ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
結局オットセイ55さんはこちらの要求を呑み、一問一答ずつ交代で質問をしていくことになった。まぁ最後まで渋ってたんだけど「私は別に尋問されるために呼ばれた訳じゃなくてオットセイ55さんとのコラボの為に来たんですけどね。質問に答える。代わりに質問する。これでなにか不都合あるんですか?」と尋ねるとオットセイ55さんは不承不承という感じで頷いた。
コメント欄も結構荒れてる感じでオットセイ55さんを擁護というか俺への質問だけで良いという人とコラボなんだから互いに質問し合うのは間違ってない派、そもそもコラボすべきじゃなかったんじゃという派が互いに意見をぶつけ合っている状況みたいだ。うんうん、こういうカオスな感じ良いね。VVVのチャンネルだったら流石に火消ししようと思うけど他人のチャンネルだし気楽に見れるや。
まぁこうなったらしょうがないと気を取り直したのか、オットセイ55さんは若干不機嫌そうな様子でこちらにマイクを向けてくる。
「それでは、早速クマコーさんへの質問を行いたいと思います! 最初の質問はこちら! 皆聞きたいのはやっぱりこれだよなぁ女性関係! クマコーさん、貴方表ではそんなクマの……今日はマスクですが。マスク被って、実は相当女遊びが激しいみたいですね。風俗とかもよく利用されるとかでタレコミとかいっぱい来てますよぉ」
「ふむふむ」
「お。クマコーさんもやっぱりこれが聞かれると思ってたみたいですねぇ! この件についてですね。僕の方でも色々伝手を辿って調べてみましたところ、なんと! クマコーさん行きつけの風俗店に取材する事が出来ましてね! なんとなんと一晩で500万近く使う時もあったとか! 500万ですよ500万! 皆さん想像できます? どこからこんなお金が湧いてくるのかとか色々聞きたいんですがその辺どうでしょう!」
そこまで口にしてオットセイ55さんはこちらにマイクを向けてくる。SNSとかでも盛んに言われてたからこの質問が来るかなーと思ってたらちゃんと最初に来たね。でも、一つの質問って話なのに複合して幾つか質問混ぜてきてないかこれ?
まぁ、来ると分かってた質問だから答えるのなんて簡単ではあるんだけど、そこは一応釘を刺した方が良いだろう。
「ええと、これって風俗店に使ったお金の出所というか稼ぎに付いてって事で良いです? それとも女性関係についてどういった交際があるかです?」
「え、これ一緒に応えてもらうって出来ません?」
「一問一答の約束ですよね? 一度の質問で複数尋ねるんならルールの意味ないですよね」
俺の指摘にオットセイ55さんは虚を突かれたようで、少し言葉を濁した後そう尋ねてくる。ただ、それを認めると勢いで複数の質問を一度に投げられそうだからそこは飲むことはできない。俺の言葉に少し考えた後、オットセイ55さんは「じゃあ、金銭関係からお願いします」と言った。
ああ、そっちから来るのか。金銭が絡む質問の方が受けがいいと思ったのだろうか。ただそれ、俺にとっては一番楽に答えられる質問なんだよなぁ。
「じゃあ、私の収入がどういったものかからお答えしますね。まず私はVVVの取締役としてVVVから報酬を頂いております。これは技術料だとかVVV内の規定で幾つか特別賞与的なものもあるため凡その数字ですが今年は2億5000万ほどになる見込みです」
「ふむふむ、なるほど。2億5000万???」
「はい。立体投射機やヴァーイ等の技術には私が開発に関わった部分もあるため、それらのパテント料や配信に参加した分の報酬もあります。あとは会社が黒字の分、社員への報酬を上乗せしたというのもあるので一先ずはこの金額ですね」
そこまで口にして、ちらりとコメント欄を眺める。案の定、コメント欄は結構な速度で書き込まれており、大半が「2億5000万www」だとか金額を面白がっている人と、「いや、VVVのバーチャル決算見てりゃ分かるだろ」とVVV有識者を気取る人。あとは大分声が小さくなったのが「嘘乙」と一切信じない人だろうか。恐らくこの発言をした連中が俺のアンチ側かな?
