ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→ 作:ぱちぱち
ただひたすら飛びかかってくる殺人人形の立体映像を避けながらギターをかき鳴らすオープニングセレモニーが終わった瞬間、VVVアメリカの3名+1体が舞台袖からステージに登場する。VVV初のライブイベント開幕だ。
最初の楽曲はVVV全体曲である“V.V.V”の英語バージョングランマのピアノ伴奏で『ひばり』とケイト、そして立体投射機によってマックス氏渾身のデザインで現れたヴァーイが歌い、そこからグランマのピアノソロに繋がっていく。前半の序盤はVVVアメリカで盛り上げていき、中盤でVS社員がそれぞれソロで持ち歌を使って繋いでVVVアメリカ・VSと更にゲストを交えた後半で盛り上げに盛り上げた会場のテンションを一気に爆発させる構成だ。
「これ、後半始まった時にはみんなグロッキーになるんでは……?」
「そのために休憩を1時間半もうけてるから。ブルーブルの販売員も誘致したし疲れた人はアレ飲めば大丈夫でしょ」
「それ大丈夫じゃない奴ですよぉ。キチシカくんに嫌味言われそう」
前半の構成担当である梟くんは盛り上がりに盛り上がっている会場内を見てそう呟くが、実を言うとまぁそこまで酷いことにはならないだろうと思ってるんだよね。理由は単純で、前半のメインに来ているのがケイト&グランマだからね。グランマことレイチェルさんのピアノ伴奏とケイトの歌唱力による祖母と孫のユニットはその構成上どうしても激しい歌が少なくなる。じっくりと腰を落ち着けて聞く楽曲がメインになるわけだ。
だからVVVアメリカの楽曲中は不動くさりPの作ったボカロ曲を歌ったヴァーイくらいしか激しめの音楽は無かった。VSの手番になってからは結構激しい曲も多かったけど露骨に観客を動かすような楽曲はそれほどなかったから、盛り上がってるとはいえそこまで体力消費も激しくはないはずだ。
実際、前半のオオトリにははちじくじからのゲストを交えた“V.V.V”を歌ったんだが、最後の段階でもまだまだ観客には歌に合わせて体を動かす元気があったからね。あとは昼に美味しいもの食べて良く休めば大丈夫でしょ。多分。
「ししょぉ! 後半は演奏しねって本当だすか!?」
「うん。オープニングでもうしちゃったし。というか最初からそういうプログラムになってたでしょ」
「やだ! ケイトばっがりずるいずるい!」
そんな事よりも問題は、後半戦の一番のメインになる予定のVVVガールズバンドの要。桃源郷ろくこが始まる前から駄々っ子のように地面に寝転がってバタバタと暴れ散らかしている事だろう。最近、ようやく改善出来てきた東北弁も出てるあたり大分余裕がないみたいだけど。
というかケイトばっかりってなんだよと思っていたら、ケイトがコスプレして俺にギターを渡した小芝居の事を言っているらしい。あれでズルいってなんなんだろうか。たんにギター持ってきただけやぞ。
「私もししょぉとステージに立ちたいんです!! ね? ししょぉ一緒に演奏しましょうよぉ。ししょぉがギターで私がボーカル。ほら完ぺき」
『その提案は何度も却下してるだろうが。俺はプレイヤーとして
しまいには足に縋り付いてきてこう喚く愚かな弟子に、思わずといった具合で『マネージャー』が本音を漏らした。この鬼畜、舞台に立つのは兎も角ろっこちゃんやケイトと一緒に演奏するというのは全力で避けるヘタレであり、なんなら全体合唱となる“V.V.V”ですら歌おうとしないくらいだ。そのためこういう風に誘われるたびに全力で拒否をし続けそれを見ていた俺や付き合いの長い『セシル』辺りに貶されまくったりしている。
まぁ、本人的にどうしても譲れない線らしいんだが、今回に関してはちょっと場が悪いというか状況が悪い。なにせ今回はVVV初のライブにしてお祭りである。
「ねぇ、一也くん。一也くんが裏方に徹したいって気持ちは私も良く分かってるんだけど、今日くらいは良いんじゃないかしら。貴方も結局舞台には立つんだし」
「アキコしゃちょぉ!」
「それにこのまま延々泣かれてあいりちゃんの喉が駄目になったりしたら、お客さんに悪いでしょ」
「『そうなんですよねぇ』」
「アキコしゃちょぉ!? そしてししょぉも!?」
滾々と説得しに来るアキコさんというVVV最強の権力者の言葉には、俺どころか感情的になっている『マネージャー』すら納得させられてしまった。どう考えてもメインになるVVVガールズバンドのメインボーカルがこんな理由で喉を潰しましたとか、流石に不味すぎるからね。
――まあ、今回は覚悟決めて演奏しようぜ。全体合唱の時だけって決めればいいんじゃないか?
