ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
“クマコー・THE・MOVIE”が映画館で公開されて2週間。俺と原木理さんは予想外に舞い込んできた仕事に追われていた。
「これ映画館に必要あります???」
「場末映画館だけズルいって言われちゃってさぁ……」
大きな鉄板に5本指で爪痕を刻みながら原木理さんに尋ねると、原木理さんもかなり不服そうな表情で爪痕が刻まれた木の板にサインを書きこんでいる。何をしているかというと、映画館に飾る宣伝材料?みたいなものを作っているのだ。
発端は映画を撮っている最中の事だ。先行上映を行っている映画館のオーナーさんに原木理さんが俳優時代からお世話になっている人が居て、その人のお孫さんがクマコーのファンだという話を耳にした原木理さんが、クマコーのサインを欲しいと口にしたためじゃあという事でセット作成とかに使う木の板に五本指で爪痕を刻んだものを渡したのだ。
原木理さんは随分と引いていたが、クマコーって名前書いてサインするのもなんだか恥ずかしいからね。実際に貰ったお孫さんは随分と喜んでくれたらしいし、以後俺のサインはこれで行こうなんて当時は思っていたんだが、風向きが変わったのは映画公開後。このサインをオーナーさんがお孫さんから借りて映画館で展示していたらしく、それがSNSでバズったのだ。
そしてそれを見た他の映画館から「ああいう宣材があるならうちにもくれ」と一斉に連絡があり、いやあれは個人へ送ったサインだから、と俺や原木理さんは主張した物の最後には泣き落としまでされたため、今こうやってサインを量産する事になってしまった。
せめてもの抵抗として俺の爪痕の下に監督である原木理さんのサインも書き込んでいるのは、最初のアレは個人的なサインだったという主張を続けるためだ。あくまでこいつは宣材として請われたから作ってるだけなんだよ。
「ところで映画館からグッズの販売について問い合わせが来てるんだけどうちそういう伝手がないんだよねぇ、クマコーくんの会社、そういうの出来ない?」
「出来ますけどあの映画でなんのグッズを売るんですか? クマコーのぬいぐるみはもうVVV公式で販売してるんですけど」
「ヒロインになった血まみれ受付さんのプロマイド写真とか販売しないって言われてるんだよね」
「ヒロインになったとは???」
血まみれ受付さんとはクマコーが入社試験(笑)を行うたびに次の試験会場を白目向いて口から血をたらしながら指し示す案内人の事であり、設定としてはこの遊園地を作った前オーナーの娘さんで遊園地が呪われてしまった際に巻き込まれて悪霊化した人である。クマコー・THE・MOVIEでクマコーが一言も喋らない為、勝手に遊園地の呪いについて語りだしたり観客に現状を教えてくれる役割の人なんだが、クマコーが呪われた遊園地を解放していく最中に彼女も浄化されて悪霊から幽霊にジョブチェンジ。
以後はクマコーに憑りついてナレーションと一緒に背後から指示を飛ばす背後霊になり、遊園地が無事に解放された後は権利を押し付けられたクマコーに遊園地を経営しろと脅す所で映画は終幕する。まぁ確かにヒロインっちゃヒロインなのかな。ナレーションと口論したり観客に向かって「クマコーを応援して! ほら3・2・1、クマコーがんばえー!」とどう考えても第三の壁を突破した発言をしたりやりたい放題してたけど。ちなみに配役は原木理さんの奥さんで元女優さんらしい。中学生のお子さんが居るとは思えない美人さんだった。
まぁそんなやり取りをするのもB級映画の醍醐味というか、そもそも2週間で作った脚本なんだから適当な部分が多々あるストーリーなんだがむしろそこがウケているらしい。なにも考えずにすっと見れて最後まで笑って映画館を出れる作品だとか……おかしいな、一応これホラー作品じゃなかったっけ。
馬鹿とバカをかけ合わせちゃいけない。
全長20mの頭おかロボットの設計図は思わずそう思ってしまう出来栄えだった。俺もロボット工学の知識が天才の10分の1くらいはあるはずなんだが、なんでクレーン車とショベルカーとトラックが三位一体となって合体するのかが理解できないのだ。設計図としての出来栄えは完ぺきである。多分AI部分とか以外はこのまま他社に持っていっても同じものが創れるんじゃないかな。AIが無きゃ合体は出来ないだろうけど。
『どうだ!』
「却下だ」
『そんなー!!!』
「やっぱ駄目か」
「合体必要ないしな……」
自信満々にそう叫んだ『あきら』に却下を言い渡すと、この世の終わりだと言わんばかりの表情で『あきら』は天を仰いだ。当たり前だ。なんで合体が居るんだよ建築ロボットに。あと周りの他の技術者たちの「まあそうだよね」って反応に思わず分かってるんならやるなよと声を出しそうになったが、この会社は海外向けに対人地雷を踏んでも壊れない! とか言ってトラックを売りつけようとする連中だったと思いなおす。とりあえずやってみて作った車がこれまでもいっぱいあったんだろうな、これ。
まぁ、多分本命だった冗談にしたいロボットの設計図はさておき。合体を必要としないクレーン車等を変形ロボット化した車両の設計もすでに終わっているらしく、車体に関してはいつでも作れる状態だという。後は実際に運用するためのAIを開発すれば変形機能なども使える状態になるから、そこから性能実証実験を行い問題無さそうなら性能試験を行い、そこでも問題がなければお上から認可を貰って販売となる。
ただ、追い風にはなるんだがここに来てちょっとした問題が一つ上がってきている。
「そういえば立山さんの所で使ってる安全くんがすっごい評判良いらしいぞ」
『そうなんだ! よぉし、じゃあ安全・確認・ヨシくんに合体機構を』
「つけないで良いぞ。立山さんの会社からは是非量産して欲しいって言われてるから、安全くんシリーズの生産受注とかって無理だよな」
『うーん。安全くんは一品物だからねぇ。作れって言われれば作れるけど、量産って言われるとちょっと困るかな!』
朗らかにそう笑う『あきら』だが、応対しているこっちは割と笑えないというか。どうも安全くんが欲しいと言っているのは立山さんの上、つまり社長とか副社長さんらしく、曰く『彼が居るだけで一つの現場の作業効率が段違いに上がる。施工管理の最高の相棒になる』と非常に高評価なんだとか。その為、立山さんはなんとか安全くんを複数台手に入れるようにと無茶ぶりされてるらしく、『メンチ』に泣きついてきたりしている。
安全くんはあくまで性能実験中の機材で現在量産性の高い新型を開発中です、と伝えて貰ってるんだけどね。立山さんにはこちらからのお願いを聞いてもらってる形だし、『メンチ』の飲み友達だから無下にはしたくない。故郷(詐称)の開発に勤しんでいる確認くんを持ってきてお茶を濁してもらってるうちに新型の開発を進めるのがベターかな。
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