ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→   作:ぱちぱち

150 / 150
第150話 庭先取引成立ですね

「山里さん! 言って頂ければお迎えに上がりましたのに」

 

「いえいえ、お気になさらず。あ、こちらうちの社長の大石明子です」

 

「大石明子です、よろしくお願いします」

 

『九十九あきらでっす! ね、あっちのお馬さん見て気ていい!?』

 

「どうぞ。ただ、近づくと危ないんで柵を超えないでくださいね」

 

 

 耶馬千葉牧場の牧場長、耶馬さんはがっしりとした大きな体格の青年だった。齢は恐らく40は行ってないだろう。随分と熱のこもった握手をしてきたのでちょっと面食らってしまった。俺、貴方の牧場を金で奪った形になりますよね……?

 

 

「うちの従業員一同、山里さんには足を向けて眠れないですよ」

 

「そうですか? お金で牧場を取り上げたみたいな形になってるし、御不快に思われてないか心配だったんですが」

 

「とんでもない! もうね、今の時代は競馬は赤字との闘いなんで……」

 

 

 この耶馬千葉牧場は明治御一新の後に出来た由緒ある牧場で戦前は軍馬を、戦後は競走馬の生産を行ってきたそうだ。過去にはG1を何勝もする有名な馬なんかも居たらしく、競馬の歴史に寄り添うように今まで続いていたのだが時代の波には勝てず競馬人気の縮小と共に赤字になってしまい、このままでは数年で廃業しなければいけない段階まで来ていたという。

 

 そのタイミングで昔付き合いのあった秋村さん家から連絡があり、なんと巨額で牧場を買い取り、資金提供まで行ってくれる人物が現れたという。しかも実際の牧場経営はこれまで通りの従業員にお任せするという至れり尽くせりぶり。

 

 

「私には、もう貴方が福の神にしか見えません。先祖伝来の牧場畳んでどうするかって毎日考えてたのが、嘘みたいです」

 

「あ、はぁ……あの、牧場を見せて貰っても?」

 

「勿論ですとも! 貴方の牧場です、ご自由に見ていってください!」

 

 

 キラッキラした目でそう口にされるが、秋村さんから仕事の報酬でもらっただけってつもりだったからここまで感謝されると、その。物凄く居心地が悪い。あとお金の件は初耳なんだが、秋村さんにメールで尋ねると「当然維持管理費はこちらで持ちます。山里さんには一切お手間をかけさせません」と返ってきた。お、おう。俺としては適当にお酒に霊力を纏わせただけの霊酒もどきを作っただけなんだけどね。『メンチ』が創った霊酒みたいに手間暇かけて調整してない原価200円の霊力手りゅう弾にこんな価値があるのか。

 

 そういえば『メンチ』の霊酒も目が飛び出る位の値段がついたらしいね。将門公に飲ませる前に試飲した神社庁のお偉いさんは飲んだ瞬間にトイレに駆け込み一時間くらい出てこなかった後、出てきた時には5歳くらい若返っていたらしい。古傷や腰の不調なんかも全部消えてたそうだから伝説の神酒に匹敵するとまで言われいて、将門公も一口飲んだ瞬間に【かんろ……】と言って顔がもうふやっふやにふやけてしまったとか。もちろんお替りを要求されてるんだけど『メンチ』は『手間かかるし疲れるんで半年に一回なら』って断ったそうだ。まぁ、あんだけ丁寧に霊力を織り交ぜて作り上げたんだからそりゃ疲れるわな。俺が創ろうとしたら多分ひと月はかかるんじゃないかな、あれ。

 

 

 

 

「ピンクちゃん! うそ、一也くん、ピンクちゃんがいる!」

 

「ああ、ピンクスカートはうちの看板でしてね。今年から繁殖に上がるんです」

 

 

 牧場を見て回っている時、とある馬に気付いたアキコさんが大はしゃぎで俺の肩を叩いた。昨年引退したピンクスカート号はアキコさんが初めて競馬をした時からひいきにしていた競走馬だ。3歳の頃は同期に後れを取っていたがアキコさんが初めて馬券をかけたレースで覚醒。それ以降重賞をいくつも勝ち、引退時には同期のライバルであるリボンチャンと同じG1二勝の名馬になった。

 

 

「ピン子のお陰でうちの牧場の寿命は3年伸びましたね。ただ、このままだとピン子の子供かピン子を売らないと持たなかったんで。山里さんには、本当に感謝してます」

 

「いえ、ギリギリまで売却を待っていただいて助かりました。お陰でうちの社長も喜んでますし」

 

 

