ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
アメリカのテキサスにある競馬場で、俺はアキコさんへのプレゼント計画の最後のピースを埋めるために新しくレンタルしたキャラクターになってお馬さんに跨っている。
なぜこんな事になっているのかというと、レンタルしたキャラクターの能力を活かしてるって奴だな!
『ノリと勢いでしょ?』
――失礼な。ちゃんとフィーリングで生きてるよ
『それがノリと勢いってことでしょ。それで牧場買っちゃったの? アンタえらい貢ぐ君だねぇ』
――貢ぐ君違う。これ、敬愛
『いやー流石に無理があるんじゃないかな? しかもわざわざ私までレンタルしちゃってさぁ』
――プレゼントするってなったら全力で相手に喜んでもらいたいでしょ
『それが貢ぐ君なんだよぉ? あぁ~私の時も君みたいな貢ぐ君が欲しかったなぁ』
かっぽかっぽとお馬に跨ったまま、頭の中で会話を交わす。身体の制御権は完全に相手に渡してあるため、今はこれしか出来ないのだ。まぁ、馬に乗ったことがないド素人の俺が勝手に体を動かしたら危ないからね。プレミアムレンタル中は身体能力も相手のものになる。この状態で落馬したら普通に命の危機だ。
さて、これから始まる大レース~なんて歌にあるが俺たちが挑むのはそんな規模の物じゃなく、ほとんど草レースに等しいものだ。ただしこの草レースで勝利を重ねる事でもっと上のグレードのレースに出場する事が出来るようになる、大事な実績の一歩目になるものでもある。
『いやー、まさか日本じゃなくアメリカで騎手デビューする事になるとはねぇ』
――騎手学校に通う時間がなぁ。まさか2年も3年もかかるとは
『元世界の騎手免許が使えたらいいんだけどねぇ。ま、アメリカなら運が良けりゃ来年には短期免許に手が届くんじゃない?』
――実績がないと駄目なんだろ? G1とかでっかいレースで勝たなきゃダメって聞いたけど
『だから運。馬次第なんだよぉ。私ほら、天才だから』
そう言って、俺が今回レンタルしたアニメの主人公、『篠原まみ』はにへらと笑顔を浮かべる。
『篠原まみ』は『スパート!』という競馬アニメの主人公で、篠原牧場の跡取り娘であり騎手という経歴のキャラクターだ。内容としては自分が育てた馬たちが馬肉にされるのを見た『まみ』が騎手になり、少しでもいい成績を残してもう少しましな未来を馬たちに歩ませる事を目的としたお話でその部分だけを聞くとかなり重たく感じるんだが、基本的に『まみ』も彼女が育てた馬たちも明るくコミカルなため終始気軽に見る事が出来るアニメだった。言い間違いではない。『まみ』だけではなく馬たちも明るくコミカルな作品である。
こういった表現になる理由は『まみ』の特殊能力にある。彼女は動物と喋ったり気持ちを察する事でコミュニケーションをとれる能力があるのだ。
つまり不調を抱えた馬が居たらどこが痛いかを直接聞けるし、彼女は作中で実家が契約してる獣医の手伝いを何度もしているためある程度の知識もある。もちろん馬産の知識もあるため初産のピンクスカートを助けるために必要な人材だと思って彼女のアニメを見てプレミアムレンタル権を取得したのだが、そこで俺はある事に気付いた。
彼女の経歴、自分の牧場で育った馬を勝たせるために騎手になったという点をもっと役立てられないか、と。競馬とは馬と騎手が必要で、馬は用意出来たとしてその馬の力を100%以上に発揮出来る騎手も必要になる。だったらそれも用意出来ないかと思ったのだ。
『それで騎手させる方がメインになったら意味ないんじゃない?』
――テレポートで小まめに千葉に戻すから大丈夫
『私が大丈夫じゃないなそれ! えぇ~それ税関とか大丈夫?』
――大丈夫大丈夫。出入国はちゃんとつけてるから
『……ど、どうやって???』
