アトリエ人狼   作:綾海しろ

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アトリエ人狼:事の始まり編

その日、「バッセのアトリエ」ユニオンハウスには様々なメンバーが集まっていた。

ユニオンの発足者であるアズライトフィズ隊隊長アヤミは、いつもの定位置でもある二階アトリエブースで、めずらしく真剣な顔をして絵を描いていた。

同じくアズライトフィズ部隊のスズは、アヤミの描く絵の被写体として微動だにせず椅子の座り、じっと窓の外に目を向けている。

それを面白くなさそうな顔で眺めているのは、マリスベルというスズそっくりな顔をした少女だった。

その隣にはエイトと呼ばれる男性見まごう大人びた顔をした女性が座っており、マリスベルのふてくされた顔をなんとかなだめようと四苦八苦している。

そんな姿を尻目に紫希という青年は一人バルコニーへと出て、爽やかな風を受けながら青空を見上げていた。

青空にはふわりと優しい薄紅色の花びらが舞っている。

 

――この世界にもちょうど春が訪れたのだ。

 

ハウスの一階ではクリムゾンストーム隊の女子高生バースセイバー、佐藤美咲がカフェブースで人知れず読書に勤しんでおり、同じくクリムゾンストーム隊隊長ジェラルドは、小腹が空いたとキッチンから作り置きのホットケーキを取り出すところだった。

そこに偶然通りかかったのは、鼻セレブ隊の隊長、アザラシだ。

 

「なんやそれ、うまそうなモン出してるやないけ! ワイによこしぃ!」

「あっ、てめーーっ! 俺のおやつだぞ!」

 

ジェラルドの脇腹あたりからひょいと前に入り込み、目当てのホットケーキを掠め取ると不敵な笑みを浮かべるアザラシ。

それに大ブーイングを浴びせているジェラルドの声が廊下まで届くと、櫂という少年が慌てた様子で駆けてくる。

 

「アザラシさん! ユニオンハウスでもめ事起こすのは止めてくださいよ、食い意地が汚すぎますって!」

 

そんな賑やかな様子を、同じくキッチンにある窓辺の席に優雅に座り一人の男性が眺めている。

 

「ふふ、今日も賑やかでいいですねぇ」

 

鶴一声部隊のラーヒーである。

少し遅めの昼食を取っていたようで、彼の目の前には白い色をした謎の香りを放つラーメンが置いてある。

そのラーメンを素通りし、ホットケーキの香り漂う先に向かってふわふわと漂っていく黒い物体。

 

「俺も食べるぜ」

 

毛玉と呼ばれる、鶴一声部隊の謎の生き物である。

 

「勿論俺ちゃんの分も用意してくれてるよね?」

 

同じくヴァイオレットフィズ部隊に所属する、謎の生き物あかすみが、その大福のような白く豊かな身体をぷよぷよと浮かせながら毛玉の後を追っていく。

だがしかし、その前に一人の女性が立ちふさがった。

 

「コラッ、あかすみ! 最近太りすぎだからおやつ食べちゃダメって言ったでしょーが!」

 

大福……もといあかすみの飼育係である、ヴァイオレットフィズ部隊のネビュラである。

 

「いや、俺ちゃん最近ダイエットに成功してちょっと痩せたから」

「はぁ~? このぽちゃぽちゃした体のどこが痩せたってぇ~?」

 

顎の下の肉を引っ張りながらネビュラはあかすみの顔を覗き込む。

 

「ちょ……ネビュラお前やめろ、やめろっテ!」

「パンケーキ食べるなら、その後ユニオンハウスの周り10周ランニングだよ!」

「ヒ、ヒィ~~~! 鬼! 悪魔! 人でなし!」

「食っちゃ寝食っちゃ寝してるあんたの健康の為よ。それが嫌ならパンケーキはなし。あたしが食べてあげる」

 

にんまりと笑いながらパンケーキを持ちあげるネビュラを見て、ジェラルドが叫んだ。

 

「だからそれは俺のパンケーキなんだってーーー!」

 

そんなうららかな春の昼下がり。

アトリエハウスにたむろしていたユニオンメンバーたちは、久しぶりに任務という任務もなく、若干暇を持て余していた。

 

「しかし、長閑ですねぇ」

 

ラーメンを食べ終わったラーヒーが、一息つきながら皆に声をかける。

 

「長閑っちゅうか、暇やな。暇」

 

パンケーキ強奪に成功したアザラシが、ゲフと汚いゲップを吐きながら爪楊枝を咥えソファーの上に横になる。

 

「暇だったら食った分のパンケーキ焼いてくれよ、材料買ってきて」

 

そう言って膨れ面をしたジェラルドに向かい、アザラシはにんまりと笑う。

 

「ほな、なんか暇つぶしに勝負せぇへん? ゲームでワイに買ったらパンケーキの他になんでも買うたる」

「えっ、マジ!?」

「まじまじ、暇すぎて死にそうなんやワイ」

「面白そうね、何やるの?」

 

その話題に興味を示したのはネビュラである。

 

「あたしもパンケーキ食べたいから参加するわ。いいでしょ?」

「俺はいいけどさ、負けたらちゃんと全員分のパンケーキ用意するんだぜ。大変だろうけど」

 

ジェラルドが念には念を入れてネビュラを制する。

どうやら相当お腹がすいているらしい。

 

「面白そうですねぇ、私と毛玉もよろしければ入れてください」

「ゲームする~~」

 

ラーヒーが立ち上がりソファーの方へと歩いてくると、それと時を同じく、カフェブースに居た美咲が満足げに本を閉じながら尊い笑みを零しそこに合流した。

 

「やっぱり男の子同士の恋愛って……いいですよね! 今なら私、なんでもやれそうです!」

「ほな、今からゲームやるから参加しぃ!」

 

アザラシが美咲に声をかけ、ゲーム参加者はどんどん膨れ上がっていく。

 

「なんのゲームをするんですか?」

 

美咲の問いかけに、アザラシは待ってましたと言わんばかりにいやらしく目を細めて答える。

 

「パンケーキをかけた殺伐とした戦いや! 疑心暗鬼満載の人狼ゲームするしかないやろ!」

「せっかくだから二階にいる面子にも声かけて、みんなでやりましょう! 人が多い方が楽しいですって! 俺、声かけてきます!」

 

少しでも女子の参加比率を上げたい櫂が、返事も待たずに二階へと駆け上がっていく。

 

「楽しいゲームになりそうやないか、なぁ?」

 

ニチャァ……と目を細めたアザラシの存在を知ってか知らずか、二階に居たWフィズ組も櫂の声かけでキッチンブースに合流する。

かくして暇を持て余した神々の遊び、アトリエメンバーでの大人狼ゲームがスタートしたのだった……!

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