ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
『かすが』は準備があるからまた連絡すると言って部屋から出ていった。まぁこっちに面倒が起きなければ……いや起きるか。あいつ手を貸せとか言ってたしな。でもこっちにヘイトが向くような事は多分あいつはやらないし、やるにしても雨宮セキュリティー警備が間に入れば問題ない範囲になるはずだ。
VVVはホログライブやはちじくじよりもアンチ活動が少なく、その理由はどう考えても騒ぎになれば『かすが』が出てくる可能性が高いって点だろう。VVVのリアルネット両方の防犯は雨宮セキュリティー警備が行ってるしあいつの存在自体が抑止力になる位に恐れられているのだ。今回の件はその恐れられているあいつに風穴を空けようとする他勢力からの攻撃みたいなものだから、『かすが』としても楽しく慎重に楽しく対処するはずだ。多分割合的には8割くらい楽しさ優先で行動している。
さて、コラボの件は別の意味で頭が痛くなる可能性が高まったがそっちは正直どうでもいいイベントである。今、もっともVVV内でアキコさんが気にしているのはアメリカに応援旅行までしたナーガと『まみ』のクラシック三冠挑戦だ。アメリカのクラシック三冠はなんとほぼ1か月くらいの期間に3レースも走るという超過酷なもの。馬の体調によっては2戦目を回避したりする陣営も多い中、ナーガ陣営はしっかりと体調を整えて出走にこぎつけた。
『さぁ最終コーナーを回って各馬一斉にスパートをかけおおっと最後方からナーガ! ダービー馬ナーガが矢のような勢いで飛んできたまるで他馬が止まっているかのような急加速で飛んできたしかし先頭ガウリー崩れないガウリーが崩れない後方から飛んできたナーガとガウリーが並ぶ並ばないまだ並ばないガウリー耐える! 残り50mを切ったガウリーまだ崩れない! ガウリー! ガウリー! これはわずかにガウリー! ダービー馬ナーガわずかに届きませんでした!』
「ああ~!」
「惜しい!」
前回のケンタッキーダービーの件は日本でも大きく取り上げられ、今回はテレビ放映されることになったアメリカ三冠の二冠目、プリークネスステークス。その映像を眺めながらアキコさんや猪上くんが悲鳴を上げる。ナーガの三冠挑戦は2戦目で敗北することになり、日本人騎手によるアメリカ三冠達成はこれで白紙になったのだ。
画面の向こうの『まみ』は残念そうな顔で荒ぶるナーガを諫めているが、多分相当荒れてるんだろうな、あの馬。あの馬にとって強さとは全てみたいなものがあるからな。また調教師のスー先生のかつらが犠牲になるのか……日本製の高品質カツラでも差し入れるべきだろうか。割と高いらしいからね、あれ。
「一也くん、残念だったね……篠原騎手落ち込んでないかしら」
「まぁ、負けたのは多分悔しがってますけど大丈夫だと思いますよ。プリークネスステークスはナーガには短すぎるから多分難しいって言ってましたし。もともとケンタッキーダービー前は3戦目のベルモントステークスが一番の本命だったんで」
「そう……じゃあ、次の3戦目に期待しなきゃね!」
アキコさんに慰められたが、もともとナーガは2000m以上が適正だと考えているためそこまでショックはないのだ。そのためケンタッキーダービーより100mも短いプリークネスステークスは厳しいだろうとみていたが、実際に後少しが足りなかったのを見るとやっぱり騎手や調教師の知識ってのは凄いもんだな。
本当は今回も『まみ』と一緒にレースに出たかったんだが、『まみ』からケンタッキーダービーでは俺に甘えた所があるから今回は自力でやると言われてしまった。だから今回は魂羽織でレースに出て貰っているのだが……俺に甘えたってなんだろうな。やっぱり心の中の応援があるとやる気が出るって事か?
