ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
【最近の日本男児はたるんどる!! わかっとるのか田井中ぁ!!】
「わかってます、わかってます。あ、お神酒空いてますねぇとくとくとく」
【うむ、くるしゅうない。おお、お前は相変わらず酒の目利きが出来るのぉ】
左右に巫女さんを侍らせながら、空中に浮かんだ首が烈火のごとく怒り狂っている。その首の怒りをニチャアっとしたいつもの笑顔でかわしながら田井中さんが空いた盃にお神酒を注ぐと、怒り狂っていた首は先ほどまでの憤怒を忘れたかのように左右に侍る巫女さんに盃を持たせ、ニヤニヤ笑いながら盃を飲み干す。
大体これが1時間くらい続いている。なんだこれは。
「将門公のご機嫌伺いです」
「あ、はい。その、色々突っ込みたいんですが」
「古来より関東在住の霊能者の半ば義務みたいなものでございまして」
神社庁のお偉いさんらしき男性に諭されるようにそう言われ、そっか、義務かぁ……自分を無理やり納得させる。俺たちの他にも大体10人ほどこの広間には居るのだが、確かに全員がレベルの高い霊能者っぽいし、この人が言ってることは間違いないんだろう。
でも、これだけの人たちを集めてやることが空飛ぶ生首のご機嫌伺いとはなぁ。
「いやー、これが割と大事な儀式でしてねぇ。将門公は関東一円に張られている大結界の要なんで」
「大結界、ですか」
「そ。怪異って放置するとどんどん強くなるからね。それを防ぐために怪異を弱体化させる結界を張ってんの。将門公はその維持で色々尽力してもらってるから、たまーにこうやってお礼代わりにストレス発散してもらってんのね……もちろん報酬はたんまりあるから」
順番が終わったのだろう。魔女のような格好をした若い女性と交代で、若干焦げた装束をはたきながら田井中さんが戻ってきた。これは別に燃やされたとかじゃなく、将門公に近づいただけで霊圧を受けた装束がダメージを負っているのだ。田井中さんがわざわざ仕事着に着替えた理由はこれかぁ。スーツだとちょっと耐えられんかもしれないなぁ。
まぁ何着か持ってるスーツの一つだから良いんだけど、このスーツ分の代金は流石に請求できるよな。報酬はたんまりって言ってるし。
『霊圧で抗すればへーきへーき』
「僕はそれしてこの状態なんですがねぇ……」
「坂東様、山里様。公がお召しです。こちらへ」
上機嫌に高そうな酒を飲む『メンチ』と田井中さんの会話を聞いていると、神社庁のお偉いさんに声をかけられる。どうやら俺たちの番らしい。前の担当の人は……若い女性が黒焦げになった衣服を手で押さえて、恥ずかしそうに部屋の外へと出ていくのが見えた。その様子を助平な視線で見送る将門公。こいつ、やりおる。
促されるままに将門公の前に行くと、徐々に圧というか熱のようなものが伝わってくるのが感じる。チリっとスーツの端が焦げそうになったため慌てて霊力を練り上げると、俺と将門公の間でバチバチと音が鳴り響く。
将門公がお? という表情を浮かべるのと『メンチ』が俺の肩に手を置くのはほぼ同時だった。
『そうじゃねぇ。こうだ』
そう口にした後、『メンチ』の霊圧が周囲を満たすというか、包むように広がっていくのを感じる。将門公の霊圧、俺の霊圧、それらを全部飲み干して自分の霊力を緩衝材のようにしながら、『メンチ』は盃を手に持った。
『じゃ、飲もうか将門公』
【ほっほっ! 器用な真似をする小童じゃ。そっちの小童も随分と生意気に……主ら、名は?】
『坂東メンチ。天下御免の遊び人よ』
「働け。山里一也です」
【覚えがある。そっちの小童は、血吸いの首魁を打ちのめした者よな。お前のお陰で随分と気が治まったぞ、大儀であった】
そう口にして、将門公は視線で右側にいたおっぱいの大きな巫女さんに指示を送り、彼女の持つお刺身を旨そうに食べて、左側の平坦な巫女さんの持つ盃に唇をつける。生首なのにどこに消えてるんだろう。
将門公はその後もくどくどと【最近の小童はたるんどる!】と老害ムーブをキメながら延々グダグダと愚痴を言った後、満足したのか【お前らは見所がある。また来い】と口にした。
「お疲れさまでした。お勤めご苦労様です」
「いやー、疲れましたね。これ幾らの仕事なんですか?」
「一人一千万です。年一くらいであるんですが、今年は当たりでしたねぇ」
「この仕事に当たり外れあるんです???」
「将門公の機嫌が悪いと地震が起きたりするんでね……周りからの圧が強い時があるんですよぉ。大地震の後とか」
実感の籠った声で田井中さんはそう口にする。地震って大げさな、と口にしようとして、神社庁のお偉いさんとか周囲の反応が冗談を言う空気じゃなかったので口を閉じる。ある意味分かりやすい老害ムーブでちょっと楽しかったのは内緒にしといた方がいいか。
さて、お勤めを終え良い酒と料理も堪能したし帰るかなぁあ振り込みは田井中さん経由でお願いしますね、と帰ろうとしたら神社庁のお偉いさんに手招きされたので、『メンチ』と一緒に事務所のような所へ。中に入るとドンッと置かれたでっかい酒樽が置かれていて、なんだこれはと首をかしげていると神社庁のお偉いさんから新しい仕事を依頼された。
「田井中様からお二人は酒に纏わる霊能者だとお伺いしまして。こちらの酒を霊酒にしていただけないかと」
『ああ、将門公用の?』
「はい。良き酒があれば将門公のご機嫌も取り易くなりますので。もちろん、十分なお礼はさせていただきます」
『少し時間がかかるけど良いの? 俺は暇だから構わんけど』
「もちろんお時間は如何ほどかけて頂いても構いません。必要であれば宿舎や機材などもすぐに準備致します」
『メンチ』の言葉に神社庁のお偉いさんはそう答えた。霊酒というのは霊力を混ぜ込んだお酒の事を差すんだが、作るのがかなり難しい代物だ。単に酒に霊力を混ぜ込むだけだと飲んだ人の霊力と混ぜ込んだ霊力が喧嘩しちゃうからね。だから霊酒を造る時は慎重に少量ずつお酒に霊力を混ぜ込み、霊力の性質を変化させて飲み物に変えなければいけない。
『メンチ』をレンタルした経験から俺も作れる筈なんだが、『メンチ』ほど霊力の操作が上手くない俺だと多分1月はかかるんじゃないかな。まぁ『メンチ』の場合はそれより10倍くらい早く作れるだろうけど、それでも数日はかかる計算だ。
『いや、馴染ませる時間も必要だから……それでも1週間くらいか。通いで1週間くらいかかるからその分の手当てもよろしく頼むぜ?』
「その程度であれば幾らでも。是非、是非よろしくお願いします!」
『うん、承った。いやー、助かる。これですぐ使える小遣いが増えたぜぇ』
神社庁のお偉いさんからそうお礼を言われながら、酒樽が置かれていた部屋を後にする。お前が競馬で稼いだ金はVVVの運転資金に回ってるから、すぐには引き出せないしなぁ。言われれば用意できるけど、『メンチ』的にはあのお金はアキコさんのためのお金だから自分で使いたくはないんだとか。つまり『メンチ』は初手で8億貢いだというわけか……俺もまだまだだな。もっと頑張って会社に貢献しないと。
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