ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
ザッザッザッザッ
東京デカイサイト駅には整然とした足取りで歩むサラリーマン風の男女の姿があった。黒縁のメガネをかけ、スーツを着て、革靴を履き、そして大体は足が臭い。典型的ジャパニーズサラリーマンの様相をした彼らの先頭を歩く男は、東京デカイサイトの敷地に入ったところにある立て看板に目を向ける。「VVVエキスポ参加者ルート」と書かれた看板を眺めた後、男はそのルートに沿って歩き、そして途中で「←第五の男女たちルート 一般参加者ルート→」と書かれた看板を見て左のルートに足を踏み入れる。
第五の男たちルートを歩く凡そ500人ほどの彼ら彼女らは彼らが運営に頼み込み自費でもって敷設された多数のテントの中に入った瞬間スーツを脱ぎ捨てた。第五の男女たちはそこに並べられた人数分のハンガーに自身の一張羅を預け、代わりにハンガーにかけられていた黒子装束を身に纏い始める。
着替え終わった第五の男女たちは一言も発さないままテントの警備を行う仲間に後を託し、VVVエキスポの参加者たちによって作り出された長蛇の列を整理するために声を上げ始めた。
「先輩。あれってどういう集団なんです?」
「あー、ほら、VVVガールズバンドのほら。ええと、キーボードの子。あの第五って呼ばれてる子のファンたちだよ」
「ああ、あの……なんで交通整理してるんですか???」
「スタッフとして参加しないでもいいから第五さんのために働きたいんだって直訴したらしいぞ。うちらの指示はちゃんと聞いてくれるそうだ」
「なにそれ、怖っ」
黒子装束の集団を見た雨宮セキュリティー警備の警備員たちはそう世間話をしながら、まぁ人手が増える分には良いかと一先ず考えない事にして黒子装束の面々と共に凡そ5万人ほどになる参加者の列を整理し始める。
第三回VVVエキスポが始まった。
「今年は人津波が起きなくて良いわねぇ」
「流石に3回目ですからね。対応にも慣れました」
第三回VVVエキスポの会場を見回しながら、アキコさんが呟く。ほぼ1か月で準備した初回、VS勢も参加した去年と比べて今年のVVVエキスポは全体的に緩やかな空気が漂っている。この理由は単純で、今年は展示会を2日に分けて人数を分散しているからだ。去年よりも総人数こそ増えたが二日に分散したため入場者数を分割できたのはかなり大きい。
これでも一日目の来場者数は二日目よりも多いんだけどな。二日目はライブの方もあるから二日目の展示会は1万人分しかチケットを販売していない。代わりにライブ参加者はライブ+展示会チケットを購入する形になるため合わせて10万円くらいの料金になるのだが、発表した翌日には予約が完売していたりする。
この理由は単純で、VVV日本のVVVガールズバンドとVVVアメリカのケイト&グランマの初ライブを見るために日米問わずファンが押し寄せたからだ。
昨年の秋、VVVは日米のVタレ全員が順番にオリジナル楽曲を発表した。9月半ばから11月初めまでの秋を全てVVVの音楽で染め上げるという野心的(笑)な企画であり、これによってVVVは規格外の天才科学者が所属しているハイテク企業からVタレ企業としての認知の脱却を行ったのだがこの際、ひと際人気を集めたのがVVV日本の「VVVガールズバンド」とVVVアメリカの「ケイト&グランマ」である。まぁケイト&グランマの方は単にケイトの伴奏をグランマさんがやっているだけなんだがね。
どれくらい人気かというとどちらの楽曲もYOUCUBE上で1千万再生は当たり前。代表曲に至ってはVVVガールズバンドの「電脳歌姫ろっくんろー」が日本語圏では過去最速の速さで1億再生に達し、ケイト&グランマの「Harmony」は昨年の段階で3億回再生を突破して現在は5億の大台を超えた所だ。
「ケイトたちは惜しかったよなぁ。実績のあるレコード会社と正式な契約を交わしてたらグラミー賞だって狙えたろうに」
『いいのよ。そんなの! 私もおばあちゃんも歌ったり演奏するのが好きなだけだから賞なんて貰っても飾る場所に困るもの! ああ、でも賞金とかがあるならちょっと欲しいかしら。ねえヒバリ! ヒバリはどう思う?』
『そういう所だとおめかしもしないといけないしーケイトは可愛いからナンパとかされちゃうかもねー。私はいかないほうがいいとおもうよ。レコード会社との折衝とかめんどうだし』
そしてそんなまさしく超新星と言われるような歌姫を受付にしているイベントがあるらしい。VVVエキスポって言うんだけどね。
今回のVVVエキスポは展示品の目玉がロボットならVタレの目玉はVVVガールズバンドとケイト&グランマだ。
当然、テレビニュースにだってちょいちょい顔を出すような売れ方をしたケイトが会場に入った瞬間に居るのは来場者にとってもビックリらしく、結構な割合の来場者が入り口で足を止めてカメラを取り出して受付を撮影し始め、中には鼻息荒くケイトに話しかけるファンも居る。
ただ、ここはあくまでも受付だ。迷子案内や忘れ物を預かったり展示物の場所を尋ねたりなら兎も角、受付担当を目当てに声をかけられるのは仕事に支障をきたしてしまう。
というわけで。
『ミスター。受付さんはお仕事中だから邪魔をしてはいけません』
『サインはあちらの売店で販売しています、→』
受付に押し寄せようとした大量のファンたちは全長2m70cmの人型ロボットに物理的に阻まれる事となる。今回用意された12台の作業用可変重機のなかで一人乗り用の4台はヴァーイが中に入り、このような形で会場内を警備しているのだ。
『……ロボット?』
「コ○ボイじゃん!?」
「うわ、マジでロボットが二足歩行して喋ってる!!?」
そして当然のように彼らにも数多のカメラが向けられるため、今年の会場入り口は例年よりも混み合う形になってしまったのだが、これはまぁ仕方ないことだろう。人型ロボットに声をかけられるなんてそうそうあるもんでもないし、その奥には時代を代表する歌姫がいるんだ。もっとも一度中に入れば見るものが多すぎて一か所に留まる事なんてほとんど無くなるはずなんだがね。
『写真の半分くらいはかず、クマコーくん向けでしたよぉ?』
「流石に半分は言い過ぎじゃないか?」
『射線を把握しなきゃ即死当たり前の私が見間違う訳ないですぅ』
なんでもないことのようにそう口にする『ひばり』とボリボリとせんべいを食べながら来場者たちを見る。ケイトを見た後に目を輝かせて俺を見た後に顔を引きつらせる人が結構居る気がするんだが、これ本当に俺にカメラ向けてる人居るのか? なんか勘違いじゃないかと思うんだけども。
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