「一也さん、この後どうされます? 俺、今から梟くんの部屋で麻雀やるんですけど」
「え、俺が行って良いのそれ?」
「あ、すみません誘う相手間違えましたね。鹿やーん、どうよ」
「すまない、お誘いは嬉しいんだがこの後は行きつけのボードゲームバーで約束があってね」
「何それ楽しそう」
日曜日という事もありそれぞれ部屋に帰ったり事務所で遊んだりしている中、幾つかのお誘いを断って部屋に戻る。本当はお誘いに乗りたかったんだが、『まみ』のお迎えとか色々と米国に用事があるのだ。
レース後、オーナーさんからの残念会的な催しに誘われたため『まみ』のお迎えは大体3時間後くらいになるだろう。その前に米国で活動するプロモーターのカイザーさんと会う約束があるのだ。
『久しいな! 最強の男。私はいつでも君の次の試合の準備をしているんだがね』
「いやー、仕事が楽しくてね。中々連絡できず申し訳ない」
『いいさ、仕事を楽しめるのは良いことだ。私もまた君と組めるのが楽しみだよ』
そう言ってカイザーさんが右手を差し出してきたので、俺も右手を出し握手を交わす。今回カイザーさんにはクマコー・THE・MOVIEの全米展開について力を貸してもらうのだ。と言ってもカイザーさんはあくまでも格闘技等のプロモーターであるため、彼が信頼が置けると思っているハリウッドのプロデューサーを紹介・仲立ちしてもらうのだが。
『ミカ。こちら、クマコーの中身だ。あの強烈な着ぐるみの中にこんなボーイが居て驚いたかい?』
『ああ、いや。あの試合を見たから、マスクの下以外は見知っているんだが……日本人とは思えない体格だ。いや、そんな事はどうでもいいとして、例の映画を本当に私が取り扱っても良いと? 君からの話を聞いた時は夢じゃないかと思ったんだが』
「初めまして。合同会社VS社長の山里一也です。クマコー・THE・MOVIEの事はどうやらご存じのようですが」
『当たり前じゃないか! あの映画がいつ海を渡ってくるかハリウッドの面々は今年のスケジューリングで四苦八苦してるんだよ! 間違っても同時期に映画を被せられないからね! 私もあの映画のティザーを見たがドキドキしっぱなしだったよ!』
カイザーさんに紹介されたミカ・シリーさんという人は中南米系の顔立ちのおじさんでハリウッドでもやり手のプロデューサーさんらしく、昨年のアカデミー賞受賞作品も手掛けた人なんだとか。残念なことにその作品は見ていなかったが、アカデミー賞って名前は俺でも知ってる映画の賞だしそれを取った映画なら多分面白かったんだろう。
俺としてはカイザーさんの目利きを信頼したいし、向こうもかなり乗り気であったためそのままとんとん拍子で話は進み、米国での展開はシリーさんに任せる事が決定する。
また、クマコー・THE・MOVIEは権利関係も俺と原木理さんの二人しか所持してないのでかなりやりやすいらしく、翻訳や米国内向けの調整、例えば日本でOKだが米国じゃダメな描写などがないかのチェックなどを行って再構成し、そしてさらに放映前の宣伝という流れがスムーズに行えるため恐らく3か月後くらいに全米で放映できるのではないかという話になった。
まぁあくまでも予定ではあるためなにかトラブルがあれば伸びる可能性はあるが、翻訳作業やチェックが多少伸びた所で映画本体はとっくに完成しているからね。宣伝に関しては米国のVVV支社からも行うからVVV米国支社と所属Vタレ3名の合計登録者数が500万人くらいだから、その10分の1くらいには宣伝も届くと期待して良いはずだ。
『宣伝媒体を自前で持ってるって、かなり、その。費用節約になるね。普通は製作費と同じくらい広告費にかけるものだから』
「それだと1000万くらいですか。まぁ、そんなものですよね」
『ん。その製作費はバグだから』
そう言ってシリーさんはゲラゲラと笑った。実は1000万どころか機材代の100万くらいなんだが、流石にそれだと嘘だと思われるから公表製作費は1000万くらいになってるんだよね。あ、一応俺のギャラを含めないといけないのか。でもクマコー・THE・MOVIEのギャラは利益から3割って話で原木理さんと話してるからまだ決まってないんだよね。こないだ興行収入が100億を突破したらしいし、本当にそんな金額になるかも未定だけど。
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