ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
VVVエキスポ会場の撤去作業は翌日の朝に無事終了した。組み立てる時よりも崩す時のほうが速いとはいえ、これだけ迅速に終わる事が出来たのは入念な準備と設営業者さんの努力、そして職人と雑用のバイトを多く雇ったマネーパワーが決め手だろう。解体作業もリレー方式でどんどん上からパイプやらなにやらを手渡しで降ろしていくのは中々壮観だった。もちろん人では持てない物には重機を使ったりもしたけど、やはりマンパワーというのは強い。
その後に会場の引き渡しやらなにやらを済ませ、昼前には祭りの後片付けも完了。朝に軽くおにぎりを食べたっきりだからお腹も減っていたし、帰り際にひなちゃんの実家で蕎麦を食べて昼過ぎに事務所に戻ってきた所。
「……ふーっ」
事務所のドアを開けた瞬間、至る所に落ちているゴミ、じゃなかった。VVVスタッフとVS社員たちの姿に、思わず深いため息が口から漏れ出てしまった。
コメ:(英語)oh...終わったな、こいつら
コメ:クマコー、徹夜明けの朝。クタクタのまま事務所に帰り惨状を目の当たりにして凍結
コメ:結局さっさと帰った梟が正解だったってわけ
コメ:(ロシア語)こいつら酒に弱すぎるんじゃないか?
コメ:ひぇ…3Dモデル越しに殺気を感じるでごんす
VVVの事務所の中は、燦燦たる状況だった。いい年した大人どもが机によりかかったり、ソファにもたれかかったり、酷い奴は床に大の字になってぐーすかいびきをかいている。散乱した食い物に飲み散らかされたチューハイ缶がもろに配信画面に映り込んでいるため、この惨状は現在進行形でVVV公式チャンネルで配信されている、と。
そういや、こいつら昨日の夜に配信始めてたな。いやまぁ直帰しろって言って直帰(事務所)だったとか色々お話する予定だったけどまさか事務所にそのままいるとは思わんかったぞ、特にVS社員はVSの事務所に寝袋があるのに。これ、そのままオールで配信して全員寝落ちしたってことか? 事務所の配信システムを管理してるAIアキコがマイクをOFFにしてくれてるから、寝言やらの事故は多分防げてると思うが……
あ、いや違うな。ここに居るのは3期生とVS女子組だけでアキコさんや『さやか』なんかはちゃんと帰っているようだ。少し安心した、これで俺以外の全員、特に男組が一緒に雑魚寝とかしてたらいくら
まぁそれらを踏まえた上で判決を下すと、こいつら全員正座である。
当然だよなぁ?
「く、クマコー社長! コンプラ! コンプラ的にどうすかこれ! 婦人団体とかが助走つけて殴ってくる絵面では!!?」
「シビ、シビ、シビれが! 足が! 足がぁ!」
「体罰反対反対はんたたたたたた!! やめ、足つんつん止めてぇ!!」
「ししょ! ししょぉ! 人は! 人は何時間も正座できませぇん!」
「煩い黙れこのバカども。婦人団体? 人権団体? 右でも左でも真ん中でもいくらでもこいや俺は逃げも隠れもしねーぞ職場でこんな乱痴気騒ぎ起こすバカどもに躾けできねー人権なんざクソくらえだ。という訳で画面の向こうの視聴者、次は何が見たい?」
コメ:悲鳴助かる
コメ:反省の色が見えない。追加で石を抱こうか
コメ:(韓国)女性の悲鳴からしか取れない栄養は確かにある。これがそうだ
コメ:急に同接が増えてどうしたと思ったらwww
コメ:(中国)兵どもが夢のあと、だったか。日本の詩にも良いものがあるな
コメ:俳句だよ。詳しいな中国の
コメ:(王将マロン)ローション相撲! ローション相撲! ローション相撲! いまからそこに行くんでローション相撲を!!! 立体投射機にローション相撲は流行る!!! 確信!!!
