション、魔境地帯へようこそ!

 

《第二セクション:魔境地帯》

 

そのゲートをくぐった瞬間、参加者たちは理解した。

 

これは、レースではない。

 

生存競争だ。

 

「……なんか、嫌な予感がするっす」

 

ヴァルカンスターの背で、イチカが呟いた。

 

ゲートの向こうに広がっていたのは、巨大な岩山、溶岩の川、浮遊する足場、そして空を飛び交う謎のモンスターたちであった。

 

さらにコースの至るところには、魔法陣やら謎のスイッチやら、明らかにレースに必要ないものが設置されている。

 

「これ、誰が作ったんすか!?」

 

『私だ!』

 

通信越しにヴァーチャ社長の声が響いた。

 

『アルカディアの技術を総動員し、冒険と競争の楽しさを融合させた新感覚のコースです!』

 

「冒険と競争の融合って言えば何でも許されるわけじゃないっすよ!?」

 

『なお、魔境地帯では一部の地形が定期的に変化します!』

 

「先に言ってほしかったっすよぉぉぉ!!」

 

その瞬間、コースの一部が沈んだ。

 

「うおおおおおお!?」

 

先頭を走っていたモブ参加者たちが、まとめて落下していく。

 

その下にあったのは、巨大なトランポリンだった。

 

ぽよんっ。

 

参加者たちは空高く打ち上げられた。

 

そして、空中で待ち構えていた謎のモンスターたちに追い回され始めた。

 

「なんだこのコースぅぅぅ!!」

 

「帰らせてくれぇぇぇ!!」

 

「まだゴールしてないぞぉぉぉ!!」

 

悲鳴が響き渡る。

 

一方、先頭集団は違った。

 

「ファファファ! 面白いではないか!」

 

エクスデス先生は、観戦室で腹を抱えて笑っていた。

 

「先生! 参加者の半数以上がコースのギミックに巻き込まれています!」

 

「ならば残った者たちが勝ち進めばよい!」

 

「そういう問題ではありません!」

 

## 013 それぞれの攻略法

 

最初に魔境地帯を攻略し始めたのは、ロアヒカセンとアルティマだった。

 

「アルティマ、右だ!」

 

アルティマは指示に従い、溶岩の川を飛び越えた。

 

着地した先には、巨大な岩石が転がってきていた。

 

「ならば左だ!」

 

アルティマは急旋回。

 

岩石を紙一重で回避し、そのまま崖を駆け上がった。

 

「さすがだな! やはりお前は最高のチョコボだ!」

 

「クェェェッ!」

 

アルティマは誇らしげに鳴いた。

 

その背後から、巨大な影が迫る。

 

キングべひんもすである。

 

「ふむ、地形が変化する程度で我らが止まると思うなよ!」

 

ブロントさんが叫ぶ。

 

キングべひんもすは、目の前に現れた岩壁をその巨体で粉砕した。

 

「道がなければ作ればよい!」

 

実に豪快な攻略法だった。

 

しかし、次の瞬間。

 

岩壁の向こう側から、巨大な振り子が飛び出してきた。

 

「むっ!?」

 

ゴォォォォン!!

 

キングべひんもすの巨体が、見事に横へ吹き飛ばされた。

 

「おおおおおおお!?」

 

「ブロントさん!?」

 

「問題ない! この程度では倒れん!」

 

キングべひんもすは、何事もなかったかのように起き上がった。

 

そして振り子を睨みつける。

 

「次は貴様が吹き飛ぶ番だ!」

 

振り子が砕け散った。

 

「……あのギミック、破壊できるんですね」

 

実況者が呟いた。

 

『想定していませんでした!』

 

ヴァーチャ社長の声が返ってきた。

 

「社長!?」

 

『素晴らしい! 新たな攻略法の発見です!』

 

「感心している場合ですか!?」

 

その頃、クルセイダー戦車は別の問題に直面していた。

 

「前方に分岐路です!」

 

「どちらに行けばいいんでしょう?」

 

「看板があります!」

 

そこには、こう書かれていた。

 

《安全ルート》

 

《最短ルート》

 

「……どうしましょう?」

 

「最短ルートにしましょう!」

 

「えっ、でも危険かもしれませんよ!?」

 

「大丈夫です! 戦車ですから!」

 

「その理屈、今日何回聞いたんですか!?」

 

クルセイダー戦車は最短ルートへ突入した。

 

そこには、巨大なループ状の坂道があった。

 

「えっ、これを登るんですか!?」

 

「勢いをつけましょう!」

 

履帯が唸る。

 

エンジンが轟く。

 

そして戦車は、壁面を駆け上がり、宙返りを決めた。

 

「「「「うわあああああああああ!!」」」」

 

四人の叫びが、魔境地帯に響き渡る。

 

だが、戦車は着地した。

 

しかも、最短ルートを大幅にショートカットしていた。

 

