「さて、人狼ゲームをやることになったのはいいけど、誰が進行役をする?」
二階から降りてきたアズライトフィズ隊長アヤミが、一同を見まわし声をかけた。
「せっかくだから進行役決めるところから勝負はスタートさせようぜ!」
「ふむ。ではジャンケンをして勝った人が無条件で勝利チームのメンバーになるという形で、ゲームマスタをーを担当するのはどうだろうか」
ジェラルドの提案に沿い、紫季が皆に意見を投げかける。
「いいんじゃないでしょうか、それなら公平ですし」
美咲が頷くとアザラシもそれに賛同する。
「運も実力の内っちゅう事やな。このゲーム、初手から勝ったもん勝ちや!」
「賛成です!」
櫂が隣で手を上げると、しかしマリスベルが悪態をつきながら一言ぼやいた。
「でも人数多すぎない? 全員でジャンケンして決着つくの?」
「確かに……マリスベルさんのいう事も一理ありますね」
賛同するように頷いたラーヒーが、これではどうでしょうかと新たな案を提出する。
「はじめは二チームに分かれてジャンケンをして、勝者二名で決勝戦をするのはいかがですか? それでしたらある程度の回数をこなせば、決着がつくと思うのですが」
「いいんじゃない?」
「わたしも賛成だよ。一階組と二階組で二手に分かれて第一回戦をしたらいいんじゃないかな」
頷くネビュラの隣でスズがてきぱきと割り振りを決めていく。
「うちの部隊はメンバーも多い。そうしよう」
「じゃあ、決まりね!」
エイトとアヤミが頷いた事で、一同は一階組と二階のWフィズ組に分かれてジャンケン大会第一回戦を開始する。
栄えある勝者はこの二名だった。
「あーっはっはっはー! このネビュラ様に敵う者なし!」
「わ、私なんかがまさか勝っちゃうなんて……」
堂々と高笑いをするネビュラの前で、若干怖気づいた顔をした美咲が立っている。
「やったな美咲ちゃん! クリムゾンストームの底力を見せてやれ!」
「くっ……俺ちゃんが負けるんて。ネビュラなんてどうせ決勝で泣きべそかいて帰ってくるんだろ」
不安そうな顔をしている美咲の肩を叩き励ますジェラルドとは対照的に、大いばりするネビュラの後ろではあかすみが呪詛のような言葉を吐いていた。
あまりにも対照的な応援団の様子に、ラーヒーは苦笑を堪えられずにいる。
「それじゃあジャンケン大会決勝戦、はじめましょうか!」
アヤミの掛け声で、向かい合うネビュラと美咲がお互い右手を後ろへ隠す。
「負けないわよ、美咲!」
「ネビュラさん……お、お手柔らかにお願いします!」
にやりと笑うネビュラと、今にも冷や汗をたらしそうな美咲。
まるで蛇ににらまれた蛙のような二人が見つめ合い、一拍置いてアヤミの号令がかかる。
「いくわよ二人とも! ――最初はグー! ジャンケンポン!」
美咲はグー。ネビュラはパーだ。
「あーっはっはっは! 大勝利ー!」
拳を突き上げ、再び高らかに笑うネビュラの横で、美咲はほっとしたような顔をしている。
「よ、よかった……進行役なんて絶対スムーズにできる自信がなかったから、安心したよ……!」
対照的な二人を尻目に、待ってましたと言わんばかりにアザラシが揉み手をした。
「ほな、とっとと準備してもらいましょか。お嬢、ゲームマスターは頼んだで!」
「オーケイ。ネビュラ様に任せてよ」
自信満々にそう言うと、ネビュラは念入りに切った役職カードの山を手にして、一人一人に手渡していく。
受け取った者たちは期待と不安で胸を膨らませながら、どぎまぎと周囲を見渡していた。
「まだカードは裏側にしていてね。全員配り終わったら一斉に中を確認してもらうから。――よし、配り終わったかな。みんな、準備はいい?」
ネビュラが見渡すと、一同が黙って頷く。
「それじゃあ、役職カードオープン! 自分が何の役職がばれないようにこっそり一人で確認してみて!」
号令と共に皆が一斉に自分のカードを盗み見る。
