ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『かすが』から建築ロボットの開発許可が出た、という連絡がきた。
「早くない? 話し通したの先週だよね」
『政府が金を出すわけじゃないしな。ただ、車両を使うなら既存の自動車メーカーと組んで欲しいそうだ』
「というと?」
『車ってのは公道を走るためにはいろいろ試験や届け出が必要なんだよ。という訳でそろそろ経営が危なそうな自動車メーカーがあってだな』
「イロリーさんに相談でよくない?」
『それはちょっと肩入れしすぎになる。日本の産業を育てるって姿勢は見せんと日本の社会じゃ村八分になるぞ』
村八分か。いや、まぁVタレ事務所だから自動車会社に睨まれてもって思ったけど、どうやらそういう話じゃないらしい。国とかお役所が睨んでくると面倒な事態が起きたりするから多少は気を付けろという事だ。
でも潰れそうな自動車メーカーってなんぞいと思ったら中小の自動車メーカーで海外展開を大失敗した会社があるらしく、そこの株式が激安になってるんだとか。日本の自動車メーカーって盤石ってイメージだったんだが近年はそうでもないのか。
そこの会社の株式を10%ほど買取り業務提携の話しに持っていくのが多分一番早い、というのが『かすが』の見立てだったので早速先方、松戸真楠自動車に連絡を取り次の日にはお伺いする事になったのだが。
「50億ですか」
「はい……運転資金にすら事欠く状況でして」
俺の質問に松戸真楠自動車の専務さんは、顔を青くしながらそう口にする。この50億というのは赤字の総額ではなく、今年会社を経営していくうえでこれだけないと経営できないと分かっている金額の事だ。ようは従業員の給料だったり工場を動かすための資金だったりそういうのだね。運転資金がないって会社としてはもう倒産3秒前なんだけど大丈夫なのかこの会社。いや、大丈夫じゃないから『かすが』はここの名前を出したのか。
なんでもこの会社は乗用車よりもトラックとかクレーン車とかの工業用車両を作ってる会社らしいのだが、海外向けに作ったマッドシリーズとかいう工業用車両が大ゴケしたらしく長年大量の資金を使って育てていた海外販路を完全に失ってしまい、銀行からも見放されてしまったんだとか。
「良いクルマなんですがねぇ。車両同士のぶつかり合いや銃撃戦にも耐えうる頑丈な装甲を持ち、タイヤだって対人地雷なら耐えられる強度。その分お値段はお高くなるんですが」
「お、え、はい……」
専務さんの口から出てくる性能評が紛争地域で使う装甲車両としか思えないのだが、出された資料の写真はどこからどう見ても土木作業用のトラックにしか見えなかった。そしてお値段は一台で8000万。他所の会社の新車の4倍くらいの値段である。そりゃ売れんわ。
だが、まぁ。うち向けではあるよなぁこの車。普通の投資とかならこんな色物作ってる会社と繋がるというのは悪手も悪手なんだろうが、今回は『あきら』が創る工業用ロボットの土台になる車両を作ってほしいという目的がある。このマッドシリーズはその土台としてかなり適しているんじゃなかろうか?
