ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
「絶対嫌です」
「そこをなんとか!!!」
原木理さんと仕事を始めて一日目。特撮プロジェクトは暗礁に乗り上げていた。
原因は人、つまり配役だ。計画が始動してすぐに原木理さんは演技力のある知人の俳優たちに声をかけたのだが、残念なことにすぐ動けるという人物はほとんど居なかった。まぁ計画を初めてすぐだしこれはしょうがない事だ。まだ映画にするかOVAとして出すかも決まっていないんだしゆっくり決めていけばいい、と俺は思ったのだが原木理さんはどうもかなり、その。この計画というか俺=クマコーを映像化することに情熱を注いでいるようで、なんとか早く撮影にこぎつけたいとの事。
しかし映像というものは撮るものがなければ意味がないのだし、焦っても仕方がないし幸い資金面には余裕がある。立体投射機のお陰でセット等にかかるお金は節約できるし、俺の報酬だって正直そこまで要求する気はないからだ。
まぁ流石に無報酬は色々と問題があるが、撮影した作品の出来栄えや評判が良ければスタッフロールにVVVが協力したと乗せてもらえたら立体投射機の良い宣伝になるかなぁ、くらいに思っていた。つまり急ぐ理由は全くないのだが、原木理さんとしては今現在の熱意とインスピレーションを最大限生かせるタイミングは“今”だという。
映画監督というのは芸術家に近い代物だというし、その監督にそうまで断言されては素人のこちらは言える事もない。だが、じゃあどうするのかと尋ねると原木理さんはうんうん唸りながら手元にあるノートに何事かを書きなぐり始めた。
そのまま30分ほどで原木理さんが書き上げたものは走り書きの脚本のような何かで、一番最初のページにデカデカと監督:原木理介爵、主演:クマコー、アクション:クマコー エキストラ:原木理科学特撮研究所一同と書かれていた。
そして話は冒頭に戻る。
「立体投射機なら中身が誰かなんて気にならないでしょ! それにクマコーくんの派手なアクションに対応できるレベルのアクション俳優なんて1月はまたないと確保できないんだから相手は君にやってもらうのが一番なんだよ!」
「いや、いやいや。最初に出してきた企画書はどこいったんですか。あの分厚くて机に置いたらドンッって音がするレベルのやつ」
「あっちはあっちで人集めから時間がかかるってクマコーくんも言ってたでしょ。まぁちょっと端折り過ぎたけど、あっちの企画が本番としたらこっちの撮影は君の練習って面もある。もちろん僕としては今の頭の冴えなら本気で良い作品を作れると思ってるしその心算で脚本からなにから書き上げたけどね!」
「……練習、ですか」
「うん。ぶっつけ本番前にカメラの前で演技するの、やっときたいでしょ?」
そう言われると原木理さんの言う事は確かに理にかなっている気がする。要は本番の準備期間にカメラの前で演技をする経験を積めという事か。まぁ原木理さん自身も撮影がしたいって思惑はあるんだろうけど、他所の俳優さんたちのスケジュールまでは自由にならないしな。
あ、そうだ。
「あの、それなら交換条件と言ったらあれなんですが、VVVのスタッフを本命の作品に出演させるのは出来ますか?」
「え、まぁ、Vタレさんならただの素人よりかはカメラ慣れしてるかもだけど……むしろこっちの方がありがたいんだけどいいの? 君の所のVタレ部門って結構有名な人が多いんでしょ? ほら、『電脳歌姫ろっくんろー』の子たちとか」
「ええ。本人たちもいい経験になるでしょうし立体投射機があればVタレモデルに近い顔立ちに出来ますし。どうせなら主題歌行きましょうか」
ついでにアクション担当で『勇作』でも連れてくるか、あいつも暇してるだろうし。動ける人って意味なら『日華』でも良いんだけど魅せる動き方って考えるとプロレスラーの『勇作』の方が上手そうだしね。
「絶対嫌です」
「そこをなんとか!!!」
原木理さんと仕事を始めて一日目の午後。特撮プロジェクトは暗礁に乗り上げていた(本日二度目)
「いや、絶対嫌です。なんですかこの脚本」
またもや泣き落としをかけてきた原木理さんのもってきた脚本を突き返すと、原木理さんは非常に困ったような表情で脚本を受け取った。
「ダメかな? 絶対に面白いと思うんだけど。クマコー・THE MOVIE」
「名前の時点で色々おかしいと気付きません???」
「いやいや名前はあくまでも仮! 仮タイトルですから! キャッチーな名前で企画書に目を通させるテクニックなんです! これホント! 勝負は中身なんですって!」
俺のダメ出しに酷く傷ついたような表情を浮かべて原木理さんはそう口にした。あ、そういう名目で……いやダメだろクマコー・THE MOVIEは。
ただ、原木理さんの言うように中身で勝負というのは間違っておらず、無理くり渡された脚本に目を通したら確かに内容は面白そうだった。内容としては一応ホラーアクションなんだろうか。
「クマコーくんは遊園地で働いていたけど故障した遊具に乗っていた子供を助けるために飛燕千裂脚で遊具を破壊! 子供には感謝されたけど遊園地を首になってしまった! 途方に暮れていたクマコーくんの元に新しいマスコットを募集しているという山奥にある古い遊園地のチラシが目に入り、クマコーくんは一念発起して新しい職場を求めてその遊園地、『三途リバーサイドパーク』へとやってきたのだが実はこの遊園地は手を変え品を変え人を呼び寄せて生贄にする呪われた遊園地であり、クマコーくんは誘い出された餌だったのだ! おどろおどろしい外観、誰も居ない園内、そして手に手に凶器を持ち襲い掛かる他のマスコットたちに囲まれ絶体絶命の中、クマコーくんは「あ、これがにゅうしゃしけんか!」と襲い来る全てを拳で打ち破っていく! 暴力こそが全てを解決するホラーサスペンスアクション! これだ!」
「突っ込みたいけど割と見てぇ」
とんでもないB級臭がする内容だが、だからこそ何も考えずにさくっと見て楽しめるんじゃなかろうか。ホラーってくらいだし敵対するマスコットは不気味な感じにして、それらを相手に無双するクマの着ぐるみ。ホラーって言うけど全然怖くない感じの奴だな、これ。
そう言う事なら確かに立体投射機は得意中の得意分野になる。なんせVVVエキスポで作った立体投射お化け屋敷は余りに怖すぎてお化けがデフォルメされたくらいだからな。程よく怖い感じに整えた舞台を立体投射機で映しながら撮影を勧めれば、確かにすぐに撮影が始められるかもしれない。あとはやっぱり一人でアクションするのが虚しそうだから『勇作』呼ぶか……殺陣をやるって言ったら面白がってくるだろ、きっと。
更新の励みになるのでお気に入り・評価よろしくお願いします!