【アヤミ】
「ここまでラーヒーさんが怪しいところはだいたい上げてきた。一つ一つはラーヒーさんに反論されてしまったけど、でも初回投票で多くの人が人間であるアザラシさんに投票してしまったにもかかわらず、そのアザラシさんを投票で庇い別の所へ票を入れた事、もうすぐ狼が勝てるっていうあの四日目の状況下で、人狼のスズの言い分からあたしやジェラルドを庇った事、同じ人狼仲間であるスズに自らとどめを刺し、村人有利に逆転させた事。四日目の決選投票の前に騎士保護という体で票を分散させ、一票も入ってなかった櫂君へ票が向く可能性を生み出した事……。ターニングポイントにはいつも必ず彼の影がどこかにあって、彼の残した功績全てが村の為になっている事。これが最もラーヒーさんが狼である理由そのものなんだと今は思う。村人はみんなこれまで痛感してきたわよね? どれだけ頭をひねって推理しても、それでもあたし達は村人を吊り上げてしまった事があった。間違えない人間なんてこの世にはいない。居るとすればそれは、すべてを見通すことができる狼だけなんだろう、って。だからあたしは、その出来すぎた村への利、村への危機の際に正しい選択を選ぶことができたラーヒーさんがラストウルフだって何度でも言うわ。ラーヒーさんの村への貢献とその優しさは、村の為につくられた物ではないわ。狼達の、狼たちによる勝利のためだけに用意されたものよ。だからラーヒーさんは人狼。それが私の答え。お願い、彼を吊って……!」
【ラーヒー】
「アヤミさんに促され、ずっとこの村のターニングポイントとなった三日目の決戦弁明あたりの事ばかり考えてしまいましたが、今思い返せばアヤミさんは序盤から、狼として有利な盤面づくりをしていたように思います。初日の第一声では占い師たちを表に出るよう促し、その鶴の一声で村は占い師起点で走り出しました。いつか騎士のあかすみさんや確定霊媒師であった毛玉が言っていたように、あの時霊媒師から表に出ていれば、今よりもっとアヤミさんの欲しがる確定情報が落ちやすい形で、村が進行していたに違いありません。霊媒師から出ていれば、霊媒師は2人出やすかったでしょう。霊媒師2人、占い師2人の役職4人が明るみになれば、今よりもっと単体の情報も落ちましたし、ライン精査も可能でした。序盤に情報が落ちづらく、ラインも偽占い師からしか引っ張り出せないようにしたのは一体誰だったでしょうか? 全てアヤミさんの一声で物語は始まっていたんです。皆さんもう一度、初めの頃を思い出してみて下さい。誰が何を誘導したのかを。狼有利で進める事ができる盤面を作りだしたのは一体誰だったのかを。私が言いたいのはそれだけです。あとはジェラルドさん、エイトさんに最後の判断をお任せします。願わくばこの村が村人勝利で終わりますように」
【ネビュラ】
「……二人の最終弁論が出そろったわね。それじゃあエイト、ジェラルド。二人で話し合って、最後の処刑先を決めて頂戴」
【エイト】
「私はまだ村が勝つことをあきらめてはいない。私は今、アヤミを吊りたいと考えているが、ジェラルドの考えを聞いてラーヒーが狼である可能性があるかもう一度考えてみるぐらいの柔軟性は持ち合わせているつもりだ。ジェラルド、まずはお前の話から聞こう。それでいいな?」
【ジェラルド】
「わかったぜ。エイトとは逆に俺は今、狼がラーヒーだと思ってる! アヤミが言っていたように、ラーヒーは村にとって重大な選択肢をほぼ間違わずにここまできた。正確には途中で迷ったり、考えを先延ばしにしたりすることはあったんだが……それでもその結果、導きだされ答えは概ね、村の為になってただろ? そこをすげぇと俺は思ってたし、感動してたよ。特に4日目の投票時、スズが犯した大きなミスに鋭く入れた指摘を聞いて、俺は思わず妄信したくなったぐらいだ。村人はこうやって狼を探し、追い詰めていくものなのか……って同時に人狼探しの仕方も教わった気分だったぜ。だからこそ思うんだ。ラーヒーには隠し切れない矛盾が存在してる。俺は昨日の終わり際、櫂の呼び方が二人ともおかしい、って言ったよな?」
【エイト】
「ああ、確かに言っていたな。それについては私も夜に考えてみて、たしかに気になる部分かもしれないと思い直したところなんだ。時間をとってジェラルドと話し合いたいと思っていた」
【ジェラルド】
