ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『あきら』の脳細胞にちょっとしたダメージを与えた後、研究班から超硬度変異スチールとやらを見せてもらう事になった。こいつは加工したスチール板を素材に『あきら』が開発した電磁加工プレスを使って成形・変異させる代物らしく、ここ以外では作る事が出来ない代物らしい。鋼材としての特徴はひたすら固くて粘り強く頑丈というもので、どのくらい頑丈かというと理論値としては加工前のスチール板と比べると数倍以上の数値になるそうだ。
「すみません、それって作業用重機の車体に使う外装材の事を言ってるんですよね?」
「勿論ですよ。現在開発中の大型クレーン車タイプとショベルカータイプが完成次第、その経験を生かしてトラクター等も開発していく予定ですが」
「ですよねぇ!」
良かった、俺が書類を見落としていたとかそういうミスではなかったらしい。じゃあ次の問題はなんで大型クレーン車とショベルカーに戦車か装甲車にでも積めそうな外装が居るのかってことなんだが、その点を言葉にして尋ねると「作業用の重機は頑丈さが売りですよ」と至極真面目な顔で言い切られた。あれ、もしかして俺の感覚がおかしいのか……確かに頑丈である事に越したことはないよな……
いややっぱおかしいわ。単に頑丈ってだけならまだしも工業用重機の外装で30mmガトリング砲の斉射に耐える必要はないだろう。売り先に中東やアフリカ等があるから防弾性は必要? 売り先が日本なら必要ないって事だし紛争地帯でも戦車並の頑丈さは必要ないだろ、普通。
俺の言葉に松戸真楠自動車の開発主任は深くため息を吐き、教え諭すような口調でこう答えた。
「山里さん。人型に変形するロボットは、柔じゃいけないんです。剛じゃないといけないんです。ライフル弾だろうがガトリング砲だろうが屈してはいけないんです。例えどれほどの攻撃に身を晒しても機能を維持し、最後の一瞬まで己に課せられた使命を果たすことが出来なければいけないんです。それが、日本においてロボットを作るという事なんですよ」
「え。あ、え、はい……?」
「はいと言いましたね。まだ納得は出来ないのでしょう、それは分かる。でも、貴方は今、はいと言った。私の言葉に、言葉に宿った心に、熱意に、情熱に、魂に貴方ははいと口にしましたね? それが答えです。それが、日本人の魂。ロボットにかける魂。その重みに貴方の口は答えたのです。今は分からなくても、きっと貴方にも分かる時が来る。私の言葉の意味が、きっと」
そう語る開発主任の言葉は、声音は酷く穏やかなものだった。決して声を荒げたりはしない、なんなら声を張っているわけでもな普通の話し声であるのに、何故かその言葉は一言一句違わず俺の耳に入り、俺の頭に記憶されていった。
あ、駄目だ。俺の悪い癖が、本気で熱意を持っている特に害意のない相手は好きになっちゃうという癖が出てしまう。何それ面白そうとか楽しがってしまう悪い癖が出てしまう! 最近それで映画一本取るハメになったのを忘れるな、俺! このままズルズル話を通すと『あきら』と組んだこいつらが何しでかすか分からないぞ!
頑張るんだ、俺! 諦めるな、俺! ここで諦めなければ『あきら』を制裁して首根っこ掴んで「常識的に考えて必要な性能に抑えろ。あと予算」と口にするだけで大体の問題は起きなくなるんだ!
『次回、クマコー堕つ。ぷーくすくす』
――堕ちんわい!
