ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった   作:ぱちぱち

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第13話 『九十九あきらは終末世界を諦めない』

 えがった。

 

 とあるお店から出てきた俺の頭はそれでいっぱいだった。えがった。大事な事なのでもう一度言う。えがった。

 

 俺もね。大変なのよ。アキコさんはなんかやたらと気を許してくれるから私生活ゆるゆるだし、おっぱい大きいし。ひなちゃんもひなちゃんで信頼してくれてるからか知らないけど距離感近くてね。俺の中の良心とかその他もろもろを駆使して何とか耐えてたけどもう限界だったんだよね。

 

 つい20万くらい使って一晩豪遊しちゃったけど、これも今後の仕事で頑張るための投資。自分へのご褒美だ。これで今日から頑張っていこう。

 

 さて、そんな俺のシモ事情はどうでもいいとして、だ。これからのVVVの発展のためにいま行わなければいけない事は技術面での優位を取る事だ。Vタレってのは基本的に扱う技術は同じようなものが多い。今の主流は2DLIVEというイラストをVタレ本人の動きに合わせて動かすツールを利用したものだ。更に金のある企業などは専用の3Dモデルなどを作って運用している。

 

 現在、VVVが使っている者はこの2DLIVEのプロ仕様を使っているもので、大手企業のVタレが普段使っているものとそんなに性能差がないものだ。カメラの性能にもよるが滑らかにVタレの挙動を感知してイラストモデルを動かしてくれるため、アキコさんの配信コメントでも「結構ちゃんとした機材使ってるっぽい」という風に評判がいい。

 

 だが、評判が良い程度じゃ意味がない。運以外の要素でより上に行くために最も手軽な方法は、他を圧倒するような技術を持つことだ。

 

 

「レンタルスペースってこんな感じなんだな。普通の会議室って感じだ」

 

 

 誰ともなしに呟いて、備え付けのテーブルの上に大きなバッグを置く。着替えとか食べ物とか、そういった物を入れてあるものだ。その中から動画撮影が出来るタブレットと手鏡を取り出し、テーブルの上に出しておく。タブレットは台を使って俺がカメラに映るような形でセッティングしておかないとな。動画撮影、ONっと。

 

 さて、準備は全て整った。スマホを取り出して『NEET NOW』を起動し、『九十九あきらは終末世界を諦めない』の第一話を再生する。

 

 この『九十九あきらは終末世界を諦めない』は名前の通り、核戦争によって人類文明が滅んだ近未来の世界が舞台となる。主人公の九十九あきらは電子工学やロボット工学など多分野に才覚を表す若き天才であり、第一話では核戦争秒読みの段階で彼女の天才性を保存するため、という名目で同僚や上司たちが最も若く可愛がられていた彼女を睡眠薬で眠らせ、シェルターの冷凍睡眠装置に入れた後に核戦争が勃発し、文明は滅んだという所で話が終わる。

 

 二話目以降は文明が滅んで数百年後。冷凍睡眠装置が経年劣化によって機能不全を起こし、強制解凍された彼女が廃墟になったシェルターで目を覚ます所から始まる。ここからがこの話の本番である。

 

 滅んだ世界に関して二話目の半ばまでで状況を把握した後、死んでしまった同僚たちの事を思い浮かべて九十九あきらは涙を流す。恐らくこの作中で彼女が涙を流したり落ち込んだ描写はここだけである。そして涙を自分の手で拭った後から、彼女は力強くこの世界を生き抜くことを宣言し、三話目以降は開発研究そして冒険の連続になるのだ。

 

 九十九あきらは、溢れんばかりの知性と好奇心とバイタリティーにあふれた性格をしていて、どんな困難でも絶対にあきらめない。放射能によって異常進化した生命体が居れば廃墟の廃材をくみ上げて作り上げた武器で撃退し、同じく廃材でくみ上げた手製の電子バイクに乗って草木が生い茂る元市街地を走り回り、生き延びた人類が環境に適応して進化した色々な動物の特徴を持つ獣人たちとコミュニケーションを取るために歌を歌ってダンスを踊る、などなど。

 

 最終話では友情を結んだ獣人たちと共に廃墟と化したかつての都市を開拓し、文明復興を掲げて話が終わる。始まりは絶望的な状況だったというのに、九十九あきらが一切怯まないから終始和やかで希望に満ちた話だった。これは単にアニメを見るという意味でも大当たりの作品だったな。

 

