ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
最近VSの事務所が騒がしい。
いや、まぁ今までも静かだった訳じゃないんだけどこれまでの和気あいあいとしたさわがしさとは違って、最近のさわがしさはなんというかよそよそしいというか探り探りみたいな印象なんだよね。具体的に言うとマネージャー云々作曲云々という話が社員の間でちょくちょく話題になってる感じで。もしかして彼らもマネージャーとかいう作曲家グループが居ると思ってた口なんだろうか。
まぁ直接聞かれた訳でもないから放置してるし仮に作曲依頼とかが来ても受ける気はないんだけどね。VVVのVタレはほぼ全員俺がスカウトしたから彼ら向けの楽曲を用意しただけで、これもあくまでデビュー曲のみのサービス。これ以降は各自自分で作るなり外注するなりやっていってもらう方針だからもう『マネージャー』として表に出るつもりはない。その辺りを察しているのか、空気が読めない方のまんしぃさんも含めて誰も質問してこないのはありがたいことである。
まぁ、とはいえちょっと事務所が騒がしくなっていることには変わりないからちょっと席を外したいな、と思った矢先にイロリー・マックス氏から国際電話がかかってくる。珍しいなと思って電話に出ると、マックス氏は普段のテンション高めな英語ではなく若干困惑したような様子で話しかけてきた。
『ああ、カズヤ久しぶりだね。ちょっと聞きたいんだけど、VVVが軍需産業に手を出したって本当かい?』
「初耳ですが???」
マックス氏の困惑気な言葉に俺も困惑気味な返答を返すと、二人そろって『あれ?』という感じになって会話が途切れる。数秒後、再度確認するようにマックス氏が尋ねてきたのは、現在松戸真楠自動車で開発中の車両についてだった。
なるほど。確かにあれは米国にそう勘違いされてもおかしくはないか。だが、あれは軍事用じゃなくてあくまで工事現場等の現場作業用のロボットであり武装する予定はない。というかあんな変形機能付きのロボットなんてどう考えても普通の戦車よりも柔いんだから、純軍事用ならあんな物を武装させるよりも四つ足の戦車とかを開発した方が絶対に割に合うはずだ。まぁ専門家じゃないからあくまでも予想だけどな。
俺がそう口にするとマックス氏も『だよねぇ』と半信半疑っぽい口調ながらも頷いてくれたので、彼にとってもこの話は寝耳に水というか信ぴょう性の低いものだったのだろう。だが、彼ほどの多忙な人物がそんなあやふやな情報をうのみにして電話なんてかけてくるはずがない。なにか理由があるはずだと尋ねると、マックス氏は少し躊躇いながら今回の電話の経緯を説明し始めた。
『いやね、僕もまぁそちらが開発してるロボットの情報は耳にして注目してたんだよ。だって話に聞く性能なら絶対に月面とか宇宙空間での作業に役立つでしょ? ある程度目途が付いたらそちらから連絡もくれると思って楽しみに待ってたんだけど、ついさっきアキラから連絡が来てちょっと手を貸してほしいって言われたんだ』
「アキラから? 現在は素材の検討中でVVV側ではイロリーさんに頼むような案件は無かったはずですが」
『うん。それ、素材だよ。アレってマジで開発しちゃったの? 複合装甲よりも理論上は硬いって言われたんだけどそんなの主力戦車に使う素材でしょ? アヴェンジャーを使って耐久試験したいから米軍に話を付けてくれないか、なんて言われちゃったんだけど民間用にそんな素材が必要とは思えなくってさ』
「アヴェンジャーってなんです???」
『A-10に積んでる30mmのガトリングらしいけど』
そこまでマックス氏が口にして、再び俺と彼の間の会話が途切れた。なにか、互いに前提が食い違っている事に気付いたからだ。少し整理しよう。俺とマックス氏の間で『あきら』が現場作業用のロボットを開発しているのは共通認識だ。ここは良い、次にそのロボットに使う素材について強度の問題があるため『あきら』が開発している、ここまでも認識はあっている。