 牧場の為に活躍してくれた馬を売らなければいけないってのは、やっぱり悔しいのだろう。耶馬さんがこんな態度なのはその点も結構関係してそうだな。まぁ俺と耶馬さんは互いにハッピーな間柄というわけだ。長く付き合う事になるだろうし、互いに得のある関係ってのは大事だよね。

 

 

「ピンクスカート号にはシロノマキバオー号を付ける予定でして。シロノマキバオー号は血統的に未知数な部分が多いんですが、まぁ大した成績を上げた牡馬ですから子供も期待できますし遺伝的な問題もこの組み合わせならない。ピンクスカート号が受胎するかはまだ分かりませんが、その子が生まれたらアキコさんにオーナーになってもらいたいんです」

 

「やる! どんな子でも私がオーナーになるわ!」

 

「庭先取引成立ですね」

 

「まだ種を付けてもないんですけどねぇ」

 

 

 そして本命であるアキコさんへのプレゼント。やがて生まれてくるだろうピンクスカートの子供だが、目論見通り大喜びしてくれているみたいだ。もちろんまだ種も付けてない状況の皮算用だけど、人間同士だって子供が生まれる前に「俺の子供とお前の子供で結婚だぁ」なんて言う事もあるんだ。このくらいはまぁ許されるだろう。

 

 ただ、これだけアキコさんが喜んでる以上はもう一押し、確実性を取りたいところだ。まず考えられるのは繁殖シーズンと言われる5月~7月に向けて牧場の設備にテコ入れだな。近年の異常気象を考えて馬房の冷暖房などを整備して、更に獣医などとも契約。それと……うん。本当は建築系のアニメを見るつもりで準備してたけど、そっちは『あきら』が何とかしそうだしもう良いだろう。アニメ、見ようかな。

 

 しかし馬産系のアニメってどんなのがあるんだ? 喋る馬とかが出てくるアニメだと俺、馬になっちゃうのかな? それはそれで面白そうだし『セシル』に代打頼んで試してみるかな。




更新の励みになるのでお気に入り・評価よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

チートハッキング能力を手に入れた浪人生、善性ゼロのまま世界を幸せにして復讐する~東大理三落ちの欠陥品は、政府と気まぐれ性格最悪女AIを使って現代社会の神になる~(作者:tinko1129)(オリジナル現代/冒険・バトル)

東京大学理科三類へ落ちた平尾龍は、自分を人間失格と判定し、首を吊ろうとした。▼その瞬間、あらゆる電脳と機械へ絶対命令を下す【電脳神の右手】を獲得する。▼善性なし。社会性なし。コミュ力なし。▼人が人であるための三要素の無い自分は人ではないし生きる価値等無い▼それでも今度こそ理三へ合格し、人間だと証明する。▼そして受験勉強のストレス解消として、正規品の善人共より…


総合評価:3372/評価:8.43/連載:28話/更新日時:2026年09月14日(月) 20:00 小説情報

転生してイージーモード!(作者:ハニラビ)(オリジナル現代/日常)

普通に生きて普通に死んだ男がチートを得て現代日本にTS転生したお話。作者はバカだからよぉ、難しい話は無しにしねーか?(ただのバカ)


総合評価:4509/評価:8.66/連載:21話/更新日時:2026年09月20日(日) 11:27 小説情報

ドールマスターヒロシ(作者:我島甲太郎)(オリジナルSF/冒険・バトル)

人形使いは木製のマネキン人形を召喚して戦わせる職業だ。▼ゴーレムより脆く、精霊よりも火力がない木偶人形にも一つだけ利点があった。▼それはレベルを上げていけば、人間並みの知能を得られるということ。▼――なら、人工声帯とオナホ仕込んで嫁にするしかないよね。▼そんな性欲に脳を犯された猿どものせいで風評被害に塗れたとある人形使いの少年は、ある日に飛び降り自殺を図って…


総合評価:2466/評価:7.91/連載:125話/更新日時:2026年09月20日(日) 18:00 小説情報

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:3139/評価:7.94/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報

俺の異能が中華ゲーだった ~34歳無職、ガチャで引いたキャラに変身して働きます~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 ブラック企業を辞めて十一ヶ月。実家で無職生活を送っていた34歳の森川直哉の前に、ある朝突然、ゲームのような画面が現れた。▼ その名も《因果集結クロニクル》。▼ キャラクターガチャ、武器ガチャ、レベル、スキル、限定バナーに天井――どう見ても現代の中華系キャラゲーそのもの。しかも無料十連で引いた★4キャラクター《東雲セナ》を選択すると、直哉自身が黒髪の美少女剣…


総合評価:4663/評価:8.07/連載:35話/更新日時:2026年09月23日(水) 14:31 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>