 さて、と。スマホの画面を消してテーブルの上に置く。これまでの経験上、恐らくそろそろの筈だが上手く撮れていると良いんだけどな。今回は試してみようと思っていた事の一つである、アニメを見ている際にどのように変化しているかの確認をしようと思っている。いつもアニメを見ているといつの間にか体が変化していたから、どういう風に変化しているかも分からなかったんだ。

 

 ああ、その前に。テーブルの上に置いていた手鏡を手に取って、自分を鏡に映し出す。手鏡にはぼさっとした髪をした、やたらと近未来的な輝きを放つ白衣を着た少女の姿があった。

 

 間違いない。画面の中に居た九十九あきらに俺はなっている。アニメだと可愛いって印象しか無かったが、リアルで見るとすげぇ美人なんだな。同僚たちや上司が可愛がるのも分かるわ。

 

 

「さてさて、次は動画の方をっと」

 

 

 テーブルの上にセッティングしているタブレットに手を伸ばす。動画は、うん。ちゃんと撮影中のままだ。時間が長いから途中で止まってないか心配だったが、問題は無さそうだな。

 

 『画面に手を添え、操作する。タブレットの感触。電子の気配が懐かしい。ううん、懐かしんでる場合じゃない! このタブレットは生きてる! あそこにあるエアコンも、コンセントも、電灯だって全部全部電気を通して動いてるんだ!』

 

 『手に持っているタブレットが愛おしくて思わず抱きしめる。軽い。1kgにも満たない技術の結晶が腕の中にある事がたまらなく嬉しくて、ついつい叫んでしまいそう。ううん、叫んじゃお』

 

 

「文!!!」

 

 

 『手を振り上げ、両手を天に向ける。そこにあるのは天井だけど、構いはしない。コンクリートと壁紙で仕切られたこの部屋は、正に文化だ』

 

 

「明!!!!」

 

 

 『大きく息を吸う。エアコンが正常に稼働しているから薄れているが、少しだけ排気ガスの臭いがする。都会の汚れた空気が、肺の中を満たしていく』

 

 

「開花ぁーーーーー!!!!!!」

 

 

 腹の底から、全力で大声を出して、全身を使って、喜びを叫ぶ。アニメにすればたった数時間。『でも私にとっては数年ぶりの文明に浸る喜びは、大声を出す程度じゃ表しきれない!』

 

 気持ちはわかる。気持ちは分かるから落ち着いて、な? そう心の中で語り掛けるように呟くと、全身を襲う衝動のようなものは徐々に引いていった。タブレットを触った瞬間からこっち、まるで自分の身体が自分じゃないみたいな感覚だった。もしかしたらと思って秘匿性の高いレンタルスペースを借りて正解だったみたいだ。

 

 赤神さやかや坂東メンチの時もこういう感覚の時があったが、今回は特に凄かったなぁ。情熱っていうのか? 文明を取り戻すために全力です! みたいな気持ちがふつふつと湧いてきて、いつの間にか俺と九十九あきらの内心が完全に一体化してしまったのだ。

 

 自分が全くの別物になるという感覚にはちょっと怖くなったが、体がアニメキャラになるなんてそもそも怖い以外の何物でもないから今更だわな。このアプリが無ければ俺は今もあのクソブラック企業で血反吐を吐いていたんだから、それと比べればこの程度の問題は不利益にすらならねーわ。

 

 それにこの九十九あきらの文明、特に技術の発展に対して持ち得る情熱は、俺にとっても好都合なものだ。彼女は近未来、大体21世紀後半くらいの時代に天才電子工学者と呼ばれた人物であり、廃墟になった施設からサルベージした電子機器を利用して別の施設を修理したり、実用品を作り上げるほどの応用力と技術力を持っている。

 

 その彼女が、もし。文明が崩壊した世界ですら科学技術を駆使出来た彼女がもし、この令和の世界でその実力を振るえば……とんでもないことが出来るんじゃないだろうか?

 

 その未来を想像しながらニタニタと笑っていると、こんこんとドアを叩かれて施設の管理者が部屋に入ってきた。他の部屋のお客からうるさいとクレームが入ったらしい。

 

 平謝りしてそそくさとレンタルスペースを出ていく。うん、他人に迷惑を掛けたら駄目だよな。『これもまた文明だよね』って? やかましいわ。

 

 




山里一也(男)25歳


視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(料金8999円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』の権利を獲得しました
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル中 1週間)


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