頭の中で失礼な台詞を吐きやがる『ひばり』に心の中で中指を立てた後、こほんと咳ばらいを一つ。一度ここは整理した方が良いだろう。ええと、つまるところ問題になるのは銃火器による耐久試験をなんで作業用重機の装甲材に必要なのかという点なわけだ。うん、普通は必要ない。現在卸先に決まってるのは日本国内の現場作業がメインの働き処になる。ガトリング砲に耐える防御力が必要な場面はどこにあるって話だが、そこに先ほどの開発主任の魂云々の話が出てくる。
確かに日本国内で現場作業を行う分にはそんな頑丈な外装、いやもう装甲と言うべきか。そこまで頑丈な装甲は必要ない。間違いなくない。
ただ、そこまでの性能が必要ないというのが分かっていてもそうしなければいけない理由があるなら話は変わってくる。オーバースペックだと分かっていてもそれを欲しいと顧客に思わせれば勝ちになるという商品が、この世の中にはいくらでもあるんだ。それこそ『あきら』が開発した立体投射機やヴァーイのような超高性能AIのように。
つまるところ、商品というのは顧客に欲しいと思わせたものが勝ちなんだから、それが魅力になるのなら。恐らく彼が口にしたいだろう、ただ開発者として恐らく口に出さなかった一言――ロマンがあるのならば、話は変わってくるわけだ。
「採算が取れるかと量産性。そしてどこまで頑丈であれば、日本人の魂をくすぐれるか。急いで資料を作ってもらえますか?」
「3時間。いえ、1時間あれば」
「分かりました、じゃあ私はここで待ちます。1時間後、この場所で貴方の話を聞いて私の心が動かなければ必要な性能に絞っていただきたい」
「構いません。それで、全く、構いませんとも」
俺と開発主任さんはそう言葉を交わした後、どちらからともなく右手を差し出し握手を交わした。彼が語るロボットの魂とやらにどうにも懐疑的な俺としては、これが最大限の妥協である。このまま彼が持ってきた資料を見て特になにも感じなければ必要最低限の外装材を用いて生産性を上げてもらえば良いし、よしんば何かしら感じる事があっても採算が取れるならば問題なし。どちらにしても損はないのだから、待つ価値はあるだろう。
そう思って『痛かった……今のは痛かったんだよぉぉ!』と頭を押さえてブーたれる『あきら』と軽口を交わして1時間後。
「なにか感じるものはありました。でも、まだ魂とか大層な言葉を言われる理由が見えませんね。あと1時間猶予を作りますのでもう一度資料を作ってきてください」
「わかりました! すぐにでも」
1時間後。
「んー、頑丈である事に理由があるのは分かりました。でも頑丈すぎて量産性が損なわれてません? 今度は量産性を突き詰めたタイプで資料を作ってもらえませんか?」
「オススメがあります!」
6時間後。
「あっという間に壊れるのは頂けない。でも宇宙でのものとはいえ戦争のリアリティさを感じましたね。ただうちが求めている生産性をもっと突き詰めたものはありますか?」
『ね、一也くん。そろそろ帰らないと(魂羽織の)時間がないかもぉ』
「分かりました。明日までにこれとこれとこれを見て頂ければきっとロボット魂について山里さんも理解いただけるかと思います!」
「言いましたね、じゃあこのブルーレイBOXは借りていきますので。もちろん『あきら』も見るよな?」
『ひーん!』
そして夜は明け、20時間後。
「良く分かりました。でも、まだ分かっていない部分はあるんでこれからもオススメはお願いしますね」
「ええ、勿論です! 所で九十九博士はどちらに……?」
「徹夜が堪えたらしくまだ寝てましたので置いてきました。所で必要ない試験内容はこれだけでよろしいんですか? 最近ある伝手で自衛隊とも話が出来そうなので装甲材の採用試験という名目でもう少し強度の高い試験も出来るかもしれませんが」
「おお、それは願ってもない!!」
昨日、同じ場所で交わした握手とはまた違う意味での握手を行い、俺と開発主任、否。棚原さんとの話し合いは終了した。よっし、帰ったら『かすが』に自衛隊の知り合いに声をかけてもらうように伝えないとな。国内で開発した新素材に興味がないかって言えばあいつならまぁ上手いように扱ってくれるだろう。
うん、どうした『ひばり』? 堕ちてる? どこの誰が? 見える範囲で落下してる人なんてどこにもいないが???
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