ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
はちじくじさん所属のVタレから予想外の提案を貰ってしまった。話を聞いてみると、どうも最近事務所の方針が変わってきていて、どうにも拝金主義的な匂いを感じるのだとか。最近どっかで聞いた覚えのある話だなぁ。おかげで案件などは人気のある=案件費用が高いVタレさんに極端に集中しており、これまでは仕事を振られる事もあった中堅どころにも全く声がかからなくなったらしい。
番長は人気がある方のVタレのため案件が途切れる事はないみたいだが、毎日毎日案件の対応や事務所の仕事などでろくに眠る事も出来ないのだとか。え、じゃあ今ご飯食べてるのは大丈夫なのかと聞いたら流石にランチくらいは取らせてもらえるとの事。そこまで制限したら奴隷よりも酷いからな、まぁ、当然の話ではあるんだが。
「うちは兼業の子が多いからそう言う子は案件が無くてもまぁ何とかなるんだけどさぁ。でもやっぱり下から見ると面白くないじゃん? 事務所がもうギスギスしてるし、辞めたいって口にしてる子も多くて」
「それでうちに移籍して、という事ですか」
「そ。VVVさんとこはVタレの扱いがどういうものか公表してるしVタレの人数も知名度の割に少ないでしょ? うちの事務所にとっても事務所と反目してる子だから今なら円満卒業して転生って出来ると思うんだ。どっちにもメリットがあるんじゃないかなーって」
「うーん。うちは全部スカウト制なんでVタレの人数とかは気にしてないんですよねぇ」
「そこをなんとか! アキコシャチョーに聞いてみるだけでいいからさ! ね! ほら、アンタらもヨイショしてヨイショ!」
「きゃーっ! クマ、じゃなかった。山里さんおねがーい!」
「ね、この後お暇です? これ私の連絡先です。もしよければこの後二人で……ね?」
「そういうガチぃのは別の機会にしような???」
なんてやり取りをしながらお高い焼肉を散々貪り、はちじくじのVタレさん達とは店の前で分かれた。しかし、まさかホログライブさんだけではなくはちじくじさんも似たような状況になってるとは。これは流石に俺だけで考える事でもないな。
という訳で事務所に帰ってすぐにアキコさんに報告をする。たまたまコラボ収録に来ていた桜もち子さんも居たので後にしようか迷ったが、ホログライブさん側も似たような状況っぽいし内部事情を詳しく知ってそうな人から話が聞きたい。どこの事務所かをボカシて事務所の方針転換で上手くいっていないVタレさん達の話をすると、もち子さんも沈んだ表情を見せた。
「それぇ、うちもそういう子いるかも」
「最大手のホログライブでもそうなの? 皆キラキラしてるように見えるから分からなかったわぁ」
「あたしは配信が趣味だから大丈夫だけどぉ。自分の事もして、会社の事もしてってなると寝る時間も無くなっちゃうからねぇ。体調崩してる子も結構居るみたいで……りゅーちゃんも喉痛めちゃったみたいだし」
「りゅーちゃんって星野りゅうせいちゃん? え、でも昨日コラボしてたじゃない」
「ケッコー無理してるみたい……」
星野りゅうせいさんというのはホログライブでも有数の人気を誇るVタレさんで、特に歌唱力に関してはタレントぞろいのホログライブでも1,2を争うと言われる人だ。当然自己管理もしっかりと行っているらしいのだが、そんな人が喉を傷めるほど仕事漬けになっているという事か。まぁホログライブさんのトップって事は業界でもトップレベルで忙しいって事だからな。案件なんか一切行わないVVVじゃ想像できないほど忙しくしてるんだろう。
そしてその状況が嫌で先日の接待要員さんはこっちに接触を持ってきたと。そういえば後で調べてみたらあの人も数十万人の登録者を誇る大人気Vタレさんだった。そんな人を接待要員に出来るホログライブさんってやっぱりすごい会社なんだろうが、話を聞けば聞くほど足元が御留守になってるように感じる。
「それぇ。移籍って話、うちの子にも話してみて良い……ですか?」
「ええ、それはご自由に。ただ、うちは(アキコさんがゴーサインを出さなければ)カダー社さんと揉める気はないので、仮に話が進んでもカダー社さんとちゃんと話し合った後、という事でお願いしたいですね」
「わ、わかりましたぁ……」
俺を見る度にびくびくしながら桜もち子さんがそう尋ねてくる。結構な回数会ってるのに中々なれないのか、もち子さんは俺に対してどうも遠慮がちに話してくるのだ。アキコさんとのやり取りみたいに、とは言わないがアキコさんの友人に怖がられるのはちょっと悲しい。
「うん、もち子ちゃん頑張った。一也くん大きくて怖いのに頑張ったね。偉いよ」
「え、俺なまはげかなんかの扱いです???」
そんな俺ともち子さんのやり取りをどう思ったのか、アキコさんがもち子さんを抱きしめてえらいえらいと撫でくり回し始めた。「やーめーろーよー!」と嫌がるもち子さんの声に反応してわが社の敏腕カメラマンこと猪上くんがさっとカメラを持って立ち上がったのが見えたのですっと素早く席を立つ。このままだと百合に挟まるクマになってしまうからな。山里一也はクールに逃げる!
