ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→   作:ぱちぱち

163 / 163
第163話 開発は順調そうですね

 最近VSの事務所が騒がしい。

 

 いや、まぁ今までも静かだった訳じゃないんだけどこれまでの和気あいあいとしたさわがしさとは違って、最近のさわがしさはなんというかよそよそしいというか探り探りみたいな印象なんだよね。具体的に言うとマネージャー云々作曲云々という話が社員の間でちょくちょく話題になってる感じで。もしかして彼らもマネージャーとかいう作曲家グループが居ると思ってた口なんだろうか。

 

 まぁ直接聞かれた訳でもないから放置してるし仮に作曲依頼とかが来ても受ける気はないんだけどね。VVVのVタレはほぼ全員俺がスカウトしたから彼ら向けの楽曲を用意しただけで、これもあくまでデビュー曲のみのサービス。これ以降は各自自分で作るなり外注するなりやっていってもらう方針だからもう『マネージャー』として表に出るつもりはない。その辺りを察しているのか、空気が読めない方のまんしぃさんも含めて誰も質問してこないのはありがたいことである。

 

 まぁ、とはいえちょっと事務所が騒がしくなっていることには変わりないからちょっと席を外したいな、と思った矢先にイロリー・マックス氏から国際電話がかかってくる。珍しいなと思って電話に出ると、マックス氏は普段のテンション高めな英語ではなく若干困惑したような様子で話しかけてきた。

 

 

『ああ、カズヤ久しぶりだね。ちょっと聞きたいんだけど、VVVが軍需産業に手を出したって本当かい?』

 

「初耳ですが???」

 

 

 マックス氏の困惑気な言葉に俺も困惑気味な返答を返すと、二人そろって『あれ?』という感じになって会話が途切れる。数秒後、再度確認するようにマックス氏が尋ねてきたのは、現在松戸真楠自動車で開発中の車両についてだった。

 

 なるほど。確かにあれは米国にそう勘違いされてもおかしくはないか。だが、あれは軍事用じゃなくてあくまで工事現場等の現場作業用のロボットであり武装する予定はない。というかあんな変形機能付きのロボットなんてどう考えても普通の戦車よりも柔いんだから、純軍事用ならあんな物を武装させるよりも四つ足の戦車とかを開発した方が絶対に割に合うはずだ。まぁ専門家じゃないからあくまでも予想だけどな。

 

 俺がそう口にするとマックス氏も『だよねぇ』と半信半疑っぽい口調ながらも頷いてくれたので、彼にとってもこの話は寝耳に水というか信ぴょう性の低いものだったのだろう。だが、彼ほどの多忙な人物がそんなあやふやな情報をうのみにして電話なんてかけてくるはずがない。なにか理由があるはずだと尋ねると、マックス氏は少し躊躇いながら今回の電話の経緯を説明し始めた。

 

 

『いやね、僕もまぁそちらが開発してるロボットの情報は耳にして注目してたんだよ。だって話に聞く性能なら絶対に月面とか宇宙空間での作業に役立つでしょ? ある程度目途が付いたらそちらから連絡もくれると思って楽しみに待ってたんだけど、ついさっきアキラから連絡が来てちょっと手を貸してほしいって言われたんだ』

 

「アキラから? 現在は素材の検討中でVVV側ではイロリーさんに頼むような案件は無かったはずですが」

 

『うん。それ、素材だよ。アレってマジで開発しちゃったの? 複合装甲よりも理論上は硬いって言われたんだけどそんなの主力戦車に使う素材でしょ? アヴェンジャーを使って耐久試験したいから米軍に話を付けてくれないか、なんて言われちゃったんだけど民間用にそんな素材が必要とは思えなくってさ』

 

「アヴェンジャーってなんです???」

 

『A-10に積んでる30mmのガトリングらしいけど』

 

 

