ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
細かい話が多いんで読み飛ばしても多分大丈夫です
誤字修正、げんまいちゃーはん様ありがとうございます
『さて、これだけじゃあなんの関係もない人間には何のことかわからない。種明かしは万民平等に行われなければね。公平じゃあない』
「今回はどういう悪だくみをしてるんですか?」
『悪だくみとは失礼な。私はちゃんと公共のためを考えて行動してるんだよ?』
にやにやと笑う『かすが』の言葉にそうツッコミを入れると、心外だと言わんばかりに大仰に首を振って『かすが』がちょいちょいと俺のノートパソコンを指差した。立体投射機の操作が必要という事だろう。ただ、立体投射機を扱うのはそこそこ技術が必要なため『かすが』では操作が出来ない。一度教えようとしたんだが『すまん、おじいちゃんはこういうぴこぴこは難しくてなぁ』と女子高生を貫通して前世が出てきたので諦めたんだっけか。スマホとかは問題なく扱えるくせにそれより難しいと途端に脳が理解を拒否してしまうらしい。
『わたしのチャンネルで今ちょうど配信中のものをここに表示して欲しい』
「了解」
そう応えて『かすが』のチャンネルを開くと、現在進行形で生配信が行われているようだった。だが、その画面はここではなく全く別の場所を映しているようだ。まぁ言われた通りにやればいいかとその画面を開き、立体投射機でオットセイ55さんの顔の前くらいに投影する。『そこかよ』と呟いて『かすが』が笑うが、ここが一番視聴者にとって見やすい場所だから仕方ない。
投影された映像は顔をモザイクされた警官らしき人物がどこかの家のドアをノックしている様子が映し出されている。横目でコメント欄を眺めていると、『かすが』がこの映像の状況説明を始めた。
『はい。えー、こちらはね、警察さんから特別な許可のもと。非常に悪質な手口だったためね、周知するという意味合いで許可を貰い撮影させて頂いている映像ですね。場所は東京都〇〇区の〇〇。いやー、良い所に住まれてる。恐らく立場的にも上の方なんでしょうねぇ』
困惑するコメント欄を意識してか、『かすが』はゆっくりと相手に聞かせるような響きでカメラに向かって語り掛ける。拘束されたカメラマンが震えているのが見えた。多分こいつは知ってる場所なんだろう。
少しすると明らかに筋ものだと思われる人物が声を荒げながらドアから出てきたが、男が姿を見せた瞬間にドアを叩いていた警察官が書状のようなものを出して何かを口にすると男が顔を青ざめて家の中へ逃げようとして警察官に止められる。
そこまで見た後、『かすが』はやれやれと言った具合に首を横に振る。
『彼は組織の中で長と呼ばれる人物でね。長といっても小さなコミュニティで、東京には彼と同じ長と呼ばれる人物があと5名ほど居るらしい。この映像と同じことが全国で250人余りに行われてるんだが、これを見ている人の中で心当たりがあってチャイムが鳴った人。大人しく外に出なさいね。強制執行されると心証が悪くなっちゃうから』
「ええと。どういう状況でこれを?」
『その話の前に、まず彼らのコミュニティがどういうものかを説明しようか』
そう言って『かすが』は爛々と目を輝かせながら話始めた。
ネットの裏に潜む怪物たちの話を。
VPNという技術が存在する。日本では「仮想専用通信網」と呼ばれるもので、インターネット上に仮想的な専用線を構築する事で盗聴やデータ改ざんを防いで安全に通信できるという技術なのだが、この技術にはある弱点というか欠点が存在する。
VPNを使った通信は発信者情報開示が非常に難しいのだ。
発信者情報開示というのは言ってみればインターネット上での身元特定のようなもので、たとえばSNSなどで他者に対して誹謗中傷をした場合、被害者が誹謗中傷をした人物を訴える際には相手の情報を開示して身元を特定する必要があるのに、相手がVPNを使っている場合これが出来なかったりするのだ。
これは通常のネット回線と違ってVPN事業者は通信記録を残していない事も多いし、海外の事業者だとそもそも日本の法律で開示できなかったりと理由は様々存在するのだが、まぁ要するにVPNをかませれば身元がバレにくいということだな。
彼らはこのVPNを使って自分たちの身元を特定しづらくして活動している集団の集まりだ。カルト組織の紐付きではあるが基本的に独立した組織が横並びに幾つも存在しており、それぞれの地域で長と呼ばれる人物を中心に小さなコミュニティを築いている集団が判明している範囲で凡そ200以上は存在している。