俺の言葉にオットセイ55さんは何回か頷いて、全く同じ表情のままおうむ返しにこちらに問い返してきたため詳細を説明すると、オットセイ55さんは二度、三度と頷いて「やっべ」と口にする。まぁ2億5000万もあれば風俗で500万くらい使っても無理したとは言えないだろうし、会社の金を使い込んだという話も「いや、あんだけ稼いでりゃ普通に使える範囲でしょ」と突っ込まれる事になる。
だが、俺のターンはまだ終わってない。彼が聞いてきたのは俺の収入だからな。まだまだ告げることはあるんだ。
「次にVSの社長としての報酬ですね。こちらは役員報酬と配信者としての報酬がありまして凡そ1200万ほどです」
「ああ、そうでしたね。クマコーさん、VSの社長さんですししかし1200万かぁ。じゃあ全体で合わせてにお」
「その次にクマコー個人での仕事として去年のチゲェダとの試合が約1億ドルですね」
「ああ、それもありましたね1億!? 円じゃなくてドルで!!?」
「はい。クマコーとしての収入は今年の映画もあるんですが、あちらは共同制作者としての枠になるんで原木理さんからは映画館や配給会社への割り当てを除いた利益の4割を頂く契約になっててまだ金額が確定していないんですよね」
俺が続けて話す言葉にオットセイ55さんは目をパチクリとさせた後。
「きょうどうせいさくしゃ。えっと、聞いた事がない単語が出てきてちょっと混乱してるんですが、今たしかクマコー・THE・MOVIEって興収100億を突破したって話じゃなかったですっけ」
「確か今週で120億ですね」
「いやーあれ面白いですからね。俺も見に行きましたけどPVの完成度の期待値で見に行っても満足できて。じゃなくてそれ、ええと。すみません、幾らだ。ええと」
そう言ってオットセイ55さんは混乱した様子で両手の指を数えながら「120億、4割。じゃないや配給会社も入って、だからええと」と口にしている。配給会社へ幾ら支払うかってのは流石に口に出せないためその計算は永遠に出来ないんだが、その事実にまで頭が追いついていないようだ。
コメント欄を横目で見ると、予想通りにどんどんコメントの速度が加速しているのが見える。まぁ一応目で追えるんだけど、おおまか驚きと面白がってる空気が見て取れる。そして俺のアンチ的な言葉を吐いていたアカウントはどれも沈黙している風に見える。
「まぁ、クマコー・THE・MOVIEは全米でも放映する予定で動いてますんでそちらが決まればもっと上がるかもしれません。あ、これ初情報かな? しまったなー、一つ余計に情報言っちゃった」
そう口にしてオットセイ55さんの反応を見るが、オットセイ55さんからは面白そうな反応が返ってこない。明らかに想定が外れたって感じがするなぁ。俺のファイトマネーとかは公表してなかったけど、結構貰ってるのは分かってる筈なんだが。んー、考えられるとしたら彼のプランでは俺は本業では稼げずに副業的な仕事で稼いでいて会社への忠誠心が低いとかそういう風に見せたかったのかな?
本業でも副業でもこれだけ稼いでるってのが表に出たら現在蔓延してる横領だとか使い込みしてるんじゃって主張は出来なくはないがかなり根拠が弱くなる。こんだけ稼ぎがあるのにわざわざリスク背負ってそんな少額使い込むか? って言われればどうしたってトーンダウンしちゃうからね。
だから最初の質問でそれを俺にするのは間違いなんだが、この混乱具合だとオットセイ55さんはその点にもまだ気づいてないっぽい。まぁ、この程度で動揺するんならやっぱりこの人は使い捨ての鉄砲玉くらいなんだろうな。
「という訳で風俗などに使っているお金はこういった収入から出してます。独り身ですしね」
「あ、そうですね。ええとまぁ、はい。収入に関しては、ちょっと、僕の予想よりも大分多かったなぁ。凄い。あの、それって証明する方法とかって」
「流石に源泉徴収票は持ってきてないんですが、調べれば凡そは分かりますよ? VVVの年度末配信をみれば役員報酬とかの欄もありますしチゲェダとの試合のファイトマネーは推定幾らって米国のニュースサイトに出てました。映画の方はまだ未確定なんで出てこないでしょうけど」
俺の言葉にオットセイ55さんは一瞬目を泳がせた。そしてちょっと間を置いて「えー。私の方で少し、調べが足りなかったかもしれませんが」と口にした後。
「あの、ところでクマコーさん。恵まれない子供に愛の手を差し伸べようとか思います?」
「収入の1割は難病支援と児童福祉施設への食品の差し入れ等に使ってますね」
「完璧すぎる! はい、皆さんこの人の収入面は以上です! アンケートしてくれた皆、聞いたかい!? この人の金遣いの荒さは単に馬鹿みたいに稼いでるからでした! しかも人道支援まで行ってるぞ! はい! 次行きましょう次!」
そうやけくそ気味に口にしてオットセイ55さんはこちらにマイクを渡してくる。あ、そこは素直に渡してくるんだとちょっと感心しながらマイクを受け取り、今度は彼に向かってそのマイクを差し出す。
さて、最初に聞く質問は、実は決まっている。何故なら『かすが』に初手はこれでいけと言われていたからだ。
「それじゃあこちらの質問の番ですね」
「はい! どうぞなんでも聞いてください! 彼女が居るかとか収入でもオブラートに包んで応えますよ!」
「オブラートに包むんかい。じゃ、遠慮なく」
やけくそ気味に見えるオットセイ55さんだが、ひょうきんな仕草や軽快なトークを行いながらも開始からずっとぶれない点が一つだけある。目だけは少しも笑っていないのだ。まるでこの会話に命が懸かっているかのような真剣さで、彼はこの場に臨んでいる。臨んだうえで、彼はこの状況なのだ。この状況になるよう、様々なものに縛られているのだ。そこに恐らく絶対に『かすが』の手が絡んでるんだろうなぁと当たりを付けながら、俺は最初の質問を口にする。
「オットセイ55さんは一昨年の夏ごろ、アイドルグループの不祥事を暴いて一気に登録者数を増やされましたね。この件で警察の捜査が一気に進展して地上波にも名前が出ていたとか」
「あー、はい。そうですね懐かしぃなぁ。あれは良い思い出ですよぉ。え、質問ってあの件で良いんです? 流石に守秘義務とかあるんで話せない事が多いんですが」
「はい、あの件ですよ。ただ、まぁ守秘義務とかはもう関係ないんじゃないかなぁ」
オットセイ55さんは俺の言葉に、明らかに安堵したような様子を見せた。まぁ本当にプライベートの事を聞かれたら答えにくいよなぁ。その点は俺も考慮してて、あんまりオットセイ55さんのプライベートには……一部突っ込まないといけないけど質問するつもりはない。その一部は彼にとっても重要な点だから許してほしいんだよね。
という訳で、最初の質問はこれだ。
「あの件の情報源のカルト宗教、去年壊滅したんですけどオットセイ55さんまで連絡来てます?」
俺の言葉を聞いて、オットセイ55さんはヒュッと息を呑んだ。
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