ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
「出来たよ! クマコー・THE MOVIE!」
「はえーよ」
企画が本決まりになりVタレ男子運動会の開催を発表した翌日。ネットでは今もホログライブ・はちじくじのファン達が喧喧囂囂としたやり取りが繰り返されているが、VVVの場合「いや、まぁうちらやろうと思えばいつでもできるし」「会社のジムで汗流せば似たようなものだもんねぇ」と完全に対岸の火事になっているため、特に俺が対応するような事もなく。
あとは企画本番まで暇が出来たため原木理科学特撮研究所に顔を出したら、開口一番に原木理さんがこう言いだした。おかしいな、まだこまごまとした撮影が残っていた筈なんだが。疑問に思っていると撮影所の中から見知った顔が3人、ひょっこりと顔を出してきた。
『おう、お前が忙しそうだったからな! 暇だったし手伝ったといたぜ!』
『あーしもー。いやー、やっぱこの二人とは好き勝手暴れられっからねぇ。楽しーわ』
『やっぱ肉弾戦じゃ二人に勝てんなぁ。俺も鍛えなおさねーとな!』
『勇作』に『日華』、そして『メンチ』。プレミアムレンタル権者の中でも特に役割がなく暇をしている3名だ。ここ数日『出かけるから体を使いたい!』と言っていたが、ここに来てたのか。元々『勇作』には映画の撮影を手伝ってくれと言ってあったんだが、『勇作』が気を回して二人を誘ってくれたのかな?
「いやー、クマコーくん! もう、こんな動ける友達がいるなら早く紹介してよぉ! 君にやってもらうつもりだったこまごまとしたシーンも全部終わってるよ!」
「全部ですかぁ」
「ま、元々大まかな個所は撮ってたからねぇ」
ドカッとソファーに座って『いい仕事したー!』と談笑する3人を横目に、原木理さんに誘われて大きなデスクトップPCの画面をのぞき込む。そこにはクマコー・THE MOVIE というタイトルと中心に居座るクマのぬいぐるみが、その周りを血の気のない白目の受付嬢や赤黒く染まった凶器を持ったおどろおどろしいマスコットたちに囲まれた映像が表示されている。
凄いな、こうやってみると本気で低予算で作られたB級ホラー映画感しかないぞ。
「もちろん編集はこれからだけどね。撮影した映像を繋ぎ合わせて全部で10時間分の映像を1時間ちょっとの短い映画くらいにまでここから削るんだ」
「結構無くなるんですねぇ」
「撮影して繋ぎ合わせないとね、必要な部分、必要じゃない部分ってのが見えてこなかったりするんだ。逆にこれが足りないって部分も映像を繋ぎ合わせると見えてくるから、再撮影が起きたりもする。編集が一番難しいんだよねぇ」
口ではそう言いながらも、原木理さんは目を爛々と輝かせて笑顔を浮かべている。この瞬間がたまらない、そんな表情だ。良いね、やっぱり誰かが情熱を傾けている姿は、実に良い。
だがしかし、こうなってくると素人の俺が出来ることはなくなってしまう。どうすっぺかなぁ。今日は完全に撮影のために時間を空けたんだが。このまま事務所に帰るとVSの社員から「うちの古巣からVタレ運動会についてガンガン質問来るんで助けて欲しいんですけどぉチラチラ」って社員の要求に応えなきゃいけなくなるし、帰りたくねぇんだよなぁ。あんなんほっとくしかないのに。
『あ、それなら帰りに田井中さんとこに寄ろうぜ。みきちゃん経由で来てくれって言われてんだよ』
「田井中さん? 最近週1で雨宮セキュリティーの近所をうろついてる田井中さんか?」
『めぐみが買い物に出るタイミングを見計らってる田井中さんだな。かすがの奴が面白がってるからそろそろ助け舟をだしたいんだが』
「いやー、でも『めぐみ』の方に脈がないからなぁ」
『メンチ』はこのまま放置すると『雨宮かすが』とかいう極悪人に玩具にされそうだと心配しているが、田井中さんはなんだかんだ世渡りの巧い人だ。弱点を突かれても、まぁ、結局のらりくらりと上手くやると思うんだけどな。
とはいえ田井中さんからの呼び出しというのは久しぶりだ。こないだの入院からこっち、しばらく裏の仕事は控えるって言ってたのにどうしたんだろう。
『勇作』たちと分かれて田井中さんの経営する矢場杉不動産の事務所に顔を出すと、田井中さんは相も変わらずニチャアっとした笑顔を浮かべて出迎えてくれた。
「あ、メンチくんと一也くん、良い所に。ちょっと手伝ってほしいんだけどこれから時間ある?」
『丁度暇してたんですわ。俺は構いませんよ』
「俺も予定が無くなったんでいいですよ」
「そっか、良かったぁ。君らが居ると居ないとじゃ全然違うからさぁ」
そう言って田井中さんは「ちょっと待ってて、着替えてくる」と事務所の奥へ消えていき、10分ほどした後に以前沖縄で着ていた修験装束を身に纏い、歴戦の霊能者としての顔を浮かべていた。あれ、最初の緩い歓迎とちょっとレベルが違う……違うくない?
「じゃ、行きましょうか。あ、途中酒屋に寄りますんで今日は良い酒持ち込んじゃってください。経費になるんで」
『お。じゃあ大吟醸いっちゃっても?』
「もちろん好きにやってくれ! 神社庁持ちだからね、今回!」
相変わらずニチャアっとした笑顔ながら、田井中さんはどこか自棄っぱちに見える。もしかして本気で難しい案件なんだろうか、いやでもそれなら田井中さんは事前に言ってくれるはず。みきちゃん経由での連絡って時点でそこまで切羽詰まってる感じもないんだけど。
不安に思いながら待っていると矢場杉不動産の前に黒塗りの高級車が停められ、中からいかにも神職ですという格好をした人たちが降りてくる。
「田井中様、お待たせいたしました。こちらの方々は……?」
「先に伝えておいた、件の吸血鬼騒動を解決した二人です。公が興味を持たれていたとか」
「ああ、バテレン共から守護者だとか名付けられてしまった……承知しました。さ、車にお乗りください」
神職さんたちの中でも明らかに位が高そうな初老の男性と田井中さんが会話をし、納得したように頷いた男性が黒塗りの高級車のドアを開けてそう促してくる。うん、なんだろうな、ものすごく不安になるやり取りだったぞ?
「あの、田井中さん。これ、どこに行くんですか?」
後部座席に座らされた後、出発した車の中でちょっと声を落として田井中さんにそう尋ねる。田井中さんは俺を見て、『メンチ』を見た後に一拍置いて口を開く。
「ちょっと偉い人のご機嫌取りに駆り出されましてね……将門塚って所なんですが」
「oh...」
『ぷっは』
絞り出すような田井中さんの言葉に思わずうめき声をあげると、『メンチ』が堪えきれずに笑い声をあげた。なにわろてんねん。
更新の励みになるのでお気に入り・評価よろしくお願いします!