『たまんねぇなぁおい』
豪拳というべき拳と拳のぶつかり合い。男だ女だ空拳だプロレスだと細かい事は一切関係のない、拳と拳の応酬。殴ったら殴られ、また殴り返して殴られる。互いに立った場所から一歩も引かず、ただただぶん殴り合うだけのやり取り。
そのやり取りに、対面する『日華』は見た事もないほど楽しそうな笑みを浮かべて、そして恐らく俺が体を貸している純情仮面――『間藤勇作』も恐らく同じような笑顔を浮かべているだろう。
気持ちはわかる。超わかる。だって楽しいんだもん。全力でぶつかり合う。自分の全てをぶつけても返してくれる相手がいるってのはそれだけでも楽しいもんなんだ。
こないだのチゲェダとの戦いはね、ありゃ不完全燃焼もほどがあるものだった。手加減しながらなんとか良い所を探して時間を潰すだけの1ラウンドだ。あれじゃあ魂は燃えない。良き闘いはおこらない。
だが、目の前の女は違う。只人だというのに闘人のように頑強で、しなやかで、タフだ。一撃一撃にしっかりと殺意を込めて、でも殺そうとはしていないのが良く分かる良いパンチを放ってくる。鼻血が出た。ああ、楽しい。何も考えず、会社の事も考えずにただ殴り合うのがなんでこんなに楽しいんだろう。『勇作』の感情がダイレクトに伝わってくる。このまま殴り合って一日を終えたい、そんな感情の発露だ。
まぁ今のこれも互いに技を使わない制限をかけてのぶつかり合いだがな。互いに殺し合うレベルで遣り合うと建物の方が駄目になるから、動かないという制限をかけての殴り合いだ。地力が近い者同士だとこれだけでも十分楽しいんだ。
とはいえ、どんな楽しい時間にも終わりがある。俺にも予定があるから、この殴り合いは2時間きっかりと約束してあるのだ。
タイマーの代わりに鳴ったゴングの音でピタリと『日華』と『勇作』の連打が止まる。2時間きっちりぶん殴り合ったため互いにひどい面構えだが、満面の笑顔は変わらない。
『おーおー派手にやりやがって』
『すまねぇな残夢! いやーいってぇいってぇ。やっぱレスラーはかてぇわ』
魂羽織の修理のために待機していた『残夢』が『日華』に駆け寄っていく。魂羽織はダメージを受けると壊れるから、都度修理しないといけないのが難点だ。俺の身体でレンタルする分には、解除すればダメージも無くなるんだけどな。
という訳でそろそろ痛いからレンタルを解除っと。筋骨隆々の闘人プロレスラー純情仮面から山里一也に戻ると、レンタル中に受けたダメージが全て無くなり元の身体に戻る。プレミアムレンタルが便利すぎる。やっぱり『NEET NOW』ってヤバイアプリなんじゃないだろうか。
『なぁ、一也。昼にアキコ社長と話していた他所からの移籍なんだが』
――ん、聞いてたのか
『おう! 引退して暇だからな! じゃなくて』
運動用のシャツから着替えようとしていると、頭の中で『勇作』が話しかけてくる。
『俺はこれでも経営者だからな。会社の方針と合わない社員の出入りについてはまぁそれなり以上に経験がある』
――ああ……苦労してたよなぁ。会社に不満があると一々リングで内部事情暴露する連中とか
『いやホント……じゃなくて。一々話を折るな!』
――すまんて
『えー、ごほん。まぁ、兎に角だ。話に聞いた状況なら、似たような事を経験したことがある。その時の対策が役に立つかもしれんからな』
そう言って『勇作』は言葉を切り。
『――お前さん、社長にならんか?』
少し笑う様な声音でそう言った。
山里一也(男)26歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女 赤神さやか』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人 坂東メンチ』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者 九十九あきら』(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者 リリーベル・リ・ラスティーネ』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺 セシル・ファラウェイ』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生 雨宮かすが』(料金:組織)
『魂羽織』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『至高の人形師 人形残夢』(料金:人形作成・開発費)
『拳創成期』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『無双女帝 日華』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)
『テレポーター三沢ひばりは平穏に過ごしたい』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『ハードラックテレポーター 三沢ひばり』を獲得しました(料金:休日)
『プロレスラーに明日はない!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『炎の経営者 純情仮面(本名:間藤勇作)』(料金:良き闘い)
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