ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
本当に心の底から名残惜しそうに『めぐみ』を見送る田井中さんと分かれ、『めぐみ』を雨宮セキュリティーに送り届ける。
『ふむ、ここが暫くの職場か』
「普段は警備員さんの体調管理するんだっけ」
『ああ、普段は、な。まぁ仕事を貰う以上、クライアントの要望は出来る限り受けるさ。私の仕事柄広告を打つわけにもいかんし、かすがくんが振ってくる特別な相手から精々毟り取らせてもらおう』
『めぐみ』は『かすが』からの要請を受け、昼は警備会社の医療担当、夜は医者として活動していく。外科医としてありとあらゆる難手術を熟してきた彼女の腕前は、『かすが』のような人物からしたら喉から手が出るほど欲しいものなんだとか。『めぐみ』としても何もしないと腕が鈍ってしまうからとこの提案には乗り気であり、最低100万、手術の難易度によって成功報酬を変えるという約束を取り交わして正式に雨宮セキュリティーと契約を交わす事になった。
でも完全な男所帯の雨宮セキュリティーに『めぐみ』みたいな美人を放り込んでも大丈夫なんだろうか。『かすが』相手だと雨宮セキュリティーの人間は条件反射で犬になるように躾けられてるらしいが、『めぐみ』相手だと変なちょっかい出す奴が出てくるかも……いや、まぁその辺は『かすが』が考えることか。『めぐみ』は目標とする『黒医恵』のように強くたくましい女を目指してボクシングの世界女子王者とタイマンを張るようなアグレッシブな女だし、問題が起きそうになっても上手いことするだろう。
『それを聞いてちょっと契約を早まったかと思ってきたんだが、あれ。会話してる感じだとそんなに変な子じゃない……はず、だと思ったんだが?』
「そっくりさんと間違われていきなり難手術のオペをさせられて以降そっくりさんの名声を落とさない為に代役しつづけるとかいう奴がまともな筈ないだろ?」
『うぅむ、参った。反論の余地がない』
アチャー、とばかりに顔に手を当てる『かすが』だが、まぁ、なんだかんだ言ってもこいつの危機管理能力は信頼が置けるし任せて大丈夫だろう。次の用件もあるため『めぐみ』を『かすが』に任せて、俺と『メンチ』はタクシーで都心に移動する。行先は内閣府霊障対策課だ。
内閣府霊障対策課はその名の通り内閣府に属する組織のため、内閣府庁舎の地下に本部が置かれているらしい。らしいというのは、内閣府に入った所で係の人に目隠しをされて案内されるため正確な場所が分からない事だ。途中でエレベーターで下に向かって降りて行ったから多分地下にあるっぽいことは間違いない。
「ああ、これは海里さんと坂東さん。ご無沙汰しております。いつぞやはお力添えいただきありがとうございました」
「あ、いえいえ」
「本日は急なお呼び出しにお答えいただきありがとうございます。さ、こちらにどうぞ」
歩いている最中、何度か膜のようなものを通り、ガチャリとドアを開けたところで目隠しを外される。そこは霊障対策課の課長、木村さんの執務室のようだった。内装はごく一般的な、上品な執務机に来客用のソファ等といったオフィスでよく見るお偉いさんの部屋である。唯一、窓がない点が他とは違うところか。彼と軽く挨拶を交わした後、なにかと縁があるバリキャリっぽい霊能者、秋村さんに案内されて木村さんの執務室を出る。
廊下に出ると、そこは一定区間に御札が張られたいかにもという感じの景色で先ほどのオフィスっぽい執務室と非常に落差のある光景だった。扱っているものがものだけにこうなってしまっているのだろう。
『さっきの執務室も相当防備が堅かったぞ?』
「そうか? 膜みたいなものがあったのは分かったけど」
『害意のある霊障を弾く結界です。普通の霊能力者だとあれを通る際に結構疲労するんですが……触れざる八影に匹敵する海里さんには、アレも効果が少ないのですね!』
俺と『メンチ』の会話を聞いて、秋村さんが少し弾んだ声でそう口にする。あ、あれ。この人こんなにテンション高い人だったっけ。それになんだか距離感が近い、近くない?
前回会った時は確か、その触れざる八影とかいう吸血鬼の運搬の時だったか。あの時は東京に紛れ込んだ吸血鬼の対策で秋村さんは引っ張りだこの大忙しだったからなぁ。もしかして単に疲れてただけで本来はこのくらいのテンションの人なのかもしれない。おっぱいも大きいし、見た目とのギャップでちょっとグッときたかも。
後で連絡先を、と思った所で田井中さんから秋村さんについての小話を聞いた事を思い出す。彼女は旧家のお嬢さんらしく、粉をかける程度の気持ちだと本当に色々な所に睨まれるかもしれないそうだ。ソースは俺って笑って言っていたが、そういえば田井中さん、霊障対策課のスカウト断ってたのって、もしかして、と思い至る。
止めとこう。これ、目に見えた地雷だ。
一気に落ちたテンションのまま秋村さんの形のいいお尻を追いかけていると、やがて四方八方にライトが設置された変な部屋にたどり着いた。部屋の真ん中には5個の大きさの違う箱が置かれていて、周りのライトはこの箱を中心に照らすよう設置されているみたいだ。
「実は、『血手』の移送が正式に決まりまして。こちらにヴァチカンから専門のチームがやってくるので、彼らが海上に出るまでの護送をお願いしたいのです」
『護送ですか。こいつはここで仕留めないので?』
「はい。危険を考えれば正直、仕留めるべきと思うのですが。ヴァチカン側から強い要請があり、外務省を通して正式に依頼されたので我々としても……お役所ですから」
そう口にする秋村さんは、唇を噛みしめるように口にした。この件にどうやら大分不満があるみたいだ。まぁ、話に聞く『血手』のやらかしを聞くとさっさと消滅させた方が世の為人の為って気はするもんな。
というかヴァチカンって確か、数百人単位で『血手』を退治に行って逃げられたって話だし、渡して大丈夫なのか少し心配なんだがその点はどうなんだろうか。あ、だから船なのか。吸血鬼は流水が弱点だから常に大ダメージが入って逃げるどころじゃなくなると。なるほどぉ。
ちなみに現在『血手』は五体を分割されて聖別されたワインで満たされた箱に封をされている状態らしい。この状態でも逃げられる可能性があるから単体で『血手』を抑えられる俺と『メンチ』で護送すると。吸血鬼って怖い……あ、流石に『血手』が別格なだけなんだ。全員がこのレベルならとっくに人類が追い詰められてる、と。確かにそれはそうだ。
ただ、時間が経つと吸血鬼はどんどんしぶとくなるからやっぱり仕留められるときに仕留めた方が良いのは間違いなくて……ヴァチカンなんて専門の吸血鬼ハンターが居るんだからその辺ちゃんと分かってるだろうにね。面子かなにかが問題なのかな。
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