ブラック労働で過労死数歩前だった俺の心の癒しだった動画アプリがマジモンの神アプリだった   作:ぱちぱち

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第18話 嘘ついたら太陽に放り込むんだから

 スマホの画面を操作し、『不死鳥の魔女』のレンタル権を行使する。あ、これ時間貸しでも1日と同じ料金なんだ。10円だけど。ヘイヘーイ! と軽快な決済音が鳴り響いた瞬間、俺の身体の主導権が奪い取られた。『九十九あきら』で慣れた感覚だが、出来れば慣れたくなかった感覚だ。

 

 

「…………」

 

 

 主導権を俺から奪い取った赤神さやかは、ぺたぺたと俺の身体を手で触る。服は以前レンタルした時と同じ、赤を基調にしたスカートにフリルがついたシャツ。『どき魔女』内で魔女戦争をするときにつけていた戦闘服と同じものだ。

 

 自分の身体を確認した『赤神さやか』は小さく一つ頷くと、腰かけていた俺のベッドから立ち上がり、そのままベッドにフライングボディプレスを行った。バフーン!とこの家に入る時、奮発して買ったセミダブルベッドのスプリングとマットレスが音を立てる。他の家具よりも倍以上値段がする高級品だ。このベッドで眠る様になってからは中途半端な時間に起きる事が極端に少なくなった。俺の生活水準を明確に引き上げてくれた魔法のベッド。スマホを除けばもっともこの家で価値がある家具だ。

 

 そのベッドに飛び込んだ『赤神さやか』は、枕に顔を埋めた後大体10秒ほど感触を堪能した後。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

――やめやめろおおおおおぉぉぉおぉぉぉおおおぉ!!!!!

 

 

 力強く顔を引き締め、両手両足をバタバタとバタつかせ始めた。そう、それは全国千万人くらいいる筈のお母さんたちが最も恐怖する、悪魔の所業の一つ。他の人が見ている前で自分の子供が寝転がり、「かあああああってええええええええ!!!」と泣きわめきながら両手両足をバタつかせ暴れ回る、俗にいうイヤイヤである。

 

 それをこのアマ、俺のベッドで。俺が最も大事にする、生活水準引き上げの為の安眠専用マットレスの上で。人を駄目にする枕に顔を埋めながら、やりやがったのだ!!!!!

 

 『赤神さやか』の身体能力は素手で兵士の頭を卵みたいに握りつぶせるし、熊と相撲をしても勝てるし、深海2万mに転移させられても泳いで戻ってくるほどに優れた代物だ。そんな奴が力いっぱい加減もせずに暴れ回れば、一体どうなるか。

 

 その答えは、崩壊である。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおぉおぉぉぉぉ!!!!」

 

――もうやめてえええええええええええぇぇぇ!!!!

 

 

 バキバキと明らかにスプリングを飛び越えてベッド本体が立ててはいけない音がする。明らかに先ほどまでよりもベッドが不安定になっている状況。支柱が幾つか死んだのは間違いない。ブラック時代の給料1年分のベッドが、今、死にかけている。

 

 だがそんな、俺に壊滅的なダメージを与えた所業を行っているのに関わらず「赤神さやか」は止まらない。それどころかちょっと楽しくなってきているのか半笑いを浮かべながら両手両足をバタつかせている。この女郎、なにを笑ってやがる……!!!

 

 ちくしょう、完全に頭に来た。ぷっつんって奴だ。最初はちょっと悪い事をしたと思っていたけどその感情もここまでされれば消え去った。身体の主導権を奪おうと意識を集中さs――

 

 

「ちょっと一也くん大丈夫!? 凄い音が……」

 

 

 ガチャリ、と音を立てて部屋のドアが開かれる。ハーフパンツに『貧乳は甘えだ! 牛乳を飲め!』と書かれたクソダサTシャツを着たアキコさんが、ドアを開けてそう言い、その姿勢のまま固まった。

 

 

「うおおぉぉぉ…………」

 

 

 暴れ続けていた『赤神さやか』の声が急速にしぼみ、バタつかせていた手足がピタリと止まる。アキコさんと『さやか』の視線が交わり、そしてアキコさんはそっと部屋のドアを閉めた。

 

 

 