「……やりました!」

 

「やったね!」

 

「戦車って、こんな乗り物でしたっけ……?」

 

「ゲームですから!」

 

補習授業部は、今日も元気だった。

 

そして、グラシャラボラスは。

 

「ボォォォォォォォッ!!」

 

坂道を登ることなく、崖を突き破っていた。

 

「機関車は線路を走るものではないのか!?」

 

ブロントさんが思わず叫んだ。

 

機関車は答えない。

 

機関車だからである。

 

## 014 赤チョコボと少女の意地

 

「ヴァルカンスター! 前方、足場がないっす!」

 

イチカの叫び。

 

眼前には、巨大な谷が広がっていた。

 

向こう岸までは、どう見ても普通のチョコボが飛び越えられる距離ではない。

 

「さすがにこれは……」

 

イチカが手綱を引こうとした、そのとき。

 

ヴァルカンスターが、力強く地面を蹴った。

 

「えっ、ちょっと!?」

 

飛んだ。

 

飛んでしまった。

 

赤い巨体が、空を切り裂く。

 

その瞳には、一切の迷いがなかった。

 

「うそでしょぉぉぉぉぉ!?」

 

イチカは必死にしがみつく。

 

ヴァルカンスターは谷を飛び越え、対岸の岩場へと着地した。

 

「……」

 

「……」

 

「……すごいっすね、ヴァルカンスター」

 

赤チョコボは誇らしげに鳴いた。

 

イチカは、ふと笑った。

 

普段は正義実現委員会の仕事に追われ、好き勝手に走り回ることも難しい。

 

だが、今は違う。

 

誰にも迷惑をかけない仮想空間で、相棒と一緒に全力で走ることができる。

 

多少、いや、かなり危険な気もするが。

 

それでも。

 

「よーし! このまま一着を目指すっすよ!」

 

ヴァルカンスターが、再び加速した。

 

その先には、先頭を走るアルティマの姿。

 

「待ってろぉぉぉ! ロアヒカセンさぁぁぁん!」

 

イチカの叫びが、魔境地帯に響き渡った。

 

## 015 最後の直線、そして伝説へ

 

魔境地帯を抜けた先。

 

そこには、巨大なゴールゲートが見えていた。

 

「おおっと! ついに最終区間です! 先頭集団がゴールへと向かっています!」

 

実況者の声が、観客席を揺らした。

 

アルティマ。

 

キングべひんもす。

 

ヴァルカンスター。

 

クルセイダー戦車。

 

グラシャラボラス。

 

五者が、ほぼ同時に最終直線へ突入した。

 

「アルティマ! 最後の勝負だ!」

 

ロアヒカセンが叫ぶ。

 

「ここで負けるわけにはいかんな!」

 

ブロントさんも応じる。

 

「ヴァルカンスター! 行くっすよぉぉぉ!」

 

イチカが手綱を握り締める。

 

「最後まで全力です!」

 

補習授業部も、戦車のアクセルを踏み込んだ。

 

そしてグラシャラボラスは、ただひたすらに突き進んでいた。

 

――ボォォォォォォォッ!!

 

五者の速度が、さらに上がる。

 

観客たちは立ち上がった。

 

実況者はマイクを握り締めた。

 

シャーレの職員たちは、なぜか全員で祈り始めていた。

 

「頼むから、ゴールだけは無事に通過してくれ……!」

 

エクスデス先生は笑った。

 

「ファファファ! これぞ競争! これぞ大暴走レースよ!」

 

そして。

 

五者が、ゴールラインへ到達した。

 

アルティマが跳躍する。

 

キングべひんもすが突進する。

 

ヴァルカンスターが加速する。

 

クルセイダー戦車が地面を蹴るように駆け抜ける。

 

グラシャラボラスが汽笛を鳴らす。

 

――ドォォォォォォォン!!

 

最後の最後に、なぜかコースの上空で大爆発が起きた。

 

煙が晴れたとき、五者は全員ゴールの向こう側にいた。

 

「……え?」

 

実況者が呟いた。

 

「……え?」

 

観客も呟いた。

 

「……え?」

 

エクスデス先生も、珍しく笑うのを止めた。

 

そして、モニターに結果が表示された。

 

《アルカディア大暴走レース 最終結果》

 

《第一位:判定不能》

 

《同着判定:複数参加者》

 

《原因:ゴールライン付近における同時到達およびコース破損》

 

沈黙。

 

そして。

 

「「「「「なんだそれぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」」

 

五者の叫びが重なった。

 

## 016 閉幕、そして伝説へ

 

レース終了後。

 

シャーレの会議室には、エクスデス先生、ヴァーチャ社長、そして関係者たちが集まっていた。

 

机の上には、膨大な報告書が積み上がっている。

 

コース破損報告。

 

参加者からの問い合わせ。

 

安全装置の稼働記録。

 