「ならちょうどいいな。俺が最後までずっと引っかかってたのもそこだったんだ。ラーヒーもアヤミも櫂の事を二人は櫂君と呼んでただろ? はじめは狼相手になんで馴れ馴れしく「櫂君」なんて呼んでるんだよって、俺の鼻にかかる部分はそういうところだったんだ。まあ、押しつけもいいところだったな。でも本質的な部分はそこじゃなかったって事に、さっき二人の話を聞いて気づいたぜ」
【アヤミ】
「話って……?」
【ラーヒー】
「ジェラルドさんが提案された、仮想狼陣営の想像話のことですか?」
【ジェラルド】
「ああ、それだ。はじめは二人とも、櫂が自分よりも年下だから「櫂君」って、ただそう呼んでいるんだと言ってただろう? それは確かに筋は通っていたんだが……でも二人は同じ呼び方をしていても、実際は別の意味を込めてこの「櫂君」って言葉を使ってる事に気づいたんだ」
【エイト】
「……どういうことだ?」
【ジェラルド】
「よく考えてみろよ。ラーヒーは普段から丁寧な言葉遣いをするだろう?誰に対してもだいたい「〇〇さん」ってさん付けで、呼び捨てにしてるのは今日のメンバーだったら毛玉ぐらいか。あとは無難にさん付けで呼んでるんだ、別に櫂だってそれでもよかったはずだ。なのに櫂にだけ「櫂君」と呼んでる。反対にあやみは人の呼び方がめちゃくちゃなんだよ。俺の事だってジェラルドさんって呼ぶ時もあれば、ちょっと話してるすぐ呼び捨てにしてきたり、たまにジェラルド君とか言う時ももしかしたらあるんじゃねぇか? 他の相手に対しても、そういう感じでずっと喋ってたんだ。ラーヒーの事もラーヒーって呼び捨てにしてたと思えば、ラーヒーさんってまた改まった感じで言ったりさ」
【ラーヒー】
「……たしかに、弁論対決してるときのアヤミさんはそんな感じでしたねぇ」
【アヤミ】
「え、ほんと……!? ごめんあたし無自覚で……集中したり気分が昂ったりすると、無自覚でそういうとこあるのかもしれない。確かに思い返してみると、時々言い方ぶれてた気がするわ………ごめん。ラーヒーさん。ジェラルド君も」
【ジェラルド】
「大丈夫! それは別に気にしてねぇよ! ラーヒーだって別に構わないだろ?」
【ラーヒー】
「ええ。喋り言葉とでも申しますか……話していて口調が崩れるのと同じようなものだと思っていますから、気にしません」
【アヤミ】
「あ、ありがとう……そう言ってもらえると、凄く助かるわ」
【エイト】
「それで、その呼び方の意味の違いというのは一体?」
【ジェラルド】
「ああ、そうだったな。アヤミのはまあそんな感じで、聞いてると話してるうちに状況によって呼び方がコロコロ変わってくんだけどさ、櫂の事はほぼ一貫してずっと「櫂君」呼びだったんだ。でもさっき仮想人狼想像の話をしたときだけ、一瞬櫂の呼び方がぶれてたのに気づいてたか?」
【エイト】
「ああ。櫂、と呼び捨てで呼んでいたな」
【ジェラルド】
「エイトも気づいてたんだな。それを聞いた時に俺、思ったんだ。アヤミは自分の仲間だと認識した相手のことは気づいたら呼び捨てにしてるんだろうな……ってさ。スズちゃんの事はもとからずっとスズって呼び捨てだっただろ? これは同じ部隊の信頼できる仲間だろうからそう呼んでたんだろし、紫季も同じだ。だが櫂は別の部隊の年下の少年で、普段アヤミが特別な面識があるような相手じゃねぇよな? だからアヤミは「櫂君」って言葉を、ある意味一線引いた形で使ってたんだ。でも仮想狼仲間だと想像したときだけ「櫂」になった。これは想像の中で櫂と味方になったから、一瞬口について出た言葉だったんだろうなって思ったんだよ」
【エイト】
「その可能性はかなり高いな。私も昨晩、一人でずっと考えていた時に、まさにこの事を思い出していたんだ。たしかにアヤミは部隊内メンバーの事は年上である私も含め、いつも呼び捨てにする。だかそうではない相手には、一応目上には敬意を払うし、年下はかわいがる意味も込めて「君」やら「ちゃん」をつけて呼ぶんだろう。そう思っていた。だが確かにジェラルドが言う通り、アヤミの呼び方にはブレがある。話の流れで盛り上がったり、親しくなったり、喧嘩して相手を拒絶したりするととたんに呼び名が変わるんだ。感情に左右されながら喋っていると言ってもいい」
【アヤミ】
「……ぐ、あたしそんなに呼び方に揺れがある?」
【ラーヒー】
「えぇ……結構私もよく呼び捨てにされていました」
【アヤミ】
「あああもぅ……ほんとごめん!」
