ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『『『「乾杯!」』』』
狭い店内に男4人の声が響く。大きな仕事を熟した後の打ち上げとしては華がないが、『勇作』がどうしてもと言うので今日はプレミアムレンタル権者の男たちと居酒屋で酒を飲むことになったのだ。
もつ焼きさんちゃんというお店はその名の通りもつ焼きが名物で、塩辛く濃い味付けのビールによく合う串を食べながらまず最初の一杯を飲み干す。
『おぉ~いい飲みっぷりじゃねぇか! やっぱり酒に強いのは良い男の条件だぜ』
『酒が飲めないいい男もいるだろ』
与太を飛ばす『勇作』に隣に座った『セシル』がそう口にして日本酒の入った桝に口を付ける。『セシル』は平面から飲む派らしい。『セシル』の言葉にケラケラと笑った後、『勇作』は対面に座る『メンチ』にビールが入ったジョッキを向ける。
『いやぁ、ようやくお前と対面で酒を飲みかわせるなぁメンチ! 俺ぁずぅっとこの瞬間を待ってたんだぜ?』
『俺もだ。こいつの頭の中は女所帯だからなぁ。セシルは外に出っぱなしだし、マネージャーはアレだからよ。お前のお陰で随分助かってる』
『ああ……アレだよなぁ。俺、思うんだけどよ、一也が拗らせてんの絶対あいつの影響あるよな。アイツいなきゃ多分、もっと早くこいつ彼女出来てたろ』
「誰が拗らせて……いや、拗らせてるけど。俺の感情は100%俺のもんだよ!」
失礼な事を口にする『勇作』の口に指弾で枝豆を放り込むと、隣に座っている『メンチ』に『食べ物で遊ぶな』と怒られた。すまん、つい。
『まぁ、一也の拗らせの原因はうちの女どもの影響もあるだろうしな! うちの女どもと来たら美人で美女ばっかりなのになぁ……うちの娘を思い出すおてんばばっかで』
『ああ、お前そういえば嫁と子供居るんだったか』
「あ、そうだった。嫁さんと子供居るのにレンタルしちゃって大丈夫なのか? そういえば俺、そっちの事情はなんも知らんぞ」
『メンチ』と『勇作』の会話の中に聞きたい情報が混じっていたため急いで口の中の肉を飲み込んで会話に混ざると、『勇作』は何とも言えない表情を浮かべて首筋を掻く。
『分からん。俺の認識だと、ここは夢の中って印象でな。お前が寝てたり誰かをレンタルしてる時は普段通りに生活してるんだ』
『夢にしちゃ長いしはっきり覚えてるけどな』
『勇作』の返答にもぐもぐともつ煮込みを食べていた『セシル』がそう口を挟む。『セシル』なんかずっと借りっぱなしだし大丈夫なのかと思ってたんだが、俺が寝てる時なんかにちゃんと元の場所に戻っているらしい。そうすると恐らくマネージャーもそうなんだろう。
なんか時間の比率がおかしい気もするが、まぁ、『NEET NOW』とかいう意味わからんスーパーアプリでこの状況になってるんだからそういう事もあるんだろう。うん。
『まぁ、そのアプリについて明らかに詳しいのはさやかだが、あいつはこの事を話したがらないんだよなぁ』
『俺もあいつとはずいぶん長い付き合いだし、それとなく聞いてみたんだがな。教えてくれたのは『NEET NOW』は一也のためのものだって事だけだった』
「あ、それ俺聞いた事ないんだけど」
『……あ』
『勇作』の言葉に相槌を打つように『メンチ』が言った衝撃の一言に思わずそう口にすると、一瞬の沈黙の後『メンチ』に向かって俺のスマホから炎が飛んだ。あ、と驚く間もなくその炎は『メンチ』の頭を直撃し、髪の毛が炎の色に染め上げられる。
『あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!! すまん、すまんさやか許してくれぇ!』
『お、おい火は不味いって! 一也、止めてくれ!』
「お、おう。あ、こらさやか炎の制御よこせ! 止めろって迷惑だろうが!」
その後、なんとか『メンチ』が禿げる前に炎の制御を奪取して消し止める事に成功したのだが、もちろん居酒屋を追い出される事になったため店を変える事になった。あのもつ煮込み美味かったんだがな……おのれ『さやか』。次の店は海鮮にしようと思うんだがどう思う?
