ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
VVVエキスポまで1週間を切った。
今回のエキスポも会場は東京デカイサイトで行うんだが、昨年と違って土日2日間をかけての開催となりライブも追加されたため東側の展示場2棟は全フロアVVVの貸切だ。
「ライブは2日目だけなんですか?」
「はい。VVVとVSの社員にはスタッフとしての仕事もあるんでライブも2日となると誰かが死ぬ事になりそうなんです」
「なんでVタレがスタッフを……いや、それがVVVか……」
今回のVVVエキスポにはホログライブとはちじくじのVタレさんもゲスト出演する。そのため両社のマネージャーさんと何度か打ち合わせを行っているんだが、アーティストとしての活動がメインのホログライブさんからは展示会の方がメインとなり更にアーティストであるVタレをスタッフとして働かせるVVVの在り方はかなり特異に見えるらしい。
あ、もしかしてホログライブ所属の竜ヶ坂りんりんさんや根暗まんしぃさんもスタッフとして働いてもらうというのが引っかかっているのだろうか。普段の自社イベとかだとまぁVタレさんにスタッフ兼任させるなんてやらないだろうし違和感を覚えてもおかしくはないか。
とはいえホログライブのマネージャーさんがこう言うって事は働いている側の二人も同じ意見かもしれない。まぁ二人とはちゃんと雇用契約を交わしてるためスタッフとして働いてもらうのは確定してるんだが、もしも二人が本当は嫌だっていうなら無理強いする事は出来ない。ここはちゃんと確認しておかないとな、という事で昼食がてら行ったミーティングで聞いてみた所、二人そろってその場に弁当を置いた後にふるふる震えながら俺の足に縋り付いてきた。
「しゃちょぉ~! すてないでくださいぃぃ!」
「ウチらここ以外の所で働きたくないですぅ! こんな楽しょ、げふん。楽しい職場なんて他にないんですから!」
「お前いま楽勝って言おうとした? あと大変外聞が悪いんで止めてもらっていいです?」
「分かりました! 脱ぐんですか! 脱げばいいんですか!?」
「お、俺同性ははじめてだけど……優しくしてくださいね……?」
「止めろっつってんだろうが」
縋り付いてきた二人だけじゃなく他の社員まで混ざってきたため収拾がつかなくなったが、とりあえず二人ともスタッフ兼Vタレとして働く事に問題はないらしい。というかむしろそのスタッフとしての部分を削られる方が困るとまで言われたため理由を聞いてみると、VVVエキスポは展示物のクオリティだけではなくスタッフのVタレ達にも注目が集まるためスタッフとして参加すること自体が大きなメリットになるんだとか。
これは元々数字を持っているVS社員だけではなくVVVの社員にも当てはまり、特にVVVでは常に裏方をしているキチシカこと鹿谷くんやシャベルゴリラこと猪上くんは展示物の案内や操作などなど八面六臂の活躍を見せ、VVVエキスポの度に来場者から絶賛されてファンを激増させている。VVVエキスポでのスタッフ業務は大きなイベントに参加するよりもVタレとして目立つ機会でもあるのだ。
「あ、もちろんそれだけじゃないですよ!? 私達だって去年のVVVエキスポは楽しかったですし、職場に愛着もあるんで!」
「なんだかんだ1年働いたなぁ。こんなにちゃんと働いたの人生で初めてかも」
「俺、先月のボーナス見て転職して良かったって本気で思った」
「私も」
「わたしも……桁がおかしいよこの会社のボーナス。VSに出向してからどんどん貯金がたまってくもん」
「まぁ、会社が儲かってるのに社員に還元しないのはおかしいしその辺は気にせず貰ってください。あと貯金ばっかりだと折角の資産が勿体ないんで資産運用とかはしといた方が良いですよ。『リリーベル』がお勧めの投資先を教えてくれるんでその気があれば相談してみてください」
ミーティングの際に色々聞いてみた所、VSの社員は特に会社に不満とかは持っていないみたいだ。うん、良い傾向だ。この会社を任された際にブラック労働はダメ、絶対をモットーにしていたんだが、社員たちの様子を見る限り今年一年はうまく経営できたと言って良いんだろうかねぇ。
「もち子営業です」
「ポン子営業です」
「「二人そろってホログラVタレ営業部です」」
「わーわー」
「もち子せんぱいかっこいー!」
「がんばってアキコ社長を口説き倒してー!」
VVVエキスポまで3日を切り、会場の準備も佳境に入っている。もはやVVVの十八番とも言える立体投射機はすでにライブ会場・展示会場どちらにも張り巡らされており、会場内に居る関係者たちは工事の人以外は全員がVタレモデルになっている状況だ。これを配信チャンスであると捉えたホログライブやはちじくじ所属のVタレさんたちは安全にうろちょろ出来る範囲で会場の設営状況を配信している。
「あれ、良いんですか?」
「梟くん。世の中には是非もないという言葉があってだね。うちの会社はアキコさんが白と言えばまっくろくろすけだって白くなるんだよ」
「あっ察し」
「梟くん、副音声が声に出てるよ梟くん」
梟くんと全体の見回りを行いながら進捗状況を確認すると、ライブ会場の方は予定よりもかなり早く完成しそうなペースだ。これなら本番前のリハーサルも余裕を持って行えそうだし、リハーサルのスケジュールをちょっと調整した方がいいか?