『…………ハァ』
心の中でそう話しかけると、観念したのか『マネージャー』はしばし悩んだ後、ため息のような声を漏らして同意の意思を送ってくる。お、珍しい。こいつの声聞くのは、超絶久しぶりかもしれん。
そのやり取りを難しそうな顔で『さやか』が眺めていたのが気になるが、まぁあいつが変な顔なのはいつもの事だしなぁ。
ライブ後半はまずホログライブのゲストとアキコさんはじめVVV1期生・2期生の混合ユニットで始まる。先頭バッターはアキコさんとホログライブのもち子さんで、もち子さんとアキコさんの楽曲を半々でミックスした楽曲を二人で歌い上げる形だな。ただ2期生には鹿谷くんや猪上くんといった男性もいる。あ、一応俺も2期生になるのか。うん。まぁ、そういう訳で男性Vタレも居るため、俺を含めた余った3人はホログライブ側の参加者で唯一男性Vタレとライブ共演をOKしてくれた大地さんと組んで大地さんがボーカル、俺がギターでキチシカくんがエアベース、そしてシャベルゴリラくんがエアドラムという構成で臨時バンドを組むことになった。ちなみに二人の音源は俺がリハーサル中に録音したものになる。
「“男だろ♪ 男だろ♪ 男だろお前男だろ♪ 男だ男だ男だ男だ違う私は女の子♪ ってふざけんなーーーーーーーーー! 何だこの歌詞は! マネージャーどこだマネージャー!”」
「“はい”」
「“そうかお前が原因か! ふざけんなったらふざけんな! もしもしかしてもしかしてホログライブ舐めてんの!?”」
まぁOKしてくれたとはいえあんまり普通のアイドルソングを演奏すると向こうに迷惑がかかるかもしれないからね。というわけでアイドル推しのホログライブファンに変な気を抱かさないようこのライブの為に突貫で作った「♂♀診断ソング」とかいうネタソングを演奏して歌って貰ったんだが、なんか思ったよりも大地さんがハマっているというか会場からのウケがかなり良くて作った『マネージャー』ともどもびっくりする事になる。
「いや、当たり前ですよ。これ歌詞以外はめちゃめちゃ良い曲じゃないですか歌詞は電波どころか悪ふざけ感マックスですけど」
「その歌詞で全部台無しにしたかったからね。しょうがないね」
「あ、あの。こんな曲ほんとに貰っちゃっていいんですか? というか作詞作曲のマネージャーってあの……!?」
「どうぞどうぞ。好きに使ってください」
出番が終わり舞台袖に引っ込んだ後、「なんか予想よりウケちゃった」と愚痴をこぼしたら聞きとがめた鹿谷くんに苦言を呈される。いや、作曲は『マネージャー』が絶対に手を抜いた曲を作りたがらないんだよね。あと大地さん、こんな歌ライブ以外で歌ってアイドルとしてのブランディングとかその辺大丈夫です……?
そんな風に他社のVタレさんを少々心配していると、次の出番のVVVガールズバンドが舞台袖にやってきた。後半戦はデビューの順に曲を披露していくため、俺達2期生の次は彼女たち3期生の出番なのだ。
「師匠」
「うん。まぁ、あんまり気負うな。適度に俺たちが空気を抜いたから、初のライブ。楽しんできてくれ」
はた目にも気合が入っているVVVガールズバンドにそう声をかけると、彼女たちは俺を見た後に互いに視線を向け、小さく頷いた。うん、入れ込み過ぎてはいないようだな。なんだかんだ2年ちかく見てきた彼女たちの晴れ舞台に『マネージャー』と一緒に感動していると、VVVガールズバンドは俺の周りを囲み、両手両足を掴んだ。
「VVVガールズバンド! いくぞぉ!」
「「「「おぉ~!!!」」」」
そのままろっこちゃんの掛け声とともに俺の四肢を持ち上げ、わっせわっせと掛け声をかけ合いながら彼女たちは舞台に向かって俺を抱えて運び始めた。
「おいこら」
「アキコ社長がらOKは貰ってます!」
「……なら良し」
「いやいいんかーい!」
一部始終をぎょっとした目で見ていた大地さんがそうツッコミを入れてくるが、VVVガールズバンドは意にも介さずそのまま俺を抱えてステージの上へとわっせわっせと移動していく。いや、まぁどこかでこうなる事は始まる前。ろっこちゃんが駄々こねてた時から分かってたしね。どのタイミングかは分かってなかったけど、VVVガールズバンドオンリーの中盤ならまぁタイミング的には良いんじゃないかな。
3期生に抱えられてステージに連れ込まれた俺の姿に会場内が笑い声に包まれる中、ステージの真ん中で降ろされた俺にろっこちゃんがギターを差し出した。満面の笑顔で、これから起きる事が楽しくて楽しくて仕方がない。そんな表情で、彼女は俺に自分の魂を差し出した。
ずくんと。『マネージャー』の心が跳ね上がるのを感じる。心臓のようにどくんどくんと音を立てて、『マネージャー』の心が動き始める。
――やるか、相棒
その心の動きを心地よく感じながら、発破をかけるつもりでそう言葉を投げる。こいつとはこの3年間、ほとんど一緒に過ごしていたのだ。あんまり自分の事を語る奴じゃないし、ドSだというのは分かっているが絶対に表に出ずに俺を助け続けてくれた。相棒と呼んで差し支えない奴だ。
『……ああ』
レンタルをして、恐らく初めて。明確に自分の声で俺に返事を返した『マネージャー』はそう口にして、そして『マネージャー』をレンタルして初めて、俺の体をの操作権を完全に『マネージャー』がもっていく。
『ぶちかましてやるぜ』
裏方であることを捨てて。『マネージャー』である事を捨てて。『電脳歌姫ろっくんろー』の登場人物としてですらなく。
かつて頂点を目指した男の燃え滾る魂が、ギターを手に取った。
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