ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→   作:ぱちぱち

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第142話 何個あるんですか? 一万個? あ、そう……

 さて、ちょっとした野暮用で1000万とかいう大金(非課税)が入り懐が温かくなった。こういう時は、そうだね。散財だね!

 

 その内100万ほどを使って馴染みの風俗店で5人くらいのお嬢さんたちと心身の疲れを癒し大満足で風俗店を出てやる気満点、明日からも頑張るぞぉと気合を入れたのだが、店の入り口の前に霊障対策課のクールビューティー秋村さんが風俗店の店前で黒塗りの高級車付きで出待ちしていていきなり出鼻がくじかれる事となる。

 

 

「あ、出てきた。山里さん、『血手』の護送以来ですね。ご無沙汰しております」

 

「あ、あ。ああ、はい……ご無沙汰してます」

 

「少し山里さんにご足労お願いしたいのですが、お時間を頂いても大丈夫でしょうか?」

 

 

 最高に気まずい思いをしているこちらを尻目に、秋村さんはいつも通りの調子で接してくる。明らか風俗店から満面の笑顔で出てきた男に対しても平時と変わらない感じなのは、凄いというかなんというか。

 

 特に断る理由もないため、促されるまま車内に入ったらそのまま秋村さんが隣に座り、車は出発する。どこに行くかなどという会話は無かった。

 

 

「あの……」

 

「余暇にお誘いしてしまい申し訳ありません。どうしても急ぎお願いしたい事がありまして」

 

「いや、それは……はい。わかりました」

 

「…………あ、力ある方はこうして遊ぶのも分かっていますのでお気になさらず。うちの父もまぁ、凄かったので」

 

 

 俺が気まずそうにしている事に気が付いた秋村さんは、クールな顔を少しだけ緩めてくすりと笑ってそう口にする。く、く、くそぉ。ここで分かってる女アピールが来るとは! 100%地雷なのは分かってるのに飛びつきたくなる笑顔だ。

 

 俺には分かる。日米で散々女遊びを経験した俺には分かるんだ。この魅惑の肢体も時折見せるいたずらっぽい笑顔も全部罠だということが。そう頭の中の山里一也は理解してるんだが、股間の山里一也は「罠でも良い! 罠でも良いんだ!」と叫び猛ってる。

 

 危なかった。風俗嬢5人と一晩遊び倒した後じゃなかったら間違いなくコロっとやられてたぞ。恐るべし、秋村さん!

 

 車両はそのまま都心に向かっているため霊障対策課に行くのかと思っていたら、見知らぬ会社の前で車が停められた。なんでも霊障対策課の機材開発などを行っている会社らしい。

 

 そんな場所になんで俺が呼ばれたのかと思っていると、どうも先日ヴァチカンの人に渡したお酒の件でちょっと困った事になっているのだとか。

 

 

「先日の護送の際にというと、あの。俺が渡したワンカップの鬼たいじです?」

 

「はい。そのワンカップのお酒です」

 

「1個200円の」

 

「1個200円の……あれ、そんなに安いんですね」

 

 

 そんなやり取りを交わしながら詳しく話を聞いていくと先日俺と『メンチ』で請け負った護送は現在、かなりの大事に発展しているのだとか。

 

 まず、結論だけを言うとヴァチカンの護衛団は半壊するも無事ヴァチカンに『血手』の五体を封印した箱を届けたらしい。これは文字通りの意味での半壊で、死傷者が護衛団の半数に及んだという意味だ。

 

 半壊。半壊かぁ……握手をしたり挨拶を交わした彼らのうち、何人かが亡くなっていると考えるのは、うん。少し悲しい。

 

 その半壊の原因は幾つかあるが、まずヴァチカン護衛団の乗っていた船は大西洋から地中海に入るジブラルタル海峡で砲撃を受けたのだという。攻撃じゃなく大砲を用いた砲撃だ。例の“触れざる八影”とかいう化け物の強襲を警戒していたヴァチカンは対護衛団は“触れざる八影”用の人材こそ用意していたが、この現代兵器による攻撃には対応しきれなかった。まぁ当たり前の話だよな。

 

 砲撃はアフリカ側から受けていたらしく、ヴァチカンの人たちは慌ててスペイン側の陸地へと逃げていったのだが、まぁ、案の定そっちには例の“触れざる八影”の一体が居たらしく200人からなる護衛達を蹂躙。これがもっと別の状況だったらそこまで一方的な戦いにならなかっただろうが、砲撃から逃げていた彼らは組織的な抵抗がろくに出来なかったのだという。

 

 そしてあわや皆殺しになるかという時にヘルマン神父が取り出した代物が、今回俺が呼び出しを受けている原因になるわけだ。

 

 

「ヘルマン神父が咄嗟に放ったワンカップの鬼たいじを浴びた“触れざる八影”の一、“業火”は全身を焼けただれさせて逃げ去ったという事です。これを受けてヴァチカンはヘルマン神父が咄嗟に投げたワンカップの鬼たいじを聖遺物と認定し、それを彼に授けた山里さん……海里二郎さんを守護者から守護聖人に格上げしヴァチカンに招待したいと」

 

「全力で断ってもらえます???」

 

「もちろんです。我が国としても貴重な人材を。特級霊能者と断定できる人材を無為に放出するつもりはありませんし、個人としても。その、山里さんがヴァチカンに取られるのは嫌ですから」

 

 

 そう口にして秋村さんはちょっとだけ口元をすぼめ、俺から視線を逸らした。あ、ああ。これ、これは強い。ダメージが大きいぞこれ。ちょっとだけ不機嫌です、と態度で示しながらも素直に嫌だと言えない顔! 男を勘違いさせる魔性の表情だ!

 

 なんて頭の中で一人芝居をしながら話を進めると、ヴァチカンとしてはじゃあせめてあの聖遺物、ならぬ悪魔退治の酒を是非譲ってほしいと連絡が入ってきたそうだ。代わりに外交関係で日本の手助けをヴァチカンが幾つか請け負ってくれるというから、外務省が非常に乗り気だとかなんとか。

 

 霊障対策課としてもこの件を成功させるのは外務省への大きな貸しになるため、課長もこちらが出来る事はなんでも行うという空手形まで切るくらいには力を入れているそうな。え、今なんでも……いかん。いかんぞ股間の山里一也。仕事の報酬で女なんてのはハードボイルド小説かエロゲーの主人公くらいしか言わないし似合わないんだよ。

 

 ……ハードボイルド系のアニメ、『NEET NOW』にあったっけな? い、いや。雑念は良くないな。ここは頭の中で純情仮面第11話、『ガチムチレスラー緊急来日! 男と男の真剣勝負!』を再生して心を落ち着けなければ。

 

 

「ふう……よし、じゃあ俺の仕事は鬼たいじに霊力を込めれば良いんですね」

 

「はい。少し数が多いんですが、お願いできますか?」

 

「任せてください……あ、一応荷物を取ってこないといけないんで一度帰っても良いです?」

 

「もちろんです。車でお送りしますね」

 

 

 頭の中で『勇作』と兄やんと呼ばれるガチムチレスラーのぶつかり合いを超高速で閲覧し、心を落ち着ける。ああ、頭が澄み渡るようだ。やはり煩悩は良くない。

 

 ただ、並べられた鬼たいじの数は。ちょっと多いとかいうレベルじゃない気がするんですが。何個あるんですか? 一万個? あ、そう……家で魂羽織の準備をしたら、こっちに缶詰かな???




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