ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
帰国前に大きな仕事を作ってしまったが、流石に予定は変えられずVVV日本のスタッフは俺を含めて全員が日本に帰ってきた。米国の方は正式に支社長となった『ひばり』に任せる事になってしまったのだが、まぁなんだかんだで頭は悪くない奴だし大丈夫だろうと踏んで三日後。
『おばあちゃ~ん!』
『あ~! ひばり! 私のお祖母ちゃんなんだよ!』
『あらあら』
米国の支社内を映す公式放送では、毎日のように療養中のお祖母ちゃんに甘える孫と孫もどきの映像が流れるようになった。支社長の威厳なんて皆無であるが、まぁ普段から事務所内で寝っ転がるかたまの仕事の時にビクビクしてるくらいしかやってなかった奴だからね。公式放送のコメント欄は大体が人に懐いた珍獣を眺めるようなものになっているらしい。
どうやら米国支社の新スタッフ起用は思ったよりも好評なようだ。配信内では二人とも3Dモデルであるが、どちらも年齢は実年齢を公開。また、配信でもレイチェルさんは栄養失調からの療養中という事を話しているため、あっちの国では福祉的な雇用だと受け止められているみたいだ。ケイトは事務所に近い学校に転校となったためそちらの学校に馴染むまでは学業優先という事になり、配信画面にはあまり出てこない。たまに出てくるのもお祖母ちゃんの仕事場に遊びに来たみたいに思われているらしい。
まぁバリバリ実力を加味した雇用なんだが、それが明らかになるのはもう少し先。レイチェルさんの体調が回復し、ケイトが学校に馴染んだ夏明けの新学年あたりに押し出していく予定である。
ヴァーイの実装も夏頃になりそうだし、お盆時期くらいにはまた渡米しないといけないかもしれないな。今年に入るまで一度も国外に出たことが無かったのに、もう3度目の渡米だ。環境が変わるとここまで変わるもんなんだな。
「というわけで米国の二人は夏明けには本格デビューになるから日本側からもどんどん援護射撃してあげてね」
「え。あの二人にそういうの要ります?」
「歌みた演奏動画上げれば一発で人気者じゃないかしら」
「3期生はそろそろライブも経験する頃合いでしょ。合わせも様になってきてるし9月には日米音楽コラボいってみよう!(鬼畜クマ成分)」
「いってみようでねんだども???」
明るくチャレンジしていこう! と親指を立てて3期生組に伝えたら、百山さんからこいつ信じらんねぇみたいな顔でツッコまれた。あれ、ここは一致団結して秋に向けて練習だー! ってノリになる所じゃ。マネージャーも頭の中でそうだそうだと言ってるし。
さて、ゴールデンウィークも終わりVVVは平常業務に戻る。アキコさん達は毎日配信を行い、立体投射機の調整が出来る俺を含めたスタッフがホログライブさん他立体投射機を利用している他社の機材メンテナンスを行う。
おかしいな。ちゃんとメンテ用の資料も含めて渡してるし向こうの人材にもメンテの方法を数日かけて教えたりしたんだけど何故か月1くらいで呼び出しを喰らってる気がするぞ?
俺以外にも鹿谷くんや猪上くんがこういった機材トラブルに対応しているんだが、普通に調整するだけで問題なく使えるようになるって首をかしげていたし。
「その辺どうなってるんですかね。機材トラブルには対応しますけどメンテ業務で月1で呼び出されるのはちょっと」
「いやぁ。大変申し訳ないんですが、うちのスタッフが調整を行っていると徐々に不具合が出てくるようで。その点、山里さんの手を借りると完ぺきになるんでつい甘えてしまいまして。もちろんその分出張費用などはお支払いしますので、何卒ご寛恕頂ければ。あ、そうだ山里さんこの近くに美味しいお寿司を出す店がありましてどうですこの後ご一緒に。もちろんお誘いした以上こちらがご馳走させて頂きますのでああそういえば米国では凄いものを開発されたとかで。イロリー・マックス氏とVVVの共同で新AIですか、夢がある内容で私も年甲斐もなくワクワクしてしまいましてその辺のお話を是非聞かせて頂ければと。あ、木村くんじゃないか偶然だね、今から食事に行くんだが一緒にどうだい」
「え、あ、はい。ええと、はい。スゥーッ……もしかして、クマ公さんですか!? うわぁ、一度お会いしてみたかったんですぅ♪」
カダー社の専務さんが凄まじい早口で一気にまくし立ててくる。その瞬間に「あ、これいつもの引き抜き会話パターンだな」と確信したため、自分の中のモードを外回りモードから接待客モードに変更する。外回りモードだと仕事の受注とかに繋がる会話が出ると仕事モードに切り替わる可能性があるが、接待客モードなら完全にお客さんとして美味しいものを食べる事に集中できるのだ。
そして部屋の外で待ってたんだろうこの人が今回の接待要員って所かな。見た目はお洒落に気を使ったOLさんって感じの美人さんだが入ってきた瞬間とその後のテンションの上げ下げがプロの仕事だ。流石はカダー社、接待要員でこのレベルの人を連れてくるなんてな。
専務さんに連れられて行った店は所謂回らないお寿司の店で値札が存在しないタイプの場所だ。店の看板を目にした時接待要員さんの表情が一瞬引きつったのが見えたし、多分相当お高い店なんだろう。接待要員さんの分も専務さんが出すよな、流石にここに自腹で来させるのは鬼畜の所業だぞ。
まぁ、最悪俺が払えばいいかと思いながら席に着き、自然に隣に来た接待要員さんをエスコートして対面に座る専務さんと向き直る。専務さんは慣れた様子で店員に「今日のオススメ、3人分」と言って出されたほうじ茶に手を伸ばした。おお、値札のないお店でオススメとは中々通な頼み方だ。俺も今度やってみよう。
そのままちょっとした談笑を交えながらお寿司が来るのを待ち、最初に出されたヒラメのお寿司を口に運ぶ。あ、ここ美味いわ。たった一口でそれを理解してからは完全にお楽しみモードだ。専務さんや接待要員さんと会話を交えながら食事を楽しみ、一通り食べ終えた後にほうじ茶で口をさっぱりさせる。最高だった。このお店、覚えておこう。
接待要員さんと「美味しかったですねぇ」「ウニがこんなに美味しいと感じたの初めてでしたぁ」と感想を言い合っていると、真剣な表情を浮かべて専務さんがほうじ茶を飲み干すのが見えた。
ああ、そろそろか。また引き抜きかなぁと身構えていると、専務さんの口から出てきた言葉は予想外のものだった。
「さて、山里さん。実は、弊社はこの度上場する事が決まりまして」
「それはまた、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
株式の上場、というのは株式会社にとって大きなステータスとなる。なんせ準備に3年もかかるうえに厳しい審査を潜り抜けないといけない。上場したというただその一点で大きな信用を得る事が出来るのだ。特にカダー社は配信事業を収入の柱にしているため、資金面が不安定になる事も考えられる。上場によって株式による資金調達が容易になったのは大きなプラスじゃないだろうか。
そう思って祝いの言葉を送ったのだが、専務さんは真剣な表情のままこちらに視線を向けたまま、口を開いた。
「実は上場に合わせて、VVVさんにお願いしたい事がございまして。わが社の発行する株式。その21%をVVVさんに購入して頂けないでしょうか」
そう言って専務さんは、机に頭を打ち付ける勢いで頭を下げた。
山里一也(男)26歳
視聴履歴
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プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女 赤神さやか』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
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『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)
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