その様子を確認しながらネビュラは皆の周りをぐるぐると回り、ルールの説明を開始する。
「みんな人狼ゲームのルールはわかってるわよね? 今回のゲームは一日目の朝に死んでしまう村人のあたしを除いた十二人村。村の中には人狼が三名紛れ込んでいるわ。村人たちは昼の間に話し合いをして、人狼と思わしき三名を探し出すの。昼時間の終わりに、最も人狼だと疑わしい一名を投票で処刑することになるわ。持ち票は一人一票。最も多く票を獲得したものが処刑となる。同数の場合はそれぞれに弁明時間を与えて、再度残った人で決選投票を行うわ。皆で協力して人狼を村から追放すれば村人たちの勝ち。反対に人狼は村人たちの中に紛れながら、夜のターンになったら毎晩一人、村人を食い殺していく――。人狼の数が村人と同数になれば、もう村人たちは人狼に抗えないわ。人狼の勝利よ」
そこまで言うと、ネビュラはポケットから小型通信機のようなものを取り出した。
これはジオリードとアイゼが共同開発した暗号型小型通信機「エニグマフォン」である。
VS能力を持つ者ならだれでもその力で起動させることが出来、一般的な通話機能とメール・グループチャット機能を搭載しているが、外部からの干渉の一切を受け付けない、機密性に優れた携帯電話のようなものだ。
アトリエメンバーには一人一台、もれなく全員無料で貸し出されており、ユニオンの連絡はこれを利用してもらうことになっている。
そのエニグマフォンを指さしながらネビュラは説明を続けた。
「夜のターンになったら全員二階に上がって一人でエニグマフォンを確認してね。狼は全部で三名。夜の時間にはエニグマフォンを使ってさん人だけの狼チャットで作戦を立ててもらうわよ。狼たちは夜の間に襲撃する人を一名決めて、あたしに教えてね。ただし初日の夜の襲撃はなし。最初の犠牲者はあたし、人間確定のネビュラだからね。占い師の人はあたし宛てに夜時間が終わるまでに、占いたい人を一名メールで連絡してね。折り返し、占い結果を教えるから。霊媒師には「昨晩処刑された人」の霊媒結果をメールするから朝までにちゃんと確認する事。そして騎士の人は毎晩護衛したい人の名前を私宛に送ってもらえば、その人を狼の襲撃から護ることが可能よ。ただし、自分自身の護衛は無し。あと同じ人を連続護衛もダメよ。最短でも必ず中一日を空けてしか同じ人は護衛はできないから、それだけ忘れないでね」
全員を見渡し、ネビュラは笑う。
「そうそう。夜時間にエニグマフォンをいじってないと、村人だとばれてしまうわよね? だから村人達には夜時間に一つ課題を出すわ。その時々の心境を、私宛にメールで送ってもらえる? 別にこれは意味はないんだけど、夜にエニグマフォンをいじってもらうって事がルール上大切だから」
ネビュラの言葉に、皆は成程と頷いた。
「あとこの村には狂人も一名居るわ。狂人は占い師の占いでは「人間」と判定されるけれど、人狼たちの仲間よ。狂人からは誰が人狼かがわかるけれど、人狼たちは誰が狂人かはわからない。狂人は最悪自分が死んでもいいから、人狼陣営を勝利に導ければ一緒に勝利となるわ。占い師や霊媒師を騙ってもいいし、潜伏して占いで人間判定をもらって村の先導者になってもいい。とにかく村人たちをかく乱させながら人狼の手助けをしてね。夜時間は人狼さんたちへ向けた応援メッセージを私宛てに送ってもらおうかしら? 後から公開してみたらきっと面白いだろうしね」
そんな風に締めくくり、ネビュラは足を止めた。
「さぁ、そろそろ初日の夜がやってくるわよ。明日の朝には村人であるあたしの無残な遺体が姿を現すはず。村人たちは協力してがんばって人狼を見つけ出してね! 人狼さんたちは夜の内通時間が待ってるわよ。それじゃあ、疑心暗鬼の人狼ゲーム、はじまりはじまり」
エニグマフォンに何かを打ち込んだネビュラが、パチンとその蓋を閉める。
それを合図に参加者たちはぞろぞろと二階へと上がっていき、それぞれの一日目の夜を迎えたのであった…!