ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
最近、VS事務所が騒がしい。いや、騒がしいというよりかはやる気に満ちていると言うべきだろう。VSはフレックスタイムを採用しているため出勤時間はバラバラだが、出勤してきた人は俺を見ると大きな声で挨拶をしてくるし、書類仕事も慣れてきたからというのもあるだろうがテキパキと熟すし、電話などもメリハリの利いた声音で応対している。
去年までは皆、出勤してきた時はもっと声小さくてテンションも低かったし電話応対なんてやりたがらなかったのに。なにかあったのかなと思って梟くんに聞いてみると、彼は目をパチクリした後に頬をかき、
「いやー。多分、みんな安心したんじゃないですかね」
「安心? 給料の遅配とかは起こしてないはずだけど」
「いや。そうじゃなくて、ほら。まんしぃちゃんの大騒動で社長、最後までまんしぃちゃんの為に動いてくれてたじゃないですか。あれ、僕らからしたら本当にありがたくて。あのレベルのやらかしでも社長はなんとかしてくれるって」
「もう一回やらかしたら流石にホログライブさんに熨斗つけて返すけどな???」
「いやそりゃ当然でしょ。むしろなんで今回返してなかったのかって」
「……それもそうだな。ちょっとカダー社に連絡入れるか」
「しゃちょぉ! わたしがんばってはたらくからぁ! すてないでぇ!!」
俺と梟くんの会話を聞いていたまんしぃさんがそう嘆くと、周囲にいた他の社員がケラケラと笑う。笑ってはいるが、若干「こいつ、マジか」って顔になってるのはまぁ、皆さん彼女の言動に思う所があるんだろうな。
まんしぃさん、悪い人じゃないんだろうな。美人さんに生まれた人特有の自分の容姿に対する自信とかナチュラルに男を誘惑していく言動とか言葉の節々が問題を引き起こしていくだけで、多分本人そこまで酷い人じゃないんだ。ただ悪意が無いだけで自分に甘い所があったり絶望的に間が悪かったりするからやらかしが大きな問題になっちゃうだけで……駄目だな、フォローしようと思ったのにどうしても辛口になってしまう。
これ、この人がホログライブ離れたのは大英断だったんじゃないだろうか。あのまま向こうのアイドル売りで活動し続けてたらその内ガチ恋勢向けアイテムに結婚指輪とか作ってシャレにならないタイミングで既婚がバレて大惨事とか起きてたかもしれない。うちじゃそういう売り方はしないでくれと厳命してあるから現在のまんしぃさんは小悪魔系面白Vタレくらいにまで落ち着いてきたが、半年前の彼女のチャンネルはまぁ酷かったからな。俺が画面の端で仕事してるだけでユニコーンが喚き散らしていた。
これは他の人にも言える事で、同じホログライブ所属の竜ヶ坂さんなんかもVSに来てからはアイドル売りを自重しているため所謂ガチ恋勢が少なくなっており、収益的には落ちているらしいんだがアンチと言われる連中からの攻撃は随分と少なくなったそうだ。
「お陰で最近はよく眠れてお化粧のノリもすっごく良いんすよぉ」
「その節は申し訳……」
「いや。はちじくじさんが悪いんじゃなくてアンチが悪いんでね……」
竜ヶ坂さんの言葉にはちじくじ組の梟くんが謝罪を述べているが、これはホログライブの熱烈アンチは大半がはちじくじファンというのがAmamiya Newsによってバレているためだ。どういう経緯でバレたのかというと、ホログラアンチが起こした炎上をAIオーイシアキコが調査した際、匿名インターネット掲示板などで書き込まれた内容をIDなどから見ていくと殆どのIDが似通ったもの。つまり同一のグループによって起こされた炎上だというのが発覚。更にツブヤイターなどで書き込まれた内容を見比べたりして、このグループが過去にも同じような炎上事件を引き起こしていたりはちじくじを応援していたりという事が発覚したのだ。
これにホログライブファンは激怒し、今年の始め位からホログライブファンとはちじくじファンはかなりバチバチにやりあっている。まぁその両者からの共同出資で設立したVSは一歩引いた所で眺めてる感じになっているけどな。ただ、件のアンチグループは両者にとっても唾棄すべき連中というレッテルを張られていて、近く訴訟にまで行くんじゃないかと噂されている。
