ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
アキコさんと釣りに行くというご褒美のようなイベントは他のVVV社員も行きたがり、更に話を聞きつけたVSの社員の一部も行きたがり、更に更にVSの社員から話を聞きつけたホログライブとはちじくじの一部Vタレも行きたがった為、一度仕切り直して正式なイベントとして告知し、話が出た3日後の日曜日、予定が空けられたVタレのみの傘下でそこそこ大きな釣り船を3隻ほど貸し切って行われた。
「でも、なんで急に釣りなんですか? クマコーさん、釣りやってるなんて今まで聞いた事なかったのに」
「いやー。『かすが』を餌にして鯨を釣った話をアキコさんが聞きつけたみたいでね」
「なるほどぉ。かすがを餌に鯨を釣った……鯨釣りは凄いなぁ。かすがって聞いた事ないんですがどういう餌なんです?」
「雨宮セキュリティー警備の『雨宮かすが』ですよ」
「人間餌にして鯨釣ったの???」
こないだの米国旅行で一緒に麻雀をしたはちじくじ所属のVタレ欅スロープくんと隣り合ったため、そんな感じの駄弁りを行いながら数時間。どの船も結構な入れ食いだったため昼前に港に帰り、釣ったばかりの魚を港の鮮魚店で捌いてもらい海鮮丼にして昼食を食べる。
「立体投射機ってやっぱ凄いわ。一昨年まではまさかVタレとして釣りに行って飯食べる所配信できるなんて思ってなかったもん」
「外で使えるタイプはVVVしか扱ってないけどねぇ。VVVさん。この最新型の立体投射機なんですが販売してもらうとしたら何もち子必要ですかね。うちのもち子先輩はまだまだ在庫ありますんで。今日来てないけど次は縄打ってでも連れてきますんでどうでしょう」
「まんしぃ、お前んとこの古巣、先輩売ってんだけど」
「白雪先輩はヤバい人なんで……古巣全部がそうじゃないという事を、まんしぃ主張したいです」
今回は前回の旅行と違って合同企画という事もあり、船のレンタル代などは参加者での頭割の代わりに各自が自分の機材を使って配信する形になっている。その結果VVV・VS・ホログライブ・はちじくじの4社で大体20本ほどの釣り動画が配信され、日曜の夜を賑わわせる事となった。屋内ではなく外で使えるタイプの立体投射機は犯罪利用なども考えられるためVVVしか扱っておらず、立体投射機を使ったアウトドアの映像として結構な評判を得ているようだ。
ただ、その中でも特に一番話題になっているのが俺の隣に座っていた欅スロープくんと俺の会話の切り抜き集で、「しれっと雨宮かすがが鯨の餌にされてるとかいう衝撃シーンがこちら」と題したものが一日も経たずに100万回再生を突破し、今も伸び続けているんだとか。
『かすが』は全然配信をしないくせに毎回配信を行うたびに100万人近い同時接続数を集めるという異色の配信活動をしており、配信の度に誰かが地獄に墜ちる事からネット界隈じゃ触っちゃいけない人物筆頭格みたいな扱いを受けている。そんな『かすが』が直球で酷い目に遭ったというこの会話は『かすが』のファンからもそれ以外からも結構な注目を集めたみたいだね。
まぁその事はどうでも良いんだけど、何故かこのバズり以降VVVやVSに俺宛てにコラボの誘いが結構集まってきているみたいで、その相手がVタレとかではなく普通の配信者。とりわけ時事ネタや暴露系とか言われるような配信者からのものが多く来ているのだ。これまでに関わった事が無い人ばかりでなんなら名前すら知らない相手ばかりでとりあえず全部断ったのだが、一度断った相手からもそれ以外からも毎日お誘いが入ってくる。
『まぁ、お前から私に近づくか私の情報を抜きたいんだろうな』
「やっぱり?」
『悲しいなぁ。こんな事しなくても私にコラボの依頼をしてくれればこちらから赴くのに。何故か私とコラボをしたいって人はいないんだよなぁ?』
俺の状況をどこからか聞きつけたのか、俺の部屋にやってきた『かすが』がそう言ってけらけらと笑い声を立てる。『かすが』と対談した人は結構多いが、十中八九くらいはその後に地獄というか何かしら暴き立てられて酷い目にあっている。最初に『かすが』に暴かれたとある病院の院長先生はその後に不審死しちゃってるしな。
そんな事してれば当然警戒されたり敬遠されたりするもんだが、『かすが』にとってネットの活動はあくまでもオマケ。本業の合間に本業の過程で知り得た情報を使って何か月かに1回手ごろな相手を選び、そいつがひた隠しにしていた何かを暴いて相手が右往左往する様を眺めるというお遊びだ。最低の趣味だと思うが、こいつが暴いた秘密は大体が他人様に多大な迷惑をかけたりしていたためなんとなく許されている雰囲気がある。
ただ、こんな事をしてる奴が好かれるわけがないため今回の鯨の餌事件は『かすが』に対して良い感情を持ってない連中が非常に喜んでいるらしく、そういった連中は大体がそこそこ影響力を持ってる奴だったりするためそいつらに媚を売りたい連中が俺に近づいてきている、というのが『かすが』の見立てだ。迂遠すぎるように感じるが、直で『かすが』について調べようとすると自分がターゲットにされそうだからワンクッションとして俺が利用されてるらしい。
「クッションかぁ……そう言われるとめっちゃムカつく」
『お前はなんだかんだで甘ったるい奴だからな。ちょっと突けば私の情報を漏らすと思われたんだろう。舐められているといったらその通りだが、悪いことばかりじゃない。今回のように誘蛾灯になってくれるしな』
そう言って『かすが』は俺にコラボを打診してきた連中の一覧をそれはそれは楽しそうに眺める。ここに名前が載っている人物は多かれ少なかれ『かすが』に害意を持っているか、上手く情報収集に使われている可能性が高い連中だからな。ちょっと調べれば色々面白いことになりそうだと思っているんだろう。
だが、果たしてそう上手くいくんだろうか。俺がちょっと悩んでいたのは、この問い合わせには結構な大御所とか長年活動した人なんかも居るって所だ。そういった連中がこんな火薬庫みたいな奴に手を出すかと思ったんだが、『かすが』曰くちょっと状況が変わってきたからだという。
『Amamiya NEWSがそういった連中の飯のタネをガンガン奪ってるからな。私が消えて欲しいのさ』
「あぁ……え、あれってどっちかというとオールドメディアの方にダメージ行く奴じゃないか?」
『情報の確度が上がると連中も困るのさ。曖昧な情報を使って話題を集めるという点では同じだろう? それでも適応できる奴はAmamiyaNEWSを旨く使えるが、使えない奴はまぁどうしても……そうだな、良いことを思いついたぞ。一也、ちょっと手を貸せよ』
「はぁ?」
『ちょっとこいつらに見本を見せてやろうぜ』
一覧を眺めていた『かすが』はそう言って俺に視線を向け、獲物を見つけた狼のような表情で笑った。
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