ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
「合同会社?
『ええ。名目は新時代の映像技術に対応すべく各社選りすぐりの人員で様々なエンターテイメントを提供する、とかでしょうか。現状のままだと遅かれ早かれ事務所と衝突する可能性が高い。そしてそれは事務所・Vタレ双方にデメリットが大きいのですから、まずはこれを回避するために新規の箱に移動させて衝突する場を無くします。メリットは各社のイメージダウンを回避できること。引き抜きした、されたというのはどうしたってイメージダウンにつながりますがこの方法であれば新しい関連会社への移籍になる。全く関係のない他社へ移籍するよりは視聴者を納得させやすい。それでも騒ぐ者はいるでしょうがそう言う奴は何をしても騒ぐので無視して良いでしょう』
アキコさんの前で筋肉でパンパンになったスーツを着こなし、純情仮面のマスクを外した『間藤勇作』が真剣な表情でプレゼンを行う。今日の『勇作』の身分は俺が紹介した経営アドバイザーだ。前職が潰れかけの際世話になったという触れ込みで紹介しているんだが、筋肉が凄い事を除けば本当に疑う余地がないくらい『勇作』の提案は分かりやすく受け入れやすかった。
ようするに、既存の箱に移し替えたら問題が出るから新しい箱を作ってそこに入れ込めばいいじゃんという訳だな。元の事務所からしても明らかに反抗してくるVタレさんをそのまま使うよりは関連会社に移動して貰ってそこで自由にやってもらう方がただただ問題を起こして卒業、とかより数倍マシだろう。
『そしてここからはちょっとした工夫です。この会社の肝はあくまでも所属は元のまま、出向という形で収める。いつでも元鞘に収まる様にしておく事。これが事務所にとって大きいのです。なんせ育てた果実が関連会社とはいえ他所の懐に行くわけですから面白いわけがない。だが、問題が解決すればいつでも戻ってくる立場なら話は変わる。そしてVタレの立場でも折角大手Vタレ事務所に居る既存の知名度を捨てたいわけがない。そうなると両者に最も必要なのは交渉の窓口を持ったまま距離を空けること。それがこの会社設立を提案する主旨となります』
「なるほどぉ……え、一也くんこの人に結構色々話しちゃってる?」
「プランニングを頼む際に一通りは。もちろん依頼する前に守秘義務契約は結んであるんでそこは心配いりません。『勇作』さんの提案が気に入らなければアキコさんの方で拒否してくれれば、彼は今回の提案とそこに至った情報を全部忘れてくれますよ」
『まぁ、汚い言い方になりますが守秘義務契約の分は一也くんから
「ああ、そうですかぁ……はぁ、経営って大変なのねぇ。一也くん、私はこの提案良いと思ったんだけど一也くんは大丈夫なの? お仕事が増えるんでしょう?」
「はい。まぁ肩書が増えるので……ただ、今やってる事とそう大差ないので問題はないですよ」
「そう。私は一也くんが良いならこれで行こうかと思うわ」
そうはっきりと言い切って、アキコさんは『勇作』が用意したプレゼンの資料。VVV・ホログライブ・はちじくじによる合同出資の新会社設立案という書類を見直し始めた。
その書類の最初のページにデカデカと社長・クマコーと書かれているのが、アキコさんが唯一心配してくれた所だ。この会社、俺が出向、というか社長になる事が一番デッカイピースになるらしい。
というのも、この新事務所は実質緊急避難というか、現在の事務所方針と折り合えなかったりトラブルになりかけているVタレさんが避難するための箱になるわけだ。そんな人が元の事務所に戻るかというと、まぁ難しい。事務所が方針を転換したとかならまだありえるが多分それ以外に戻る理由がないのだ。
となると先ほどの『勇作』の「所属は元の事務所のまま」というのも気休めにしか思えないものだが、ここに社長クマコーが居ると若干変わる。俺は元の事務所、つまりVVV側の仕事をやりながら新会社の経営を行う。つまり元鞘にいつでも戻れるし仕事もしてる状況で新会社に所属するわけだ。