じゃあ、その上で問題は次だ。現場作業用の重機を改良したロボットに30mmガトリング砲の斉射に耐える装甲材が必要かどうか。必要なわけがない。うん、ここが問題だな。そして、俺とマックス氏の話が食い違っている原因もここだ。そりゃマックス氏が慌てて電話するわけだ。俺も電話中に席立っちゃったもん。
「ちょっと知らない話が飛び込んできたんで急いで『あきら』に問いただしてきます。ご連絡ありがとうございました」
『あ、うん。気を付けて……お手柔らかにね?』
「それは状況次第ですかねぇ」
苦笑が聞こえてくるスマホから耳を離して電話を切る。『あきら』は今日も松戸真楠自動車に居るから向こうの開発工場に行けば捕まるだろう。ちょっとしっかりがっちりお話しないといけないな、これは。
開発工場は戦場になっていた。
何を言っているか分からないって? 俺も良く分からん。工場のゲートをくぐってすぐの所に走行試験用のコースがあるんだが、そこには幾つもの有刺鉄線が張り巡らされた塹壕らしきものがあり、その周囲には無数の試験車両だろう大破した車両が山積みになっているのだ。
「ダメです、主任! やはり通常のセラミックでは強度が足りず一度の衝突で内部が駄目になってしまいます!」
「ううむ。やはり外装は全て超硬度変異スチールに切り替えなければいけないか」
『フレームの強度も足りてないんだよねぇ。20mくらいジャンプして着地できないと二足歩行としては難しいかも!』
「そうなってくるとやはり現状は超硬度変異スチール待ちになりますか」
『うん! イロリーが米軍に聞いてくれるって言うから、もう少しそっちは待たないと!』
「ほぉ。ところで超硬度変異スチールって奴の性能試験には米軍の手を借りないといけないのか?」
『そういう訳じゃないんだけど、松戸真楠さんのメインの販売先って紛争地帯だとよくあべんじゃー? ってのに壊されるらしいし、それにも耐えられるなら売れるんじゃないかなって! ……あれぇ、おかしいなぁ。一也くんが居るみたいに見えるぞぉ?』
わははと笑いながら大破した車両たちに囲まれた『あきら』と松戸真楠さんの技術者に声をかけると、聞いても居ないのにどんどん情報が開示されていく。守秘義務ってものについて口酸っぱく教えたはずなんだがなぁ。まぁこの敷地内部は雨宮セキュリティー警備でガードしてるから敷地内部なら多少口を滑らせても問題はないんだが。
ぎぎぎ、と聞こえてきそうなほどゆっくりとした動作でこちらに首を向ける『あきら』に笑顔を浮かべながら「よっ」と片手を上げると、『あきら』は目をパチクリした後に「あ、お花摘んでくるね! 女の子だから!」と訳の分からない事を口にして逃げようとしたので片手で頭を掴み、持ち上げる。
『あいたたたたたいたいいたいいたい! 頭! 私の大事な頭がきしむぅぅぅぅ!!!』
「報連相はやれとあれほど言ったのにのう、あきら。やるなと言わんからまず報告を寄越せ報告を」
『だって絶対怒ってたじゃあだだだだだ!』
「そりゃ怒るだろ。どこの世界に攻撃機の斉射に耐えられる作業用車両があるんだよ。あ、ご無沙汰しております。開発は順調そうですね」
「おお、山里さんお久しぶりです! いやぁ、折角来ていただいたのに丁度テスト機は全部大破してしまいまして! 次にいらして下さるときには最高の踏破性を備えた車両をお見せ致しますよ!」
「ははは……お手柔らかに」
制裁されている『あきら』を気にも留めずキラッキラしたお目目でそう語る松戸真楠自動車の技術者さんたちに、若干引きながらそう返事を告げる。こないだも割れ鍋に綴じ蓋な組み合わせを見たが、こいつらもその類か。ここに『あきら』連れてきたのは大失敗だったかもしれんな……
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