 そこまでマックス氏が口にして、再び俺と彼の間の会話が途切れた。なにか、互いに前提が食い違っている事に気付いたからだ。少し整理しよう。俺とマックス氏の間で『あきら』が現場作業用のロボットを開発しているのは共通認識だ。ここは良い、次にそのロボットに使う素材について強度の問題があるため『あきら』が開発している、ここまでも認識はあっている。

 

 じゃあ、その上で問題は次だ。現場作業用の重機を改良したロボットに30mmガトリング砲の斉射に耐える装甲材が必要かどうか。必要なわけがない。うん、ここが問題だな。そして、俺とマックス氏の話が食い違っている原因もここだ。そりゃマックス氏が慌てて電話するわけだ。俺も電話中に席立っちゃったもん。

 

 

「ちょっと知らない話が飛び込んできたんで急いで『あきら』に問いただしてきます。ご連絡ありがとうございました」

 

『あ、うん。気を付けて……お手柔らかにね?』

 

「それは状況次第ですかねぇ」

 

 

 苦笑が聞こえてくるスマホから耳を離して電話を切る。『あきら』は今日も松戸真楠自動車に居るから向こうの開発工場に行けば捕まるだろう。ちょっとしっかりがっちりお話しないといけないな、これは。

 

 

 

 

 

 

 開発工場は戦場になっていた。

 

 何を言っているか分からないって? 俺も良く分からん。工場のゲートをくぐってすぐの所に走行試験用のコースがあるんだが、そこには幾つもの有刺鉄線が張り巡らされた塹壕らしきものがあり、その周囲には無数の試験車両だろう大破した車両が山積みになっているのだ。

 

 

「ダメです、主任! やはり通常のセラミックでは強度が足りず一度の衝突で内部が駄目になってしまいます!」

 

「ううむ。やはり外装は全て超硬度変異スチールに切り替えなければいけないか」

 

『フレームの強度も足りてないんだよねぇ。20mくらいジャンプして着地できないと二足歩行としては難しいかも!』

 

「そうなってくるとやはり現状は超硬度変異スチール待ちになりますか」

 

『うん! イロリーが米軍に聞いてくれるって言うから、もう少しそっちは待たないと!』

 

「ほぉ。ところで超硬度変異スチールって奴の性能試験には米軍の手を借りないといけないのか?」

 

『そういう訳じゃないんだけど、松戸真楠さんのメインの販売先って紛争地帯だとよくあべんじゃー? ってのに壊されるらしいし、それにも耐えられるなら売れるんじゃないかなって! ……あれぇ、おかしいなぁ。一也くんが居るみたいに見えるぞぉ?』

 

 

 わははと笑いながら大破した車両たちに囲まれた『あきら』と松戸真楠さんの技術者に声をかけると、聞いても居ないのにどんどん情報が開示されていく。守秘義務ってものについて口酸っぱく教えたはずなんだがなぁ。まぁこの敷地内部は雨宮セキュリティー警備でガードしてるから敷地内部なら多少口を滑らせても問題はないんだが。

 

 ぎぎぎ、と聞こえてきそうなほどゆっくりとした動作でこちらに首を向ける『あきら』に笑顔を浮かべながら「よっ」と片手を上げると、『あきら』は目をパチクリした後に「あ、お花摘んでくるね! 女の子だから!」と訳の分からない事を口にして逃げようとしたので片手で頭を掴み、持ち上げる。

 

 

『あいたたたたたいたいいたいいたい! 頭! 私の大事な頭がきしむぅぅぅぅ!!!』

 

「報連相はやれとあれほど言ったのにのう、あきら。やるなと言わんからまず報告を寄越せ報告を」

 

『だって絶対怒ってたじゃあだだだだだ!』

 

「そりゃ怒るだろ。どこの世界に攻撃機の斉射に耐えられる作業用車両があるんだよ。あ、ご無沙汰しております。開発は順調そうですね」

 