10月に入ったある日。連日ヒットチャートを騒がせるVVVの新曲ラッシュの影響でVVVの電話回線は常に繋がりっぱなしであり、この際に行われるAIオーイシアキコの自動返答が評判になっているようだ。ツブヤイターでヴァーイが実装され、その圧倒的性能が世に出回る他のAIを駆逐するんじゃないかと噂される中、このAIオーイシアキコの性能もヤバイんじゃね? と噂される形で話題に上がったのが切っ掛けだそうな。
お陰でイロリー・マックス氏が立ち上げたOPUUNA AI(株)の株式が天井知らずに値上がりしまくったり、VVVが株式を非公開にしているため関連会社であるカダー社の株式まで連動して値上がりしていたりする。特に何もやってないのにカダー社の社長からお礼を言われたんだが、こういう時になんて答えれば良いんだろうか。
そのカダー社さんから別件でちょっとしたお願いが入ってきた。と言ってもカダー社さんからというよりはホログライブからなのだが。
「Vタレ運動会をやりたい? しかも男のVタレで」
「そうなんですよぉ。ほら、前にVSさん所で身体能力測定ってやってたじゃないですか、Vタレの! アレの評判を見て計画してたんですが、女性の方はちょっと一旦様子を見ようってなりましてぇ。ある程度企画が固まった男性Vの方でVVVさんとうち、それにはちじくじさん辺りを巻き込んでやりませんかってお誘いです」
「一応聞いておくんですが、女性の方が様子見ってのは」
「いやぁ……センシティブ」
「はい」
ホログライブさんの営業担当が言いづらそうにそう口にするのは、VSが発足した夏に行ったVS所属社員の身体能力測定配信の事だ。立体投射機というチート機材をふんだんに使ったこの身体能力測定配信は、普段運動不足なVタレたちの全身をめっためたにしたのだが、その際の吐息だとか、動きだとかが非常にセンシティブだと物議をかもす事となった。
その場の隅の方に俺と梟くんが居たのも悪かったんだろうな。ちょっとこれはえちち過ぎる。けしからんとSNSでお叱りしてくる連中が多かったので結構面倒だったのだが。じゃあ男なら良いじゃん、と。旨い手だな、流石は業界最大手。
男のVタレはどうしたって話題性が女のVタレに負けてしまうからな。この男性Vタレのみの運動会というのはそこら辺を何とかするために企画されたものなんだろう。
「なるほど、うちは問題ないですよ。そうすると機材と場所ですが前回と同じ場所であれば都合を付けられますが」
「是非お願いします。立体投射機が使える運動施設となると、中々。代わりにそちらの公式チャンネルをメインに据えて各Vタレで配信という形でどうでしょうか」
「かかった費用は3社で頭割で……あとは参加したいVタレさんは、ある程度制限を設けましょう。企画を回せるキャパをまずは洗い出さないと」
「そうですね。初回ですし」
ホログライブさんの営業さんと話を詰めた後、はちじくじさんに話を持っていくとかなり前のめりに参加希望をされた。やはりあちらも男性Vタレの話題作りに困ってるらしい。
人員の選定のために1月ほどの間を置いて、11月半ばに第一回Vタレ運動会男子の部は開催されることになった。名前を男子の部にしたのは、センシティブ判定をなんとか誤魔化せれば女性でも行いたいからだそうな。まぁ、どう考えても視聴者数を稼げるだろうしな、女子の部。
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