このコミュニティの長と呼ばれる人物は正に組織の長であり、自分が属する組織の仕事を各人に振り分け、その報酬を払い、そして各人が困った事になれば手を貸すという事もやっているそうだ。そしてこの長同士は他所の地域の長と互いに連絡を取り合っていて、彼らは独立したコミュニティでありながら頂点同士が連帯し合う形で動いている。
「ほぉ。ようは会社の社長同士が繋がってるって感じかな」
『うーん、近いようで遠いかなぁ。だって彼らの上には例のカルト組織が居たんだから。まぁ、子会社同士の連帯って考えれば大まかはその考えでも良いだろう。でも長より下は長の上にカルト組織が居るとは知らないみたいだからそれともちょっと違うかもね。とはいえここまではまぁ、特に違法性はないんだがね。ここから先はちょっと話が変わってくる。嘆かわしいことにね』
「どの口が」
そう口にする『かすが』の表情は満面の笑顔であり、この先を言うのが堪らなく待ち遠しいというのが表情一杯に映し出されている。思わずビジネスモードなのに悪態をついてしまったが、そんな俺の言葉を気にすることもなく辛抱溜まらないといった様子で『かすが』は続きを話し始めた。
彼らが行う仕事は多岐に渡っている。たとえば組織の長か他の組織の長、もしくは更にその上にとって都合の悪い存在が居るとしよう。社会的地位もあるような人物が多く、特に裁判官や検事などがよく標的にされるらしい。そんな人物をなんとか追い落としたいとする。そんな時に組織の長たちは互いに連絡を取り合い、情報を共有し、その都合の悪い存在を排除するためにありとあらゆることを行い始めるのだ。法律すら無視して。
「……裁判官?」
聞き覚えのある単語が出てきたためそう問いかけると、『かすが』は我が意を得たり、とばかりにこちらにえぐみのある笑顔を向けてくる。もうすぐ完成予定のVVVの自社ビルが建っていた場所は正に、カルト組織によって殺害された裁判官一家が住んでいた場所だ。
つまり連中はあの頃から今も、同じような事をずっと続けていたのだろう。
『私が知っている案件ではまず最初はその存在の住所を把握するために勤務先などを調べたり、そこから尾行するなどして住所を割り出すんだ。中には病院の関係者が情報を渡したとかもあったらしいが、ここ最近はネットを使って情報を洗うのが主流らしいね。SNS等をしている相手ならその相手が出した情報を精査して活動範囲を絞り、網を張るなどもしていたらしいね。そうやって住所を割り出した後は家族関係を調べ、家族の勤務先や子供の学校を調べ上げる』
「いや、普通にその時点で犯罪じゃないか?」
『犯罪だよ。だが、これだけだったらまだこれまでの警察でも対応できた。連中はね、ここから先があるんだ。この取得した情報を彼らは他の組織に共有する。そして足が付きやすい近隣の、ここまでの情報を調べ上げた連中は一旦距離をとるんだ。
もしも相手が不審を抱いて警察に駆け込んだりしても無関係を装うために。そして情報を引き継いだ他の組織は、なにかしらの手段で対象になっている存在に近づこうとする。例えば通勤する電車や帰り道で遭遇するように。
例えば仕事の関係で対象が働いている会社に訪れたりとね。そして物理的に対象と近づいた段階でなにかしらの騒ぎを起こす。電車なら対象に痴漢されたとか、そういう類のものだ。冤罪だっていい。騒ぎさえ起きれば良いんだ。そのとっかかりさえつかめれば、彼らは相手の手が届かない場所から一方的に殴り続ける事が出来るんだからね』
そしてそれらが起きた段階で役に立つのが、今、隣で眠っている彼のような人物だ。そう口にして、『かすが』はポンとオットセイ55さんの肩を叩く。彼のようなインフルエンサーがこの小さな騒動を取り上げる。それがトリガーになるのだ。
怪物たちはこのインフルエンサーの起こした小さな、小火ですらない火種に食いつくと、文字通りあらゆる手段を持ってそれを拡散し大火にしようと動き始める。SNSだけではなく各種掲示板などにも情報を広げ、複数のアカウントを駆使して対象の粗を探し、なんなら捏造して。更に味方の振りをして近づき対象の評判を貶めるような行為を行うなんて事もやったりする。
これらの行為にはポイントが設けられていて、より効果があるなにかを行ったと判断された行為は長から高ポイントが与えられる。このポイントは換金したり何かしらのサポートに使ったりすることが出来るもので、彼らはサークル活動のようなノリで対象を貶め、罠に嵌め、孤立させ、そして叩き潰し続けた。個人情報の拡散なんて当たり前。職場や実家に石を投げたりある事ないことデマを拡散したりと、正にやりたい放題の状況だった。
