ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
毎週月曜日の朝は、VVVにとって恒例とも言えるテレビタイムの時間だ。
『雨宮かすがと名乗る愉快犯をいつまで政府は野放しにするんだ! 警察も警察だ! 逮捕される瞬間を配信するなんて何故許可を出した! これは明確な人権侵害だよ! 侵害!』
『なるほど、ご意見ありがとうございました。本日のコメンテーターは国売大学の春買助教授でした、ありがとうございます』
『あ、こら君! まだ私の話は――』
そこまで口にした所で『リベラリストニュース』の時間は終わり、画面は『国粋報道』へと移り変わる。
『皆様おはようございます。本日も国粋報道の時間がやってまいりました。それでは早速ですがつい先日行われたインターネットでの大捕り物について、第日本共栄大学の日丸教授にお伺いしようと思います』
『はい、ご紹介に上がりました日丸です。いやあ、凄かったですねぇ雨宮かすがさん。あの方の配信は私もチェックしているんですが今回のものは彼女が初めて配信を行った練間院長事件を思い出す内容でしたね。というよりもアレの延長線上にある事件と言うべきでしょうか』
『なるほど。それでは具体的に――』
『まてぇ! 貴様、日丸! 公共の電波を使って捏造を垂れ流すな! 貴様!』
『春買ぃ? 何が捏造だ、警察も調査したうえで公表した正式な発表だろうが! そもそもお前、前回の練馬院長の件で関与を疑われて降格したんだろう! なんでこの件でお前が偉そうに物事を述べているんだ!? ええ!?』
『なんだとこのやろぉ』
画面の中では胸元のピンマイクを投げ付け、日丸教授に春買助教授が殴りかかるシーンが映し出され、そして次の瞬間に『トラブルがありました。しばらくお待ちください』というメッセージと共に風光明媚な河川を走るボートの映像が画面に映し出される。
ああ、とても良い船だな。こういう船に乗って観光するのも楽しそうだ。
「かすがちゃん、相変わらずみたいねぇ」
「あいつは変わりませんよ。あ、アキコさん。『かすが』から『なにか風評被害があったらすぐに相談してくれ。全力で対処する』との言葉を頂いているんですが」
「全力って言われるとちょっと身構えちゃうわね……このニュースを見てると」
そう苦笑するアキコさんに、「それは確かに」と俺も苦笑を返す。つい先日行われたオットセイ55さんとのコラボは、元々注目度が高まっていた俺の不祥事?の件と突然の『雨宮かすが』降臨というダブルインパクトによってオットセイ55さんにとっても過去最大のバズを記録した。なんせ1時間ほどあるあの配信のアーカイブはもう1億回以上も再生されており、海外では『陰謀論より陰謀論染みた真実』と題されて大層話題になっているらしい。そりゃそう思われても仕方ないだろう。なんせVPNなどで正体を隠した数万人規模のネット工作員が居た、なんて普通は信じない。そもそもそんなに居て何をするのかという話にもなるしね。
その話題のオットセイ55さんだが、彼は気絶したまま警察に事情聴取の名目で運ばれていったため、彼の代わりに【あの場で】カメラマンくんとチャンネルの保守業務を契約した『かすが』がアーカイブ配信を行っている。あくまでもあの配信はオットセイ55さんのチャンネルでのものだからね、代わりに裏取引として『かすが』はオットセイ55さんとカメラマンくんの生命の保証を行ったらしい。このままじゃ間違いなく末端からやり玉にあげられると言ったらカメラマンくんはすぐに首を縦に振ったそうだ。
命の保証というと大げさかもしれないが、『かすが』によって引き起こされた練間院長事件の顛末を聞くとまぁそれも妥当かなと思ってしまう。練間院長、変死体で発見されたらしいからね。そりゃカメラマンくんだって怯えるに決まってる。
この証明と言って良いのか分からないが例の件以降、ツブヤイターのアカウントが一気に4~5000人くらい削除されたり、更に結構な登録者数を誇っていたインフルエンサーが数十人規模で鍵垢、もしくは削除したりしたため、一種のお祭り騒ぎが起きている状況だ。消えたアカウントの人たちは……うん。やっぱり『かすが』は野放しにするとヤバいわ。
さて、『かすが』がハッスルしている間にも世の中はどんどん進んでいく。まず国内では『あきら』が開発していた可変式作業ロボットの第一号が完成したのだ。