「おお、山里さんお久しぶりです! いやぁ、折角来ていただいたのに丁度テスト機は全部大破してしまいまして! 次にいらして下さるときには最高の踏破性を備えた車両をお見せ致しますよ!」

 

「ははは……お手柔らかに」

 

 

 制裁されている『あきら』を気にも留めずキラッキラしたお目目でそう語る松戸真楠自動車の技術者さんたちに、若干引きながらそう返事を告げる。こないだも割れ鍋に綴じ蓋な組み合わせを見たが、こいつらもその類か。ここに『あきら』連れてきたのは大失敗だったかもしれんな……

 




更新の励みになるのでお気に入り・評価よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

チートハッキング能力を手に入れた浪人生、善性ゼロのまま世界を幸せにして復讐する~東大理三落ちの欠陥品は、政府と気まぐれ性格最悪女AIを使って現代社会の神になる~(作者:tinko1129)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

東京大学理科三類へ落ちた平尾龍は、自分を人間失格と判定し、首を吊ろうとした。▼その瞬間、あらゆる電脳と機械へ絶対命令を下す【電脳神の右手】を獲得する。▼善性なし。社会性なし。コミュ力なし。▼人が人であるための三要素の無い自分は人ではないし生きる価値等無い▼それでも今度こそ理三へ合格し、人間だと証明する。▼そして受験勉強のストレス解消として、正規品の善人共より…


総合評価:3629/評価:8.42/連載:28話/更新日時:2026年09月14日(月) 20:00 小説情報

転生してイージーモード!(作者:ハニラビ)(オリジナル:現代/日常)

普通に生きて普通に死んだ男がチートを得て現代日本にTS転生したお話。作者はバカだからよぉ、難しい話は無しにしねーか?(ただのバカ)


総合評価:4638/評価:8.63/連載:23話/更新日時:2026年10月04日(日) 11:29 小説情報

ドールマスターヒロシ(作者:我島甲太郎)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

人形使いは木製のマネキン人形を召喚して戦わせる職業だ。▼ゴーレムより脆く、精霊よりも火力がない木偶人形にも一つだけ利点があった。▼それはレベルを上げていけば、人間並みの知能を得られるということ。▼――なら、人工声帯とオナホ仕込んで嫁にするしかないよね。▼そんな性欲に脳を犯された猿どものせいで風評被害に塗れたとある人形使いの少年は、ある日に飛び降り自殺を図って…


総合評価:2498/評価:7.92/連載:125話/更新日時:2026年09月20日(日) 18:00 小説情報

俺の異能が中華ゲーだった ~34歳無職、ガチャで引いたキャラに変身して働きます~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 ブラック企業を辞めて十一ヶ月。実家で無職生活を送っていた34歳の森川直哉の前に、ある朝突然、ゲームのような画面が現れた。▼ その名も《因果集結クロニクル》。▼ キャラクターガチャ、武器ガチャ、レベル、スキル、限定バナーに天井――どう見ても現代の中華系キャラゲーそのもの。しかも無料十連で引いた★4キャラクター《東雲セナ》を選択すると、直哉自身が黒髪の美少女剣…


総合評価:6719/評価:8.32/連載:54話/更新日時:2026年10月05日(月) 19:20 小説情報

【書籍化決定】クラス転移したけど俺だけステータス表記が違った(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

学校で進路を悩んでいた斎藤隆史(サイトウ タカシ)はクラスに馴染めずに居た。▼そんな最中、突如異世界にクラスごと召喚もとい拉致され、魔王と戦えと言われる。▼そして各自に役職と能力が付与されているからとステータスを開くように言われてステータス画面を見ると……皆が普通のRPG表記なのに、俺だけポケ◯ンみたいにレベル形式だし、技ってのが見える。▼そして始まる異世界…


総合評価:3214/評価:7.98/完結:95話/更新日時:2026年08月06日(木) 10:50 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>