見回りもそろそろ終わるし全体スケジュールを担当している鹿谷くんと相談しようか考えていると、ホログライブのVタレさん達が恐る恐るといった感じに声をかけてきた。いや本当にぶるぶる震えて話しかけてきてるな。恐る恐るどころかめちゃめちゃ怖がられてるじゃん。なんか最近、会う人会う人怖がられてばっかりな気がする。
「あ、あのぉ。クマコー社長ぉ。その、ちょっとお願いがあるんですがぁ」
「はい。あ、あの。噛みませんから大丈夫ですよ。あとカメラは止めた方がいいですよ。私はほら、今ちょっと女性と近づくとうるさく言われるので」
「いやぁ……はい。大丈夫です……はい。それにあの、今現在。あのコラボ知ってる人でクマコー社長に文句言える人は多分居ないんじゃないかなって思いますです。はい」
「でもホログライブの熱烈なファンからは画面に映る度にぶっ○すぞクソクマって言われてますけど」
「うちらのファンは覚悟の準備をしてる人ばっかりなんでぇ」
そう言って狼神さんという名前のVタレさんはそっと視線を逸らした。熱心なファンが多いと大変だなぁ。じゃなくて。
「それでどうされました? 工事の邪魔にならない範囲なら自由にしてもらって結構なんですが」
「あ、そうだったそうだった。あの、あっちの方なんですけどちょっと見て貰えます?」
そう言って狼神さんは会場の出入り口方面を指差した。はて、この時間に出入り口でなにかあったかとそちらに視線を向けると、警備責任者と書かれたワッペンをつけた『雨宮かすが』が同じく休憩責任者と書かれたワッペンをつけた『赤神さやか』と出入り口付近でカバディをしているのが目に入る。
あれ、ちょっと目が疲れたのかな。そう思ってごしごしと手で目の周りをこすった後に再度視線を向けると、やっぱり『かすが』と『さやか』が向かい合ってカバディ! と言い合っている姿が目に入った。
うん、駄目だな。どういう経緯か想像もできない。思わず「何してんだあいつら」と口にすると、狼神さんが状況を細くしてくれた。
「あの。実は雨宮社長が見えられた時に、その。うちの同僚が少し怯えちゃったんですが」
「ああ、正しい反応です。あいつは隙を見せたら骨までしゃぶりに来るんでそれが正しい」
「どういう人なんですか???」
そういう人なんです、としか言いようがない人なんですよ。
「どういうことなの……こほん。そうしたら、その。さやかちゃんがいきなり「こいつはそんなに怖くないわ!」って言いだして、そしたらかすがさんも「そうだよ、私は怖くないよ」ってすっごい怖い笑顔で言って、そのままああなったんです」
「そのままああなったんですか」
「ああなりました。で、出入り口であれしてるんで私たちも出られなくて……アキコさんもずっと笑ってあれを見てるし……」
狼神さんはそう言って非常に気まずそうにそう口にする。ああ、確かにアキコさんツボに入ったのかゲラゲラ笑い転げてるな。アキコさんああいうノリ好きだからなぁ……。
しかしそうか、それでこの人、困ってる同僚のために俺に話しかけてきたのか。めっちゃめちゃ怖がってるのにすげー良い人だな、この人。
「すみません、すぐに止めてきます。それとあのバカ二人はちょっと念入りにお仕置きしとくんでどうか……」
「あ、ああいえ。悪気はないのはわかってるんで……」
「いや。普通にアレは通行の邪魔なんで。教えて頂きありがとうございます」
あまりにも申し訳ないためそう言って頭を下げると、狼神さんは釣られたように頭を下げてきた。いや、狼神さんが謝罪する理由は本当になんもないんでね。しかしほんとにあの二人、というか『かすが』の女郎どうしてくれようか。『さやか』の奴は『かすが』が怖がられてるのが見てられなくてとかそういう感じだろうから許すとしても『かすが』の奴はどう考えても『さやか』に便乗して怖がってるVタレさん達をからかってるだけだろうしなぁ。
やっぱりあいつ、一度国会議事堂から吊るすべきかもしれん。
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