『いやー、やっぱり国内基準とかいうのに合わせるのが大変でね! 色々オミットしたけどコストも抑えられたしこれなら100万台くらい売れるんじゃないかな!』
「100万台は流石に供給できませんが、我々としても手ごたえを感じております。性能・価格共に良好で、あとは整備性ですが……これはまだ出来たばかりの車種ですから今後に期待ですね。まさかここまで早く完成するとは思わずわが社と提携している整備工場には整備マニュアルを配布しておりますが、そちらの準備が整うまで販売は難しいかと」
「あ、それでしたら来月のVVVエキスポで完成披露と販売日程の発表をしましょうか。いつ頃なら準備が整いそうです?」
「そうですねぇ……何分全く新しい分野なので、出来れば10月ごろの販売が望ましいのですが」
『あきら』の技術を現代の生産設備で賄えるレベルにまで落とし込むのは結構大変だったらしく、これまでの『あきら』の開発速度からするとかなり時間がかかったこの作業用ロボット開発だが、普通の車両開発は年単位で行うらしく松戸真楠自動車さん側がまだ体制が整っていないらしい。急いで発売すればいいというものでもないし、完成披露だけVVVエキスポで行って販売予定は後にずらすという事で話はまとまった。
そしてこのVVVエキスポに合わせた訳じゃないが、今年の夏には2年かけて作っていたVVVの自社ビルも完成する。というかガワはもう出来上がったため内装の工事中って所だ。VVVの発展に伴い(税金対策のために)途中でどんどん予算が追加されていき、更に(自分の要望を叶えるために)『あきら』が行った技術提供もあったりしたVVV自社ビルは耐震性と頑丈さでは都内でも随一の出来栄えで、この工事を請け負って会社に多額の利益と多数の新技術をもたらした『メンチ』の飲み友である立山さん(建設会社重役)は社内で相当立場を上げたとかなんとか。ご家族に逃げられたり酷い目に遭ってきた人だし、仕事では報われて欲しいものだね。
そして今話題に上がったVVVエキスポであるが、今回はアメリカ勢も参加するため二日に分けて行われる事になっている。初日は去年と同じくVVVが発表した技術の展示会を行い、恐らく今年は目玉になるであろう作業用ロボットの展示もここで行う。そして二日目は展示会の隣の会場を使って3万人規模のライブを行う予定だ。
このライブにはVVV日本・アメリカとVSの社員、それに提携企業であるホログライブのVタレさんも数名参加する予定で、販売開始されたチケットは瞬く間に売り切れたそうだ。初ライブで3万人規模というのは結構厳しいかと思ったんだが、まさかの秒殺だったらしい。転売対策に購入申請時に身分証明が必要にしておひとり様一枚までの販売にしていてよかった。一人で100枚とか買おうとしてた奴らも居たからな。
次に国外のニュースだが、こちらはVVVとしてのニュースはケイトの新しいシングルが全米オリコンチャートを席巻しているという嬉しいニュースとクマコー・THE・MOVIEがこの夏に全米公開される事が決まったくらいで大きな動きはない。まぁVVVアメリカは規模も人数も少ないし、VVV全体のお祭りであるVVVエキスポにも参加するからね。どうしても報告できることが少なくなる。
とはいえ海外のニュースが何もないかというとそうでもなく、一応VVVから出資を受けて米国で騎手をしている『まみ』が嬉しいことにナーガとのコンビで狙い通りにベルモントステークスを制して米国二冠を達成し、再び日本競馬会が揺れてアキコさんが大喜びしてくれた。
ナーガ陣営の次の目標は秋のブリーダーズカップ・クラシックらしく、今年のダービーを制したダービー馬として古馬勢に挑戦する予定でいるらしい。まぁまずは過酷なクラシック戦線を戦い抜いた疲労を抜くのが重要らしく、ナーガは2か月くらい休養に入るそうだが。これに合わせて『まみ』も週の半分は日本に戻り、無事に種付けを終えたピンクスカート号を『めぐみ』と一緒に世話してくれている。
全般的に言えることは、幾つかの懸念はあれども順調といった所だろうか。今年も無事にVVVエキスポを迎えられそうで、少し安心した。後の問題はカイザー氏が困っている俺の次の試合の件くらいだけどそっちは俺にはどうにもできないし、なにか上手く事が運ぶのを祈るくらいしかできないなぁ。
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