 

 

「なんだ、一也くんのお友達なのね。ベッドにいるから私てっきり!」

「友達っていうかぁ? まぁ一心同体って言っても良いかもしれないぃみたいな?」

 

――適当抜かしてんじゃねぇぞこのアマ。ベッド壊しやがって

 

 

 もはやアキコさんの私物が8割を占めるリビングで、アキコさんと仲良くなった『さやか』が適当な事をアキコさんに吹き込んでいる。邪魔したいが、アキコさんめちゃめちゃ勘が良いから途中で俺と変わると明らかに疑われそうなんだよな。そこから芋づる式に『坂東メンチ』=俺であるという事がバレたくないのだ。DTの件もあるし。

 

 あー。そうなると前の職場の連中は絶対にアキコさんに会わせられんな。竹永とか元気かねぇ。会社はちゃんと潰れたって聞いたけど。

 

 

「でもさやかちゃんが遊びに来てるのに出かけるなんて、一也くんも悪い子ねぇ。あとでちょっとツネとかないと」

「まぁいつでも心は傍にいるから問題ないっていうかぁ」

「キャー! 言ってみたいわそんな事! ねね、出会いとかってどうだったの!?」

「使ってるアプリで紹介された感じっていうのかしらね」

「あー。なるほど、マチアプかぁ。一也くんもちゃんと出会いを探してたんだぁ」

 

 

 絶妙に話がかみ合って無さそうなやり取りを繰り返している内に、アキコさんはプシュッとビールを開けた。完全に宅飲みモードだ。いやまぁもう夕方だし良いんだけども、身体の主導権を取り返す隙が無い。

 

 

――というかお前、あんだけ暴れ回って結局お喋りするだけなのか? レンタル時間もあるんだからそろそろ元の姿に戻る場所探さないと不味いだろ

 

『そっか。元の部屋に戻るのは流石に不自然だしね! んー、まぁちょっとは気が張れたわ! やっぱり適度な運動は大事よね!』

 

――俺のベッドぶっ壊して適度な運動とはどういう了見かな???

 

『あとで直しといてあげるわよ』

 

 

 クソ舐めた事を言いやがる女郎に腹の中でキレ散らかしていると、『さやか』はアキコさんに「そろそろ帰るわ!」と伝え、夕飯を食べていけというお誘いにしっかり応じてデリバリーで頼んだひなちゃん家の天ぷらそばを食べてからアキコさんに見送られて部屋を出る。いや食べるんかい。そのまま帰れよ。

 

 

「? 人に誘われたら出来るだけ応じるもんでしょ」

 

――それは時と場合によるんじゃないかなぁ。

 

 

 家を出た辺りで体の主導権を取り戻す。『さやか』も気が済んだのか、抵抗する気配は感じられなかった。さて、今回のレンタルは新機能の時間貸しレンタルを使ってみたのだが、予定ではあと2時間ほどで元の身体に戻る筈だ。今のところ普段のレンタルとの差異は最初の『さやか』の大暴れ以外は感じられない。いや、あれだけでも十分な差異だったんだが。

 

 

『やろうと思えば普通のレンタルでも出来るわよ? 疲れるからやらないけど』

 

――出来ればもうやるな。これからはたまにレンタルするから。

 

『オッケー、約束よ? 嘘ついたら太陽に放り込むんだから』

 

――例えが怖ぇよ……例えだよな?

 

 

 などとくだらないやり取りを繰り返しながら、近くにある公園へ足を向ける。ここの公園は夜はあまり人通りが多くないのと、多目的トイレがある。予定時間にそこに入れば、他の人間に見られることなく体を元に戻せるはずだ。

 

 まぁ、それまでは時間があるからのんびりしていようかな……と思っていたのだが。

 

 

「嬢ちゃん。こんな時間に1人かい?」

「危ないよぉ。暗い夜道は。伯父さん達が家まで送ってあげようか?」

「…………や」

 

 

 公園の傍を通る遊歩道で、見知った顔の少女が見知らぬ顔の誰かに絡まれている姿を見つけてしまっては、流石に『のんびり優雅なひと時とはいかないわよね』

 




山里一也(男)25歳


視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』を獲得しました。(料金:ひなちゃん家のご飯)


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