ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
朝、VVVに出勤するとアキコさんからちょいちょいと手招きをされる。もちろんあらゆる用事をすっ飛ばしてアキコさんの元へ赴くと、アキコさんは腕を組んでその豊満なお胸を持ち上げるというご褒美のような光景を見せながら問いかけてきた。
「ね、一也くん。競馬の事なんだけど私になにか隠し事してない?」
「HAHAHA。俺がアキコさんに隠し事? そんな事天地が裂けたってありませんよ。サプライズのために言ってない事は幾つかありますけど」
「そうよね。一也くんは言い忘れてる事はあるけど聞けば素直に答えてくれるものね。耶馬さんに聞いたんだけど、篠原まみさんってどういう関係なの?」
「姉貴分、ですかねぇ。馬の体調変化とかに凄く敏感な人なんでピンクスカートの体調管理を手伝ってもらってるんです」
問われて少し考え、一番しっくりと来た答えを返す。うん、『まみ』との関係は分類的には姉貴分って感覚が一番正しい気がする。実年齢的にも『まみ』が一番年上だし。前世含めたら『かすが』が最年長なんだが、あいつ20年くらいの女子経験のせいで前世成分が悪辣さしか残ってないから年上って感じがしないんだよね。
しかしアキコさんが耶馬さんと直接やり取りをしてるとは思わなかった。プライベートジェットの用途の方で聞かれたと思ったから、『まみ』の名前が出てきた時はちょっとびっくりしたぞ。まぁプライベートジェットの購入は兎も角、日米を往復する費用や手続きは俺が受け持ってるからアキコさんはどういう使い方をしてるかあんまり分かってないか。ちゃんと仕事でも使ってるぞ? 向こうで交渉するときはちゃんと渡航履歴を作らないといかんからな。
「姉貴分……なるほどなるほど……つまり、一也くんは篠原さんと親しいって事よね。もしかしてだけど、本当にそうだったら嬉しいくらいなんだけど、お願いしたらサインを貰ったりとか出来るかもしれないって事で間違いないかしら……?」
「サインどころかご要望があれば連れてきますけど」
「ダメよ一也くん! 篠原さんは日本人で初めてケンタッキーダービーを獲れるかもしれない人なんだから邪魔しちゃいけないわ! 呼びつけるなんて以ての外。負担を出来るだけかけないように応援して、でもあわよくばサインくらいは貰いたい。それが競馬ファンの粋な心意気って奴よ!」
「え、あ、はい……」
『メンチ』と一緒に初めて競馬場デートをしたあの日から順調に競馬ファンとして訓練されてきたアキコさんの心意気は高尚過ぎてちょっと良く分からなかったが、意気込みは俺にも理解できた。ようはアキコさんは今話題の女性騎手、『篠原まみ』のファンでサインが欲しいという訳だな。
……なんだこれ、すっげぇ嬉しいぞ。予定していたものとは全く違うけど俺が準備した『篠原まみ』という騎手の存在がアキコさんを楽しませてると考えると、脳内で花火大会が起きてるのかってくらいテンションが爆上げになってしまう。これが『日華』が言っていた脳内ドーパミンって奴か。宿敵との闘いじゃないのにガンガンに出てるぞ、脳内物質。
ふぅ、よし、一旦落ち着こう。考えるふりをして少し呼吸を整える。今、自分の意思と関係なく「イヤッフォー」とか叫びそうだったからな。一旦落ち着いて、これから先の事を考えよう。アキコさんは『まみ』のサインが欲しい。アキコさんは『まみ』のファン。サインを貰えばアキコさんが嬉しい。俺も嬉しい。うん、完全な理論だな。この理想の流れを実現するために今、やるべきことはただ一つ――
「じゃあ、今度のゴールデンウイークにケンタッキーダービー見に行きましょうか」
「ふぇ?」
呼びつけるのはアキコさんが恐縮しちゃうから除外するとして、じゃあ現地にファンとして応援に行けばいいじゃない。プライベートジェットも会社として買ったんだし有効活用すべきそうすべき。そう叫ぶ俺の灰色の脳細胞が導き出した完ぺきな方程式に、アキコさんは感嘆したのか呆けたようにそう呟いた。可愛い。
少し時間が飛んでゴールデンウイーク。最初は厄介ファンだと思われないかと心配していたアキコさんもケンタッキーダービーが近づくにつれて心配を楽しみが上回ったらしく、配信で「今度のゴールデンウイークは社員みんなでアメリカ旅行よ! ケンタッキーダービーを見に行って篠原騎手を応援するの!」と毎日のように口に出すようになった。いつの間にか社員旅行になっているが、社員想いのアキコさんは自分だけアメリカ旅行というのが嫌だったんだろう。もちろん希望者制だったが作業用ロボットの開発が佳境に入っている『あきら』以外のVVV・VS社員が行きたがった為、購入したばかりのプライベートジェットにVVVとVS、そしてアキコさんが招待したお友達も含めて20名以上が搭乗している。社員旅行用に座席数を増設してなかったら危なかったかもしれない。
「あ、あのぉ。本当に良いんですか?」
「大丈夫大丈夫。うちの会社の飛行機だからもっと寛いでいいわよ」
「じ、自分競馬が趣味って所しか接点ないんですが本当にお邪魔しても……これVVVの社員旅行ですよね?」
「構いませんよ。うちの社長がOK出してるんで」
そう尋ねてくるのはホログライブに所属しているVタレの桜もち子さん。彼女の他にもホログライブやはちじくじさんから競馬関連でよく絡んでいたVタレさんが数人、今回の旅行に参加している。彼女たちが参加している理由はアキコさんが「篠原騎手を応援しましょう!」とSNSなどで呟いていたのに桜もち子さんなどが「羨ましい」やら「現地応援とかうらやま」と乗っかったため「じゃあ行きましょ!」とアキコさんが誘ったのだ。
「あのね。もち子、本当にいつものノリで返事返したんだけどね。本当に連れてこられるとか思ってなかったの。オタクの社長どうなってんの?」
「まぁ、アキコさんなんで……」
「それで済ますなよー頑張れよクマコー!」
俺に対して苦手意識があるのか、プライベートでは会話どころか目を見るのも怖がっている節がある桜もち子さんだが、カメラの前だと話が変わってくる。流石は業界でも古参の人気Vタレだけあり、もち子さんは見事な話術でアキコさんをディスるように見せかけて持ち上げてくれるため、気持ちよく相乗りさせてもらいアキコさんをディスるように見せかけて持ち上げまくる。もちろんカメラ目線である。
飛行機の中じゃないのかと疑問があるかもしれないが、VVVが所有しているジェット機に立体投射機が用意されてないわけがないだろう。もちろん購入時に内装を弄って立体投射機は完備してあるとも。
それに今回の乗客は全員Vタレなので全員のモデルが存在するため、渡航費の足しにこの機内の様子は動画として撮影され、鹿谷くんや猪上くんが編集を行った上でマックス氏の会社で行っている衛星通信を経由して1時間ごとに刻みながらVVV公式チャンネルで動画配信を行っていく予定だ。他社のVタレさんも居るけど飛行機代その他VVV持ちだからね。事前に各社にお伺いもしてOKを貰ってるしそのくらいは文句も出ないだろう。
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