そしてこれだけやりたい放題にやっていても彼らを罰する存在は居なかった事が、彼らを更に増長させた。一昨年までは、全く表に出ない影の存在として彼らは我が世の春を謳歌していたのだ。
『ここで白目を剥いてる彼は君たちと同じだ。私の知る範囲では君たちは凡そ2から3万人ほどいるみたいだね。その中の一人だった彼は上から金を貰って配信していた事がたまさか大きくバズって人気を博した。
元々そういう才能もあったんだろう、彼はそうやって徐々に人気を得ていき今の立ち位置にまで登った。ああ、カメラマンくん。君が彼を誘ったんだろ? 金の流れは君からだからね、すぐわかったよ。彼が人気を得たきっかけのアイドルの不祥事も冤罪だったな? そして不自然に叩かれ続けていたね。
無理筋の理屈でアイドルたちを貶めたり、味方の振りをして発狂したそぶりを見せてアイドルの風評を貶めるとかもあったな。無能な味方は恐ろしいものだが、裏切る気満々の味方を得るなんて恐ろしいを通り越して自殺行為だというのが良く分かったよ。
彼は君たちの中では出世頭かな? でもそれだって立ち位置は長ではなく、その下。あくまでも使われる側で、事情も何も知らないまま言われた通りに言われたことをしてきただけの存在だ。長たちの都合に合わせて敵を。社会の敵を創り出し、集団で叩き潰し、報酬を貰う。怖いね、怖すぎてつい通報しちゃったよ』
嘲るような調子で、けれどもどこか憐れむような表情を浮かべて『かすが』は首を振る。あれほどまでに爆速で動いていたコメント欄は、空気を読まない『さやか』の『つまりどういう事?』という質問を最後にピタッと動きを止めている。
あいつはほんまなぁ。こんな場面だというのに、全く変わらない同僚?の様子に、『かすが』に気圧されてかけていた気が幾分持ち直せたのを感じる。
『冤罪を擦り付けられたアイドルは自殺したらしいね。まぁ、狙い通りといっていいのかな。だってそのアイドルは、君たちの長にとって不都合な事実をしっていたんだから。彼らが主催する夜の営業を拒否したらしいからね、殺したいほど邪魔だったんじゃないかな。
まぁ、主導した人物はさっき捕まってるのが見えたし後々明らかになるだろう。多分ね。この配信を許可してくれた警察庁のお偉いさん、ありがとうございます。あなたのお陰で社会の闇が一つ暴かれましたよー!
アイドルの件では巧く踊らされちゃったみたいですがちゃんと仇が取れましたね。良かった良かった』
「いや、良くないだろ。亡くなった人が居る件でよかったことなんて一つもない」
『ん。それはその通りだ。すまない、ちょっとテンションが上がって余計な事を喋り過ぎたね。まぁ、そう言う訳で私の報告は以上。これより詳しく知りたい人はAmamiyaNEWSで上がってくる情報を待つか警察の発表を待ってほしい』
そう口にして『かすが』はこちらに視線を向ける。あ、そろそろ纏めろって事か。いや、この空気で?
えー。よし。
「えー……話を聞いて実際に警察が動いているのを見た上でもまだ信じられない情報ですが、先ほどの映像は恐らく事実です。『雨宮かすが』社長のチャンネルを見れば先ほどまでの配信は現在進行形で続いていますし今、彼女が言った事も恐らく事実なんでしょう。現実味がないですがね」
『現実味という言葉を、鉄板に爪痕つける君が言うのか?』
「それは肉食って鍛えれば出来るようになるから」
『出来る訳ないだろうが!』
俺の率直な意見に『かすが』が食って掛かってくる。うん、俺がああいうことが出来るのはプレミアムレンタル権者の影響があるからなんだけどね。でもどうやったらあんなことが出来るのかって聞かれたら他に言える事がないんだ。アプリを使って人をレンタルしてますなんて言っても新手の犯罪か頭の病気を疑われそうだしね。
まぁ、『かすが』と俺のコントみたいなやり取りで『かすが』の毒気にあてられた視聴者たちも正気を取り戻したのか、『さやか』の書き込みに草が連呼されてるしこのやり取りをやった甲斐があったというべきか。いや、ね。やっぱりこいつ素で表に出すのは駄目だよ、ダメダメ。慣れてる俺だって気を飲まれかけたんだから慣れてない視聴者さんたちが体調崩してないか心配だ。
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