資金に関してもヴァーイという規格外AIの開発により、VVVには現在進行形で唸るほど金が入ってきている。なんなら松戸真楠社を丸ごと買っちゃえそうな程度には金があるが、自動車会社の経営なんてやりたくないからあくまでも業務提携程度が望ましい。
よし、やろう。ここに来るときにアキコさんも『リリーベル』も何も言ってなかったしここと繋がるのが一番良さそうな気がする。
「分かりました。50億、融資いたしましょう」
「おお! ありがとうございます!!」
「その上である要望を聞いていただけたら追加で50億融資いたしますし、今後の資金援助なども検討させて頂きます」
「そ、それは一体……?」
ごくり、とつばを飲み込んで専務さんが尋ねてくる。ノリが良いなこの人。とはいえ『あきら』が創ろうとしているロボットの土台になる車両の作成なんてどの会社もやった事がないことだし、追加融資があるとはいえここは難色を示されるかなぁなんて思っていたのだが。
「新時代AIで有名なVVVさんが創る自立型AI搭載の工業機械、しかも変形機能付き……それ、それはつまりトラン〇フォーマーって事ですよね!? やります! うちでやらせてください!!! 今すぐ業務提携しませんか!!!?」
「あ、はい。あ、いや社長さんと意見すり合わせとか今回はあくまで提案で」
「分かりました社長連れてきます! すぐに来るんでお待ちください!!!」
提案した途端、専務さんは食い気味でそう宣言し、勢いに押された俺を置いて応接室から飛び出していった。お、おお。このパターンは予想してなかったな。今回はあくまでも条件のすり合わせで、これ以降の話し合いで本契約に持っていくつもりだったんだが。
本当にそのまま本契約になりそうな雰囲気に慌てて持ってきた書類を確認していると、顔を真っ赤にした専務さんが同じく顔を真っ赤にした作業服を着た初老の男性を連れて戻ってきた。あ、この人が社長さんだろうか。社長さんなのにツナギ着てるんだな。
「これですか! この書類にサインすればうちでトラン〇フォーマーの開発を行えるんですか!」
「共同開発です。うちの『九十九あきら』博士と協力して」
「しますとも! すぐに始めましょう! 契約! さぁ!」
勢いが凄い。
流石に今日持ってきた書類は本契約用じゃないという事で一度その場はお開きとなり後日、今度はアキコさんや『あきら』も連れてお伺いする事になった。いや、後日ですって。明日じゃなく。
なんてやり取りを交わしてから数日後。契約書面を弁護士の先生に確認して貰ったりしてからお伺いしたら、何故か先方は重役の方々全員が一列にずらっと並んでいて契約を取り交わした瞬間に万歳三唱をしてきた。なんだこの会社、面白すぎるだろう。
「やる気満々って感じだったわねぇ」
『面白そうなおじさんたちだったね!』
そのまま今日は高そうなスーツを着た社長さんとアキコさんが握手をして契約は完了したのだが、今回は契約を取り交わしてからが本番だ。開発拠点として千葉県松戸市にある工場の一つを提供してもらい、そこに『あきら』が使う工具や機械、更に一部完成しているパーツなどを運び込む。あのデッカイ足とかそういう部分ね。
この足は巨体を支えるために作られたものであり、『あきら』が想定する巨体を支えるにはこの足くらいの頑丈さがないと話にならないため、これを参考にしてこれから新しい車両を開発していくのだ。
あ、そうだ。
「アキコさん、今日はこのまま帰る予定ですよね? ちょっと見て欲しいものがあるんですが」
「あら、なにかしら」
「じつは個人の仕事でもらったものがありましてね。ちょっと車でかかるんですが見に行きたいなって」
「んー、今日は配信はしないし付き合えるわよ。あきらちゃんはどうする?」
『一也くんの奢りでご飯!』
「良いぞ。そのまま九十九里まで出て海鮮食べるか」
同行者の二人からOKを貰えたのでレンタカーを借りて千葉県の内陸部へと向かう。のどかな風景を眺めながら高速を使ったりして大体2時間ほどで、目的地に到着する事が出来た。広大な牧草地に、どこまでも続くような柵。その中でのんびりと草を食んだり走り回る馬たち。秋村さんに聞いていた通りの風景だ。まさか一日分の対価でこんなものをポンと用意してくれるとはなぁ。言ってみるもんだ。
「わあ……一也くん、これってなに?」
「実は去年、ちょっとした伝手でこちらの牧場を安く譲ってもらえまして。あ、自分が牧場を経営するんじゃなくてあくまでオーナーとしてです。それで、ちょっとしたプレゼントなんですが」
車から降りたアキコさんが目を見開いてそう尋ねてくる。うん、良い感じに驚いてくれたみたいだ。サプライズとしてはバッチリだったな。道沿いに設置された耶馬千葉牧場と書かれた看板に手を置いて、いたずらが成功した事に内心でガッツポーズをしながら、言葉を続ける。
「アキコさん、うちの牧場で生まれた仔馬の馬主になりません?」
そう俺が口にした瞬間、アキコさんの表情が驚きからどんどん笑顔に変わっていく。いよっし、サプライズプレゼント大成功だな!
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