エクスデス先生スレに投稿するやつ   作:eriza7170

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ゴブリンの話

ゴブリンと呼ばれる存在がいる。

 

一般的なFF世界では、モンスターとして扱われることの多い存在だ。

 

世界によって姿も文化も大きく異なる。

 

野性味あふれる獣じみたモンスター。

 

あるいは、粗末ながらも集団で暮らし、蛮族的な文明を築いた山賊めいたモンスター。

 

そして――。

 

今回キヴォトスへとやってきたのは、そのどちらにも属さない。

 

極めて希少な、知性と技術を持ったゴブリンだった。

 

「このキヴォトスに住み着きたいと、許可を求めているモンスターがいる?」

 

ユウカから報告を受けたエクスデス先生は、眉をひそめた。

 

「モンスター、なのでしょうか?」

 

「どういう意味だ?」

 

「先生から聞いた種族の特徴と、本人たちから聞いた種族の特徴が一致しないんです」

 

「ほう」

 

「種族名は……ゴブリンです」

 

「ゴブリン?」

 

エクスデスの脳裏に浮かぶのは、彼の知る世界におけるゴブリンの姿だった。

 

小柄。

 

凶暴。

 

知性は低く、群れで人間を襲う低級魔物。

 

「……あの低級の魔物か?」

 

「それがですね」

 

ユウカは困ったように眼鏡を押し上げる。

 

「特徴が、むしろ真逆なんです」

 

「真逆?」

 

「頭がよく、文明的で、しかも――」

 

ユウカは資料をめくった。

 

「ミレニアムの廃墟で、機械を作っていました」

 

「…………」

 

「しかも、かなり高度なものを」

 

「機械を作るゴブリンだと?」

 

エクスデスの声が少しだけ大きくなる。

 

「はい」

 

「……興味深い」

 

「でしょう?」

 

ユウカは少し得意げに笑った。

 

「なので、一度会っていただけませんか? 先生」

 

「よかろう」

 

エクスデスは立ち上がった。

 

「今からでも構わん。テレポで向かうぞ」

 

「え、ちょ――」

 

「テレポ」

 

「ちょっと先生!?」

 

――シュンッ。

 

002

 

トンテンカン。

 

トンテンカン。

 

ミレニアムと廃墟の境界、そのギリギリに設置された仮設基地。

 

そこは今や、完全に改造工事の真っ最中だった。

 

金属板を切断する音。

 

歯車が回る音。

 

蒸気を吐き出す音。

 

何かの機械が「ギギギ……」と音を立てながら動く。

 

そして、その周囲を小さな何かが忙しなく動き回っている。

 

全員、布製のガスマスクのようなものを顔に装着し、全身をレザー製の防護服で覆っていた。

 

汚染対策の装備らしい。

 

「先生、久しぶりね」

 

その光景を眺めていたリオが振り返る。

 

「リオ。貴様、何をしている?」

 

「今は休憩中よ」

 

「休憩?」

 

「ええ。ゴブリンさんたちの機械を見ているの」

 

「それは休憩ではなく種族間技術交流では?」

 

後ろからユウカが即座に突っ込む。

 

「細かいことはいいのよ」

 

「細かくありません!」

 

そのときだった。

 

「シュコー……シュコー……」

 

奇妙な呼吸音が近づいてくる。

 

そして。

 

「ユウカ! 久しぶりゴブ!」

 

小さな影が現れた。

 

エクスデスの知っているゴブリンよりも、どこか小綺麗で、どこか技術者らしい。

 

防護服の上から工具を大量に身につけ、背中には巨大な工具箱。

 

そして何より――。

 

その目が、異様なほどに好奇心で輝いている。

 

「その巨大な何かが先生ゴブか?」

 

「……巨大な何かとは失礼だな」

 

「ゴブ? 失礼だったゴブか?」

 

「先生です」

 

ユウカが訂正する。

 

「おっと、名乗ってなかったゴブね!」

 

ゴブリンは胸を張った。

 

「エヴァーワンダリクス!」

 

「……名前がエヴァーワンダリクスなのか?」

 

「そうゴブ!」

 

「変わった名前だな」

 

「長ァく旅する者、エヴァーワンダリクス!」

 

そう言って彼は工具箱を叩いた。

 

「100年以上、いろんな土地を旅して、いろんな機械を見て、いろんな技術を拾ってきたゴブ!」

 

「100年以上?」

 

ユウカが目を丸くする。

 

「そんなに長く?」

 

「ゴブ族は長生きなのか?」

 

エクスデスが尋ねる。

 

「みんながみんなじゃないゴブ。でもエヴァーワンダリクスは長く生きて、長く旅してるゴブ」

 

そしてニヤリと笑う。

 

「だから知らない機械を見ると、今でもワクワクするゴブ!」

 

「……なるほど」

 

リオの目が輝いた。

 

「それで、この機械は?」

 

「リオ会長」

 

「何?」

 

「もう休憩ではないですよね?」

 

「……そうね」

 

003

 

「つまり貴様らは、自分から次元の狭間へ探検に飛び込んだということか?」

 

エクスデスが尋ねる。

 

「正確には違うゴブ」

 

エヴァーワンダリクスは頭を掻いた。

 

「別世界の廃墟を探索してたゴブ」

 

「うむ」

 

「そしたら帰り道がなくなったゴブ」

 

「……」

 

「出口がなくなったゴブ」

 

「それで?」

 

