ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
「本日は、お忙しい中、VVVの新社屋竣工式にご参列いただきまして、誠にありがとうございます」
フォーマルなスーツに身を包んだアキコさんが凛々しい表情で開式の挨拶を述べる。地下を含めると30階建てになるVVV本社ビルは延べ床面積は3000坪を超える大規模な建造物で、随所に『あきら』が齎した未来の建築技術が取り入れられているため恐らくこの東京のどんな建造物よりも頑丈な造りをしている。特に地下部分は『あきら』が自分の開発に使うと宣言しているため、一部分は更に強度を上げるために内装工事に合わせて『あきら』が開発した全自動建設マシーンの最後の一台、ヨシくんを使って補強工事を行っていたりもするから、もしかしたら東京どころか世界でもトップレベルに頑丈な建造物かもしれない。
そんなに頑丈に作ってお前は何をする気だと尋ねたら、『かすが』から頼まれている警備会社用のセキュリティロボットを開発するつもりだという。『ロボットを持ってる警備会社ってカッコ良くないか? って言われちゃってさぁ。確かにって思っちゃったんだよねぇ』との事だが、それは法律的な部分で大丈夫なんだろうか。いや、大丈夫だから『かすが』が言い出したんだろうが。まぁ純軍事的な物でなければ良いのかな……?
『えー。えへん、えへん。この度は無事の竣工、おめでとうございます。VVV様、並びにアキコ社長には大変お世話になっており――』
なんて事を考えていたら丁度その当人が台の上に立って挨拶を始めた。ついこの間こいつが起こした騒動で未だにネット中が騒然となっているからか、ここ最近の『かすが』は常に上機嫌でニッコニコしている。毎日のように『彼ら』と名付けられたインターネット上に巣食う犯罪者集団の続報が出てくるから、“わるいやつ”が地獄に真っ逆さまに堕ちていく姿を毎日見る事ができるのはたまらなく楽しいんだろう。AmamiyaNEWSの閲覧数も伸びに伸びてるから一石二鳥って所だったのかな。
『かすが』の経営する雨宮セキュリティー警備とAmamiyaNEWSもこのVVVに本社を構える事になっており、3階から4階は雨宮セキュリティー警備が、5階はAmamiyaNEWSが使う事になっている。1階と2階にはショッピングモールを入れる予定のため、地下と6階以降がVVV及びVSの利用するエリアになる。
社員寮もこちらに持ってくる事になるため内装工事が終わり次第事務所・社員寮共に引っ越しをする予定だが、間近に迫ったVVVエキスポの準備もあるから恐らく8月の終わりごろになるだろう。というかクマコー・THE・MOVIEの全米公開もその頃になりそうだし、やっぱり予定詰まってるよなぁ。『セシル』が居なかったら回し切れなかったかもしれんぞ、これ。
さて、VVVビルの竣工式が終わったとはいえまだまだ引っ越しが出来る状況じゃない。1・2階のショッピングモールの内装工事は上階の建設と合わせて行っていたためもう完成しているが中に入るお店の準備もまだだし、ビル全体の取り決めなんかも用意しなきゃいけない。それらのすり合わせを行いながらVVVエキスポの準備を進めているんだが、まぁやっぱりキッツいよね。普段はヴァーイ関連の事務処理とかをしているVSの社員も総動員して打ち合わせとかをガンガン進めていかないと。
「いや、それは良いんですけどぉ」
「うん、どうしたんだい梟くん。なにか問題でも起きたのかな?」
「問題というかですね」
VSの事務所に搬入する物品の管理を任せていた梟くんが美形な3Dモデルだというのに「あ、今こいつ微妙な表情浮かべてんな」とはっきりわかる様子だったため、何かあったのかと声をかける。トラブルとかは早めに解決するのが大事だからね。ただ、声をかけた梟くんはやっぱり微妙な表情でそう言ったあと。
「俺、なんで立体投射機使って3Dモデルの状況で業者さんと打ち合わせしてるんですかね……?」
と呟いて微妙な表情のまま首を傾げた。
ああ、うんそうだね。その点はやっぱり引っかかるか。しかしこれには深い、わけじゃないんだけどはっきりとした訳が存在する。VSの社員はVVVの社員と違って他社から出向という形になっているから、身バレする可能性がある事は間違ってもしてはいけないのだ。そういう取り決めでみんな出向してるからね。
だから事務所の物品搬入を担当している梟くんは立体投射機を使って梟くんの3Dモデルで業者さんと応対しているし、他のVS社員だって外の人と会う時は全員立体投射機を使って3Dモデルを被った状態で仕事して貰っている。なんなら業者さんには事前に許可を貰った上で黒子の3Dモデルを被ってもらい、マイクオフの状態で打ち合わせの様子などを配信したりもしている。
この様子を見てはちじくじ出向組の群青さんは「なんで自社ビルの工事まで配信ネタになるんだよVVVやっぱズルいって」と口にしていたが、そんな事を言っている彼女自身も13階の内装担当という権限をフルに使って休憩室(麻雀)とかいう謎の部屋を作る配信をしているため、古巣の同僚たちから「お前もズルい側なんだよぉ!」と総ツッコミを受けていた。まぁ、バリバリ同じことやってるしね。
そしてこれが理由でかVVVの社屋を見学したい、とかそういう類のコラボ依頼が増えてきている。提携企業であるホログライブのVタレさんは機材の持ち込みに制限をして警備員付でも良いなら了承しているんだが、それでも良いという人が結構いるみたいだ。はちじくじさんはVS経由で繋がりはあるんだが、VVVとの直接の繋がりはないため一旦保留中の状態だ。内部のセキュリティとかもまだ作ってる最中だから、変なものがカメラに映って互いに損害がうんたらなんて話になっても困るんだ。ホログライブさんだってその危険はあるけど、カダー社さんの場合はこちらが株式を持っているのもあって互いに不利益を起こさないよう融通を利かせることができるし、ちょっと甘めにしてる所がある。
まぁ、そういう事故が起きないようにそもそも警備員さんが付いたりしてるんだけどね。
「という事で申し訳ないんですが、新社屋へのご招待はうちの引っ越しが終わってからということで」
「えぇ~、今が旬の話題なのにぃ」
「君の生まれの不幸を呪うが良いって言えば良いですかね」
「ちょっとちょっと! はちじくじ差別だ! うちの方がVSへの出向が多いのに!」
電話越しにはちじくじの番長が文句を言ってくるが、こちらとしてはね。互いに不利益が出かねないリスクを負いたくないだけなんで何を言われたって気にしない。まぁセキュリティ関係がしっかりしたら来てもらっても良いと言ってるんだから素直に諦めて欲しい所――なんて思っていたのだが。
「あ、じゃあこんどのVVVエキスポに遊びに行きたいんだけどどうでしょう? ちゃんとチケット代は働くから! ホログライブさんだけゲストに出るのはバランス悪いでしょ?」
「ふむ……」
番長からの代案とも言えない提案は、ちょっとだけ予想してない方向だっただけに即答できず、少し考え込んでしまう。もうチケットは売り切れてしまったためこれ以上の集客は必要ないんだが、シークレットゲストを用意するというのは盛り上がりを考えても悪くない。ホログライブのVタレさんが参加するのも提携企業だしアキコさんが直接誘ったからだったんだが。はちじくじさんもVS経由で関係はあると言えるし先方から売り込んできての参加ならまぁアリか。
『マネージャー』も特に反対はしていないし、イベントを盛り上げるサプライズとしてちょっと考えてみるかな?
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