そこは聞かない方が良いかもしれないなぁ、なんて軽口を交わしながらゲートの中へ。今回マックス氏にお願いして用意して貰った馬は今回が初レースらしく、結構気性が荒くて心配されていたのだが、ここに来るまでに『まみ』がしっかりお話しているため大人しくゲートの中に入ってくれた。
【マミ! 俺、こいつら殺す! 全部殺す! 俺一番!】
『おうおう、ナーガは元気だねぇ。でもねナーガ、一番になるなら殺すんじゃなくて一番早くあそこの前を通らないといけないんだよぉ』
【じゃあやる!!】
いや、気性の荒さは全然変わってないけど、まぁ上手い事御されてるから良いか。良いよな多分。
気性の荒さが心配されているとはいえ、今回乗っているナーガという馬はかなりの素質馬らしくまともに走れば中々上に行けるんじゃないかと言われてる馬だ。今回、非公式レースに出されてるのは公式レースに出る前にそもそもちゃんと走ってくれるかの確認的なものになるんだとか。勝敗もつかないって話だし、この馬のオーナーはかなり期待してるんだろうな。
まぁ、その期待に応えることは出来ただろう。レースが始まった瞬間にナーガはロケットスタートをかまして先頭に躍り出ると、そのまま後続をずっと突き放しっぱなしで1200mを走り切り一着になった。懸念されていた暴走は巧いこと『まみ』が抑えて能力をバッチリ発揮したナーガはもしこれが公式レースなら記録級のレコードを叩きだしてゴールインし、オーナーさんを喜ばせたのだ。
『素晴らしい騎乗だった! 女性でこれほど乗れる騎手は初めて見たよ!』
『あざざっす。あ、英語苦手なんで申し訳』
『構わん構わん! いやぁ、マックス氏から女性騎手を紹介された時はどうかと思ったが、後でお礼の電話を入れなければな! この後のレースでも私の馬が走るんだが、騎手が空いてね! 乗ってみないか!?』
『あざざっす! あ、それだと次の次のレースは他の馬主さんの馬に乗るんでぇ』
そしてレースが終わってからが今回の本番、良い馬主と繋ぎを持って他のレースへと繋いでいく営業の時間だ。アメリカの騎手は学校なんて存在しないが、公式レースに出るには調教師からの推薦で資格を得る必要がある。つまり腕と評判次第でステップアップが出来るわけだ。
競馬は馬の能力が7割で残り3割に騎手の腕や運があると言われている。上のレースで活躍するには今回乗ったナーガのような素質馬に巡り合う必要があるわけだな。
『まみ』はその後のレースでも複数1着を取り、最低でも2着というかなりの好成績でこの日のレースを終えた。元々地元の名士であるマックス氏からの紹介で評価は悪くなかったのに、この好成績で更に周囲の見る目が変わっているのが分かる。ナーガの馬主さんなんか自分の馬を軒並み勝たせてくれたからか『まみ』を大層気に入ったらしく、贔屓にしている調教師に紹介したいとまで言い出している。
まぁ流石に今日の成績がフロックだと言われそうだからあと2,3回は同じような事をしなければいけないけど、この調子なら米国での騎手ライセンスは比較的早く手に入りそうだな。
――よし、じゃあ日本に戻ろうか。ピンクスカートの体調管理が最重要だからな!
『うへぇ。時差で死にそぅ』
――向こうでまたレンタルしなおすから大丈夫じゃないか?
『そうかな……そうかも……?』
ぼやく『まみ』から体の制御権を取り戻し、『ひばり』のテレポートで千葉の耶馬千葉牧場近くに借りた一軒家へと移動する。日本だと昼過ぎの時間帯だから、お伺いするには良い頃合いだろう。まだ『まみ』の魂羽織は完成してないから、今日の所は『まみ』の助言を貰いながら俺がピンクスカートの体調を見る感じでいこう。耶馬さんに早く『まみ』を紹介したいんだが、それは次の機会だな。
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