だからどうしたと思われるかもしれないが、これはちゃんとした実績になるのだ。移籍したVタレはいつでも元の場所に戻れる。社長自らがそれを証明している。この建前が大きい。あくまでも現状は建前だけども、事実そうであるという事を示すのは重要な事なのだ。
ホログライブさんやはちじくじさんにとっては人材が抜けっぱなしになる確率が高いって? 今の状態だと電撃引退でそれ+悪評までついてくる可能性が高いんだから損切りとして乗ってくる可能性は高いんじゃないかな。しかも状況によっては戻ってくる可能性があるんだから。
アキコさんが納得してくれたのでまずはカダー社さんとアニカラさんのそこそこお偉い人に連絡を取り、大事な話なのでと料亭にお呼びする。「移籍についての事ですか!?」と何故か食い気味に言われたのでまぁそっち方面の話しですと前置きしたら何故か両者とも社長さんがやってきたので、これ勘違いされてるなと思いながらも状況の説明をさせていただく。
そして状況説明を聞いた後両社の社長さんは互いに顔を見合わせ、なにか言いたそうにしながらも『勇作』が作成したプレゼン用の資料に目を通し、そして頭を抱えた。確かに移籍の事だったでしょ?
「これは……えぇ……うちの者がご迷惑を……というべきなのか……?」
「うちの下がそんな……いや、確かに最近の方針に異議を唱えるVタレが多いと聞いているが……」
頭を抱えたまま資料をめくるたびにどんどん顔色が悪くなっていく両社長を見るに、心当たりはどうやらあるらしい。どっちの会社もどんどん規模を拡大していて順調そうに見えるんだが、順調だからこそ落とし穴があるって事かな?
カダー社さんからは株の購入も打診されていたので経営に問題があるのかと思ってたんだけど、その際に貰った向こうの決算資料は頭に大がつく黒字だった。そんだけ儲けてるんなら所属Vタレが不満に思うほど金儲けに走らなくても良いのでは、と思うんだがそれに関しては両社長共に方針は変えられないという意見だ。
「足を止めたらあっという間に飲み込まれるんだよ、今のこの業界は」
「最先端を走っていたはずのVタレ四天王も最近は鳴かず飛ばずだろう? 我々にはVVVさんほどの圧倒的な技術力はない。だったら凡人並に出来る事をしてしっかり稼いでいかないと……」
Vタレ四天王……? 聞いた事のない単語だったが、どうやら最初期から活動している有名なVタレらしい。ただ、俺自身はアキコさん経由でVタレを知ったから関係企業のVタレ以外はあんまり知らないんだよな。四天王とかいって5人いたりするんだろうか。
『でしたら今回のご提案は両社共にメリットがあるはずです。この新会社の株式は山里氏を出すVVVが52%、残りの48%を両社で分けて持つ形に調整いたします。当然利益を出せばそれらの配当が入ってくるわけでして。山里氏が居るという事はVVVの最先端技術を常に導入出来る訳ですから目新しいものに目がない業界内でも常に注目を集める事が出来る。つまり』
「投資先としては申し分なし。なにより山里さんが社長というのが良い。我々としても山里さんとはもっと懇意にしたいと思っていたんだ」
「ええ。私としては今回のご提案、賛同させていただきます。とはいえ一度持ち帰って会議にかけさせていただきたいのですが」
「カダー社も同じく、ですな。これだけの大きな動きですので」
そう言ってカダー社の社長とアニカラの社長は提案書を大事そうに鞄に入れた。まぁ当然だ。どう考えても何億もお金が動くし、移籍するVタレも出てくる以上は現行の体制から大きく変わる事になる。それを社長の一存で出来る企業なんてVVVくらいだろう。
そう考えるとうちってとんでもないワンマン会社なんだな。特に困ってないけど。
山里一也(男)26歳
視聴履歴
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『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)
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