【ラーヒー】
「ふふ、私は好きに呼んで頂いてかまいませんけどね」
【エイト】
「だがそんなアヤミは櫂に限っては一貫して「櫂君」のままだった。それが仮想狼想像をしたときにだけ「櫂」に変わった。私はそこが怪しいと思っている」
【ジェラルド】
「どうしてだよ!? 俺言ったよな? 想像の中でアヤミは櫂の味方になってたんだ。だから口をついて出た言葉が変わった。自然じゃねぇか」
【エイト】
「ではなぜこんなにも呼び方がぶれやすい彼女が、櫂だけはずっと表で「櫂君」のままだったんだ? ラーヒーやジェラルドを呼ぶ時はころころと変わっていただろう? なのに仮想狼仲間の想像をしたときだけアヤミは「櫂」呼びに変えたんだ。これは意図的に、意識してそうしているとは取れないか? まさにジェラルドがこんな予想をしてくれるように」
【アヤミ】
「なっ…………そんなの誤解もいいところよ! あたしは呼び方が変わってるなんて、そもそも気づいてもいなかったんだからね!」
【エイト】
「どうだか。口ではなんとでも言えるからな」
【ラーヒー】
「私もその可能性は、排除できないと思います」
【ジェラルド】
「いーや、違うね! アヤミの言葉は変わったけど、その立ち振る舞いはなんも変わっちゃいないぜ! アヤミはずっと、一貫して櫂と一線引いて存在してた! アヤミは櫂の呼び方を表で変えなかったんじゃない。変える必要がなかったんだよ。表でもそれほど論争することもなく、裏で狼同士繋がってなかったからこそ、アヤミにとって櫂は最初から最後まで、アヤミの感情を揺れ動かす村人でもなければ、狼仲間でもない、ただの「櫂君」だったんだ! 狼仲間として想像をしたあの一時、一瞬だけアヤミの脳内で櫂は仲間になった。それだけだ。そしてラーヒーは逆だ。櫂はただの村人だったなら、ラーヒーの性格的に呼び方は「櫂さん」でいいはずだ。人狼ゲームという疑い疑われるゲームをする時に、わざわざ誰か一人だけを「君」呼びするような、そんな無粋な奴じゃねぇだろ。ラーヒーは」
【エイト】
「ではラーヒーの「櫂君」呼びはなんだ? 裏で狼としてのつながりがあったから。そう言いたいのか」
【ジェラルド】
「情が湧いたんだよ。ラーヒーはさっきの仮想人狼想像の時に、スズと櫂の事を「嘘をつくことに慣れてない」「素直そうな二人」って言ったんだ。同じようなことは確かにアヤミも言ってた。スズに対して「村に寄り添う力があって占いに出ても真目が取れそう」とかな。でも言ってることは近くても、その裏に隠されてる感情は別もんだぜ」
【エイト】
「……なるほど、そういう事か」
【ジェラルド】
「ラーヒー。お前すげぇいいやつなんだなって、俺は思ったぜ」
【ラーヒー】
「……どういうことでしょうか?」
【ジェラルド】
「お前は優しすぎたんだよ、ラーヒー。仮想狼仲間として想像するときまで、スズと櫂をただの駒として想像することが出来なかった。二人の性格を考慮して、困らないように、立ち回りやすいように、そういう配慮がなされてたように見えたんだ。それはお前の優しさからなんだろうなって思ったけど、でもこれはあくまでもただの想像の話だ。想像だけならアヤミのように、盤面整理や状況に応じた駒のような使い方を想像できれば十分だろ? 俺は人狼ゲームに詳しくねぇし、定石とか、テクニックとか、そういうのは何もしらねぇ。だからアヤミが考えてたプランとかも、刺さらなかったってのもあるかもな。――でもそれを差し引いても、アヤミよりも一歩先に二人の事を踏み込んで想像してた分、お前は人狼なんだろうなって俺はそう思うよ。俺はラーヒーに一票入れたい」
【エイト】
「ふ……。ジェラルド、君もなかなか強情だな。いいだろう、私の最後の一票もラーヒーに入れるよ。ラーヒーの事は詳しくないのでどれほど優しいのかまでは私は分からないが……お前の話を聞いて、アヤミが演技しているよりも、演技せずに素で対応していたと考える方が自然なように思えてきた。これで村の票2票はラーヒーに入ったことになる」
【アヤミ】
「ありがとう……! あたしの一票ももちろんラーヒーよ!」
【ラーヒー】
「負けてしまいましたか……残念ですが、優しいと言って頂けた事、とても嬉しく思いますよ。この村の最後の票は、感謝の気持ちを込めてジェラルドさんに入れさせて頂きます」
【ネビュラ】
「……決着がついたわね」
ラーヒー:3票
ジェラルド:1票