ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
テレビの音楽番組でVVVガールズバンドが紹介されている。VVV3期生の5名で構成されたこのガールズバンドは昨年秋に発表したデビュー曲『電脳歌姫ろっくんろー』で日本の音楽チャートを席巻。年が明けるまで国内のオリコン1位に再生数ランキング1位を獲得し続けた超新星と呼ばれるに相応しいバンドだ。
メインボーカル兼リズムギターの桃源郷ろくこ、リードギターの御園みつき、ベースの不動くさり、ドラムの満腹たべる、キーボードとガールズバンドとしては伝統的な構成の彼女たちだが、通常のガールズバンドと違って全員がボーカルも兼任しておりメインボーカルである桃源郷ろくことドラム担当の満腹たべる以外のメンバーが一人で歌い上げる曲も存在する。ドラム担当の満腹たべるが例外なのは運動量的にまだ息が追いつかないためである。
そんな今を時めくVVVガールズバンドの面々だが、現在非常に困った事態に直面している。
新曲が書けないのだ。
「ししょぉ~! お慈悲をぉ!」
「ええい、また今日も来やがったな!」
「先週出したカバー曲めちゃめちゃ良いじゃねぇか! ヘビリピしちゃった。こんど一緒にカラオケいかない?」
「あ、どうも」
情けない声を上げるのはVVVガールズバンドの中心であるメインボーカルの桃源郷ろくこだ。この子は間違いなく音楽で頂点に手が届く才能を持っているのだが、どうにも根性がなぁ。限界ギリギリまで追い詰めても付いてくるのにちょっと手を離すとすぐにこうやって泣きついてくるのだ。
これがほぼ毎週頭に行われるため、VSの事務所では彼女がやってくるのはもう恒例行事のような扱いになっており、VSの社員たちも仕事中は大体オフにしている事務所のマイクをオンにして寸劇を始めるようになった。意外とこの寸劇が好評で再生数が多くなるため、臨時ボーナス的に稼げているからだ。
「いやー、ほんとろっこちゃん面白いなぁ。でもなんで手伝ってあげないんですか?」
『このもがきがろっこの音楽性を高めるからだよ』
「スパルタぁ」
コメ:なんだかんだクマコーって甘いと思ったけどろっこちゃん相手だと厳しいのね
コメ:(英語)ろっこのカバー曲は原曲より良い
コメ:またしても粗末な扱いのろっこちゃん
コメ:でも他のメンバーは全員クマコーは一番ろっこちゃんに甘いって言ってるのなんだろうね
コメ:年明けから毎週編曲加えたカバー曲出してどれも1000万再生超えてるろっこちゃんの何が足りないんや……
女性陣の寸劇を眺めながらそう応えると、梟くんがそう言ってケラケラと笑う。そのやり取りにコメント欄が反応しているが、1から10まで作り切った上でその結果を出してたらろっこがここに聞きに来ることはないんだよ。全部自分で賄うって覚悟が出来てないから俺に甘えてきてるだけで。
他の面々にも作曲や作詞といった後に残る技術を身につけさせるためにオリジナル楽曲を作って見なさいと言ってあり、例えば不動くさりなんかはボーカルロイドという機械音声で歌を作るソフトを使ってすでに2~3曲発表したりしているのだ。出来はまだまだだけどそう言ったものを持ってきてどうしていけばいいかを聞いてくるなら俺もちゃんと答えるんだけどね。
でも、まぁ。こうやって自分の音楽をもがき苦しみながら世に出していくのが桃源郷ろくこというアーティストには必要な過程なんだろう。アメリカのケイトみたいに楽曲は外注で全部賄うって思いきるのもまた一つの手だけど、ろっこちゃんにはそれは合わない。彼女に合わせた曲でなければ桃源郷ろくこの真骨頂は引き出せないのだ。
じゃあ俺が彼女に歌わせた『電脳歌姫ろっくんろー』はどうなんだって話だけどあれはVVVガールズバンドの曲だしオリジナルのものじゃなくて彼女向けに編曲しなおしたものだからああなったんだ。一年間一緒に過ごして共に音楽を磨き合った5人だからこその結果であり、あれは桃源郷ろくこ一人の力とは言えないものだった。だからこそ今ろっこちゃんは苦しんでるんだろうが、『あれを一人で生み出せるようにならなければ桃源郷ろくこというアーティストは独り立ちできない』
――お前、可愛がり方がなんか歪なんだよ
『…………』
自分と同化している『マネージャー』への言葉は、基本的に返事がない。ただ、心外だと思っている感情だけは伝わってくる。こんな奴に見いだされた桃源郷ろくここと百山さんはきっと可哀そうで幸運なんだろうなぁ。
あの才能は凄まじい。それは分かっているが、だからこそちやほやしちゃったら心が育たない。大きく話題になっている今だからこそあくまで師匠としての姿を維持する『マネージャー』は、意外とちゃんと彼女の師匠役を全うしてるんだがその愛情が分かりにくいし歪なんだ。
こうやって露骨に粗末に扱う事でろっこちゃんの才能だけが悪目立ちしないように調整もしてあるから、多分ろっこちゃんへの扱いは暫く変わらないだろう。もちろんフォローとして稀に声をかけたり、演奏に関してはもうべた褒めしてたりするから他のVVVガールズバンドメンバーは皆『クマコーはろっこに甘い』と口にしてるんだけどね。
マックス氏にプライベートジェットについて相談した所、余ってるのを一機売ろうか? と言われたためVVVとして購入する事が決定した。超硬度変異スチールの生産工場も作るため大きな出費が連続する点にアキコさんが「大丈夫?」と聞いてきたが、逆にこれくらいの出費をしないと来年度の税金がエグいことになると説得したら苦笑いを浮かべていた。
「もうすぐVVVビルも完成するし、今年は色々忙しいわねぇ」
「そうですね。ちょっと急がないといけない理由も出来たんで」
「あら、そうなの?」
「ちょっと、海外の情勢がおかしいんで。今のうちに出来ることはやっておかないとなって」
顎に手を置き、可愛く首をかしげるアキコさんにそう応えるとアキコさんは「なるほどぉ」と恐らく良く分かってないまま頷いた。
海外情勢がおかしいというよりは、中国なんだがな。なんだか去年末くらいから変な病気が流行ってるらしくて各国の税関が慌ただしくなっていると『かすが』から報告が入ったのだ。日本の税関は
『リリーベル』の予知でも『凄い事になる。備えて』としか言えない状況のため、“鐘の音”も全力で動いているし関係各所にも気を付けるように伝えてあるんだが、これでもまだ足りるか分からないのだ。今のうちに工場建設に必要な物資はこちらで用意しておいた方が良いかもしれないな。
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