ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
釣りの際に最も大事なものは何か。一つは当然、獲物が居る事。何もいない場所に釣り針を投げても意味がないからな。次に警戒させない事。明らかに危機を感じたら食欲どころじゃないだろうしこれもまぁ当然のことだ。
だが、それらを全て差し置いて重要なのは餌。先ほど危機感を感じたら食欲云々と言ったがそれも程度の問題だと俺は思っている。明らかに元気に動き回る餌を目にしたら鯨だってついつい「お、食ったろ」となるはずだ。釣りとかした事ないから知らんけど。
「という訳でしっかりと食いつかれて来いよ~」
「やめ止めろぉ! これは死ぬだろ! 普通に考えて死ぬだろうお前!!!」
「もう隠し事はないって言ってたよな。俺はお前にそう尋ねてお前はないと答えた。その信頼を裏切ったんなら罰は必要だろう。大物よろしくな」
松戸真楠自動車の工場で加工して貰った固定具と『かすが』を紐で括り付け、さんまの切り身とかを全身にまぶして海に放り投げる。魂羽織は頑丈だからミンククジラに飲まれたくらいでは壊れないはずだからまぁそんなに心配はないんだが、普通の人間としての感覚だと恐怖を感じるだろう。海にでっかい釣り針抱えて放り込まれるんだからな。でもこれくらいしないと『かすが』くんは絶対に反省しないからしょうがないよね。
そのままクルージングがてら船の速度を上げるとでっかい紐で括られた『かすが』が遠方で波を立てながら引きずられているのが見える。おお、紐を両手で持ってむりやり立ち上がったぞ。良い体幹してるなぁ。『ねぇ、流石にこれはやりすぎじゃない?』と念のためドクターストップ係として船に乗り込んだ『めぐみ』が尋ねてくるが、『かすが』の場合は原作でも結構な比率でああいう目に遭ってるから特に問題はないのだ。相棒と背中合わせに十字架に括り付けられて火あぶりにされた次の話で普通に学校に登校しながら『先週は酷い目に遭った』で済ませたりする女だからな。
それに、今回のお仕置きだってそれほどやり過ぎってわけじゃあない。なんせあの野郎、何時の間にか街の喧嘩自慢たちを集めて組織だったストリートファイトを主宰してやがったんだからな。明らかに御法を破った暴力集団を組織していたわけだ。格闘技とかはちゃんとルールがある上でやってるから良いんだが、特に理由もなく暴力を振るい合うのは犯罪である。犯罪は駄目だなぁ犯罪は。
『でもこの間、一也くんだって暴力を振るってたじゃない』
「ちっちっちっ。良いか『めぐみ』。あれは暴力じゃなくて殴られたから殴り返しただけの身を守る行為、つまり正当防衛なんだよ」
『でも相手は両腕の骨折と胸骨に罅が入ってたんでしょ? 過剰防衛って言葉もあるよね? あと鯨の捕獲ってそもそも違法だよね』
「おっ、トビウオが飛んでるな。良いもの見たしそろそろ『かすが』を回収するかぁ」
俺を見る『めぐみ』の視線から逃れるように目を逸らし、遠方で海面上を飛ぶトビウオの群れに視線を向ける。ほら、アレを見ろよトビウオって本当に海の上を飛ぶんだなぁと口にすると、『めぐみ』ははぁ、とため息を吐いた。よし、誤魔化し切ったな。さてそろそろ『かすが』を引っ張り上げようかなんて思って紐を引っ張ろうとしたら、視線の先に居たトビウオの群れが紐で引っ張られていた『かすが』に直撃。連続で全身をトビウオの突撃に晒された『かすが』がふらっと海面に倒れこみそうになった所、そのトビウオごと海中から飛び出してきたとんでもない大きさのくじらが『かすが』を丸呑みした。
「…………」
『…………』
「いや、そうはならんやろ」
『なってるじゃないか! 大変、助けないと!』
思わずそう口にした俺に『めぐみ』がツッコミを入れる。『かすが』はその後、不味いと文句を言ってきた鯨の抗議と共に口から体外へと吐き出され無事に救助された。鯨が抗議するわけないって? 俺、『まみ』をレンタルしてから動物とやり取りが出来るようになったからそういうのも分かるんだよね。
スポーンと聞こえてきそうな勢いで紐と固定具で固定された『かすが』は救助された後『あー、酷い目にあった』と口にして『なんで生きてるの……?』と『めぐみ』に問われていたが、さっきも言った通りこれくらいの事なら『かすが』は自作で何べんも同じ目にあってるんだよね。俺だって『かすが』以外の相手にここまでやる気はないけど、コイツの場合これくらいのレベルじゃないと絶対に反省しないからなぁ。というかこれでもまた性懲りもなくなんぞ企んでそうだし、抑止力として次はもうちょっと過激なの行ってみるか……?
『一応言っておくが、私が起こした流れじゃないぞこれは。起きた事を私なりに纏めて損がないように動いた結果似たような組織が合流して来て今の規模になっただけで。ほっといても誰かが似たような事をしていた可能性が高いんだよ』
「お前が関わらなきゃここまで組織立ってなかっただろ」
『それはその通り。そしてその場合、彼らの暴力性は今よりも拡散されて再び“
「お前の所の奴に絡まれたのが発端なんだが」
『そりゃ全てを抑えきれてるわけじゃないさ。だが、お前に絡んだという谷町はちゃんと監視されていたから、もしお前が何もしなければサルくんのような“係員”が止めに入るか近くにいるランカー予備軍が招集されて止めに入るかしていたはずだ』
そう言って『かすが』は『ほら、私だってちゃんと考えてるんだぞ』と言いたげにこちらを見るが、こいつは絶対にぜったいに80%くらいは自分の趣味でやってるはずだ。ただ、警察が噛んでるってのを聞くと多分“鈴の音”も噛んでるだろうから、そう考えると割と真面目に表に出来ない治安対策って面もあるのかもしれない……?
というかこんな内容だと最近なにしてるか分からなかった『日華』とか『勇作』が絶対に絡んでるよな。あの二人がなにも言ってこないって事は本当にそこまで酷いことにはなりそうにないって事だろうか。あとで二人からも事情は聞いとくか。
なんて事を考えながらとりあえずその日は『かすが』を解放し、手間をかけた『めぐみ』に黒医恵が大好きだという『カップラーメンお酢味』を大量にプレゼントしてその日のクルージングを終えたのだが、次の日VVV事務所に顔を出すとアキコさんが釣り人ウェアを着こんで期待の表情で俺の来訪を喜んでくれた。どこからか俺が船釣りに行ったと耳にしたと。とても羨ましくて居てもたっても居られずに『メンチ』と釣具屋デートをしてきたと(吐血)
この情報漏えいの仕方は『かすが』の野郎だな。その恰好は、はい。皆まで言わずとも分かります。今週末は爆釣間違いなしのスポットにご案内しますんで期待しててください。今日? 今日はちょっと、その。お仕事もありますし……明日じゃダメです?
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