ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
「山里さん、うちにまで問い合わせ来てるんですよぉ。再配信とかできません?」
「いや、あれの権利は原木理科学特撮研究所がもってましてね」
ホログライブとはちじくじの営業さんを飛び越えて専務さんとか役員の人からも同じ連絡が入ってくる。この内容の電話は本日5回目だ。俺に言われても勝手に話を進めることは出来ないんだから、いい加減諦めて欲しいんだけどね。
問い合わせの内容は先日行われたVタレ運動会の後夜祭で上映? 配信したクマコー・THE MOVIEの件だ。俺と原木理さんの考えではあくまでも宣伝。該当部分のアーカイブには映画の映像は残らないように設定してVタレ運動会の参加者と視聴者たちで見ていたのだが、このクマコー・THE MOVIEが予想外に大ウケした。びっくりするほどバズったのだ。
特に話題に上がるのは白目を向いて口から血を流す受付のお姉さんの指示に従い、クマコーがギターを弾く序盤のワンシーンだ。マスコットとして楽器の演奏は当然嗜み、というテロップと共にギターを弾き始めたクマコーは、ナイフを持って襲い来る殺戮人形風マスコットたちの攻撃をかわしながら時に片足で、時に壁を蹴って駆け上がりながらと縦横無尽に部屋の中を駆けまわってギターを演奏し、最終的に殺戮人形風マスコットたちが自滅したりギターのコードに絡まって身動きが出来なくなった段階で演奏が終了。そしてその瞬間に画面いっぱいに“クマコー・THE MOVIE”の文字が出てくるという演出で、OP替わりに入っている部分なんだがこのシーンをもう一度見たい! という声がSNSや各社への問い合わせという形で上がってきているんだとか。
「いやー! 普段はね、うちなんて超上から目線で相手してくるか相手にもしない大手の配給会社がね! あれの配給、任せて欲しいって菓子折り持ってくんの! 笑っちゃうよね! お陰で本命の方も人員に資金集めとガンガン進んじゃってさぁ!」
「楽しそうですねぇ」
「当たり前でしょ! 自分が撮った作品が皆に面白い面白いって言われてんだよ。特撮やっててよかったって思う瞬間だよ」
そう言って原木理さんは満面の笑顔を浮かべる。
「それで配信だっけ。流石に今の段階で配信に乗せるのは売り上げに響きそうだし上映してくれる映画館にも悪いから出来ないかなぁ。あ、でも宣伝用のPVは出そうと思ってたしそっちで何とかできないかな」
「そうですね。一番声が多いのは序盤のギターのシーンなんで、そこをうまく編集して宣伝用のPVを作りましょうか」
クマコー・THE MOVIEはほとんど人を介在させずに作った作品のため、こういった話し合いもとんとん拍子で進められる。その日のうちに原木理さんがPV用に編集したギターシーンをVVV公式チャンネルにアップすると、瞬く間に再生回数が跳ね上がっていく。バズってる最中に燃料を投下するとこうなるんだなぁ、これは気持ちいいなぁ。PVには全国上映準備中って書いてあるからこれで他の会社に問い合わせが行く事もなくなっただろう。
なんて思っていたんだが、どうやら俺の考えは甘かったらしい。
「一也くん、テレビ局からまた映画の件で問い合わせが来てるみたいよ。うちの番組で番宣しないかって」
「えぇ……」
アキコさんの言葉だというのに思わずうめき声が口から漏れ出ていく。呻きたくもなるよ、これで何件目ってくらいに同じ問い合わせが来てるんだから。
例のPVを配信した後、個人やファン達から各社への問い合わせは激減したのだが、代わりにこういったメディア関連からの問い合わせが爆増したのだ。
『金の匂いを嗅ぎつけたんだろうなぁ、メディアの連中はこういう事に目ざとい』
――金の匂いって、俺と原木理さんたちだけで作った超低予算映画なのに?
『こういうものはな、作った後にこそ金が動くんだよ。ハリウッドの映画なんてな、製作費より宣伝費に金をかける場合もある。それだけ宣伝には金がかかるし効果があるというのを連中は知ってるんだよ』
――ほー。でも、今回の奴はもう宣伝の必要はないよな? PVだってそろそろ再生数が億に行きそうだし
『連中はそう思ってないんだろう。いや、思いたくないのかな? 自社宣伝だけの映画がヒットするのが怖いのさ。少し面白い状況だ、ちょっと一口噛ませてもらっても良いか?』
『かすが』がそう言ってきたので原木理さんも交えて契約を結び、“クマコー・THE MOVIE”の宣伝関連はAmamiya NEWSで取り扱う事になったらその次の日にはメディアの問い合わせがピタリと止まった。VVVへの問い合わせだけでなく、原木理さんの所への問い合わせも完全に無くなったそうだ。一体あいつはなにしたんだろうな?
まぁ、あんまりにも問い合わせが多すぎてわが社自慢の電話番、AIオーイシアキコも困っていたので助かるっちゃ助かる。ただ代わりに宣伝関連はちゃんとやらなきゃいけなくなったため、『かすが』との対談形式で原木理さん、クマコーの二人で番組を作った経緯を説明したり、どういった作品なのかの説明をしたり、あのギターは本当に俺がやったのか実演で証明したりすることになった。まぁテレビとかで変に扱われるよりは気楽に出来たから良いんだけどね。
“クマコー・THE MOVIE”の件で一仕事を終えたのでVVVとVSの仕事に戻る。Vタレ運動会から1週間が経過し、ついに世間は年末に突入。Vタレにとっては稼ぎ時とも言える12月の到来だ。
といってもうちの事務所はアキコさんの方針で12月末は休みたければ休んでオーケーという方針だ。アキコさんなんかもう今の段階で「クリスマスイブは彼ぴっぴと過ごすの♪」と口に出してガチ恋勢希少種を虐殺しているが、流石に他の全員が同じことをしているって訳ではない。
たとえば実家が地方の3期生組は去年は帰れなかった子が多かったため、今年は全員実家に帰る予定で配信は年明けまで行わない予定だそうだ。立体投射機を持っていかせても良いんだけど地元バレしそうだしね。
後は地元が沖縄のミキちゃんも今年は実家に帰るらしい。ミキちゃんは学業の傍ら田井中さんの紹介する霊障を解決したりしているため、最近は霊能者としての風格も出始めている。ここらで成長した姿をご家族に見せるつもりなんだとか。良いことだ、この機に親孝行してきてほしいね。
「一也くんはどうするの?」
「俺も実家に戻る予定ですよ」
「そっかぁ。『メンチ』くんも帰るって言ってたし私もご一緒したいんだけどなぁ」
言外に外堀を埋めに来たアキコさんに苦笑で返して、上手く言質をとらせずに誤魔化して通す。流石に今の段階で何もない故郷(詐称)に連れてくわけにはいかんからなぁ。
とりあえず魂羽織の予備を保管する場所と人形工房は作るとして、それっぽい住居とか学校っぽい建物とかを将来的には建設して、仮にアキコさんを招待するとしたらその辺を用意してからになるだろう。今回の帰省(嘘)は良い機会だし、ここでしっかりとした拠点を作っておきたいところだ。
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