ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
オットセイ55という配信者はYOUCUBE上でその時々の流行や情勢をネタにして扱う時事系と呼ばれるジャンルの配信者だ。登録者数は53万人と結構な数で、これだけ人気な理由は過去に与党政治家のスキャンダル映像を入手して暴露したり配信者間の浮気を暴露したりと独自の情報網を持っている点が評価されているからであり、また本人の戦略も上手いからだ。
今回のクマコー、つまり俺とのコラボでも彼は「話題と疑惑のあの人に直撃レポート!」とコラボが決まった段階でぶち上げ、クマコーに聞きたい事などのアンケートを始めたりと周囲を巻き込んで話題性を引き上げようとしており、こちら側の関係者からは「あれとのコラボなんて止めた方が良い」という声も結構上がってきている。いや、俺としてもあんまり興味がある人じゃないんだが、『かすが』の仕込みがあるからなぁ。
という訳で平日のとある昼頃、俺とオットセイ55さんはとある公園のベンチで顔を合わせた。オットセイ55さんは恐らく同年代くらいだろうか。ブランド品に身を包んだちょっとインドア風な見た目の青年だ。
「初めまして、オットセイ55と申します。ええと、クマコーさん、そのマスクは……?」
「あ、どうもクマコーです。リングに上がった時の奴ですね」
「そうじゃない。そうじゃないんですけどぉ。あの、立体投射機は……?」
「いえ、なにか疑惑とか直撃レポート! とかおっしゃられてたんで今回は立体投射機なしでいこうかなと思ったんですが。試合の件も聞きたかったんでしょう?」
「えー、なるほどはい。そうかぁ……立体投射機なしかぁ……ちょっと困るなぁ」
「困る? 物はあるんで調整してくれる補助員が居れば使えますが、VVVから誰か呼びましょうか?」
そう口にして、オットセイ55さんは頬をぽりぽりと掻いて、彼が連れてきたカメラマンらしい人と視線を合わせた。立体投射機の有無で何が困るのかと疑問に思っていると、耳につけているイヤホンから『かすが』が『立体投射機で別人となり替わっていた、という主張が出来なくなるからな。攻め手の一つが潰されたから困ってるんだよ』と聞こえてくる。ああ、確かに立体投射機を使った状態で合流したら「この人別人じゃね?」と言い出すつもりだったのか。つまり相手はこの場で俺をハメにきてると。
そう聞くと俄然、やる気がこみ上げてくる。これこれ、こういうのだよ。こういう相手なら全力で叩き潰しに行っても罪悪感湧かないからなぁ。しかも今回、俺は特に難しい事をやる必要もない。『かすが』の想定通りなら単に話をしてるだけでもう終わる仕事だ。
「じゃあ、まずは始まったら僕の方からアンケートできた質問を行いますんで、クマコーさんにはそれに応えてもらう感じでお願いします!」
「分かりました。あ、でもそれだとコラボって感じじゃないで僕の方からもオットセイ55さんに聞いたりとかして良いです?」
「えー、いや。視聴者が求めてるのはクマコーさんだからなぁ」
今、目の前でこの後の撮影についてどういう手順でやるかを話している青年が、終始ニヤついているこの男が恐らく30分後にどのような表情を浮かべているのか。当事者ではあるが、すっかり楽しみになってしまった。『かすが』の性格の悪さが移っちゃったかな?
「どもー! オットセイ55です! 今回はなんと! 街中の普通の公園で何故かクマコーさんと生配信コラボを開催する事になりました! なんで公園やねんと思ったでしょう!? 俺も今、思ってます!」
「VVV所属、クマコーです。いえ、最近ネットの盛り上がりを見てどうも皆さん、私の動く姿を見たいのかなと思いまして。気合入れて試合のマスクつけてきちゃった」
「きちゃった、じゃないんだよなぁ。あの、それってチゲェダ戦で被ってたアレです?」
「そうですね。押し入れにしまってたんで昨日洗ってさっきまで干してました」
「その報告はいらないんだけどどうやら皆様、本物らしいです! こういう理由で立体投射機は今回お休みみたいですが、生のクマコーさんに色々聞いたりしたいと思います!」
カメラに向かって軽快なトークを行うオットセイ55さん。流石に時事ネタなんかで登録者数50万人に上った奴はトークが上手いなあなんて思っていると。イヤホンから『かすが』の指示が飛んでくる。ほう、ほうほう。よし、OK。
「あ、じゃあ社外秘とかに関する事以外ならなんでも質問に答えるんで、代わりに一回質問に答えたらオットセイ55さんに質問しても良いですか?」
「え。や、それはちょっとほら。視聴者の求めてるものはちょっと違うと思うんですがぁ」
「コラボだから良いじゃないですか。そもそもオットセイ55さんの生配信ですよね。視聴者の皆もオットセイ55さんのファンなんだから聞きたい事、あるんじゃないかなって」
俺の言葉に一瞬、明らかに表情が険しくなったがカメラの前だからかオットセイ55さんはすぐに元の表情に戻り、困ったような顔でカメラに視線を向ける。その視線の先に居る、自身の視聴者たちに向けられているのだろう。なら、その判断を後押ししてあげよう。
鞄に入れていたノートパソコンを取り出して立体投射機の機能をONにし、現在配信中の画面を空中に映し出す。当然コメントが見れるように大きく表示して。
「あ、あれ。立体投射機はないって話じゃなかったですっけ?」
「人に被せるには機材と調整者が足りないですね。私に被せるのに私が調整なんて後ろが見えなくてできないんですよ。でもこうやって画面を空中に表示させるだけならまぁ、できます」
「なるほど、じゃなくて。そうじゃなくてですねぇ!」
明らかに苛立ったようなオットセイ55さんにカメラマンさんが「おーちゃん、カメラ!」と口にすると、オットセイ55さんは何事もなかったかのようにカメラに向かって「いやだって出来るんなら最初っからしてくれよ。俺だってクマコー見たかったのに!」と言い訳染みた事を口にする。
あれ、こいつなんか余裕がないな? 俺の印象だとこの人が『かすが』狙いでその糸口に俺をハメに来たって印象だったんだが、接してる感じだと明らかにこの人、下っ端感が凄い。しかし『かすが』が面白いことになるって言ってたのはこのオットセイ55さんだしなぁ。
まぁ俺がやること自体は相変わらず変わってないんだし、このカメラに向かって延々と言い訳をしている青年と少しの間遊んでみようか。こっから展開が変わるんならそれもまたヨシでしょ。
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