これは昨年の総選挙がネット上での暴露が発端だった事もあり、発足した新内閣はネットワーク関係の情報取り扱いや犯罪などの取り締まりにかなり力を入れているのが理由だ。元々匿名性の高いネットでの誹謗中傷は長年問題視されていたため、それらに対応できるように刑法が改正されたりして今年から情報開示請求などが通りやすくなったため、それを使って被害を受けたホログライブ側がこいつらを訴えるんじゃねぇかという事だな。
まぁ、このアンチグループはどうやら所在を誤魔化すVPNなんかを使っているため開示請求でも身バレしないと高をくくっているらしく、今も元気にツブヤイターや匿名掲示板でアンチ活動を行っているらしいんだが、カダー社側からAmamiyaNews経由で依頼があったらしく、『かすが』が潰しにかかってるみたいだから自宅に書類が届いたりしてその内大人しくなるだろうから梟くんもあんまり責任感じなくていいよ。君が悪いわけじゃないし。今はそんなどうでも良いことよりも年度末に向けての準備を頑張ろう。VSは3社共同出資の会社だからちゃんと書類を準備しておかないとね。
「ししょぉ~! 曲作りが難しいですぅ!」
「自分で頑張りなさい(鬼畜クマ成分)」
決算に向けて準備をしているVS事務所に悲鳴が響く。その悲鳴の主、桃源郷ろくここと百山さんに無慈悲に告げると、彼女はバタバタバタとVS事務所に入り込むと机に座る俺の背中にひしっと抱き着いてきた。露骨な身体接触。俺じゃなきゃ(背中の感触を)見逃しちゃうね。
背中の柔らかさに免じて手伝っちゃおっかなぁなんて内心うきうきしてると、周囲で仕事をしていたVSの女性社員たちが「てめー、なにしてんだこらぁ!」「うちのしゃちょぉは忙しいんだよぉ!」「うちのシマあらしてんじゃねぇぞぉ!」とわざわざ事務所配信のマイクをONにしてろっこちゃんを俺から引き剥がし、三下ヤクザのやり取りみたいなものを始める。ちらっとVS事務所配信を見るとこの寸劇が始まってから同接数がぐぅっと伸びていた。流石はプロ、勝負所を良く分かっている。
そしてこのやり取りは梟くんと俺はお口チャックが原則だ。女の子同士のやり取りに男が入るのは火種にしかならん。百合の間に挟まる男は同人誌だけで良いのだ。
そしてそのまま流れでろっこちゃんとVS女性社員たちで曲作り大会が始まるのだが、歌う方は兎も角自分で曲を作るという経験をしたことがあるVタレさんというのは意外と少ないらしく、途中からろっこちゃんが先生役になって曲の構成だとかメロディーについてのうんちくだとかに話が流れていき、最終的にろっこちゃんのギターに合わせて“V.V.V”を合唱して音声有り配信は終了。
はー楽しかったと片付けに入ったVS女性社員たちと額の汗を拭ってろっこちゃんは部屋を後にし、数秒後バンッ! とドアを開けて「曲作りが難しいんですぅ!」と悲鳴を上げた。途端に爆笑に包まれるVS事務所内。見事だろっこちゃん、まさかここで天丼を使ってくるとは。
とりあえず仕事が終わったら付き合うから帰れと言ってろっこちゃんを帰した後、笑いが納まったらしい竜ヶ坂さんがひぃひぃ言いながら口を開く。
「げほげほっ……はぁー、おもしろかった。ろっこちゃんボケの才能ありすぎじゃないです?」
「音楽の才能とボケの才能に恵まれたおなごだからな、あいつ」
「音楽とボケの才能www」
「でも、ろっこちゃん曲作りとかやってるんですね。VVVの曲は全部マネージャーが創ってると思ってたのに」
「流石に一人で作り続けるわけにもいかないからな。俺も忙しいしろっこはそろそろ自分の音を見つけるべきなんだよ」
「ですよねぇ……………………………は???」
俺の言葉にうんうんと頷いた後、ギョッとした顔で梟くんがこっちを見てくる。『ろっこの場合、他人の楽曲提供なんて本当はいらないんだからここらで自分の音楽を見つけて欲しいんだがなぁ。その辺、余り人には伝わりにくい感覚なのかもしれない』。次の次くらいには自作で曲を作ってくれればうれしいんだけどね。
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