コメ:(タイ)なんだこれはたまげたなぁ
コメ:草
コメ:王将が 同期に仕掛ける ローション相撲(字余り)
「マロォォォン!!! なに言ってくれてんだマロォォォンァァァ!!」
「ぶっひゃっひゃっひゃ! わ、笑わせないで! 足に、足にひびくぅ! ひゃっひゃっひゃっ!」
わが社はあくまでもエンタメ企業であり、当然最優先すべきは顧客。つまり視聴者の満足度である。という建付けで罰ゲームと称して叩き起こしたVVVのスタッフとVSの社員たちに寝起きで正座X時間をプレゼントし、その様子を音声付きで配信することにした。X時間の部分は視聴者の希望を聞いて決める形式である。
まぁ、エンタメ企業ですからね。視聴者の希望に則るのが一番ですから。流石に24時間とか現実的に無理目というか普通に見てる方もダレてくる数字は弾いておくとしても、ちゃんとしっかり罰だって分かる時間は正座して貰わないと。
あと、ホログライブさんのVタレさんから本当にこっちに来ると連絡があったのだがローション相撲とかそういうセンシティブそうなのは生配信じゃ出来ないんで。企画書を持ってホログライブさんを通して相談して貰って良いすか? はい。
『昨日はあれだけ盛り上がってたのに、元気だね君の会社の子たち』
「あれを元気と言って良いのか分からないんですがね???」
カチンっと音を立ててグラスとグラスをぶつけ合い、そのままクイっと度数の高いアルコールを喉に流し込む。旨い。強い酒はロックが一番だな。
俺の飲みっぷりを見て、マックス氏がヒュ~と口笛を吹き、自分もクイっとグラスを傾ける。マックス氏は基本的に酒を飲まないというので、ノンアルコールのお洒落なカクテルをバーテンが用意してくれた。
マックス氏を挟んで反対側に座っているクラウザーさんも今日は仕事中の為アルコールは頼んでない。俺だけがアルコールというのは少し気が咎めたが、むしろマックス氏からは飲んでくれないと困る、この場はお礼も兼ねているんだと言われたため遠慮なく高そうなブランデーを飲ませていただく。あ、もう一杯ください。
酒もなぁ。俺がまともに飲むようになったのは初めて『さやか』をレンタルした時くらいからなんだが、その後にレンタルした『メンチ』の影響かいくら飲んでも酒に酔わないんだよな。あいつは酒を術式にしてるのもあるのか、アルコールで酔っ払う事がないらしいんだが、その10分の1くらいの耐性がどうやら俺にもあるらしい。
つまり、いくら飲んでもほろ酔い以上に酔わないって事だ。
パカパカと度数の高い酒を飲み干していく俺に周囲の視線が驚愕に染まる中、マックス氏は楽しそうに俺がグラスを空ける姿を眺めていた。
『凄いな。付き合いでパーティーとかには良く行くが、君ほど酒に強い男は見た事ないよ』
『ボス、許しがあれば俺も』
『ああ。そうだ、クラウザーが居たか。じゃあ、二人目だね』
クラウザーさんの渾身のどや顔にマックス氏と一緒にケラケラと笑い、空いたグラスをバーテンに差し出す。次はなにを飲むかと考えていると、マックス氏が『うちの会社のテキーラはあるかい』と口にした。あれ、マックス氏は酒造もやってるんだったかと首をかしげていると、バーテンさんがスターテキーラというドリル型のガラスボトルを取り出してきた。
『これね、ツブヤイターで僕がテキーラの瓶に囲まれて酔いつぶれてるフェイク画像が出回ったんだけど、その時にどうせ飲むならこういうのが良いって作ったお酒なんだ』
「貴方も大概ロックな性格してますねぇ」
『結局試飲の時にしか飲まなかったけどね。ほら、僕って時間がまるでないから、お酒を飲んで頭が鈍るのが嫌なんだよ』
「そんなに忙しいのに飲みに誘ってくれたんですね」
『うん。だって僕の時間は僕の夢の為に全部費やすって決めてるから。だから、この時間は僕にとって必要な物なのさ』
そう口にして、マックス氏は自分のグラスをスターテキーラの瓶の前に置き、バーテンに目で合図を送る。あれ、アルコールは飲まないって言ってたのに。グラスになみなみと注がれた自社のテキーラを少しの間眺めた後、マックス氏はグイっと一気にそれを飲み干してグラスを空ける。
『っ~~~ふぅ、はぁ。久しぶりに飲んだけど……やっぱり自分で作った酒は美味いね』
「お見事。でも、良いんですか?」
『いいさ。これで君と僕は酒を酌み交わした仲になったんだから。大事な話をする前に、君とはそういう、特別な仲になりたかった』
そう言ってマックス氏はグラスを置き、その太い身体をズラして俺に向き直る。彼の顔にはいつもの穏やかな微笑みはなく、真剣な表情がそこにはある。
『なぁ、クマコー。いいや、カズヤ。僕と一緒に、火星に行かないか?』
少し赤くなった頬とテキーラの匂いを漂わせながら、マックス氏はそう口にした。
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