ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
このライトアップされた部屋は対吸血鬼用の特殊なライトを用いているらしく。部屋ごと分離してトレーラーに詰め込むことが出来るらしい。凄いな内閣府。
俺と『メンチ』は片方が部屋の中で『血手』の見張り、もう片方が外でトレーラーの護衛につく事になる。わざわざ俺たちが駆り出されたのは『血手』を助けに来る奴がいるかは分からないが、もし仮に触れざる八影クラスの怪物が襲ってきた場合、霊障対策課の戦力だけでは大きな被害が出ると予測されているからだ。当然今回の仕事の報酬は結構な額のものになるため、霊障対策課からは「良いお札、ありますよ」とか「霊木の枝で作った破魔矢とか、興味ない?」と暗に物納のお誘いが来ている。公的組織だからこそ予算という壁は分厚く重いんだろうなぁ。
探知能力だと『メンチ』に勝てる気がしないため、『血手』の見張りは俺が担当して『メンチ』がトレーラーの護衛になり移動を開始。途中で吸血鬼の残党らしき存在が近づいてきたそうだが、トレーラーに近づく前に『メンチ』がさくっとやっちゃったら無線がワタワタと騒がしくなったりしたが、特にそれ以外の問題もなくトレーラーは港に到着。
とはいえまだ仕事は終わりじゃない。船に積み込むまではこの部屋の中で見張っていないといけないから、外の受け渡しをさっさと終わってくれないと外に出られないのだ。
まだかなー、まだかなーと待っていると、ガコンと天井当たりで物音がして浮遊感を感じる。あ、持ち上げられたなと思った後に慣性で揺さぶられた後、大体10分ほどでどすん、と地面の感覚が戻ってくる。どうやら積み込み作業が終わったようだ。
『お待たせしました、カイリ様。『血手』捕縛の勇士をこんな箱に閉じ込めてしまい、申し訳ありません。日本側も融通が効かない! まったく』
「あー、いえ。お構いなく。安全が第一ですから」
『おお、そう言って頂けると……これが『血手』ですか。ここまで厳重な封印をして、貴方ほどの勇者を備えにするほどの怪物。まさかこやつを捕らえる日が来ようとは……』
着地した後に部屋の中に入ってきたのは、明らかに神父様って見た目のお祖父さんと騎士のような鎧を纏った青年たち、それに数名のシスターだった。責任者っぽい神父さんは五分割で箱詰めにされた『血手』を見て、感極まったようにぽろぽろと涙を流している。
「俺の仕事はここまでですかね?」
『はい、お手数をおかけしました。ここから先は我々ヴァチカンが責任をもってこやつを護送させて頂きます』
「分かりました。それと、余計なお世話というのは分かっているんですが、こいつはさっさと消滅させた方が良いですよ?」
『ご懸念、御尤も。しかし、こやつを恨む声は欧州で溢れかえっておりまして……』
暗にこの場で『血手』を仕留めた方が良いと口にすると、神父さんは重々しい表情で頷いてそう返した。あぁ……そんな感じか。それだと現場は辛いよねぇ。
まぁ、ヴァチカン側も危険を承知でこの護送を提案したわけだからそれに見合った戦力は整えているようで、この神父様も青年たちも、それにシスターさんだってかなり強い霊能力者だというのが分かる。仮に問題が起きても対処できると先方は考えているんだろう。
『聖域守備騎士団のヘイリーと申します。極東の守護者ジロー・カイリ様とお会いできて光栄です。まだまだ修行中の身ですが貴方が捕らえた『血手』は必ず欧州へ連れ返します!』
『あ、こらヘイリー、抜け駆けするな! カイリ様、ローマ秘域騎士団のジグマです。私も尽力いたします!』
『騎士様方、カイリ様がお困りですよ。ヴァチカン聖域守護騎士団付のミレイと申します。お見知りおきを』
『ミレイだってずるいわよ! カイリ様、カイリ様! 私は――』
そのかなり強そうな青年の一人が、緊張した面持ちで話しかけてくるとそれを合図にしたかのように一斉に彼ら彼女らが話しかけてきた。思いがけない勢いにたじたじになっていると、神父さんが困ったような顔でぱんぱんと手を叩く。
『皆様方、カイリ様がお困りですよ。やれやれ、申し訳ないカイリ様。彼らは数百年ぶりに誕生した守護者と会えて、少し、その。はしたない真似を』
「ああ、いえ。お気になさらず」
ヘルマン神父と名乗った神父さんの真摯な謝罪をすました顔で受け取ると、青年たちは感極まったかのように「おぉ……!」と勝手に盛り上がっていく。極東の守護者ってなんだよと言いたいが、言い出せる空気じゃないぞこれ。
『血手』の引き渡しを完了して船から降りる時も似たような事は起こった。当然のように先方は俺を見た瞬間に剣を立てて敬礼したり握手を求めたりしてきて、シスターの柔らかい手の感触を楽しんだり無骨な騎士様方の敬意の籠った挨拶を頂きながら退船。船を出る時には騎士様たちが一斉に剣を立てて『偉大なる守護者へ』と叫ぶという国賓みたいな扱いで見送られる事になる。
いや、守護者ってなんだよともう一回聞きたくなったが流石にこの状況でそれを聞くのはダメだろ、と理性が勝利し代わりにヘルマン神父に念のためにポッケに入れていたワンカップの『鬼たいじ』を手渡す。
『これは?』
「悪魔退治の名を冠した日本酒です。俺の霊力を込めていますので、もしもの時はお使いください」
『おお、そのようなものを! ありがとうございます。この餞別の事、確かに猊下にお伝えいたします』
「あ、いえ。お気になさらず……」
俺が渡した大体200円くらいで売っているワンカップを貴重品を触るような手つきで受け取るヘルマン神父に、なぜか罪悪感みたいなものを感じてしまい俺はそそくさとその場を後にした。ま、まぁ中身は間違いなく効果があるからね。だましてるわけじゃないんだけど。
そんな事より極東の守護者ってどういう意味なんだろう。秋村さんとかに聞くとなんか面倒くさそうだし、田井中さん辺りに今度聞いてみるかなぁ。
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