ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
特撮と呼ばれるジャンルが存在する。
元々は特殊撮影だとかそういう撮影方法の略語だったもので歴史も古く、巨大なゴリラがハリウッドの町を蹂躙する『キング・ゴリラ』や異なる宇宙の戦争を描く『スペース・ウォーズ』、日本でも『ごずら』シリーズ等名作映画が数多く存在するジャンルだ。
そして特撮というジャンルの中にも幾つか更に枝分かれしたジャンルが存在し、今日俺が訪れた原木理科学特撮研究所という小さな映像制作会社が主に扱っているのはヒーローものと一般に呼ばれるジャンルの映像作品である。
「まぁヒーローものっていってもうちはね! 予算がないんで等身大ヒーローものばっかりになっちゃうんですがね! あ、等身大ヒーローってのはアレ! 戦隊とか巨大ヒーローじゃなくて一人で変身して戦うヒーローが居るじゃないですか! ライダー仮面マンとかああいうのを言うんですわ!」
「はぁ」
いきなり俺に対して熱烈に出演オファーを出してきた後、取り繕うようにこう話し始めたこの人は原木理科学特撮研究所の所長さん、つまり社長の原木理さんだ。元々時代劇などで活躍していた役者さんで、経験を積んだ後に特撮の方にも出演するようになり、OVA作品だが幾つか主演もやったことがあったそうだ。
年齢を重ねて体が動かなくなったためそのまま制作側に転身してこの原木理科学特撮研究所を立ち上げ、現在は地方局と契約してニュースのワンシーン再現などを撮影したり、動画配信サイト等と契約してそれらの配信サイトのオリジナル作品の撮影に協力したりしているという。
「まぁ地上波とは縁が遠いジャンルですからね。一時期と違って地上波で流れてる特撮はライダー仮面マンにスーパーウルトラメン、それに戦隊レンジャーシリーズ。ぜぇんぶ大手の作品ばっかりでうちみたいな中小はお呼びじゃないんです。それでも昔のコネで食っていけるくらいの稼ぎは出せてますがね。オリジナル作品を自分たちでぶち上げるには、予算も人員も何もかもが足りない。どれだけ技術があっても、自信があっても、そもそも土俵に立つ事すら出来ないのがこの業界なんですわ」
「なるほど」
「ですが、そこに御社の立体投射機の事を耳にしましてね! CGや撮影にかける費用を抑えて映像のクオリティを上げられるあの機材があれば、うちのような規模の会社でも勝負が出来る! 土俵に立つ事が出来るんです! 乗るしかないでしょう、このビッグチャンスに! そしてそのビッグチャンスをモノにするためのピースも揃ってる! クマコーさんというね!!」
そう言ってわははと笑う原木理所長は、企画書も作ってあるんです! と社外秘と書かれた書類の束をドン! と机の上に置いた。企画書っていうか束なんだが、これ。ぺらぺらとめくっていくと、大まかな脚本だけではなく各キャラクターの資料集に参考にした文献等などがありこの束があれば本当に企画が始められそうなくらいに情報量が多い。
というかさらっと社外秘の情報を初めて会った他社の人間に読ませようとする辺り、この人かなりヤバイ人だな。いや、初対面の人にいきなり配役投げてくる人がヤバくないわけないか。
まぁ、立体投射機の販売先としては特に問題はない。うちとしてはイロリー・マックス氏に『絶対あいつら余計な事に使うから止めた方が良い!』と止められた大手映画会社とかでもなければ売らない理由はないし、これだけ熱量の強い人なら立体投射機を余計な事に使わずガンガン撮影に役立ててくれるだろう。
あ、一応イロリー・マックス氏に一言言われて大手との交渉は止めたけど、そもそも立体投射機にはどんな映像を映し出したかサーバーに履歴が残る様になっているため、仮に犯罪に使われてもすぐに足がつくのだ。だからこの事は契約の際に必ず話すようにしてるんだけど、『プライバシーの侵害』とか言われて機能をOFFにするよう要求された事も何度かある。俺も警備員の海里さんをやる時にこの機能をOFFにしてるから出来ない事じゃないんだけど、そう言う人には警察との取り決めですと言って断るようにしているのだ。彼らは何に使いたいんだろうね?
「立体投射機の利用規約は理解しました。それで、お値段は本当にこの価格でよろしいのですか……いくらなんでも、その。安すぎるような? あとクマコーさんの出演契約についてのオプションはどこに」
「自分の出演契約はオプションに入っておりません。機材の購入費としてはこれですが、年に数回のメンテナンスが必要でその際に実費でのメンテナンス代金は頂きます。これらも含めた金額と思って頂ければ」
「そこをなんとか! メンテナンス代はもう毎回満額取っていただいて構いませんからなんとかクマコーさんと交渉を! うちの作品に出てくださいよぉ~!」
原木理さんは立体投射機の販売についてはこちらの提示した条件を全部飲んでくれたのだが、帰ろうとする俺の足に縋り付き「どうしても!」と「そこをなんとか!」を連呼するだけのBOTになってしまった。参ったな、俺を口説き落として自社に取り込もうって連中はごまんと居たけど、出演約束のためだけにいい年したおっさんに足に縋り付かれるってのは流石に経験がないぞ。
対応に苦慮したため一度会社に相談します、となんとか拘束を抜け出してアキコさんに電話をかける。確かに最近は暇だし正直時間はあるっちゃあるんだが、そもそも実家のテレビは父親と母親が常に使っていて子供向け番組を見る事が無かったため特撮作品というものにあんまり馴染みがないのだ。
原木理さんが熱心に誘ってくるんだからきっと面白いものなんだろうが有名なライダー仮面マンですら一度も見たことがない身としては、年末に向けて忙しくなるかもしれないこの時期にあんまり余計な仕事を増やしてもなぁ、と乗り気になれる要素が欠片も無かったりするし。アキコさんに事情を話して、会社として断りを入れる方が無難だろうか……
『え、原木理さんって酷使無双伝 狼騎の原木理さんだったの!? 私、あのOVA持ってるよ! お父さんが大好きで一緒に見てたんだぁ! 一也くん、原木理さんと一緒にお仕事できるなんて羨ましいなぁ!』
「原木理さん。お仕事受けますんでうちの社長にサイン書いてもらえます?」
「え!? あ、え、うん……ええ!?」
勤労は人間の美徳というし暇な時に新しい仕事を取るなんて当たり前だよなぁ。さぁてアキコさんにお土産まで用意して貰った以上はしっかり働かないと。ライダー仮面マン? スーパーウルトラメン? 余裕でぶっちぎっちゃう作品取りましょうよ、監督!
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