そして、今後の改善案。

 

「……それで、先生」

 

ヴァーチャ社長が口を開いた。

 

「今回のレース、いかがでしたか?」

 

「ファファファ! 実に素晴らしかった!」

 

エクスデス先生は、満面の笑みで答えた。

 

「参加者たちは全力を尽くし、数々の困難を乗り越え、最後まで走り抜いた! これぞ競争の醍醐味であろう!」

 

「ありがとうございます!」

 

ヴァーチャ社長も嬉しそうに頷いた。

 

「では、第二回の開催についてですが――」

 

「待ってください」

 

その場にいた職員が、静かに手を挙げた。

 

「まずはコースの修復費用について話し合いませんか?」

 

「……」

 

「それと、参加者の皆さんへの説明も必要です」

 

「……」

 

「あと、正義実現委員会から問い合わせが来ています。戦車の使用許可について、改めて確認したいとのことです」

 

「……」

 

ヴァーチャ社長は、ゆっくりと視線を逸らした。

 

エクスデス先生は笑った。

 

「ファファファ! 次回はもっと安全なコースにすればよい!」

 

「先生、そういう問題ではありません!」

 

会議室に、職員の悲鳴が響き渡った。

 

一方、アルカディアの公式掲示板では、早くも今回のレースが話題になっていた。

 

『大暴走レース、最高だった』

 

『機関車が崖を突き破っていったのは何だったんだ』

 

『戦車が宙返りするゲーム、初めて見た』

 

『赤チョコボのチョコメテオ、あれ本当にレースか?』

 

『モブ参加者だけど、もう一回参加したい』

 

『次は絶対に完走してやる』

 

そして、最も多くの反響を集めた投稿。

 

『第一回アルカディア大暴走レース、優勝者なし』

 

『いや、全員優勝でいいだろ』

 

『それな』

 

『全員優勝! 全員優勝!』

 

その声は、やがて大きな流れとなっていった。

 

後日、アルカディア社は公式に発表した。

 

《第一回アルカディア大暴走レースは、参加者全員の健闘を称え、全員優勝といたします》

 

その発表に、参加者たちは歓喜した。

 

イチカも、ヴァルカンスターの首を撫でながら笑っていた。

 

「楽しかったっすね、ヴァルカンスター」

 

「クェェッ!」

 

「……まあ、次も参加するかは考えものっすけど」

 

赤チョコボは、すでに次のレースを期待しているようだった。

 

そしてシャーレでは。

 

「ファファファ! さて、次はどのような催しを企画しようか!」

 

エクスデス先生が、新しい企画書を取り出した。

 

その表紙には、こう書かれていた。

 

《アルカディア大海戦》

 

職員たちは、一斉に叫んだ。

 

「もうやめてください!!」

 

こうして、アルカディア大暴走レースは幕を閉じた。

 

コースは壊れ、機関車は走り、戦車は飛び、チョコボは隕石を降らせた。

 

そして、参加者たちは一つのことを学んだ。

 

アルカディアでは、何が起きてもおかしくない。

 

なぜなら。

 

「ファファファファファ!」

 

エクスデス先生が、そこにいるのだから。

 

**――第一回アルカディア大暴走レース、完。**




ロアヒカセン アルティマ(チョコボ)
チョコボだが戦闘が得意でおそらく戦闘能力と継続力で勝てるやつは種族としてレベルが違う赤チョコボくらいしかいない
だがチョコボから最強のチョコボとしての色男色女なモテ具合なためにほとんどロア化しておりその強さは赤チョコボに匹敵する
愛用技 チョコキック チョコケアル


ブロントさん キングべひんもす
モンスターの王たるキングベヒーモスだが、ロア化したブロントさんがアルカディアに入った瞬間に既にそこにいたという顔になる契約モンスター。
デカイことイコール強さな世界においてこれでもかと強く、ミールストームやメテオなどの技も操る攻撃力は赤チョコボ以上の強敵だが小回りが利かないのが弱点か


イチカ ヴァルカンスター
チョコメテオなどを操る暴走戦車のごとき強さの赤チョコボ、更に乗るのは大暴走レースの空気に当てられちょこっとバーサク気味なイチカが駆るのでまさに暴走レーサーカーである


補習授業部 クルセイダー戦車
戦車と侮るなかれ、四人分の神秘を乗せたそれの速度は最早レーサーカーに匹敵する速度と戦車の装甲を持つ完全なる兵器と化している
ロールケーキをぶっ放し辺り一面をクリームまみれに変える不可思議戦車の出来上がりだ。


グラシャラボラス
完全なる機関車と化したそれを止める者は大暴走レースの参加者以外いないだろう、エーテルの腕を使い後部車両から兵器を持ち上げてはぶっ放し辺り一面を火の海に変えるぞ。
勿論機関車なので早いぞ!


他ネームドキャラも多数参加

モブは蹴散らされる
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