「ダメ元でテレポしたゴブ」

 

「なぜそうなる?」

 

「冒険家だからゴブ!」

 

エヴァーワンダリクスは胸を張った。

 

「出口がないなら、新しい出口を探す! それが冒険家ゴブ!」

 

「理屈としては分からなくもないが……」

 

「結果としてキヴォトスに来たゴブ!」

 

「結果だけ聞けば遭難だな」

 

「冒険ゴブ!」

 

「遭難だ」

 

「……好きにしろ」

 

エヴァーワンダリクスは満足そうに頷いた。

 

「ところで、貴様らの一族はこれで全員か?」

 

エクスデスが周囲を見る。

 

そこには十数名のゴブリンたちが並んでいた。

 

全員が防護服を着込み、工具や機械部品を身につけている。

 

「今、廃墟から使えそうなモノを回収しに行ってる連中も合わせれば二十名ほどゴブね」

 

「なるほど」

 

エクスデスは腕を組んだ。

 

「では聞こう」

 

「ゴブ?」

 

「住むこと自体は構わん」

 

ゴブリンたちがざわめく。

 

「廃墟の探索も、許可を取って行うのであれば問題ない」

 

「ゴブ!」

 

「だが、貴様らは代わりに何を差し出す?」

 

その瞬間。

 

エヴァーワンダリクスが勢いよく腕を上げた。

 

「技術ゴブ!」

 

「……技術?」

 

「そうゴブ!」

 

彼は背中の工具箱を叩く。

 

「エヴァーワンダリクスたちは、いろんな土地を旅してきたゴブ!」

 

「うむ」

 

「砂漠も! 雪国も! 遺跡も! 機械都市も! いろんな場所で、いろんな技術を見てきたゴブ!」

 

「ほう」

 

「その土地で使える機械を考えるのは朝飯前ゴブ!」

 

エヴァーワンダリクスは、近くにあった壊れた機械を拾い上げる。

 

「壊れたなら直す!」

 

別の部品を拾う。

 

「足りないなら作る!」

 

さらに別の部品を組み合わせる。

 

「使えないなら改造する!」

 

そして、ニヤリ。

 

「知らない技術なら――」

 

工具を取り出す。

 

「調べるゴブ!」

 

「……」

 

エクスデスが黙る。

 

その隣では、リオが完全に食いついていた。

 

「素晴らしいわ」

 

「リオ?」

 

「彼らは技術そのものを旅先で収集している」

 

「物騒な言い方ですね……」

 

「ミレニアムにとって、これほど興味深い技術者集団を追い返す理由はないわ」

 

エヴァーワンダリクスがさらに続ける。

 

「ミレニアムは頭がいいゴブ!」

 

「……」

 

「エヴァーワンダリクスたちも機械には詳しいゴブ!」

 

「……」

 

「なら!」

 

エヴァーワンダリクスは両腕を広げた。

 

「エヴァーワンダリクスたちの技術と、ミレニアムサイエンススクールの技術を合わせれば――」

 

「最強ゴブ!」

 

ゴブリンたちが一斉に拳を突き上げる。

 

「「「最強ゴブ!!!」」」

 

「…………」

 

エクスデスは少しだけ考え。

 

「なるほど」

 

そしてリオを見る。

 

「最終決定は貴様とセミナーになるだろうが、どうだ?」

 

「会長としては移住に賛成よ」

 

リオは即答した。

 

「彼らの機械技術は、私たちが知るヒカセンさんの世界の技術体系とも非常に近い。それを技術者本人から直接聞けるのよ?」

 

リオの目が完全に研究者のそれになっている。

 

「歓迎しない理由がないわ」

 

「はい」

 

ユウカも頷いた。

 

「私もノアも移住には賛成しています」

 

「コユキは?」

 

「……まあ、よく分かってなさそうでしたが」

 

「ゴブ?」

 

エヴァーワンダリクスが首を傾げる。

 

「でも賛成していました」

 

「よく分からないけど、いいゴブ!」

 

「判断が早い……」

 

エクスデスはゴブリンたちを見渡す。

 

彼の知っている「ゴブリン」とは、あまりにも違う。

 

低級魔物。

 

それが、彼の知るゴブリンだった。

 

しかし目の前にいる彼らは違う。

 

長い年月を旅し。

 

様々な文明を見て。

 

その技術を自分たちのものとして吸収し。

 

そして今も、未知の技術を求めている。

 

「ならば、よし」

 

エクスデスは杖を肩に担いだ。

 

「その力、存分にこのエクスデスの役に立つがいい」

 

一瞬の沈黙。

 

そして。

 

「「「ははーっ、ゴブ!」」」

 

ゴブリンたちが一斉に頭を下げた。

 

エヴァーワンダリクスだけは、頭を下げながらも工具箱を開いている。

 

「ところで先生ゴブ」

 

「なんだ?」

 

「その杖、面白い構造してるゴブね」

 

「……」

 

「ちょっとだけ分解して調べ――」

 

「断る」

 

「まだ何も言ってないゴブ!」

 

「顔に書いてある」

 

「残念ゴブ……」

 

その横でリオが小さく笑った。

 

「……面白い種族が来たわね」

 

そして彼女は、ゴブリンたちが作り上げつつある仮設基地へ視線を向ける。

 

そこでは今日も。

 

トンテンカン。

 

トンテンカン。

 

異世界からやってきた技術者たちが、新しい文明の一部を作り始めていた。

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